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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第7回

夏休み特別企画 廃業ギター・メーカー素材倉庫潜入レポート!

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)

今回は夏休み特別企画ということで、スタジオ(?)を飛び出し、某所素材倉庫に潜入しました。果たしてそこはお宝の山か、それとも…… 想像の翼を広げてご覧下さい。待望(?)の動画付きでお届けします。

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潜入前に

 昭和、平成にかけて伝説的なモデルを数多く生み出した、とあるギター・メーカーが業界からひっそりとフェイドアウトされていたと聞いたのはつい最近のことでした。そして、そのメーカーさんには今後陽の目を見ることがないであろう木材がそのまま多数残されていることも……。

 世の多くの人は“デッドストック”とか“アウトレット”とか、はたまた倒産品などという何らかのワケあり品に激しく興味を持ちます。その多くに価格的な魅力はあるものの、時代遅れのデザイン、色、サイズ、そして質の劣化など、そのまま使うには、う〜ん、どうなんでしょう〜(byプリティ長嶋)的なものが多く含まれます。一方、今では入手しづらい類のものであったり、過去でしか得られないクオリティを有するものが多いのも事実です。倉庫内の材はどちらに含まれるものなのでしょうか、後者に値するものであればいいのですが……。

 話はややそれますが、世の中には萌える対象としての素材がいろいろと存在します。例えば石、金属、ガラス等々です。私が思うにそれらの素材は今、有する状態が物質的に100%で、あとは、割れる、錆びる、曲がるなど、その質をゆっくりないし一瞬で劣化させていきます。一方、木素材の場合はどうでしょう? 木は植物としての命を終えてからもさまざまな場面で我々に貢献してくれます、そして特筆すべきは、死してなお物質としてゆっくりと成長を続けています。寺社仏閣の建立に使われているヒノキなどは伐採後200年程度経過した時に物性状態がピークを迎えると言われるほどです。今回の長年寝ている木素材も、枯れて、熟成して、楽器として使うにふさわしいクオリティに成長し続けているに違いありません。

 さぁ、そろそろ皆さんを木フェチのハリポタ・ワールドにご案内しましょう。

アウトレット・コーナー

アウトレット(?)コーナー

 ここには加工途中でその思いを絶たれた? ボディ材、ネック材、その他もろもろが見て取れます。そのまま材として販売できるようなものはなさげですが、どこかで見たような懐かしいジャパン・ビンテージの姿もあります。一点ずつ吟味したいところですが、今回は時間の関係でお預け。

メイプルの小山

メイプルの小山

 ここはメイプルのブロック材です。キルト、カーリー、そしてそのブレンド的フィギャードなど多様にわたる材が盛られています。狂いの多い材ゆえ、こうして長年寝かされていることで、ほど良くそれらも出尽くしているものと思われます。ただ残念なのはサイズが小さいです。楽器には難しいですが、他の小物クラフト用なら喉手グレードの逸材ばかりです。Dらえもんのあのライトを一日も早く実用化して欲しいところです。

メイプル・ボディ・トップ用材

メイプル・ボディ・トップ用材

 一言で表現できない複雑な杢です。これをブックマッチにし、そのページを開くとえも云われぬ景色が広がります。カーリー材に比べて、この手の濃いフィギャードものは数自体少なく、一期一会的存在です。入手に際して悩んでいる暇はありません。

ベース・ネック材

ベース・ネック材

 おもにベース・ネック用の材で溢れています。ラミネート済みのスルーネック用材、仮成型されたもの、そしてブランドが推測できるほぼ完成品まで。こうして見るとベースのスルーネック用材って長いですね、もろベースの全長になるわけですから当たり前なのですが……。

ギター・ネック材

ギター・ネック材

 仮成型されていますのでリユース範囲は限られますが、年月を経た良材メイプルとしてしっかり活かせそうです。

ウクレレ部屋

ウクレレ材

 時代を物語るウクレレ材各種。マホガニーのボディ材やネック材が横たわっています。ちらほらアコギ材もあり。

潜入総括

 在庫管理者さんのご意向からすると、全部まとめてド〜ン!なのでしょうが、すみません、そこまでの根性と先立つものが……ということで本日はこんなメンツ(下記参照)をお持ち帰りすることと相成りました。加工品の相場感がよくわかりませんが、先ずは店に並べてみます。

 潜入前は、さまざまな材料ストックがトラックの荷台からそのままずり落ちた状態を覚悟していました。しかし、現場はしっかりと分別管理されていて、まるで普通の材料倉庫に来た感じがしました。ヴァージン材だけでなく懐かしいルックスを持つ加工途中品の数々、当時の隆盛を物語っているようでした。大人の事情で、仔細なブランドやモデル名を明らかにすることはできませんが、数々の名器がこのメーカーさんから生まれ、世に送り出されてきたことは紛れもない事実です。そしてその後の業界の荒波と市場環境の変化に真っ向からぶつかっていかれた苦闘の跡も、つぶさに感じることができました。

 今、ここを見てしまった私にとってできること、それは楽器になるべく海を渡ってきたにも関わらず、不遇にもまだその機会に恵まれない木素材の思いを成就させてやること、そう40度近い倉庫の中で朦朧としながら誓いました。今回の潜入レポートにご協力いただきました旧○○楽器様、現在、材を管理されているH様、どうもありがうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

番外編 〜港めぐり

ブビンガと珍樹ハンター1(身長177cm/通常時)

ブビンガと珍樹ハンター2

 現場近くでデカイ丸太がごろごろしているという情報も得まして、急遽港に移動。ありました、ありました、思わず拝んでしまわずにいられない神々しい大きさのブビンガです。左は山車の車輪になるべく、放置養生中とのことでした。右もブビンガで、実に素晴らしい丸太ですね。私のものではないですが……。


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本日のお持ち帰り

 ……はFINEWOODデジマート店で販売いたします。長い間放置……否、シーズニングされた材はすぐに使えるものばかりです。日曜ビルダーさんはもとより、サイズさえ合えばプロユースとしてもお使いいただけます。どうぞお見逃しなく!

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次回は9月22日(月)を予定。夏休み企画第二弾、楽器業界に素晴らしい材を供給してくれるウッド・サプライヤーさん数社を紹介予定です。普段は目にすることのできない秘蔵銘木の数々があらわになるかもです。


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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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