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  • ビンテージ・エフェクター・ファイル Vol.14

いったいどんな効果なのか? ほぼその個体を目にすることはないBOSS幻のエフェクト

BOSS / Spectrum SP-1

  • 文:西岡利浩
  • 写真・動画撮影:雨宮透貴

レアなモデルも多数取り上げてきた当連載だが、年末のスペシャル・バージョン(?)として、とびっきりの“激レア”個体をご紹介しよう。その個体を目にする機会はほとんどなく、どんな効果を得られるのかすら分からないという幻のエフェクター、BOSS Spectrum。ここではそのサウンド、機能を明らかにしてみたい。

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Spectrum~その成り立ち

 2014年ラストとなる今回、皆さんにご紹介するのは、数あるBOSSエフェクターの最初期にリリースされた幻のアイテム、Spectrumです。BOSSのエフェクターが最初に世に登場したのは1977年の事、「赤」「黄」「緑」の3モデルが同時に登場しました。その中の1つ、真っ赤なボディに包まれた謎のエフェクター、それがSpectrumです。ご存じの方も多いかと思いますが、黄色はOVER DRIVE(OD-1)そして緑はPHASER(PH-1)でした。この信号と同じ3色のエフェクターの中で最も謎の多いモデルがSpectrumなのです。

 モデル名を聞いただけではその効果を想像しにくい……さらに極端に流通数も少ないため、謎が謎を呼んだ訳です。しかも発売当時はそれまでの国産エフェクターとは違うルックスとコンパクトなサイズ。どれもこれもが新鮮な上に名称までもが想像力をかき立てるものでした。

 発売当時の楽器店では“高域をきらびやかにするエフェクターです”と案内されていました。今となっては大変貴重な小冊子『BOSS エフェクターコンパクト事典Vol.1』には、こういったキャッチコピーがありました「ボス!! このアクセサリーはきらびやかで華やかですぜ」。また、サブに(きらびやかに変化する高音域の美しさなら、SP-1だ)と記されています。そこから判断すると楽器店サイドの説明も正解なわけです。う~ん、つまりトレブル・ブースターかなぁ? SP-1のリリースされた頃にはエレクトロハーモニクス社からはトレブル・ブースターに当てはまる機種も存在しましたが、それの音とも違うような……。

 当時のギター・キッズにとっては“どうやら高域をキンキンにするエフェクターのようだ”と判断されていました。エフェクター1個といってもとても高価なもの。だったら判りやすい機種をまず買おう。という事になりますね。当時の時代背景ではクロスオーバー(フュージョン)が盛んな事もあり、緑と黄色の評判が良く、残念ながら謎の赤色はしばらく経つとその姿を店頭からなりを潜めていく事になりました。それが出荷数が少ない原因とも考えられます。そして貯めたお小遣いを手に少年たちが楽器店を訪れた頃にはもう入手することが出来なくなってしまっていたのです。

 しかし、それから数年後、日本に空前のヘヴィ・メタルの波が押し寄せてくる事になります。ラウドネスを筆頭に、アースシェイカーや44 MAGNUMという日本のバンドが一大ムーブメントを築きあげました。その渦の中に、後のビジュアル系バンドの礎となるDEAD ENDが登場する事になるのですが、ギタリスト足立祐二氏がこのSpectrumを使用していることが明らかになり、水面下でSpectrumの大捜索が彼のフォロワーたちにより始まったのです。しかし、当時はただの古いエフェクターという扱いで手に入れる事はおろか、目にする事さえも出来なかったのです。それほど個体数の少ないモデルでした。ちなみに知人のコレクターがネット等の情報が無い時代に、海外で最初の1台を発掘するまでに何と13年もかかった程です。

Spectrum

Spectrum(底面)

Spectrum(右側面)

Spectrum(左側面)

Spectrum(上面)

Spectrum(下面)

Spectrum~そのメカニズム

  さて、それほどまでに入手困難なこのアイテムを“音をきらびやかで華やかにする”という説明ではみなさんもストレスが溜まるので、わかりやすく説明していきましょう。

 DEAD ENDというバンドをご存知の方はなんとなく察しが付いてきたと思いますが、足立祐二氏は自他共に認めるマイケル・シェンカー・フリークです。もうお分かりですね。マイケル・シェンカーの独特なリード・サウンドに代表されるワウ・ペダルの“途中止め”サウンドを足立氏はSpectrumを使って代用していたと推測されます。要するに、ワウを毎度同じところでストップさせるというストレスを固定のツマミで毎回欲しいところを呼び出すという使い方です。動画をご覧頂いてもわかるように、SPECTRUMツマミを手動で回転させる事により“ワウ”っぽいサウンドが出力されるのをご確認して頂けると思います(動画0:31〜0:38)。

 謎を膨らます原因には、ツマミの名称にも起因しているでしょう。では、2つあるツマミの効能を簡単に説明しましょう。

●BALANCE:左に行くほど幅の広いなだらかなカーブ。右に行くほど幅の狭い急なカーブを選択出来る
●SPECTRUM:右に回すほど高い周波数をブーストする

 これでお分かりですね。実は謎のエフェクターSpectrumとはブースト方向のみに動作する“1バンドのパラメトリック・イコライザー”なのです。とすると、ブーストさせる事により、音量レベルが上がるのでレベル調整のツマミが必要なのでは? と思った方は鋭いです!ところがさすがはBOSSのアイテムです。設計者は音量補正回路なるものを組み込んでいて、ON/OFFの音量差を気にせずに使用出来るように設計しています。今も尚、常に時代の最先端のサウンドをユーザーに提供しているBOSSのチャレンジ魂に発売当時の時代が追いついていなかったのかもしれませんね。

 ちなみに、バージョン違いの存在ですが、最初期には透明スイッチ(電池交換の部分で見られる)が採用されています。また、その後の仕様変更で黒スイッチ(現在に至る)のモデルも存在します。お約束の"銀ネジ"と"黒ネジ"は両方存在します。音に関してはご安心ください。どちらも同じです。

 しかし、そもそもこのSpectrumというエフェクターはどういったアイディアから生まれたのでしょうか? 実はBOSSのエフェクターの発想として、コーラス・アンサンブルがそうであったように“アンプの機能”からの単体抜き出しから発生しているケースがあります。そう、このSpectrumは元々はROLAND社のアンプに内蔵されていた機能を抜き出したものでした。ギター・アンプとベース・アンプにも搭載されていました。エフェクターとしての使用法で、メーカー・サイドからはベースにお勧めともありました。

 こんな風変わりなエフェクターを入手するのは非常に困難かもしれませんので、近い感じの効果を持つエフェクターをご紹介しておきましょう。

●BEHRINGER / Spectrum Enhancer SE200
●Boot-Leg / Cool ManⅡ COM-2.0

 マイケル・シェンカーやB'zの松本氏のようなリード・サウンドがお好きな方は是非とも試奏してみて下さい。

Spectrum~サウンド・インプレッション

 バンドのアンサンブルの中で、今ひとつ抜けが悪い場合に効果が期待出来そうです。セッティングのコツは中域が目立ち過ぎない程度に、ゆるやかなカーブで少しブーストしてあげればいいでしょう。良い意味で低音が削れた感じでギターの美味しい帯域を引き出してあげることが出来ます。シングルコイルでの使用は高域をきらびやかにさせるセッティングだとアコースティック・ギター風の音も出ます。特にアルペジオ奏法等を用いる場合に分離の良い録音が望めるでしょう。アンプを通さずにLINEでの直録りもMIX処理がしやすくなるでしょう。また、ハムバッカーはやはり太くて丸い音を簡単に引き出せるので歪んだアンプとの相性が良いでしょう。是非トライしてみてください。

 総合的に見て、アンプやピックアップが進化した現代だからこそ使いどころが解りやすいエフェクターだと思います。もし、入手環境が良ければ様々なジャンルで重宝されるでしょう。どういった効果をもたらすものかをしっかり把握さえ出来ていれば応用範囲はかなり広いと思います。

試奏に関して

サウンドの特色を分かりやすくお伝えするため、シングルコイル・ピックアップのギターとハムバッキング・ピックアップのギター、真空管アンプの代表的なモデルを使用した。

・ギター:レス・ポール・タイプ
・アンプ:マーシャルJCM2000

動画ではマーシャルをクリーン→クランチにセッティングし、試奏を行なった。

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