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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第16回

【和材】「お・も・て・な・し」の心を紡ぐトーンウッド

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)
  • 取材協力:株式会社ディバイザー

亜寒帯から亜熱帯まで、縦に長い国土地形から得られる多種多様な木材。日本は世界でも有数の森林国家であることは広く知られたところです。産出される木の多くは建築や家具内装などに消費されてきましたが、極わずかながら琴や琵琶など和楽器にも使われてきました。今回は近年、国内だけでなく海外からも高い注目も集めている“和材”の魅力を、ギターやベースを通して紹介したいと思います。

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和材総本家を訪ねて

 TONEWOOD(楽器用材)としてまず思い浮かぶのはローズウッドやマホガニー、エボニー、メイプルなど海外の木材たち。ひょっとして、和材は輸入材に比べて品質が劣るのでしょうか? いやいや、そんなことはありません。和材楽器をリサーチしていくうちに、それはただ単なる弾かず嫌い、聴かず嫌いなのではないかと思えてきました。そんな思いを与えてくれたのが長野県松本市に本拠を置く株式会社ディバイザー。去年の楽器フェアでも同社ブースに多くの和材楽器が展示されていたことは記憶に新しいところです。HEADWAYを始め、STR、Bacchus、MOMOSEブランドなどを展開する1977年創業の今や老舗メーカーと呼べるでしょう。現在は起業された先代から後を受け継いだブラザーズによって先鋭的な展開が進められています。和材の積極的採用はその一環。信州は和材の産地でもあり、日本各地から優良な丸太や板材が多く集まる市場が近隣にある地の利の良さも見逃せません。早速その和材ラインナップを見ていきましょう。

HEADWAY HF-SAKURA

Bacchus WOODLINE DX-EWC/SAKURA

 言わずと知れた、日本の国花であり春の風物詩(広辞苑では菊と桜のどちらも国花とされており、法律での制定はないようです)。その木材資源も工芸品や家具調度品などに古くから用いられてきました。多くの個体は木目にこれといった特徴がないのですが、目の詰んだ柾目面にはみぞれ大根のように細かくチラついた杢が現れます。中にはオオシマザクラ(ソメイヨシノの片親)のように桜餅の香りを発するものもあります。いや、上等の桜餅を包む葉はこの木からとられていました。細かく分けると600種も存在すると言われる桜ですが、楽器材に用いられるのは山桜に属する種が多いようです。中でもカーリー材やうっすらピンクにカラードしたもの、そして香りのオオシマザクラなどが好まれます。

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黒柿

STR LS549#383

Bacchus WOODLINE DX-EWC/KG

 柿の木の心材周辺にはタンニンの影響で黒化した部分があります。その比率が高いものを“黒柿”と呼んでいます。中には黒い部分に複雑にピースが連なった杢が出たり苔様の深緑色になることがあり、その手は特に工芸品や指物の世界で珍重されています。また、墨流しと称される、おぼろげな表情には独特の侘び寂び感があります。海外での人気が特に高いのも頷ける出で立ちですね。たまに、この黒柿を説明する時に柿の木の中で何万本に一本しか存在しないとか言う人がいますが、それは上述の超特殊な杢、色のことです。それでも何万本に1本というのは盛り過ぎです。年間に何本の柿の木が伐られているのでしょうか、JAROに怒られます。あっ、庭に柿の木があるからといってむやみに伐らないでくださいね。“白柿”の可能性もありますし、素材として使うまでには水中乾燥を含めて恐ろしく長い時間がかかります。また木取りの仕方によっては銘木にも駄木にもなる要素を秘めていますので……。

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Bacchus WOODLINE24 DX-EWC JHCB/6月発売予定

Bacchus WOODLINE24 DX-EWC JHCB

 近年、和材の中では価格高騰がもっとも顕著な種です。もともと杢がキレイなことに加えて供給量が少なくなったことが原因だそうです。確かに細かいカーリーからビーズウィングのような光沢の強い羽杢、スポルティッド、バールなど、バリエーションの豊富さには事欠きません。中でも今回、楽器でご紹介するのはサルベージ材。文字通り、川に沈んだ丸太を引き上げたものです。推測ですが、川で養生中に何らかの理由で沈んでしまい、長年放置されてしまったもののようです。長野県内のとある川でした。製材加工中は独特の芳香?(発酵臭)で大変だったそうですが、きっついバール杢が出現しています。

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タモ

MOMOSE 2014 MJB2-FTW JINDAI/NJ

MOMOSE MC2-LTD JINDAIJ #5000 Anniversary

 “輸入アッシュ”に対抗して“ジャパニーズ・アッシュ”とも呼ばれる木です。バットに使われる場合は“トネリコ”と呼ばれる場合も多いようです。今回はその中でも埋もれ木“神代タモ”です。この個体は火山噴火により倒れ、火山灰を含む土中に埋まり、そして地滑りにより湖に沈んだというファミリー・ヒストリーの解明までたどり着いているそうです。くるりの曲が頭の中を巡ります。普通、地中や水中に沈むとバクテリアに分解されてなくなるのではと思いがちですが、酸素が完全に遮断されると木も即身成仏できるようです。おかげで色は独特の青みがかったグレーに染みています。まるで方眼紙のようにバーチカルなカーリー杢も特筆ものです。

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HEADWAY HN-MAGNOLIA

STR OS624#27

 ここでは“ホオ”と読みます。“パク”と読まないでください。ジャパニーズ・ビッグリーフ・マグノリアと呼ぶと銘木度合いが高まります。香りや制菌効果のある葉っぱは、寿司や餅を包んだり、朴葉焼きなる包み焼き料理は旅路番組には欠かせない存在です。硬く丈夫な木は、まな板や下駄、太鼓のバチに使われています。木目にこれといって特徴のない木だと思いきや、中には写真楽器のような個体も存在します。ホオとしては最大級の変態杢ですね。巨大テーブル板のようなサイズで出現し、木材市場では賞を取った材だそうです。銘木に皆で感嘆の声をあげましょう、ほぉ〜……。

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ポプラ

Bacchus WOODLINE DX-EWC/BP

Bacchus WOODLINE DX-EWC/BP

 この木の名前を聞くと北海道大学の並木を思い出します。2004年の台風18号で倒れた同大学の木はチェンバロとして立派にリクレイムされました。何本も倒れた中でリクレイムに値する個体部分は極わずかだったそうですが、立派な楽器として展示されているそうです。写真の楽器(6月発売予定)はそれとは関係なく、バール部分の逸材です。こういった特殊杢部分は装飾用の突き板に使われることが多く、ソリッド材として世に出ることが少ないのですが、見事に楽器に仕立て上げられました。

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ポプラを用いたベースを検索!
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 センは別名ハリギリ(針桐)とも呼ばれ、北海道にその資源のほとんどを有します。楽器材としてはタモ同様にエレキ・ボディに広く使用されていますね。珍しいところでは賽銭箱はこの木を使うと聞いたことがありますが、深い意味はなさそうです。プレーンな栓にはさして木フェチ・メーターが振れない筆者ですが、こちらもやはり神代君。当然、こんな色になります。長い間土中で眠っていて、急に楽器としてスポットライトを浴びるなんて激動にもほどがありますね。“神代”という呼び名の由来は地に埋まり、神に代わったという意味もあるそうです。音楽業界には色々な神が降臨しますが、素材自体が神というのも大いにありですよね。

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屋久杉

 もはや説明不要の世界遺産に存在する島固有の木です。今、流通している材は、江戸時代に伐採された木の埋もれ木部分(根っこを含む)、もしくは倒木だと思いますが、いずれにしても資源が極端に限られていることは言うまでもありません。家具、内装材には木目が楽しめる板目挽きを多く使います。すでに板に加工されたものはほとんどがその手なのでアコギのサウンドボード材(ボディ・トップ材)などには使いづらいのですが、写真のようなバームクーヘン半割状態で買えばどんな用途にも使えそうです。太字で名入れしてもらっていますが、強い精油香があるので誰も間違いません。この屋久杉にしろ、タスマニアのヒューオンパインにしろ長命樹には必ず自らを守るための油分を多量に含んでいます。

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 “ケヤキ”と読みます。日本のいたるところで大木、巨樹、天然記念物として存在し、木材としては銘木として建築や家具建具に広く使用されてきました。一方、楽器材に使われた例はほとんど聞きません。玉杢、泡杢、如輪杢など、地味派手な杢が多い中、こちらは楽器になりたいとでも主張しているような深いフィギュアード材です。名づけて“不死鳥フェニックス”。これはまさに木取りの妙。近日中には大きく羽ばたいてくれそうです。

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吉野杉

STR LS559 #377

 文字通り、奈良県吉野地方から産出される優良杉、今やブランド杉として高価に取引されている種です。板目面には杉特有の激しいフィギュアードが現れます。油分が多いので楽器加工には手間と時間を要しますが、オレンジがかった深い色味からは一般的な杉のイメージとして浮かぶ淡白感は微塵もありません。ここぞという杢が出た時にだけ製作されるまさに秘材中の秘材、こういう楽器は持っているだけで森林セラピー効果を味わえます(効果は個人の感想です)。

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赤蝦夷松

 別名ホッカイドウ・スプルース、ピアノの響板だけでなく、アコギのサウンドボードとしても国産材として唯一広く使われてきました。今やその立木資源の多くは国有林内となってしまい、市場に出てくる材は極わずかとなっています。この赤エゾ松は、廃業したパイプオルガン・メーカーが長年保有されていたものとか。デッドストック材が発掘できたことだけでなく、国内でパイプオルガンを作っていたこと自体が驚きです。硬い質感、濃い冬目、ややランダムな目幅、いずれをとってもワイルドだろぅ?と死語をつぶやかざるをえません。ぜひ国産のサイド&バック材と組み合わせてGI砲以来の最強タッグを組んで欲しいところです。

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 くすのき、英名カンファー、かつて強心剤としても使われたカンフル注射の成分はこの木からとれます。今でもその名残りで気合を入れ直す作用を“カンフル効果”などと言います。また、防虫剤の樟脳もこの木の成分でした。さらに大昔はその丈夫さから舟の材料にも使われていたそうです。海外では同種の材がアコギ材としてすでに流通していますが、国内でもこれから注目(特に屋外イベント用楽器としてなど)が高まるに違いありません。

 最近、女の子の名前でよく聞くようになったカエデちゃん。素材としては気性が荒く、なかなか手強い存在です。名前の由来は、葉っぱがカエルの手に似ていたのでカエル手→カエルデ→カエデになったとか。そんなキモカワ由来なカエデですがその独特の木肌の白さ、艶やかな輝き、そして思わず“縮み”と呼びたくなるカーリーには見る者を引き込む強い魅力があります。この個体はそんな縮みの中でも、特に縮みまくっています。工芸の世界では一寸(約3.030303cm)あたり8縮みがバランス的に最良だそうですが、この個体は場所によって一寸15縮みもあります。細かければいいってものではありませんが、これはこれで超貴重な存在です。海外産メイプルの資源が豊富ゆえ、国産カエデはあまり注目されてきませんでしたが、こういったレア杢に対する需要は価格に関係なくいつも強含みです。

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椿

 ツバキの木は成長が遅いのですが、長命で中には樹高20mほどに達するものもあります。あいにく現存する木は小さいものがほとんどです。木質は硬く緻密、かつ均質なので印材や将棋の駒、工芸品などに使われてきました。木目に乏しく樹経が細いので楽器にはほとんど使われていませんが、薄板にしてみるとなかなか味わいがあります。見た目よりはるかに硬いのでアコもののサイド&バックにぜひ試していただきたい材です。

その他の和材

 他にも楽器材として可能性があるとすれば、桧、ブナ、楢、樫、栗など枚挙にいとまがありません。見た目の派手さこそ輸入エキゾチック・ウッド類にアドバンテージがありますが、素材としてのポテンシャルは決して劣ると思えません。和材ならではのトーン・キャラクター、侘び寂びルックス、近年、厳しくなりつつあるトレーサビリティの問題、資源の永続性、円安、TPP交渉長期化を考えると、和材に、もっと楽器業界での活躍の場を与えてやっていただきたいところです。と、お願いしようと思ったのですが、すでに和材楽器に対するマーケットからの注目は高く、ここ数年、優良和材発掘を各所から急かされる時代になってきました。輸入材のCITES流通規制は厳しくなることはあっても、緩和されることはまずありえない現状を考えると、ますます和材に対する需要が高まりそうな昨今です。

その他の和材を用いたギターを検索!
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まとめ

 和の世界はいかがでしたでしょうか? 次回はウクレレ・マガジンVol.13(6月15日発売)の発売に合わせて、木フェチが萌えるウクレレ特集です。同じハコものでもアコギに比べて素材自由度炸裂なウクレレたち。さて、どんな木が出てくるでしょうか、6月22日(月)の更新をどうぞお楽しみに。

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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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