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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第19回

大人の社会科見学 製材工場/唐木のダイキン訪問レポート!

唐木のダイキン

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)
  • 写真撮影:植田 山月 動画撮影:編集部 動画編集:熊谷 和樹 取材協力:唐木のダイキン

夏が来ぅれば思い出す♪大きな木と遠い空……というわけで、なぜか真夏になるとリアル丸太を求めて屋外取材をしたくなる木フェチ潮吹きバカ(註:木材取材に精を出し過ぎ汗だくでポロシャツが白くなる人物の意)が今月もお届けします。今回の“遙かな”先は、主にアコースティック・ギター製作家の木フェチの皆様にはお馴染みの兵庫県小野市にあります木材商「唐木のダイキン」さんです。世界各地から輸入された銘木をさまざまな業種、用途向けに販売されています。同社のストックヤード、製材工程、販売ショールームなどから、唐木を中心とした木材の魅力を紹介していきます。今回は久しぶりの動画付き! 読み終わる頃にはその魅力にハマっていること間違いなしでしょう。

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そもそも“唐木”とは!?

 一般的には唐木=“からき”と読みます。“とうぼく”と無理やり読む人もいるようですが、“倒木”と混同されかねませんので、ここはひとつ“からき”でお手打ちください。今や、堅くて重いキレイな輸入材総称のような“唐木”ですが、もともとは文字通り唐の時代の中国を経由して日本国内に持ち込まれた熱帯地方の木をこう呼んだそうです。一例をあげると、紫檀、黒檀、鉄刀木(タガヤサン)、白檀、カリンなど。その用途は床柱などの建材、仏壇・仏具、家具・指物などに多く使われてきました。緻密で豊かな光沢と美しさは、聖武天皇などにも深く愛され、今に残る正倉院御物にも多くの唐木が使われています。そして楽器にもたくさんの種類の唐木が使われています。インド・ローズ(インディアン・ローズウッド)、縞黒檀、真黒、そして広義の意味での唐木としては中南米、アフリカ材など、もはや楽器製作に欠かせない存在となっています。おまけに長野には唐木さやかさんなるタレントも存在するほどです。

いざ動画で社会科見学!

ダイキン沿革

 同社は現社長・近都賀彦(きんつ・よしひこ)氏のお父上が1952年に創業されました。そろばんの枠材を製材、販売されるところからスタートされ、その後、唐木を直輸入できる道筋をつけられ、高度成長景気にも恵まれ業績順調に推移したと会社沿革には記されています。楽器用材を扱い始めたのは比較的最近ですが、同社ウェブサイトではアコギのバック&サイド材を始めとしてネック用の角材やその他パーツに使えるさまざまな樹種を現物写真付きで販売しています。丸太の輸入から製材、加工、単品での販売、発送までのほとんどすべてを自社工場、スタッフで運営されている国内では数少ない存在と言えるでしょう。現地へ直接訪問されてもOKですが、現在はウェブ販売もされていますので、ぜひご活用ください。

ダイキン社外観

ストックヤード

 まず敷地内に入り、嫌が応でも目に付くのが丸太の山。これでも今はとても少ない状態とのこと。アフリカン・ブラックウッドを始めとする丸太峰が連なっています。日よけネット下でしばし養生後に徐々に製材工程へと運ばれます。

ダイキン社屋と広い敷地

アフリカン・ブラックウッドの丸太

筆者とアフリカン・ブラックウッド連峰

丸太

 今回の取材にあたりシークレット箇所は一切なしとのことで、図々しくも隅から隅まで拝観させていただきました。倉庫内には丸太からある程度の厚みにおろされた板材、そしてさらに細かく角状や薄板に製材されたものまで、さまざまな形態で保管されています。圧巻は、巷ではあまり見ることのできない稀少木の丸太の数々。今回拝見したのは以下の樹種です。

リグナムバイタ 
 世界一重い木のひとつとして有名で、船舶のスクリュー・シャフト部品やボーリングの玉(!)に使用されていた。ちなみに、これとよく似た樹種でパロサントという木があり、並べて見てようやく差が分かるが、マナカナ程度の違いなのでピンで見ると無理。

アマゾン・ローズウッド
 アコギのバック&サイド材としてポスト・ブラジリアン材の有力候補。本家より重く硬質な響きが特徴。

スネークウッド
 蛇ウロコ模様がキモかわゆすな木。楽器としては指板や装飾に使われることが多いが、まれに大蛇が捕獲されるとアコギ材になることもある。最も適した用途(私感)は耳かきで、蛇の舌先でつつかれるような感触が得られる。

リグナムバイタ

アマゾン・ローズウッド

スネークウッド

板材

 すでに一定の厚みに製材された木も多種あります。入荷して間もないとおぼしき雰囲気のパレットから、いつでも出動可能なものまで来るべきその時(?)を倉庫内で静かに待っています。その中から出色だった材をご紹介いたしましょう。

キングウッド
 ブラジルローズウッドのひとつ。端正な木目で育ちの良さを感じさせるが、やや見た目インパクトに欠けるかも。細身の木なので木管楽器などに使用。価格が比較的リーズナブルなので指板などの代替材としても◎。

パープルハート
 伐りたては紫芋チップス、時間が経つと冷蔵庫の奥に忘れ去られたまま5年経過した紫蘇ジュースのような色になる(実話)。堅くて頑丈なので湖沼の桟橋などに使われている。

紫檀
 タイ産の本紫檀がよく知られているが、現在はその周辺地域や近似種、ないしなんちゃっての類まで紫檀として流通している。唐木の頂点とも言える。

レースウッド
 レース編みのような細かい杢目が特徴。製材する角度によって杢の見え方が全く異なるので製材時は人一倍気を使う。極上のレースは網脂のような杢目が浮き出ている。オーストラリアなどから産出されるシルキーオークにもよく似た杢目が現れる。

ジリコテ
 塗装すると黒柿の杢に似ているためシャム柿なる名で呼ばれている。とぼけた業者は、そのまま黒柿として売っている場合もあるので要注意。ややダークな色調は妖怪人間ベムの顔色を彷彿させる(ホヌ梨くんじゃなくてアニメの方ね)。

ピンクアイボリー
 堅くて滑らかな木肌はまさにアイボリーの質感。ウーパールーパーのようにウブなベビーピンクからドぎついショッキングピンクまで色の個体差が大きい。酸化によって退色したり、中にはもともと初々しさに欠けた個体もある。

キングウッド

パープルハート

紫檀

レースウッド

ジリコテ

ピンクアイボリー

ダイキンを代表する材

 やはりダイキンさんと言えば黒檀類ですね。産地事情に精通され、長年深いパイプを築いてこられた同社ならではの品質、物量の凄まじさと言ったら! 中でも縞黒檀については国内流通量の相当比率を同社が扱っているとのこと。主にインドネシア・スラウェシ島で優良な木が産出されることから、同島南部の港湾都市の名をとってマカッサル・エボニー(Makassar Ebony)と呼ばれています。楽器業界では“マッカーサー・エボニー”と呼ばれることもありますが、それは連合国軍最高司令官マッカーサー(MacArthur)の影響でしょうか? 東京を“トンキン”と呼ぶようなものなので、なるべく正確に伝えていきたいものです。

縞黒檀の島

縞黒檀指板サイズ

縞黒檀山積み

インドネシア政府お墨付き

カメルーン・エボニー(真黒)

アフリカン・ブラックウッド(マメ科の木ですが「アフリカ黒檀」とも呼ばれます)

製材工程

 ここには製材に関するほぼすべての設備が備わっています。これだけあれば、堅い唐木でも縦横ナナメ、思い通りにリサイズが可能です。もちろん製材精度は機械の性能だけではなく、それらを操る職人さんの腕にかかってくることは言うまでもありません。写真にはありませんがプレナー(大型電気カンナ)などの設備も充実です。ありがたいことに、これら設備類を使った有償製材加工も可能とのこと。持ち込み材でも時間制でよしなに捌いてもらえそうです。詳しくはこちらへ。

これよりアフリカン・ブラックウッド丸太をおろします

帯鋸(おびのこ)にて製材中

台車で丸太ごと移動します

リップソー(縦挽き自動送り装置付き丸鋸)

丸鋸大

丸鋸小

販売ショールーム

 工場建屋内にはプロだけでなく一般の方でも気軽に木が買える販売ショールームが併設されています。ありとあらゆる唐木類を手に取って、触って、嗅いで、求めることができます。

販売ショールーム全景

ダイキン取り扱い材

 ダイキンさんが扱う豊富な材の中で、主に楽器材として使えるものの一部を取り上げてみました。エレ木からアコ木まで、各種とりそろえられています。

セドロ

カリマンタン・エボニー

インディアン・ローズウッド

ココボロ

マカッサル・エボニー(縞黒檀)

リンバウッド(コリーナ)

モンキーポッド

ジリコテ

バーズアイ・メイプル

グラナディロ

アマゾン・ローズウッド

ホンジュラス・ローズウッド

本紫檀

ブビンガ

カリン・バール

レースウッド

オリーブウッド

リグナムバイタ

Interview〜ダイキン社長・近都賀彦氏

 長年、唐木ビジネスに取り組まれてきた近都社長にその歴史と現況を伺いました。

──唐木の用途について教えてください。

 縞黒檀は仏壇、仏具業界での需要が最も大きく、小さなものではヘアブラシの柄やそろばんの枠などにも使われています。本紫檀や手違い紫檀などは指物業界が多く、仏壇・仏具業界はその次になります。他には床柱や数珠に量は少ないものの鉄刀木が、白檀も数珠や仏像などに使われてきました。

──唐木調達での現地エピソードがあればお聞かせください。

 30年以上海外から仕入れをしている関係でいろいろなことがありました。例えば、サプライヤーとのフレコミで現地人と接触したものの、連れて行かれた場所には木材がまったくなく、しかたなくホテルまで送ってもらったあと、再度彼らと外出しようとしたところ、ホテルのスタッフに引き止められたことがありました。「我々はお客様の身の安全を守る義務がある」とのことでした。さっきまで一緒にいた彼らは誰だったのでしょうね(笑)。

──唐木の価格動向について現況を教えてください。

 米ドルが円安に振れている関係で、3年前と比較すると単純に50%以上仕入れ価格が高騰しています。とりわけアフリカ材ではブビンガ、中南米材ではココボロ、東南アジアでは本紫檀、手違い紫檀が、北米材ではウォルナットやオークなどが数年前と比較して数倍単位で高騰しています。

──ダイキンさんにおける楽器材の取り扱い状況について教えてください。

 楽器材は弊社のネット販売部門のいちアイテムとして扱っています。指板材の在庫を載せたのがきっかけですが、少しずつ幅が広がり、お客様も増えている状況です。今後の供給予定は単価やワシントン条約の問題があるので、ココボロのように買えない材と継続して販売する材に分かれていきます。為替が円安に振れても、現地価格が同じであれば仕入れは続けていきます。

──今後の唐木ビジネスの展望をお聞かせください。

 以前は自社でサンプルを取り寄せて客先に新素材を提案していましたが、すべて受け入れられるわけではなく、現在は要望に応じて、新しい材を探すという方向で進めています。産地の開拓予定はありませんが、材としては昨年初めからカリマンタン・エボニーの伐採許可を得て輸入を始めました。

デジマートで買える! 唐木楽器たち

 ここからは恒例のデジマートで今すぐ買える楽器紹介コーナーです。今回はもちろん唐木を特徴的に使った楽器のオンパレードです。エキゾチックなカラッキー・ワールドをご堪能ください。

※画像はデジマート登録商品のものを流用しています。リンクは売却後切れてしまう場合がございますのでご了承ください。

マカッサル・エボニー

 縞(しま)黒檀の和名どおり、オレンジ、ブラウン、暗褐色にわたるグラデーションが鮮やかなストライプが特徴です。ストライプド・エボニーとも呼ばれ指板などに使われることも多いですね。またエボニー類としては比較的、幅の広い材がとれ、アコギのバック&サイドにも人気となっています。

Paul Reed Smith(PRS)/Private Stock Brazilian #5191 Custom 24 〜Natural〜 【ハカランダ指板】


Taylor/NAMM 2015 Custom GCCE Macassar


Tune/30th Anniversary TWXT-5 "Macassar Ebony Top" 【特価】


Paul Reed Smith(PRS)/Private Stock Collection Series V Collection Grand Acoustic #102


カリマンタン・エボニー

 同じくインドネシア・ボルネオ島を主産地とするエボニー。マカッサルと比べてややグレイッシュな色味が混ざり、その分褐色のストライプがより際立っています。フレイム調に輝く美しいフィギュアードがよく見られます。こちらもアコギのサイド&バックや指板材として使われています。

Sumi/S-DKALI (Flame Kalimantan Ebony)


FUJIGEN/NJB100-3TS

インディアン・ローズウッド

 皆様にとってもお馴染み、楽器には最も使用頻度が高い材のひとつですね。ただし、これからの本場良材入手は大変厳しく、インドネシア産など近隣国産を有効に活用していかざるを得ない状況となっています。インドの山奥で修行をしてから伐り出した丸太を象が麓まで引き下ろしていた時代の材にもう一度会ってみたいですね(丸太に穴を開け鎖で象が引っ張ったそうです)。

Combat/{BUG Original} 2014ショウモデル 「All Rosewood Thru Neck ST Warm」

Fender Custom Shop/Limited Rosewood Telecaster Closet Classic


Headway/HD-45R 【オール・ローズウッドボディ】[DM500]


カリン

 これは産地分布が広く、個体差も激しい木です。同じ“カリン”という名で呼ばれていても、見た目、品質の差がかなりあります。赤黒く重いローズのような木から、オレンジ・ブラウンのアカシア似まで幅広く“カリン”と呼ばれているようです。また、“バール”と呼ばれる瘤部分もよく見られます。この木のバールは大きいものが多く、かつては座敷机や衝立など和室家具としてよく目にしました。ちなみに国内で果実のなる花梨は、バラ科の木でまったく他人の関係です。

Rokugen/LP-STYLE ALL 花梨【美しく、力強く、そしてどことなく温かい真の手工芸ギター】


Tune/TWB-5 EX HY-III "Burl Karin Top"


NOBUWORKS/KARIN


ココボロ

 独特のスパイシーな香りとムンクの叫びにも通じるウルトラQな板目杢が特徴の中南米唐木の代表格。アコギのバック&サイドとしてはポスト・ブラジリアンとしてよく知られていますが、そのカラフルかつユニークな杢目を生かしてエレキ・ボディにも多く使われるようになってきました。

Warwick/Custom Shop 2014 Corvette $$ 5-string Selected Cocobolo 3/8" top Natural NOF(94060)


ROSCOE/LG3000 Cocobolo Top【横浜店】


Oxwood Handmade Guitars(Brad Daniels)/ Carmen Cocobolo


アフリカン・ブラックウッド

 “ブラック”ウッドとはいえ、エボニーの黒さとは違って、やや紫がかった部分やチャコールグレーに振れている部分もあります。また、サップと心材とのコントラストがオセロ並に鮮やかなので、あえてサップ付きを好む傾向が多い材でもあります。

Hiroshi Ogino Guitars/ OM "Maria" African Blackwood


Buffet Crampon/R13 B♭ 【SUMMER SALE 8月末迄!!】


ジリコテ

 大仏頭のようなくるくるパンチ杢からスパイダーウェブまでコテコテ気味の杢が特徴です。“シャム柿”とも呼ばれることが多いのでアジア出身かと思いきや、メキシコ近辺からやってきたラテン野郎なのでした。国内より海外での人気が高い材のひとつで、ベースのボディ材やアコギ、ウクレレなどでよく見かけます。

Sadowsky/NYC Will Lee 5st Model "Master Grade Ziracote Top / Amazon Rosewood F.B"


T's/Exotic Ziricote Wood (柿) Concert Ukulele ウクレレ#1687


紫檀類

 この材は産地によって随分趣が異なることが多いです。楽器として最も知られた用途は、やはり二胡とか三線の棹(ネックじゃなくて)用でしょうか。中でもインド産の紅木(こうき)紫檀と呼ばれる種は最高級のそれらに使用されています。本紫檀としては、本場タイ産が枯渇してしまった後、ラオスやカンボジア産などがわずかに流通しています。他にも手違い紫檀(チンチャン)やアフリカ紫檀(パーロッサ)などが現在の主たる“紫檀”です。

二胡/高級紫檀 二胡(蘇州)


まとめ

 唐木の世界、いかがでしたか? 気になった方、ネットで買うのもアリですが、ぜひショップに足をお運びください。ネットに紹介しきれない材がたくさん展示販売されていますよ! 

【唐木のダイキン】
〒675-1318 兵庫県小野市北丘町355-3
オフィシャルHP
オフィシャル・ウェブショップ

 それでは来月も木になる情報をお届けします。9月28日(月)更新予定!


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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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