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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第22回

バール材のその先へ〜新世代エレキ・トップ材

新世代エレキ・トップ材

  • 文・撮影:森 芳樹(FINEWOOD)

先月のバール材特集の反響を受け、改めて変杢トップ材愛好同志が予想以上に多いことを思い知りました。ハイエンド・メーカーが好んで用いる木フェチ変杢トップ材。どちらかと言わずとも装飾的な意味合いが強い子たちですが、楽器として見た目インパクトを軽んじるわけにはまいりません。今月は、前号で紹介しきれなかったバール材を含めて、これから注目を集めそうな内外のトップ材たちを、追いかけピックアップしてみました。

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エレキ・トップ材の考え方

 トップ材、すなわちボディ前面を覆うフロントマン、見た目的に楽器そのものといっても過言ではないほど重要な存在です。トップ材を貼ったモデルと言っても、コンマ数mmの突き板を貼っただけのまさにハリボテから、しっかりとアーチの効いたカーブド・トップまでそのクラフト手法はさまざまです。使用される突き板の平均は0.6mm前後で、薄いものになると鰹節のようなものもあります。突き板の場合、リフィニッシュしたり、ボディ形状を変えようとして少しサンディングしただけで杢が失くなり、下地がコンニチハしてしまうことがあるので要注意です。ボディ基材(バック)に比べると薄いトップ材ですが、出音に影響がないわけはなく、その厚みが増せば増すほど、楽器のトーン・キャラクターを左右することはご存知のとおりです。

 トーンウッド業者間の取引では、ラム・トップ、ドロップ・トップ、レス・ポール・トップ、アーチ・トップ用などと厚みによって大雑把に分けられています。しかし、それぞれの名称に確固たるサイズ基準はないので最終的には原寸をよく確認する必要があります。当然、厚みのある材の方が高価で流通も少なく、特に美しい杢が出たものは市場でも人気があります。一部のハイエンド・モデルを彩るバール材を超える(?)、要注目なニューカマーたちをご紹介していきましょう。

フィギャード・マホガニー

フィギャード・マホガニー/ブリスター

 ボディ・バックやネックなどに広く使用されるマホガニー材。トップ材としては見ごたえのある複雑な杢が用いられます。湧き立つブリスターからワイルドなカーリーまで野趣豊かなトーンウッド界のジビエといった雰囲気です。マホガニー近似種であるサペリやカヤ(アフリカン・マホガニー)の中にもキルトやプラムプディン(流星様の縦長小紋)がよく見られます。

フィギャード・チーク 

フィギャード・チーク/カオス

 チーク材を用いたエレキ楽器がほぼ存在しない中、杢景色が豊かなチーク・バール材をリコメンドします。お地味な色合いながら、その奥に潜むチークの息吹は木という生命体を超越した存在に写ります。ベースなど少しでも広い面で見せたいシック&ゴージャス材です。


マーブルウッド

マーブルウッド/ホワイト・バール

 カリンなどの赤いバール材に対抗してホワイト・バールとも呼ばれるマーブルウッド。赤く着色されるとカリンにそっくりですが、こちらの方がかなり軽量ですので簡単に判別できます。大理石調に見える材を総称して“マーブルウッド”と呼ぶこともありますが、中でもこのバール材は杢に立体感があり、美しい景色を縦横無尽に広げます。このままナチュラル・フィニッシュに仕上げていただきたい白無垢材です。


アレルセ

アレルセ/フレイム&マイクロ・グレイン

 南米チリ〜アルゼンチン西部の高地山岳地帯から産出されたヒノキの仲間です。国内ではチリ杉とも呼ばれ、かつては屋久杉の代替材として輸入されていました。屋久杉よりも赤みが強く、堅く締まった質感が特徴です。成長が遅く、目幅のカウントが老眼にこたえます。ブラジリアン・ローズウッドなどと同様にワシントン条約附属書Ⅰに属しており、新たな輸入は見込めそうにありません。


ビンテージ・マホガニー

ビンテージ・マホガニー/ティピカル・フラットソーン

 この連載コラムでも何度か取り上げたマホガニー。中でもアンティーク・テーブルのリクレイム材など世紀を超えて存在する材を“ビンテージ・マホガニー”と呼んでいます。派手さ皆無の渋チンですが、これをあえてトップに据えることで、うんとシャビーシックな世界観が味わえます。重ささえ厭わなければボディ基材としても使いたいところですが、厚みのある材を入手するには、当時の家具、建材を探すしかなく、望み薄と言わざるを得ません。写真はクラフトムジカさんで製作中のもの。


ガイアナ・ローズウッド

ガイアナ・ローズウッド/モカケーキ

 ワマラとも呼ばれる南米・スリナム産のハードウッド。心材(ハート)と辺材(サップ)の色差がくっきり鮮やかな木です。おかげで丸太の輪切りは鉛筆の軸と芯のように見えます。大変重厚な材で薄板のタップトーンは鉄板を思わせます。ローズウッドと呼ばれますが、ローズ種ではないところが木材業界の残念なところですね。


チューリップ・ウッド

チューリップ・ウッド/ザ・ピンキー

 南米ブラジル産、こちらは由緒正しきローズ種です。ヨーロッパに古くから輸出され、家具材(特に装飾用)として使われてきました。直径で30cmあれば大きい方なので、もともと流通量が限られています。その気品高いおピンク色は他の材では代替が効かず、世界中で大変人気があります。残念ながら市販の球根を植えてもこの木にはなりません。また、北米で同名の木も存在しますが、そちらは建材用の白木でまったく異なるものです。


屋久杉

屋久杉/スピリチュアル・フィギャード

 日本が誇る世界遺産の島固有種、屋久杉。楽器材としてはアコギに柾目材が用いられる程度でした。細かく密な目幅、さらに法則性のないフリーダムな杢の流れは、和材の中でもさらに注目を浴びるに相応しい存在だと思います。油分が多く、特有の香りがあります。


イタヤカエデ

イタヤカエデ/バブルスターLPトップ

 日本が誇るハード・メイプル、イタヤカエデです。非常に狂いが出やすく、銘木界のあばれる君とも呼ばれ、非常に扱いが難しい材です。ただし製材後の養生をしっかり施し、枯らしを経たものは素晴らしい木味を持つ真の銘木となります。

ブラック&ホワイト・エボニー

ブラック&ホワイト・エボニー/B&Wラム・トップ

 別名:ペールムーン・エボニー、国内ではクロガキ(なぜかカタカナ)として流通していることもあります。滲んだ墨流しフィギャードが特徴のエキゾチック・ウッドです。国東南アジアのエボニー類の中では最もアカ抜けた感がありますが、ワレが入りやすく、幅の広い材を得ることが大変難しい材としても知られています。キレイなシンメトリー・ブックマッチや白黒ストライプのフィンガーボードなどは特に高価で取引されます。

デジマートで先鋭エレキ・トップ材楽器を探そう!

 さまざまな表情を持ったトップ材、いかがでしたでしょうか? 楽器の構造上、ボディ基材の選択はある程度制限されますが、トップについては少々遊んでも大きな怪我はないように思います(派手過ぎて飽きるといった事案は別として)。コンサバなカーリーやキルトだけでなく、ぜひ変材もご賞味ください。というわけで、ここからはいつものデジマート内商品いじり大会といきたいのですが、今回は取り上げた素材がラディカル過ぎたのか、ほとんど検索に上がってきませんでした。しかし安心してください、すでに採用している楽器もチラホラ存在します。先行特典としてチェックをば。

写真:(株)ワタナベ楽器店 大阪店

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momose/LTD MJM2MBW BM-PRM/E "Marblewood Top / Birdseye Maple Neck"

 透明感のあるナチュラル・フィニッシュに仕上げていただきありがとうございます。マーブルウッドらしい3D調の小さなバラが咲いたような杢がキレイに出ています。知らない人が見れば、石に見えるかもです。

写真:三木楽器 梅田店

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JPG/JPM8 Swamp Ash Pale Moon Ebony Fingerboard Matte Black

 フィンガーボードはトップ材同様に見た目も重要ですが、演奏者目線ですとなおさら気になる部分ですね。個性を押し殺したソリッド・カラーにすべきか、このギターのようにシャレオツにキメるか。選択肢が広がり楽しい限りです。この種は日本の黒柿より堅いので耐久性も◎です。

写真:アップルギターズ

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O.CRAFT/Thinline

 岡田さんのオークラフト。長年の家具製作実績で培われた高い木工精度を誇るビルダーさんのイメージがあります。そんな彼ならではの素材選択、イタヤカエデ。杢の立体感を残したまま美しいカラーで仕上げられています。

写真:ギタープラネット エレキ本館

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momose/MTH-GP-和材 屋久杉 【弊店オリジナルオーダー】【神代木+屋久杉】

 柾目のヤックンをトップに、バックは神代タモで固めたシンライン・タイプ。いずれも少なくとも数百年単位で定温熟成された貴重なマテリアルたちを使用しています。冷静に考えなくても凄いことですよね。fホールの中を嗅ぐと、屋久杉臭が香るのではないかと思います。究極のスピリチュアル・ギターとしてもオススメです。

写真:FINEWOOD

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FINEWOOD/チーク・バール・トップ用材

 思いっきり自作自演で恐縮です。チーク・バールの中でも最もバーリーな1枚を紹介させてください。バール粒の大きさ、バランス、欠点のなさなどなど、手持ちの中でも最も美しい材です。オイリーな質感はチークの特徴ですが、バールの場合は表面を指で触ると蝋のような質感です。通常の木工系接着材では加工が難しいかと思います。どなたか良い知恵お授けください。

 次回は12月28日(月)更新予定。今年最後の木になる情報をお届けします!


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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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