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【3月3日“耳の日”特別企画】Save The Ear〜音楽と長くつき合っていくために〜

feat. TOSHI NAGAI × 中石真一路[ユニバーサル・サウンドデザイン]

  • インタビュー・文:竹内伸一 編集:竹内伸一・リズム&ドラム・マガジン編集部 撮影:八島 崇

音楽と長くつき合うために、生涯楽器演奏を楽しむために、どれだけの方が自身の耳のケアを真剣に考えているだろうか? 耳は人体機能の中でもとても繊細な器官であり、日頃から無理を強いると難聴になってしまう恐れも。そこで今回は3月3日“耳の日”特別企画として、音楽と長くつき合うために、いかに耳のケアが大事かということを、GLAYや多数のアーティストのサポート・ドラマーとして活躍するTOSHI NAGAI氏と、comuoonなどの聴こえ支援機器を開発・販売するユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏の特別対談を通して再確認していこう。

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3月3日“耳の日”は耳の大切さを考える一日

すべてのミュージシャンへ向けて“耳の大切さ”をTOSHI NAGAI氏(左)、
ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社代表の中石真一路氏に語っていただいた

──3月3日は“耳の日”ということで、今回は“耳の大切さ”というテーマでお2人にお話をうかがいたいと思っております。まずは、そもそも2人が知り合ったきっかけは?

中石真一路(以下、中石):僕がナンパしたんですよ(笑)。とあるパーティーでたまたま居合わせて“自分は以前レコード会社のEMIにいて、今はコミュニケーション支援機器を開発しています、お年寄りでも聴こえやすくなるスピーカーシステムなんですよ”って話したんです。そうしたら興味を持ってくれて。

TOSHI NAGAI(以下、TOSHI):僕らドラマーには難聴になってしまった方もいるので、すごく興味がありました。モニターの聴き方って非常に大切だと思っていて、それだけで演奏面にとても影響が出るんです。人間は大きな音に対して、身体が勝手に恐怖を感じてしまい、硬直してしまうんですね。“今日は何か力むなぁ”って思うことがあるんですけど、それはモニターの音量がデカ過ぎたせいだったりするんです。ちょっと音量を下げると楽に演奏できたり。今はイヤモニを使っていますけど、イヤモニはもっとシビア。耳に直接音を入れるのでね。演奏していてテンションが上がると、イヤモニの音量も上げたくなってしまうんですけど……本番後に冷静になって聴くと、ビックリするような音だったりしますからね。もともとは耳を守るために開発されたものでもあるのに、イヤモニを使って音量を上げ過ぎることで、逆に耳を壊してしまう……そんな状況だと思うんですよ。それで、難聴の人でも聴こえるスピーカーってどんなものなんだろう、どんな音なんだろうって興味を持ったんです。

──中石さんが代表を務めるユニバーサル・サウンドデザインでは、“人間の聴こえを科学し音響技術で支援する研究開発”に取り組んでおられるそうですが、そういう取り組みを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

中石:EMI時代にスピーカーの開発をしたいと会社に申し出たんです。アーティストさんは心血を注いで音楽を作って、良い音で届けようと必死になっているのに、良いオーディオで聴くのとラジカセでは全然音の印象が違いますよね。ハードによって印象が変わってしまうというのは、もったいないなと思ったんです。それで音の“出口”の研究をさせてほしいと。そんな中で難聴の人でも聴こえやすくなるスピーカーに出会いました。難聴の人でも聴こえやすくなる音の存在を知り、“そんなことがあるのか!”と驚きました。同時に、父と祖母が難聴だったこともあって、すごく興味を持ちました。それで、EMIを離れてNPOを設立し自分で研究を始めたんです。

──難聴の方でも聴こえるほどのクリアな音を求めて作られたものがユニバーサル・サウンドデザインから発売しているスピーカーのcomuoonだというわけですね。

中石:そうです。よく“難聴者向けの音を出すスピーカーなんでしょう?”と言われるんですが、そういうわけではありません。今話した通り、人間は音量だけで聴こえやすい、聴こえにくいを感じているわけではなく、高精細な音質であれば、聴こえやすくなることが研究を通じてわかってきたんです。“ハイディフィニッション” high definitionということですね。高精細な音であれば、人間の聴感は反応しやすいようにできているんですね。

TOSHI:comuoonは実家で母親が使っているんですけど、マジックみたいですよ。テレビを観ながら食事をすると、テレビの音量が大き過ぎて、話をするのが大変だったんです。「そこの醤油を取って!」って叫ぶんだけど、母は「えっ?」っていう感じだったのが、comuoonをテレビの前に置くと、これまでは実家のテレビで音量が“42”だったのが、“27”くらいで聴こえるんですよ。

ライヴ中にイヤモニを外すとびっくりする(笑)。
それだけ耳への負担は大きい──TOSHI NAGAI

──TOSHIさんは日頃、耳を守るために心がけていることはありますか?

TOSHI:イヤフォンで大きな音を聴くことは避けることくらいかな。ライヴの本番で使っているイヤモニもすごく平和な環境になっています(笑)。演奏するときに自分のドラムの音量自体を下げるわけにはいきませんよね。だから自分のドラムの音も遮断できるくらい、密閉性の高いイヤモニを作りました。観客の声も返してもらっているので、臨場感もあります。クリックの音量もできるだけ下げるようにしていますし、それに合わせて他の音も下げるようにしていますよ。クリックも1つの楽器として聴くという感じですね。イヤモニは、電車の中でCDを聴いているくらいの感覚。外すと周囲でものすごい音が鳴っていて逆にびっくりします(笑)。イヤモニを使っていなかった時代は、その音に負けないような音量でモニターを返していたわけだから、耳への負担は大きいですよね。

中石:耳は消耗品だと思うんです。野球選手の肘と一緒で、メンテナンスをしないと悪くなります。騒音下で長時間過ごせば、やはり良くありません。そのダメージをいかに抑えるかは考えた方がいいでしょう。TOSHIさんのイヤモニのようにしっかり密閉して、外音を入れないようにして適正な音量でモニターするといったことも、耳を守ることになると思います。

TOSHI:ただ、最初に言ったように、イヤモニは音量を上げ過ぎると逆効果なんですよ。

中石:ステージ上は100dB以上にはなっているんですけど、その数値って数十分で耳にダメージを与えるくらいの状況なんですよ。イヤモニに関しては、TOSHIさんとも話をするんですけど、まだまだ研究の余地があると思いますね。一緒に研究しましょうという話をしているところなんです。

TOSHI:僕はミュージシャンという立場で音のことを理解しているつもりなんですけど、中石さんは難聴の研究もされていて“実は音は脳で聴くんです”とか、話をしていると驚くことや勉強になることが多いんですよ。

中石:耳には内耳というものがあり、その中に有毛細胞が16,000個ほどあるんですけど、それが振動を感知すると傾いて電気を発生させ脳に伝達するんですね。人間はその段階で、音を電気信号に変え脳で音を集約して感じているんですよ。comuoonと、他のスピーカーを比べてみると、同じ音の大きさでも脳の反応に差が出ることが広島大学宇宙再生医療センターの研究でわかってきました。つまりそれは有毛細胞が刺激されて音が脳へと伝わったときに、音の大きさだけで感知しているのではなく、クリアさにより脳へ伝わる電位が変わり大きく感じていると考えられるんです。人間の聴覚は大きな音だから大きいと感じているわけでなくて、クリアな音であれば、小さな音量でも大きく感じることができるんです。

──ドラマーはシンバルなどを大音量で打ち鳴らすために聴力が低下するなどと言われますが、TOSHIさんはどうお考えですか?

TOSHI:ドラムの音という部分では、自分でドラムを叩くときは、耳が勝手にリミッターをかけてくれるらしいんです。逆に突然、大きな音にさらされるステージ上のメンバーの方が耳にダメージがあるみたい。

中石:例えば、ガラスが割れたとして、それを見ていたときと、目を閉じて聴いたときでは、音量の感じ方が違うんですよ。見ていれば、大きな音が鳴るぞと予測できるので、それに反応して、鼓膜の耳小骨に付随している筋肉を緊張させて音を小さく感じさせることもできるんです。ドラマーの方は、自分で鳴らす音や大きさを理解しているので、大きな音を出す場合には事前に防衛本能が働くんでしょうね。一方、ステージ上のメンバーは、突然大きな音が鳴る場合などは防御できないので耳への負担が大きくなってしまうかもしれません。

とことんこだわって、買いたくなるものを作りたい──中石真一路

──ユニバーサル・サウンドデザインの“クリアネスイヤホン”を一緒に開発をすることになったいきさつを教えてください。

中石:comuoonで実現した音を次は、日頃からよく利用しているイヤフォンで実現したいと思ったんです。TOSHIさんに試作品を聴いてもらい、アドバイスをもらったんです。

TOSHI:音に関しては自分も自信がありますから(笑)、“まあ、良い音ですね”なんて言ったんですけど……ずっと愛用していたかなり高価なイヤフォンで同じ音源を聴き比べてみたら、それがメチャクチャ曇って聴こえたんです(笑)。それを買ったときには、量販店ですべてのイヤフォンを試したんですよ。その中で一番良かったものだったんですけどね。それがきっかけで一緒にやらせてもらうことにしたんです。開発している人達に、僕の理想の音を伝えるのは難しかったですね。波形で見るとほぼ同じだったりするんです。「どっちも同じですけど」、「いいえ、違うんです」なんていうやりとりはしましたね。それは自分のこだわりでしかないのかもしれないし、使う人にはわからない部分かもしれないですけど、引き受けた以上、責任を持ちたいじゃないですか。
 それにね、音楽の“音”をたくさん聴いているのはミュージシャンなんです。僕はドラムの音をずっと聴いてきたわけですし、仕事の現場では、ベースもギターもピアノも歌も全部リアルな音で聴いている。それを知っているので、録音されたものを聴けば、どのように加工されたのかもわかります。そういう経験を踏まえて、より生々しい音、リアルな音にしたかったんです。これで行こうという音が決まって、その試作品ができたときにも、量販店に行きましたよ。そこのすべてのイヤフォンと聴き比べました(笑)。でもやっぱり、“クリアネスイヤホン”の方が良い音なんですよ。“勝った!”と思いました(笑)。

中石:デザインとか細かい部分ですよね、時間がかかってしまったのは。

TOSHI:せっかく作るのなら、そういう部分もこだわりたかったんです。でも、音もデザインも、みんながここまでこだわって、しかもお金も時間もかけて作り上げた商品って、そんなにないと思いますよ。

中石:モノづくりってそもそもそういうものだったと思うんです。今はマーケティングが先行しているので“ターゲット層が出せる予算は○×円だから、製品の価格をこのへんで”って感じで決めつけている。みんな買いやすいものを作っているわけです。そうではなくて、とことんこだわって、買いたくなるものを作りたいんです。

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──最後に耳に不安を抱えているミュージシャンにアドバイスをお願いします。

TOSHI:まずは聴力に対する意識を持ってほしいですね。“聴力が落ちたかな”と気にかけている人は、聴こえないからといって、音量を上げるのではなく、耳を守ることを考えてほしい。クリアな音で聴くことがその一助になると思うので、“クリアネスイヤホン”も試してみてほしいですね。それと、今はリハビリで聴力が戻ることがあるそうなんです。だから諦めないでほしいです。

中石:そうなんですよ。ある論文で突発性難聴の方にステロイドを使用する場合とステロイドを使用しつつ音楽をヘッドフォンで聴いた場合、ヘッドフォンで音楽を聴いた方が、聴力改善効果があったという報告があります。人間は諦めてしまうと、それはもういらないものだと身体が判断してしまうんです。そうなってしまうと良くなるものも良くならない。“聴こえたい”という思いがあれば全然結果が違ってくると思うんですよ。
 僕は今、宇宙再生医療センターの研究員として“再生医療による聴力の再生の研究”に着手したいと考えています。その成果が出れば、また状況が変わると思いますし。“耳が聴こえづらい”と感じるというのは、すでにかなり聴力が低下してしまっている状況なんです。それに徐々に悪くなっていくことも多いので、今は問題を感じていなくても、定期的に耳鼻咽喉科で検診を受けることもお薦めしますね。これはすべての病気に言えることですが、今、自分がどういう状態にあるのかを把握しないと、対策が立てられませんから。日常的には耳を酷使しないことが大切だと思います。
 それから、耳はすごく繊細な器官なので、身体の不調が耳に出ることがあるんです。風邪をひいたときに聴こえ方が変に感じることってないですか? 生活習慣を正すとか、ストレスに気をつけるとか、そういうことも大切ではないでしょうか。突発性難聴の原因は、ストレスだったり寝不足が続いたりといったことが多いと聞きます。理想を言えば、たまに“静寂”を楽しむことが良いんですけど。特に東京などは、電車の走行音や雑踏など、常にノイズで溢れています。そういうところを離れて田舎の静かな場所で、風の音や虫の音に耳を澄ます……静けさの中からいろいろな音が聴こえてくるはずです。そうやって耳を研ぎ澄ます時間が作れれば、耳を休めることにもつながると思います、都会で静寂を探すのは至難の技でもありますよね(笑)。
 なので、ミュージシャンに薦めたいのは耳に違和感を感じたらすぐに耳鼻咽喉科に行くことと、できるだけ大音量を聞いた後は耳を休める。あとはクリアなイヤフォンで音を聴くことですね(笑)。騒音の中で、きちんと音を聴こうとすると、どうしても音量を上げてしまいがちですが、今まで話してきたように、クリアな音ならば音量を上げなくても聴こえますから。それが結果的に耳を守ることにもつながると思います。

TOSHI:音量を下げるのが耳には一番優しいと思うんですけど、そのためにはクリアな音を追求した方がいいですよね。もちろん、例えばクラブで小さな音で踊れと言っても、踊れないと思うので……音量や音圧が人間を高揚させる部分はありますから。ただ、過剰にやり過ぎないというか、大音量の環境に身を置き過ぎない方が良いとは思いますね。

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製品情報

プロフィール

TOSHI NAGAI(永井利光)
1964年、宮崎県に生まれる。6歳の頃、兄の影響でドラムに興味を持ち、叩き始める。小学校では鼓笛隊、中学、高校ではブラス・バンドでドラムを担当。高校卒業後18歳で上京。1983年に武田鉄矢のバック・ドラマーとして19歳でプロ・デビュー。さまざまなアーティストのサポート・ドラマーとして活躍中(氷室京介、GLAY、など)。2014年にプロ・ドラマー30周年を迎え、現在もライヴ/レコーディングはもちろん、ドラム合宿、ドラム・クリニックなど後進の指導も精力的に行っている。

中石真一路(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社代表)
熊本YMCA専門学校建築科卒業後、技術営業施工管理に従事。その後デジタルハリウッドに入学。卒業後は12年間にわたりwebディレクターおよび、プロジェクトマネージャーとして大手webサイトなどの市場調査、サービス開発、有料サイト立ち上げに従事。携わったwebサイトは、200を超える。携帯電話のカメラにQRコード読み取り機能を導入し、雑誌からのWEBアクセスの普及に貢献した実績を持つ。前職のEMIミュージック・ジャパンおよび、NPO法人日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会にて約3年にわたる研究の末、「スピーカーシステムによる聴覚障害者の情報アクセシビリティ」という新しい分野を確立する。2012年4月実の父と共にユニバーサル・サウンドデザイン株式会社を設立。

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