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  • DEEPER’S VIEW 〜経験と考察〜 第2回

Treble Booster〜ロック・ギター・サウンドの礎を知る

DALLAS RANGEMASTER / PeteCORNISH TB-83 / BSM RM

古今東西の貴重な機材やそのリアルなサウンド、機材の使用法、サウンド・メイクのコツなどを動画とテキストでご紹介していくDEEPER’S VEIW〜経験と考察。第2回となる今回は「Treble Booster / トレブル・ブースター」に注目してみます。エフェクターが好きな皆さんはもちろん、エレキ・ギター・プレイヤーであればトレブル・ブースターという単語を一度は耳にしたことがあると思います。「トレブル・ブースター⋯⋯高域をブーストするんでしょ? 僕は太い音が出したいから興味ないなぁ」。おやまぁ、残念ですね。そんな貴方は、本当に太いギターの音をご存じないのかも? この動画でぜひトレブル・ブースターの威力を確かめてみてください。

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Treble Booster〜トレブル・ブースター
創世記のロック・ギター・サウンドを支えた重要なエフェクト

 エレクトリック・ギター・サウンドを極めたいギタリストの皆さんであれば、音楽のジャンルを問わずに聴いてほしい音楽があります。いわゆる「ロック創世記」の音楽、特にブリティッシュ・ロック・ミュージックと、その音です。70年代に確立された「音楽におけるギター・サウンドの定位」を知る上でも重要です。有名無名を問わず、後世に影響を与える事になる素晴らしいギタリスト達が登場した時代のサウンドは、ブルース・ギタリストからブラック・メタル・ギタリストまで、幅広い音楽ジャンルのプレーヤーに未だに影響を与えています。

 その時代のギター・サウンドの特徴は圧倒的に「キレ」が良く、「音抜け」も優れたものです。ラウドでありながらベース・ラインと程良く分離し、十分にドライブしています。昨今のハイゲイン・アンプで得られるディストーション・サウンドはどちらかと言えば信号を過度に増幅させたものですが、もっとナチュラルに、それでいて深く歪んでいます。もっとも、当時のアンプでも十分にドライブは得られますが、ソフトなオーバードライブからハード・クランチ程度。しかも、ハード・クランチまでゲインを稼いでしまうと音が飽和し、上述したようなキレの良い音抜け感は得られなくなります。例えばロック・バンドの始祖とも言えるクリームのアンサンブル。ジンジャー・ベイカーのドラムを軸に、ベースのトーンを絞り込みつつ、アンプでのナチュラル・ドライブでボトムを支えるジャック・ブルース。そのある意味「最強」のリズム体の上で歌うように奏でられるクラプトンのギター・サウンドは、その後のロックのお手本となりました。そのクラプトンのサウンドですが、強力なミッドレンジのパワーを持っています。クラプトンはクリーム以前、ジョン・メイオール&ブルースブレーカーズとの共演時代から、かなり「やんちゃ」なサウンドでギターをプレイしていました。VOX AC30とギブソン・レス・ポール・スタンダードを操り、リズム・ギター・プレイではボーカルをサポートしながら、いざソロ・プレイになると他の楽器隊を切り裂くようなギター・トーンを浴びせてきます。その音こそが今回ご紹介するトレブル・ブースターによるサウンドなのです。

DALLAS RANGEMASTER + VOX AC30
トレブル・ブースターを活かす黄金の組み合わせ

 VOX AC30はブリティッシュを代表する歴史あるギター・アンプです。未だに多くのミュージシャンが「レコーディングにはAC30を使う」と公言しているように、そのサウンドは「ロックの殿堂入り」しても良いのでは? というほど、多くのレコードで聴くことができます。そのAC30に必ずと言っていいほど組み合わせられていたのが、トレブル・ブースターです。もっとも有名なモデルはDALLAS RANGEMASTERでしょう(動画 2:00〜)。RANGEMASTERは非常にシンプルな回路構成でありながら、十分にVOX AC30をドライブさせるブースト量を備えていました。トレブル・ブーストと言っても実際にはミッドレンジ・ブースト+ロー・カットをするためのユニット。これにより程良くドライブしたAC30にロー・カットされた信号をゲイン・プッシュ(ブースト)することで、飽和した低域をブーストすることなくギター・レンジに最適なミッドレンジのドライブを得る事に成功しています。このセットアップの利点は常に全開バリバリで待機状態のAC30を、さらにセンシティブにさせておくことにあります。それゆえにギター側のボリューム・コントロールを下げれば通常のAC30より、さらにクリーンなトーンを引き出せました。そしてボリュームをフルにするとAC30単体ではとても得られないようなロング・トーンや深いドライブを生み出すのです。のちにAC30にはTREBLE BOOST回路を内蔵したTOP BOOSTモデルが登場。あらかじめトレブル・ブースターを組み込んだような設計をアンプに施しています。このサウンドも素晴らしいものですが、外部からトレブル・ブースターでプッシュされるサウンドよりもスムーズで上品。素晴らしい音色ですがやんちゃさが足りません。

DALLAS RANGEMASTER OC44(1965 Model)

VOX AC30 Hand-Wired

 エリック・クラプトンの音は多くのギタリストを刺激し、このAC30+トレブル・ブースターの組みわせは「黄金のセットアップ」として認知されていきます。ほぼ時を同じくしてEC的セットアップ(ギブソンES-335+トレブル・ブースター……RANGEMASTERではなくHORNBY SKEWES製トレブル・ブースター)+AC30でプレイした「ハード・ロックの始祖」リッチー・ブラックモア、同じくSGとAC30、トレブル・ブースターを組みわせた「メタル・ゴッド」トニー・アイオミ。そしてロリー・ギャラガーは「ハード・ロック+ブルース・サウンド」をストラト+AC30+トレブル・ブースターで。そのサウンドに衝撃を受けたブライアン・メイは自作のギター“レッド・スペシャル”とAC30、そしてトレブル・ブースターで唯一無二のギター・サウンドを生み出しました。いかがですか? これらのギタリストがいかに音楽史に影響を与えてきたことか! ね? ブルース・ギタリストからメタルまで幅広いそして「全ての始祖」とも言えるエリック・クラプトンという人は、やっぱりすごい人ですね。

現代のトレブル・ブースター

 今回の動画ではこの歴史的ロック・サウンドに貢献したAC30とトレブル・ブースターのサウンドにフォーカスし、使用法やサウンド・メイクのノウハウをご紹介しています。今まで「トレブル・ブースターを知らなかった」という皆さんはもちろん「使ったことはあるけど好みの音ではなかった」という方も、今一度トレブル・ブースターに注目してみてほしいと思います。

 「オリジナルの音」を聴いていただくためRANGEMASTERを取り上げましたが、さすがに入手困難なビンテージ機材です。そこで現行モデルも2機種ピックアップしてみました。ブライアン・メイが83年頃に使用していたトレブル・ブースターをベースにしたPeteCORNISH TB-83 EXTRA(動画 7:22〜)、トニー・アイオミのサウンドを狙ったBSM RM Metal(動画 10:23〜)です。ブースターというエフェクターはとてもシンプルですが、そこから引き出せるサウンドは組み合わせるアンプやプレイヤー次第で無限に広がります。パッと効果がわかりやすいエフェクターも素敵ですが、こう言った本当の意味でのEFFECTを使いこなす事で、さらにギターのトーンは磨きあげられるという事を知っていただければと思います。また、トレブル・ブースターはロック・ギター・サウンドには本当に相性の良いものです。デジマートでトレブル・ブースターを検索してみると、色々なモデルがヒットします。各社の説明とこの動画をチェックして、ぜひ「古くて新しい」サウンドを手に入れてください。

PeteCORNISH TB-83 EXTRA

BSM RM Metal

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DALLAS / RANGEMASTER

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プロフィール

村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。

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