　ギタリストなら、誰でも一度はアンプ・ヘッドを入手したいと考えた経験があると思う。しかし、それなりの出費を覚悟しなければならない上に、徒歩や電車で移動する方には、持ち運びにやや難がある。さらに、自宅で音を出すにも難しい。しかし昨今、そんなギタリスト達のニーズを叶えるべく、満を持して登場したのが、今回紹介していく小型アンプ・ヘッドだ。
　数年前、Orange社から「tiny terror」なる小型アンプ・ヘッドが登場し、好評を博すやいなや、各社挙って小型アンプ・ヘッドを市場に送り出し、今では殆どの主要メーカーからこのタイプが登場している。持ち運びに便利で、且つ多彩な音色を堪能できるコンパクトなアンプ・シミュレーターもよいが、やはりリアルなチューブ・サウンドが欲しいというユーザーも少なくないはず。
　高価で重いという理由から、これまでなかなかアンプ・ヘッドに手を出せなかったユーザーにとって、これら昨今のムーブメントは大歓迎だろう。これを機に、独自のサウンドを探してみてはいかがだろうか？

小型アンプ・ヘッド・デモ演奏 by 末原名人パート1

　それでは各機種のデモ演奏を聴いていただこう。パート1、パート2で各5機種ずつ、動画の下方に紹介しているアンプを試奏している。パート1は、ENGL Gig Master 15 Head（E315）、HAYDEN MINI MOFO 15 HEAD、HUGHES&KETTNER TubeMeister 18 Head、IBANEZ TSA 15H、KEN JORDIN Tiny Valve Box の5機種。

ENGL Gig Master 15 Head（E315）

　同社アンプの魅力といえば、何と言っても重厚な歪みに他ならない。小型として登場したことにより、ややパワーは落ちているのかと思いきや、艶やか且つ伸びのあるサウンドは、従来品との差を感じさせない。さらに本機は15W/5W/1W/0Wと、出力を任意でコントロールすることが可能。つまり、ライブやリハーサルのみならず、自宅でのレコーディングにも適した仕様になっているあたりが嬉しい。

[SPECIFICATION]
●出力：15／5／1W ●真空管：ECC83（12AX7）×1（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：2 ●入出力端子：インプット、フットスイッチ、FXループ（センド／リターン）、バランス・ライン・アウト、パワー・アンプ・アウト×3 ●外形寸法：420（W）×200（H）×230（D）mm ●重量：8.4kg ●価格：¥87,150
●問い合わせ：iMi（イケベミュージックインターナショナル）　http://www.e-imi.jp/

HAYDEN MINI MOFO 15 HEAD

　注目すべきは、二種の入力端子部。US/UKと名付けられたそれぞれのインプットは、その名に相応しいサウンド設定がなされている。USは重くて太い、アメリカン・ロック的サウンドで、UKは非常に明るくライトで、且つシャープな音色を堪能できる。また、本体の底面にあるスティルス・スイッチは、出力を15Wから2Wに落とすことが可能。外でも自宅でも、大活躍してくれる一台になることは必至だ。

[SPECIFICATION]
●出力：15／2 ●真空管：12AX7×3（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：1 ●入出力端子：USインプット、UKインプット、FX、スピーカーアウト×2（8Ω、16Ω）、フットスイッチ（ブースト）●外形寸法：370（W）×227（D）×182（H）mm ●重量：9.5kg ●価格：¥63,000
●問い合わせ：神田商会　http://www.kandashokai.co.jp/

HUGHES & KETTNER TubeMeister 18 Head

　美しいLEDもそのままに、サウンド的にも従来機に負けない多彩なキャラクターを持つ本機は、2チャンネル仕様のチューブ・アンプ。「LEAD」と「CLEAN」それぞれのチャンネルからは、ローミッドに重心を置いたヘビーな歪みから、透明感溢れる美しいクリーン・トーンまで、同社ファンを裏切らない出来栄え。さらに本機は、重量が5㎏とかなり軽い。専用ケースも付いてくるので、持ち運びにも非常に便利だ。

[SPECIFICATION]
●出力：18／5／1／0W ●真空管：12AX7×2（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：2 ●入出力端子：インプット、FXループ（センド／リターン）、Red Box Out、フットスイッチ、スピーカーアウト ●外形寸法：356（W）×156（H）×150（D）mm ●重量：5kg ●価格：¥78,750
●問い合わせ：パール楽器製造　http://www.pearlgakki.com/

IBANEZ TSA 15H

　白を基調とした、オールド風の美しいデザインが目を引く本機。しかし、驚愕すべきは見た目だけにのみならず、アンプ本体に同社が誇るオーバードライブの名機「チューブスクリーマー」を組み込んだことによる、サウンド面の個性もまた然りであろう。さらに、ブースト・スイッチをONにすることで、6dBのゲインアップが可能。これにより、さらに明確なチューブ・サウンドを実現している。

[SPECIFICATION]
●出力：15／5W ●真空管：12AX7×2（プリ管）、6V6GT×2（パワー管）●チャンネル数：2 ●入出力端子：インプット、フットスイッチ、エフェクトループ（センド／リターン）、スピーカーアウト（4Ω×2、8Ω×2、16Ω）●外形寸法：368（W）×200（D）×172（H）mm ●重量：7.6kg ●価格：¥37,800
●問い合わせ：星野楽器販売　http://www.ibanez.com/

KEN JORDIN Tiny Valve Box

　コスト・パフォーマンスの高さに定評のあるKEN JORDINから、10Wの小型チューブ・アンプ・ヘッドが登場。構成はボリュームとゲイン、さらには3バンドのEQと、非常にシンプルな印象を受けるが、パワー・アンプ部に6L6WGCというコンパクトな真空管を搭載したことにより、非常にパワフルなサウンドを得ることができる。小型で軽くて低価格、しかも真空管を使用した本格チューブ・サウンドを堪能できるあたり、本機最大の魅力と言えよう。

[SPECIFICATION]
●出力：10W ●真空管：12AX7×2（プリ管）、6L6WGC×1（パワー管）●チャンネル数：1 ●入出力端子：インプット、スピーカーアウト（8Ω）●外形寸法：270（W）×180（D）×150（H）mm ●重量：5kg ●価格：¥26,040
●問い合わせ：日本エレクトロ・ハーモニックス　http://www.electroharmonix.co.jp/

小型アンプ・ヘッド・デモ演奏 by 末原名人パート2

パート2は、KOCH Studiotone Head ST20-H、MARSHALL Marshall Handwired 2061X、MESA BOOGIE TransAtlantic TA-15、ORANGE Dark Terror、VOX Night Train の5機種。

KOCH Studiotone Head ST20-H

　オランダの人気メーカー、コッホから登場したのは、3チャンネル仕様の20Wチューブ・アンプ。一見、オーソドックスな作りに思われるが、本機のポイントは、前機Koch LB120IIにも搭載され、好評だったレコーディング・アウトに他ならない。スピーカー・シミュレートのタイプ、さらにはマイクの向きを2タイプから選択する事ができるという優れモノ。宅録でもライブでも、シチュエーションを選ばず使える一台である。

[SPECIFICATION]
●出力：20W ●真空管：12AX7×3（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：3 ●入出力端子：エフェクト・ループ、レコーディング・アウト、ラインアウト、ヘッドフォーン・アウト、スピーカー・アウト ●外形寸法：440（W）×230（D）×245（H）mm ●重量：10kg ●価格：¥168,000
●問い合わせ：オカダインターナショナル　http://www.okada-web.com/

MARSHALL Marshall Handwired 2061X

　1968年から1973年迄の、僅か数年間のみ製造されていた、幻のマーシャルと呼ばれる2061。本機は、当時の製法を用いて忠実にリイシューされているというからファンには涎垂モノだろう。無論、サウンド面でも期待を裏切らない出来になっており、プリ部にはEC83を2本、パワー部にはEL84を2本の真空管をそれぞれに搭載。さらに、整流部にシリコン・ダイオード装置を搭載したことにより、理想的なビンテージ・トーンを得ることができる。

[SPECIFICATION]
●出力：20W ●真空管：12AX7×3（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：2 ●入出力端子：インプット×4、スピーカーアウト×2 ●外形寸法：510（W）×208（H）×206（D）mm ●重量：10kg ●価格：¥257,250
●問い合わせ：ヤマハミュージックトレーディング　http://www.marshallamps.jp/

MESA BOOGIE TransAtlantic TA-15

　人気メーカーMESA BOOGIEから登場した本機は、TransAtlantic（大西洋横断）の名に相応しく、3モードあるヴォイシング・スイッチを調節する事で、ブリティッシュ・サウンドからアメリカン・サウンドまで、自在に作り出すことができる。また、メタリックで近代的なデザインはそのままに、ビンテージ風のノブ・スイッチを搭載したことにより、見た面のインパクトも絶大だ。それに加え、重量5.5㎏という軽さゆえ、非常に持ち運びしやすい点も見逃せない。

[SPECIFICATION]
●出力：25／15／5W ●真空管：12AX7×4（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：2 ●入出力端子：インプット、フットスイッチ、スピーカーアウト×2 ●外形寸法：314.3（W）×171.5（D）×149.2（H）mm ●重量：5.5kg ●価格：オープン・プライス（市場実勢価格：¥149,800前後）
●問い合わせ：キョーリツ・コーポレーション　http://mesaboogie.jp/

ORANGE Dark Terror

　前機「Tiny Terror」は、昨今の小型アンプ・ヘッド人気の火付け役として、大好評を博した。そして今回登場したのは、真っ白なボディの前機とは対照的に、真っ黒いボディの「Dark Terror」。見た目の印象通り、現代風メタル・サウンドを出すにはもってこいの仕様。その秘訣は、前機のプリ部に搭載されていた真空管、12AX7を今回は3本搭載していることから、非常に強力な歪みを出すことが可能となっている。また、前機同様、今回も出力を15Wか7Wに切り替えることができる。

[SPECIFICATION]
●出力：15／7W ●真空管：12AX7（ECC83）×3、12AT7（ECC81）×1（プリ管）、6BQ5（EL84）×2（パワー管）●チャンネル数：1 ●入出力端子：インプット、エフェクトループ（センド／リターン）、スピーカーアウト8Ω×2、16Ω ●外形寸法：300（W）×170（H）×140（D）mm ●重量：7kg ●価格：¥73,500
●問い合わせ：モリダイラ楽器　http://www.moridaira.com/

VOX Night Train

　老舗VOXからの登場は、鏡面仕上げの堅牢なボディをまとった一台。プリ部に12AXを2本、パワー部にEL84を2本搭載と、小型にして王道のサウンドを楽しめるあたり、見逃せない。さらに追記すると、パワー部は15W(5極管モード)と7.5W(3極管モード)に切り替えが可能なアウトプット・モードを搭載している。また、本機の小型版として「Lil’ Night Train」という2W出力の超小型アンプ・ヘッドも登場しているので、こちらも注目したいところだ。

[SPECIFICATION]
●出力：15／7.5W ●真空管：12AX7×2（プリ管）、EL84×2（パワー管）●チャンネル数：1 ●入出力端子：インプット、スピーカーアウト16Ω、8Ω ●外形寸法：308（W）×160（D）×177（H）mm ●重量：7.7kg ●価格：¥62,790
●問い合わせ：コルグ／KIDお客様相談窓口　http://www.voxamps.jp/

[Profile]
末原康志（すえはら・やすし）●末原名人としてお馴染みのギタリスト。鹿児島県出身。ギタリストとしてだけでなく、サウンド・プロデュース、アレンジャーとしても活躍。CHEMISTRY、石井竜也、河村隆一、中島みゆき、尾崎亜美など数多くのアーティストをサポート。ソロ・アルバムも3枚リリースしている。小社刊の『エレクトリック・ギターのしらべ』シリーズなど教則作品も数多く執筆している。
◎http://sueharayasushi.com/