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Gibson Les Paul(ギブソン/レス・ポール)

Gibson Les Paul(ギブソン・レス・ポール)の歴史と変遷(記事一覧はこちら)

レス・ポール誕生の背景と歴史

1952年、ギブソン初のソリッド・ギターが誕生

Gibson Les Paul(ギブソン/レス・ポール)1952年型

1952年に誕生した“初代”Gibson Les Paul(ギブソン・レス・ポール)。ここから伝説が始まる。

 ロック・ギターのアイコンである、レス・ポール。そのオリジナル・モデルがミシガン州カラマズーで産声を上げたのは、1952年のこと。ギブソン初のソリッド・ギターが誕生した瞬間だ。1890年代からマンドリンやアコースティック・ギターを制作してきた歴史を持つギブソン社がソリッド・ギターの制作に着手した背景には、当時、急速に市場に受け入れつつあったフェンダーのブロードキャスター/テレキャスターの存在があった。

 当時、カリフォルニアの新参メーカーにすぎなかったフェンダーのソリッド・エレクトリックが人気を獲得しているという噂は、すでに最大級の評価と製造規模を誇っていたギブソンへも伝わっていた。その頃のエレクトリック・ギターはフルアコースティックのアーチトップ・タイプが主流であり、ソリッド・ギターはいわばイロモノ。量産に値するだけのニーズはないと見られていたため、ビグスビー社がカスタムで生産していた程度の状況下でフェンダーが量産を始め、人気を博しているという。ギブソンの社長を務めていた故テッド・マッカーティを始めとする首脳陣は、板キレのようなボディ、ネジ止めによって取り付けられたネックという伝統的なギター構造を無視したフェンダー・ギターにあきれながらもソリッド・エレクトリックという新しい市場への参入を決意する。

約1年あまりの期間をかけてソリッド・ギターを開発

 テッド、そしてギブソン工場のウォルター・フラーと数名のエンジニアで構成された開発チームは、約1年あまりの期間をかけてソリッド・ギターを開発。テッド・マッカーティの生前のインタビューによれば、「最初はメイプルで試作したが、サステインが長すぎるギターができてしまった。これではまずいということで、マホガニーにメイプルのトップを付けることを思い付いた」という。

 現代の音楽シーンの中で、エレクトリック・ギターにはより豊かなサステインが求められるが、当時のジャズを中心としたシーンの中では長すぎるサステインは邪魔なものだったのかもしれない。また、恐らく重量も相当なものだっただろう。オール・メイプルのレス・ポールのサウンドを聴いてみたいとも思うが、もしレス・ポールがオール・メイプルのまま作られていたら、ロックの歴史は変わっていたはずだ(メイプルとマホガニーの独自の積層構造を開発した背景についてテッド・マッカーティが “豊かなサステインを求めてマホガニーの上にメイプルをプライした”と語ったという説もあるが、出自については不明)。

強烈なフェンダーへの対抗意識から生まれたボディ・トップの優美なカーブ。ピックアップは、「P-90」を採用

強烈なフェンダーへの対抗意識から、ボディ・トップには豊かなアーチが削り出された。

強烈なフェンダーへの対抗意識から、ボディ・トップには豊かなアーチが削り出された。

ピックアップはウォルター・フラーによって開発されたP-90だった。

ピックアップはウォルター・フラーによって開発されたP-90。

 そして、ギブソンが新型ソリッド・ギターのボディ・トップに優美なカーブを付けたのは、テッド曰く「レオ・フェンダーがカービング・マシンを持っていなかったから」。レス・ポールの雛型は、強烈なフェンダーへの対抗意識から生まれていった。結果として、ボディ・トップには豊かなアーチが削り出され、ギブソン独自の高級感を生み出すとともに、トップ材の質量を調整する役目も担っている。この時生まれた50年代のレス・ポールの優美なアーチは、他社のコピー・モデルはもちろん、ギブソンの後年のリイシュー・モデルでも再現しきれない独特なカーブを描いている。その美しさが、ビンテージ・レス・ポールの人気の一端を担っていることは間違いないだろう。

 最終的に作られたプロトタイプは、それまでのアーチトップ・ギターと同様のオリジナル・ヘッドストック形状を備え、指板はブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)、ネックはマホガニーという仕様となった。ボディは、アーチトップ・ギターをベースとしたシングル・カッタウェイ・シェイプで、12 3/4インチ幅へと小型化。ボディの材は前述の通り、1ピースのマホガニーを主体としながらトップ部分に1インチ厚ほどのメイプルをプライした積層構造となっていた。

 ピックアップはウォルター・フラーによって開発されたP-90(レス・ポール誕生以前からギブソンではよく使われていたピックアップだが、ソリッド・ギター用に合わせて変更したモデル)を採用、ふたつのピックアップ及びそれぞれに用意されたボリューム/トーン・コントロールによってサウンド切り替えが可能となる最新仕様が盛り込まれた。

ギタリストであり発明家でもあるレス・ポール氏との関係

LES PAUL ONLINE

レス・ポール氏のオフィシャル・ウェブサイト(英語版) LES PAUL ONLINE http://www.lespaulonline.com/

 この最終的なプロトタイプのギターに、ギタリストであるレス・ポール氏の名前が付けられ、市場に送り込まれることになる。その経緯は様々な文献に記されているが、関係者の多くが故人であること、文献の取材が実施された時点で既に関係者が高齢だったこともあって意見の食い違い等も多く見られ、真相は闇の中である。が、次のような経緯があったのは事実のようだ。

 ギタリストであり発明家でもあるレス・ポール氏は、早くからソリッド・ギターの有用性に気づいており、1940年代前半には自作のソリッド・ギターを何本か、ギブソン社に持ち込んでいたようだ。その時の反応は、「なんてヘンなギターだ」、「ホウキの柄にピックアップを付けただけ」等、散々だったとか。

 ところがその後フェンダー社のソリッド・ギターに触発されたギブソンが、レス・ポール氏を呼び寄せてアイデアを交換し合いながら、当時トップ・ギタリストだったレス・ポール氏の名前を使用し、自社ソリッド・ギターの普及を図ったということらしい。何しろギブソン社と契約直前のレス・ポール氏は、妻のメリー氏と組んで、当時の年収100万ドル以上(!!!)をプレイによって得ていたという超メジャーなアーティストだったのだから、既に大メーカーだったギブソンがその名前を使いたいと考えるのも当然であり、ギターとしてのレス・ポールは一流同士のコラボレーションによる製品だといえる。

トーンを含めた各細部のバランス調整、木製ブリッジに代わる金属製の“トラピーズ・ブリッジ”の搭載

レス・ポール氏が開発した金属製の“トラピーズ・ブリッジ”。

レス・ポール氏が開発した金属製の“トラピーズ・ブリッジ”。

 レス・ポール氏からは、「小型のボディ」、「ミディアム・スケール」、「ゴールドのボディ・カラー」など多くの注文が出されたようだが、レス・ポール氏の大きな功績は、トーンを含めた各細部のバランス調整、そしてプロトタイプに取り付けられていた木製ブリッジに代わる、自身が開発した金属製の“トラピーズ・ブリッジ”の提供だろう。このブリッジの概念は、スライド・バーのような形状の質量の高いスティール材をブリッジ/テイルピースとして使用することで、ロング・サステインを生み出そうというもの。これはのちにレオ・フェンダーがストラトキャスターに組み込んだイナーシャ・ブロックとも同じような発想といえる。

 ただし、このトラピーズ・テールピースに関しては後日談があり、後年レス・ポール氏は「最初のレス・ポール・モデルは失敗作」と切り捨てることになる。52年型に採用されたトラピーズ・ブリッジ/テイルピースは、弦をブリッジ前方(ネック側)から差し込んだのち、弦がブリッジ下側を回るようにして張らなければならない仕様だ。その状態で、弦高や、弦とピックアップの距離が適正になるように、ボディ/ネックのセット角度が“1度”になっているからなのだが、弦がブリッジの下側を周り込む状態では、ブリッジ・ミュートができない。これは特に、近代のハード・ロックやヘヴィ・メタル系のプレイヤーにとっては致命的である。

 弦がブリッジの上側を回るように張ることができるボディ/ネックのセット角度を持っていれば問題は生じず、実際、レス・ポール氏本人が所有していた52年型ではそのように弦が張られていたという。しかし、市販されたモデルはそうではなかった。

 この件についてレス・ポール氏は、“彼ら(ギブソン)がネックのセット角度を間違えて製造した”と語っている。真相は不明だが、オリジナルの52年型レス・ポールは、ブリッジの不具合をカバーして余りあるサウンドの良さ、見た目の美しさ、何よりフェンダーの独占市場に近かったソリッド・ギター業界に新しい風を吹き込み、後年のロックの歴史を変えていったこと等を考慮すると、とても失敗作などと切り捨てられない、偉大なギターだといえる。

 また、現在ではボディ/ネックに手を加えずに弦を上通しにできるリプレイス・パーツも発売されており、現代でも実用に耐えるビンテージ・ギターの名機として、ビンテージ市場でも高い人気を誇っている。この’52年型オリジナル・レス・ポールは、1953年にはストップ・バー・ブリッジ/テイルピースが開発されることで、よりプレイアビリティの高いモデルへと進化することになる。