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Gibson Les Paul(ギブソン/レス・ポール)

Gibson Les Paul(ギブソン・レス・ポール)の歴史と変遷(記事一覧はこちら)

多くのギタリストを魅了するピックアップ「P.A.F.」の歴史と構造

  • Gibson PU-490(P.A.F.)

  • Gibson PU-490(P.A.F.)

  • Gibson PU-490(P.A.F.)

ギブソンのエンジニア、セス・ラバーが目指した小型・軽量で、より実用的なハムバッキング・ピックアップ

 1952年に最初のレス・ポール・モデルが発売された時、そこにはウォルター・フラーが開発したP-90ピックアップがマウントされていた。このシングルコイル・ピックアップは非常に優れた音色を持っていたが、残念ながら若干ノイジ―でもあり、次第に音楽のボリュームが巨大化していった50年代、このことは意外と大きな問題となった。

 そこでギブソンで電気関係のほとんど全てに携わったというエンジニアのセス・ラバーが、ノイズを減らすべく研究を開始するのが1954年のこと。プロトタイプを作ってパテントを申請したり、似たようなものがパテントをとっていないか調べたという。

 すると1936年にすでにハムバッキング・ピックアップのアイデアが申請されており、38年、41年にもそれぞれ申請されていることがわかった。しかしそれらはとても重かったり、ギターにも数百ボルトの電流が流れるという危険なものだったりして実用的でないことがわかった。そこでセス・ラバーが目指したのは小型・軽量で、より実用的なハムバッキング・ピックアップだった。

 セスの回想によれば、開発に約半年ほどを要したという新しいピックアップは、ふたつのボビンを持たせ、それぞれのマグネットによって逆磁界を発生させている。そして各ボビンの巻き終わり同士を結線し、シリーズ(直列)配線にしたものがハムバッキング・ボビンである。ちなみに、各ボビンの上下部分にはスクエア・ウィンドウと呼ばれる四角い穴があけられ、ここからコイルの巻き始めとつながる黒いビニール線が挿入されている。

 その結果、無作為に飛び込んでくる外来ノイズに関してはボビン同士が打ち消し合い、磁界を遮ることで起こるギター信号に関しては、逆向きに結線したふたつのボビンによって増幅されることとなる。

「P.A.F.」の誕生と特徴

 こうして開発が進んだピックアップだが、そこにメーカーの思惑が働く。メーカーとしてはサウンド的に定評のあるP-90に近いものを残したまま、ノイズだけを打ち消したい。また、共通のパーツを使うことができれば、製造コストを削減できる。その結果、P-90と完成したハムバッキング、PU-490の間には多くの共通点が見てとれることとなった。

 まず、AGWの♯42という同じワイヤーを使用していること。そして前者が10,000ターンなのに対し、後者は5,000ターンのボビンがふたつで計10,000ターンとしていること(ただしこれには各4,100~4,200ターンという説もある)。アジャスタブル・ポールピースも共通のパーツ。組み込まれているアルニコ・マグネットも、使われている数こそ違うが同一のものを使用。これだけ共通素材を使って設計されたピックアップだからこそ、構造そのものは違っていても、共通する“ギブソンの匂い”をキープでき、多くのプレイヤーにも受け入れられたのではないだろうか。セス・ラバーは次のように言っている。

 「ハムバッキング・ピックアップはサウンドをクリアに特徴付け、サステインを長く保つことを可能にした。そのうちに、聴き手もこのサウンドに慣れたようだ」

 1958~1963年の間に作られたピックアップの底部裏側には、特許出願中を示す“PATENT APPLIED FOR”と書かれたデカールが貼ってあったことから、初期型のPU-490は“P.A.F.”と呼ばれるようになった。

  • Gibson PU-490(P.A.F.)

  • Gibson PU-490(P.A.F.)

豊かな倍音構成を生み出し、フィードバックにも似た余韻、独自のリバーブ感をもたらす「P.A.F.」

 P.A.F.の特徴をあげてみよう。使用されているマグネットはアルニコⅤと言われているが、コンスタントに入手できる状態ではなかったらしく、アルニコⅡやアルニコⅢが混在している。現在のそれと比較するとマグネット内には多くの不純物が混じっており、磁力は低い。各ボビンには5、000ターンずつコイルが巻かれていると前述したが、厳密にはそれよりもやや多いターン数という説と、“4100~4200”という説がある。1960年以前のギブソンの巻き線機には自動停止装置がついていなかったため、ターン数に誤差が生じることが多く、ハムバッカーの場合2個のボビンを持つため、誤差もより大きなものになりがちだったという。

 ハンド・ワイアリングによって作られるボビンは特にテンションが弱く、不均一にコイル同士が重なることで高音域の減衰を防ぐという副産物もある。それがP.A.Fならではの豊かな倍音構成を生み出し、フィードバックにも似た余韻、独自のリバーブ感をもたらす。

 1959~1960年にかけてのボビンには、アイボリー・カラーのものが無作為に混じっている。そのルックスから“ゼブラ”、“ダブル・ホワイツ”と呼ばれるこれらのピックアップは、P.A.F.の中でもホット気味な傾向が見られることから、特に人気が高いが、開発者のセス・ラバー氏は自身のインタビューではっきりと「カバーの色は関係ない。それよりも、ピックアップ・カバーの方が重要だ」と述べている。ピックアップ・カバーの材質で、高周波の音が全く変わってしまうという。素材はジャーマン・シルバーで、セス・ラバーのハムバッキング・ピックアップは基本的に、このジャーマン・シルバーのカバーを付けることを前提に設計されているという。カバーの素材が変わったり、カバーを外してしまうと高域のレスポンスが変わってしまう。もちろん、それを狙ってカバーを外す人もいたわけだが……。

「P.A.F.」の魅力は、まさにこれにしか出せない表現力豊かなトーン

 P.A.F.の魅力は、なんといってもそのサウンド。もし試奏する機会があれば、現代のハムバッカーに慣れた耳からすると、“意外と太くない”、“低出力”、“かなりトレブリー”だと感じるかもしれない。しかし、いいギターに載せられたP.A.F.を良いチューブ・アンプにつないだ音は、まさにこれにしか出せない表現力豊かなトーンを持っている。コツンとした心地よいアタックと、実音に超高域の倍音が寄りそうように付いてくる。高域がくっきりしているのに、非常にメローなニュアンスを感じる。

 もはやP.A.F.も、P.A.Fを搭載したギターも、入手が非常に困難になってしまった。しかし、そのサウンドは先人達が残した音源から感じ取ることができる。有名なところでは、ブルース・ブレイカ―ズの“ビーノ・アルバム”や、オールマン・ブラザーズ・バンドの『フィルモア・イースト・ライブ』、クリーン・サウンドならタワー・オブ・パワーの『バック・トゥ・オークランド』あたりがお薦めだ。今後P.A.F.を手に入れられるかどうかはともかく、現代のギター・サウンドを判断する際の1つの指標として、それらを知っておくことは決して悪いことではないはずだ。