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世界中のべーシストを惹きつけてやまない60’s フェンダー・ジャズ・ベースの魔力

ビンテージ・ベース特集Vol.1

世界中のべーシストを惹きつけてやまない60’s フェンダー・ジャズ・ベースの魔力

“60’s フェンダー・ジャズ・ベース”の魅力を徹底検証!

 1960年の誕生以来、音楽史に残る名曲の数々をボトムから支え続けてきたフェンダー・ジャズ・ベース。2基のピックアップを搭載することで生まれた独特かつ多彩なトーンはジャズ・ベースの大きな魅力であり、その魅力は色褪せるどころかますます輝きを増している。ここでは、世界中のべーシストを惹きつけてやまないビンテージ・ジャズ・ベース、中でも特に羨望の的である“60’s ジャズ・ベース”にスポットを当て、その魅力を検証する。

  • ジャズ・マスターをベースとしたオフセット・コンター・ボディ、多彩なサウンドを生み出す大きな要因となる2ピックアップなどのアイディアを具現化し、1960年にリリースされたジャズ・ベース。

  • アップライト・ベースとは比較にならないコンパクトなボディ、正確な音程を得られるフレットが打たれたネックなど、革新的な楽器として1951年に発表されたプレシジョン・ベース。世界初の量産型エレクトリック・ベースである。写真は56年モデル。

ジャズ・ベース誕生の背景

 フェンダーは1951年、初の量産型エレクトリック・ベースであるプレシジョン・ベースを発表する。当時主流であったアップライト・ベースに対して、ギター(テレキャスター)をコンバートする形でデザインされた同機は、輪郭がはっきりとしたサウンドと、抱えやすいデザイン、そしてギター同様に打たれたフレットによって誰でも簡単に正確なピッチを得られることから、徐々に普及していく。

 プレシジョン・ベースがマイナー・チェンジを繰り返しながら市場を拡大していく間、フェンダーはギターの分野で更なる成功を収めていく。’54年発表のストラトキャスターはまたたく間に評判を呼び、ギブソンに後れをとっていたジャズの分野でも顧客開拓に乗り出した同社は’58年に当時のギターの最上級機種としてジャズマスターを発表する。それまでのフェンダー製品とは一線を画すオフセット・コンター・ボディ(ボディサイドのくびれが左右非対称のもの)を採用した同機は、回路面でも新機軸を採用。コイルを水平方向に厚く巻いたピックアップと、フロント・ピックアップに対してボリュームとトーンのプリセットを搭載。従来の明るいフェンダー・トーンと、ダークなジャズ・トーンを切り替えられる多彩さが評判となった。

 フェンダーは、このオフセット・コンター・ボディをコンバートし、従来のプレシジョン・ベースよりも多彩なサウンド作りができるベースを市場に投入して、ジャズ・ミュージシャンの市場を開拓しようと考えた。そこで、オフセット・コンター・ボディに2つのピックアップを搭載し、そのサウンドを自由にブレンドできる新しいベースを開発。それこそが’60年に発表されたフェンダー・ベースの上位機種、ジャズ・ベースである。

 実際には60年代におけるジャズ・シーンでは、まだまだアップライト・ベースが主流であった。しかし、ジャズ・ベースはその独自のサウンドと高いプレイヤビリティから、ロック/ポップスの歴史の礎を築いていく。次項では、そのサウンドの秘密について見ていこう。

  • ギターより長い34インチの弦長を収めるため、ボディ後端にマウントされたブリッジ。プレシジョン・ベースと異なり、各弦独立のサドルでブリッジプレートの端から弦を通すスタイルとなっている。

  • 1本の弦に2つのポールピースを対応させたピックアップ。弦のテーパーに合わせてフロントとリアでサイズやポールピースのピッチが変えられている。

  • プレシジョン・ベースのスプリット型ピックアップ。1〜2弦側と3〜4弦側のマグネットの極性を逆にすることで、ハムバッキング効果を得られる設計になっている。

  • ジャズ・ベースの大きな特色といえる2ピックアップ。ストラトキャスターで言うところの「センター&リア」の位置にマウントされていることで、いわゆる“ハーフトーン”状態となり、歯切れの良いトーンを生み出す。

  • 60〜62初期まで装備された2連ポッド(スタック・ノブ)。

  • 62年から採用された3ノブ(2ボリューム/1マスタートーン)

ジャズ・ベース・サウンドの秘密

 ジャズ・ベースのサウンドの秘密の一つは、その設計にある。ジャズ・ベースはソリッド・ギターに極めて近い構造を持っており、当時主流だったアコースティック系の楽器とは、設計の基になる考えが大きく異なっている。

 例えば、一般的なアコースティック・ギターは、ブリッジがボディのほぼ中央に位置するように設計されている。そうすることで、薄いトップ材全体がバランス良く響き、ふくよかなトーンを得ることができるからだ。それに対してソリッド・ギターの場合は、弦振動をボディと共振させないことでサステインを稼ごうとするため、ボディには分厚い板を使う。この場合、必ずしもブリッジがボディの中央にある必要はない。しかし、ブリッジの位置はその楽器のトーンの形成に影響する(ややこしいのは、トーンの形成に影響する要素としてはブリッジの位置の問題だけでないこと──あまりにも多くの要素によってトーンが形成されているということだ)。

 ギターのボディをコンバートして作られたジャズ・ベースは、ギターよりスケールが長いため、ブリッジがボディの中央どころか、ほぼ端に位置している。抱えて弾くことを考慮した結果、40インチを超えるスケールを持つアップライト・ベースに比べて短く、しかしギターよりは長い34インチ・スケール(約864mm)を採用していることも特徴の一つ。弦はギターのワウンド弦を太くしたものが特別に作られた。 これらのことは、ジャズ・ベース(もちろんプレシジョン・ベースも)が“タイトで、エッジが利いたロー”を獲得している理由の“一つ”になっている。そして初の量産型エレクトリック・ベースを開発したフェンダーをモデルに作られた、以降のエレクトリック・ベースの多くも、似た構造、似たサウンドを持つものが少なくない。

 しかし、これだけでトーンが決定するわけではなく、さらにボディの材質、ネックの材質、材質の切り出し方、乾燥のさせ方、塗装の仕方、組み込み方、ブリッジ・ペグ・ナット・フレット等の素材と形状と質量、ネックに仕込まれているトラスロッド……等々にプラスして、弾き手そのものの問題がその楽器の一次的なトーン(ピックアップによって増幅される前のトーン)、つまり生鳴りに関係してくる。60’sジャズ・ベースの場合は、指板の張り方やペグの取り付け方等が年代によって変わってくるが、アルダーのボディ、メイプルのネック、ローズウッドの指板、クルーソンのペグ(1965年まで)、スティール製のブリッジ等が共通するポイントだ。

 そして、ジャズ・ベースのサウンドを決定づけているものとしては、独自のエレクトロニクスが非常に重要なポイントになっている。ジャズ・ベースはギターに近いシングルコイル構造で、ポールピースがマグネットによって作られており、輪郭のはっきりしたトーンを生む立体的な磁界を作っている。それぞれの弦に2つのポールピースが対応しているのが特徴で、これによってアタックが強くなり過ぎない効果がある。フロントとリアでポールピースのピッチが変えられている専用設計だ。コイルのターン数は9,500程度。

 ピックアップのマウント位置も個性的で、フロント・ピックアップとリア・ピックアップの2種類が、実際にはギターのストラトキャスターで言うところの「センターとリア」の位置にマウントされている。これらをミックスすると、二つのピックアップがパラレル(並列)にミックスされることで直流抵抗値が下がり、高域特性が上がる。弾力性のあるコンプレッションがかかり、歯切れの良さが際立つ。ストラトキャスターで有名な“ハーフトーン”の状態だ。

 ジャズ・ベースは各ピックアップのボリュームを調整することで、各ピックアップのブレンド具合を自由に調整できることも大きい。“ハーフトーン”の状態で、各ピックアップのボリュームを調整することで、結果的に全体のトーン・コントロールの役割を果たす。

 これまでに列挙したジャズ・ベース独自の構造が、“ソリッド・ボディ固有のアコースティックな響き”という一見相反する独自の鳴りを生み、それを“タイトに増幅する”エレクトロニクスがさらに豊かなトーンに昇華させているといえるだろう。そして60’s ジャズ・ベースは、現在と同じ材を使っていてもその熟成期間が違っていたり、トラスロッドや接着剤など目に見えないところが違っていたりすることもあって、現行のものとは全く異なるトーン・キャラクターを持っている。そのビンテージ・トーンに魅せられて、60’s ジャズ・ベースを探している人も少なくない。次項では、各年代のモデルの特徴を見ていこう。

  • 1961年製。2連スタック・ノブ、スラブ貼りフィンガーボードなどの特色を持つ。

  • 1962年製。3ノブのモデルだ。62年半ばからフィンガーボードがラウンド貼りに変更される。

  • 1963年製。63年中頃には各弦独立のミュート、ブリッジ〜リア・ピックアップ間のアースがなくなる。

  • マッチング・ヘッドの1965年製。ドット・ポジション・マークの最終年だ。また、この年の後半からネックにバインディングが施されるようになる。

  • 1966年製。いわゆる“ドットバインディング”のモデル。この後にポジション・マークがブロック型に変わる。ペグも丸いつまみの順巻きタイプに変更される。

  • 1969年製。ブロック型インレイ、CBSロゴのヘッド、順巻きのクローバーペグなど、60年代後半のスペックが見てとれる。

年代別にみる60’sジャズ・ベースの変遷

■1960 Jazz Bass
60年に登場したジャズ・ベースは、新開発の8個のポールピースを備えたピックアップを2基搭載し、それをブレンドして出力できる多彩な音作りが可能なフェンダー・ベースの上位機種。プレシジョン・ベースのナット幅が13/4インチ(約44.5ミリ)だったのに対し、11/2インチ(約38.1ミリ)のナロウ・グリップを採用し、よりプレイヤビリティを高めている。60年製の特徴は、2つの2連スタック・ノブ(2ボリューム、2トーン)。また、3トーン・サンバーストの赤味が退色しやすい“ハニーバースト”と呼ばれるカラーもこの年代ならでは。

■1961 Jazz Bass
1960年製に準じ、仕様変更はない。

■1962 Jazz Bass
2連スタック・ノブは素早い操作に不向きと言うことで、62年の後半には2ボリューム・1トーンの3つのノブに変更される。また、この年の中ごろから、指板がフラットに貼られている“スラブ・ボード”から、Rに沿って貼られる“ラウンド・ボード”に変更された。往年のジャコ・パストリアスの愛機であるフレット・レスのジャズ・ベースは、この年代のものである。

■1963 Jazz Bass
この年に、各弦独立のミュートと、ブリッジ~リア・ピックアップ間のアースがなくなる。12フレットのドットの間隔が狭くなった。

■1964 Jazz Bass
この年に、ポジション・マークがパーロイドに、ピックガードがセルロイドからプラスチックに変更された。ピックアップの裏側のボビンが黒からグレイに変わり、コイル・ワイヤーの被膜も変更された。

■1965 Jazz Bass
この年の後半から、ネックにバインディングが施された。

■1966 Jazz Bass
この年から、インレイがブロック型になる。また、丸いつまみで“Fender”の刻印が入った“パドル・ペグ”と呼ばれる順巻きのペグに変わった。

■1967 Jazz Bass
この頃に、ネックに内蔵されたトラスロッドが変更され、トラスロッドの埋め木等に使われる接着剤が変わる。またビニール系の共振防止用チューブが採用され、ネックの剛性や振動に影響があると言われている。

■1968 Jazz Bass
ブランド・ロゴが黒フチ金文字のトランジション・ロゴから、反転して金フチ黒文字のCBSロゴに変わる。ネックやボディの塗装の下地がラッカーからポリエステルに変更。ペグが自社製クラブつまみに変更

■1969 Jazz Bass
オプションでメイプル指板が選べるようになった。

※各年代の途中には仕様が混在する過渡期があり、上記の仕様に当てはまらない個体も存在する。

パーツ詳細:ブランド・ロゴ

  • 60年から63年まで採用された黒フチ金文字のトランジション・ロゴ。当初はPAT. PENDの文字がモデル名右に入っていたが、61年にはなくなり、代わりにブランド名下に4種類のパテント・ナンバーが入るようになる。

  • 64年から“OFFSET Contour Body”のロゴがヘッド先端部に移動する。65年には”TRADE MARK”やパテント・ナンバーの文字の書体が変わる。

  • 68年〜76年まで使用された金フチ黒文字のCBSロゴ。“JAZZ BASS”の文字も大きくなり、ヘッド先端部の“OFFSET Contour Body”のロゴの下に“PATENTED”の文字が追加された。

パーツ詳細:ペグ

  • 65年まで使用されたクルーソン製の逆巻きペグ。仕上げはニッケル・メッキで、精度も高かった。

  • 66年からFenderのロゴが刻印された自社製のペグに変更される。これは台形プレートで順巻き、つまみはパドル(丸)型が使用された。メッキはクローム。

  • 68年からつまみ形状がクローバー型に戻される。順巻きでニッケル・メッキだ。

パーツ詳細:シリアルナンバー&ジョイント・プレート

  • 5ケタのシリアルナンバーのみが刻印されたジョイント・プレート。シリアルナンバーは76年頃までジョイント・プレートに刻印された。

  • ジョイントは変わらず4点止めだが、63年からシリアルナンバーはL+5ケタ数字に変更される。

  • 65年の後半から採用された、大きくfの文字が刻印されたジョイント・プレート。シリアルナンバーは数字のみの6ケタとなる。

パーツ詳細:指板

  • 指板とネック接着面がフラットであるスラブ貼りフィンガーボード。62年の半ばまで採用された仕様で、現在も人気が高い。

  • 62年中期からネック/指板の接着面も指板のRに沿った形状に加工されたラウンド貼りフィンガーボードに変更される。これは異なる木材を貼り合わせることによって生じる反りを防ぐ目的があった。

パーツ詳細:ポジション・マーク

  • 64年まで使用されたクレイ・ドット・ポジション・マーク。光沢がなく粘土状に見えることからクレイ(土、粘土)と呼ばれた。

  • 64年末から光沢がありパール模様の入った、“パーロイド・ドット”に変更される。12フレットのドットの間隔も、この頃から若干狭まる。

  • 65年末からは、パーロイド・ドットのポジション・マークにセルロイド製のバインディングが巻かれるようになる。

  • 66年の後半から採用された、パーロイド製のブロック・インレイ。

パーツ詳細:ピックアップの間隔&ピックアップ・フェンス

  • 69年頃にはリア・ピックアップの位置が10mmほどブリッジ寄りに移動された。フロント・ピックアップとリア・ピックアップの間隔で計測すると、変更前は約91mm、変更後は約101mmとなる。

  • ピックアップの保護を目的としたパーツだが、取り外されることが多いピックアップ・フェンス。65年頃を境に若干小さめのものとなる。

パーツ詳細:コントロール

  • 初期型の大きな特徴である2連ポット(スタック・ノブ)。初期にはボリュームを絞った時の音漏れを防ぐ220KΩの抵抗が取り付けられていたが、61年後半からピックアップ信号が混入しない配線に変更され、抵抗は取り外された。

  • 61年後期〜62年初期にかけて、2ボリューム1トーンの3ノブ・タイプに変更された。ポットの値は250KΩ、トーン用コンデンサの値は0.05μF。

パーツ詳細:ブリッジ&ブリッジ・ミュート

  • 各弦ごとにオクターブ調整が可能で、細かいミゾが入った鉄製のスパイラル・サドルが用いられたブリッジ。68年にはステンレス製に変更される。

  • 弦ごとに独立して取り付けられたフェルトのミュート。63年頃まで採用されていた。

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関連情報

誌面でも60’s ジャズ・ベースを堪能しよう!
Bass Magazine 2013年12月号
Fender Jazz Bass 1960's 〜 麗しき黄金期サンバーストの世界

本稿で取り上げた60年代ジャズ・ベースを『ベース・マガジン』でも特集している。61年、62年、66年、69年の4本を美しく撮り上げたカラーグラフとスペックの変遷、そして“1959年製”という、幻のプロト・タイプの詳細に迫った記事は、ジャズ・ベース・ファン、フェンダー・ファンなら必見・必読!

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