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  • デジマート地下実験室〜地下3階

スティーヴィー・レイ・ヴォーンのあの言葉は真実だったのか?

〜ギター・アンプの音圧でスカートの裾は揺れるのか?

  • 文:井戸沼尚也(室長)

誰が言ったか知らないが、都内某所にマニアックなサウンド・チェックを夜な夜な繰り返す地下工房があるという……。それが噂の“デジマート地下実験室”。第3回の実験は、かのスティーヴィー・レイ・ヴォーンの迷言検証実験“ギター・アンプの音圧でスカートの裾は揺れるのか?”です。さあ今回は、どんな結果になるでしょうか?

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【実験テーマ】

ギター・アンプの音圧でスカートの裾は揺れるのか?

■音圧にまつわる噂
◎スティーヴィー・レイ・ヴォーンかく語りき「アンプの音圧で、ズボンの裾がなびくのさ」

 1980年代、当時低迷していたブルース・シーンに突如現れたスティーヴィー・レイ・ヴォーン。ギター好き、特にストラト好きならぜひ聴いておきたいプレイヤーの一人ですね。
 彼のギターテク(機材のセッティングやメインテナンス、サウンド作りの相談などをする人です)を務めていたルネ・マルティネスという人物が、かつてこんなことを言っていました。「(レイ・ヴォーンは)まずは音質の追求で、音量は2の次だった。もっとも“アンプの音圧から来る風でズボンがなびくのもいいもんだけどね”なんて言っていたりしたんだよ」

ホ、ホントかよ!?

 というわけで、実験してみることにしました。ズボンがスカートに変わっているのは、なんと言うか、日頃“地下実験室”を応援して下さる皆さんへの心ばかりのお礼というか、そっちの方が本気になれる自分がいるというか……、白衣まで着ちゃって盛り上がっちゃうというか……まあ、そういうことで、このような方向になりました。

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター
VOX AC30Roland JC-120Marshall JCM2000ENGL Fireball 100
Van Den Hul(ケーブル)
D'Addario EXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・エクストラ・ヘヴィ(ピック)
◎スカート1(ウール90%+ナイロン10%)
◎スカート2(綿50%+ナイロン45%+ポリウレタン5%)
◎耳栓×人数分
◎騒音測定機(iPhoneアプリ)

※セッティングについて(今回ここ、重要です)
・ギターは、アンプに直結しています。
・アンプのセッティングは、ゲインは控えめでマスターを上げ、音量を稼いでいます(ゲインをあまり上げないのは、歪み過ぎるとコンプレッションがかかってしまうため)。イコライザー類は、基本的にフラットにしています。
・ギターのチューニングは、6弦だけDに下げています(少しでも低音を出して、スピーカーを大きく揺り動かしたい→スカートを揺り動かしたいという一心です)。
・ピックはいつもミディアムですが、今回はエクストラ・ヘヴィです(少しでも低音を出して……以下同)
・スカートは、スピーカーから約10センチの距離に設置しています。当初は実際に女性に着用してもらってアンプの前に立ってもらう予定でしたが、じっと動かず真っ直ぐに立ち続けることが実はかなり難しいことがわかり、トルソー(マネキン)の登場となりました。
・騒音測定機は、アンプから約1mの距離に保って測定。

実験1 VOX AC30

【実験ノート】

 まずはコンボ・タイプのアンプ、30WのVOX AC30です。セッティングは前述の通りマスターを最大にし、あとは適宜。今回の実験は音質を問うものではないため、その辺りはお気になさらないようお願いいたします。スタジオのエアコンを切って、実験開始。エアコンを切ったのは、直接風が当たらなくても、空気が動くことで微妙にスカートが揺れるのを防ぐためです。

 弾き始めて早々、さすがチューブ・アンプ。30Wといっても音がでかいです! スマホやタブレットで見ている方には音量感がうまく伝わらないかもしれませんが、スタジオ内では全員、耳栓を着用しないと危険な音量です。騒音測定器は、瞬間最大で101dBでした。

 7弦ギターや8弦ギターを持っていない自分を呪いながら弾いていくと……おおっ、なかなかの動きが見られました! スカートの端がゆらりしたのがわかりますか? 揺れましたよね? 揺れました!

 嬉しいか嬉しくないかで言えば、“嬉しくないこともない”のですが(歯切れの悪い物言いですが、今回はデリケートな実験なので私も慎重です)、正直、最も出力が小さいVOXで揺れるとは思っていませんでした。コンボ・アンプでは揺れず、スタック・アンプで揺れて“ほら、やっぱり”という青写真を描いていたのですが、なかなか思うようにはいかないものです。考えてみればこの地下実験室は今回でまだ3回目ですが、そのうち2回とも思うようにはいっていません。実験とはさもありなん、でしょうか。

実験2 Roland JC-120

【実験ノート】

 次は日本を代表するアンプの一つ、RolandのJCです。リハスタの定番アンプなので使ったことがある方も多いでしょう。クリーンに長けたアンプなので爆音のイメージはないと思いますが、実はかなり音が大きいのも特徴ですね。

 JCは数え切れないほど使ってきましたが、ボリュームを10にしたのは今回が初めてです。音を出してみると、やはり相当でかい。耳栓をしていて良かったと思いました。騒音測定機のレベルはVOXと大きな違いはないようで、最大101dBです。

 肝心のスカートは……揺れましたね。ですが、微妙な動きです。演奏の後半、リフの6弦のピッチが良くないですが、ピッキングに力が入り過ぎていますね。我ながら、揺らすために必死。“プレイはダメだがなんとなく気持ちは伝わる演奏”とは、こういうことを言うのでしょう。次はスタック・アンプです。

実験3 Marshall JCM2000

【実験ノート】

 これもスタジオでよく見かけるアンプですね。ただし、マスター・ボリューム10は、個人的に未体験ゾーンです。迷わずフルテンにしますと、ピックアップがシングルコイルということもあり、弾いていない時のノイズが大きく、ハウリングもしています。普通なら、バンドのメンバーなりエンジニアさんなりが“なんとかしろ!”と怒り出すレベルですが、今回はスタジオにいる全員が耳栓をしているせいか、誰も何も言いません。むしろ、例えノイズであってもうるさい方が褒められそうな雰囲気です。おかしな現場が、おかしな空気になってきました。

 弾いてみると、ああ、やっぱり音がデカイ! 騒音測定器も104dBを記録。本日1番の大きさです。ちなみに100dBというのが“電車が通過する時のガード下”の音の大きさだそうですが、それより4dB大きいというのが、わかったような、わからないような感じですね。

 で、肝心のスカートは!? うーむ、た、大差ないですね……。dB数値は上がっているのですが、それよりもスピーカーの口径や角度、その他の要因の方が大きいのでしょうか。

 これは実験であって勝負ではないはずですが、なぜか“敗北”という二文字が脳裏をよぎります。演奏上でも、これまでにやらなかったタイプのリフを弾いたり、フロント・ピックアップを選んでみたりと、なんというか、頑張っているというか……ここはひとつ「微笑ましい」と大きな心で見ていただければ幸いです。

実験4 ENGL Fireball 100

【実験ノート】

 最後のアンプは、エングルFireball100です。私にとってエングル・アンプは初お手合わせです。なんとなくイカつい、ヘヴィな音がしそうなアンプですが、これもクリーン・ゲイン・チャンネルにつなぎ、ゲイン抑え目&マスター10で弾いてみます。

 ぱっと鳴らしてみると……、はは〜ん、空気の揺れ方が違う。騒音測定器の値はマーシャルと同じ程度ですが、これまでとは空気の揺れ方が違います。ちなみに、音質についてはよくわかりません。耳栓をしているので。

 そしてスカートは!? おおっ、おおおっ! これまでで1番、はっきりと揺れています。すごいぞ、エングル!!!! なるほど、これはもしかすると、サランネットか金属グリルかの差も影響しているのかもしれません。

 演奏の方もやけにイキイキとしています。ヨロコビが演奏に与える影響が、思いのほか大きいという証左ですね。音楽の奥深さを見たような気がするというと、何かいい話のようですが、実際に見ていたのはスカートの裾なわけです。

 そしてふと疑問に思いました。スカートの素材によっても、揺れやすい・揺れにくいという違いがあるのではないか? ついでに試してみましょう。

番外実験 ENGL Fireball100+素材の違うスカート

【実験ノート】 

 というわけで、違うタイプのスカートを用意してもらいました。先ほどまでのスカートが、ウール90%+ナイロン10%ですが、これは綿50%+ナイロン45%+ポリウレタン5%という構成です。“風通しのいいスカートは音も通してしまって揺れないのでは?”と踏んだのですが、前者のスカートと後者のスカート、どちらが風通しがいいのか、正直よくわかりません。

 とにもかくにも実験、続行です。先ほどまでは主にスカートの後ろの部分が揺れていましたが、これはスカートの前方も含め、全体が揺れています。揺れ幅は期待していたほど大きくはありませんが、揺れ方が全然違います。なぜなんでしょう?

 ワンピース構造のため、支点が高いところにあったことも影響したのでしょうか? 本来はもっと色々な素材で、できれば同じ形のスカートで試すとより正確な判断ができたかもしれませんが、なんだか企画の意図がすり替わって暴走しそうなため、今回はここまでとさせていただきます。

実験結果

結論:ギター・アンプの音圧でスカートの裾は“ほどほどに”揺れる

 今回、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが使ってきた、フェンダー・スーパーリバーブやバイブロバーブ、そしてダンブル・アンプなどでは試すことはできませんでしたが、多くのアマチュア環境に置き換えた本実験において、現代の汎用的なアンプでもスカートが“ほどほどに”に揺れると実証できました。

 ちなみに実験終了後、実は後学としてベース・アンプでも試してみました。なるほど、今回の実験、ベーシストの皆さんなら楽勝です(苦笑)。ややもしてベーシストのモテの秘密は、その辺にあるのでしょうか? そっちのほうが知りたかったりして。

 ひとまず今回の実験を経て、中低域が安定し、音塊となって出てくるようなアンプは、その音圧によって強い空気振動を生み出し、演奏者の衣服をなびかせることがわかりました。今回はトルソーを置いての実験でしたが、実際にアンプの前に立つとビリビリとする空気振動が感じられます(実験室スタッフ談)。スカートをひらりと舞い上がらせるには至りませんでしたが、私とすれば長年喉の奥につかえていた小骨がとれた思いです。

 まったくの余談ですが、今回の実験はサウンドそのものに焦点を当てていませんが、VOXアンプ、やはり素晴らしいですね。直結でも、無神経なセッティングでも、耳栓をしていても、グラッシーな良い音だと感じました。これは、1台欲しくなりました……。そしてエングル・アンプ。開発者には“ありがとう”と伝えたいです。先方はまったく嬉しくないだろうとの想像はできます。エングル最強という新たな伝説が、今日から始まることを願っています。

 さて、我らがデジマート実験室はこういった非実用性も含めての“地下”実験だとご理解の上、今後もなま温かく見守っていただければ幸いです。それでは次回、地下4階でお会いしましょう。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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