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夏だ! チューブだ! プリ管W杯開催!

〜真空管のサウンドは製造国によって違うのか?

  • 文:井戸沼尚也(室長)

誰が言ったか知らないが、都内某所にマニアックなサウンド・チェックを夜な夜な繰り返す地下工房があるという……。それが噂の“デジマート地下実験室”。第4回の実験は、いまや生産する国も少なくなった真空管を国別に集め、代表的なものを聞き比べる実験“真空管のサウンドは製造国によって違うのか?”プリ管編です。「良い・悪い」で勝敗を決するのではなく、どれが好みか?がポイントです。さあ今回は、どんな結果になるでしょうか?

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【実験テーマ】

真空管のサウンドは製造国によって違うのか?

■真空管にまつわる噂
◎生産国によって真空管の音質が違う

 この噂は、ギター・アンプ・マニアやオーディオ・マニアの間では、噂ではなく"常識"に近いようです。モノづくりの世界では当たり前ですが、各国の製造技術の高低によって真空管の出来が違うようで、高い技術力を持つ国で作られた真空管はオーディオ・アンプ的なハイファイさを有し、比較的技術力の低い国で作られたものは歪みやすく、コンプレッションが強いそうです。この技術力に基づく真空管のクオリティ、かつては、①欧米、②旧東欧圏、③ロシア、④中国という順で語られることが多かったのですが、最近は事情が変わってきました。

 2014年現在、「親戚の子が真空管工場に就職したのよ」という話は聞かないように、ここ日本や欧米諸国ではとっくに真空管の製造を止めています。現在は、ロシア、中国、スロバキアの3国だけが、真空管製造を続けているそうです。古い噂ランキングでは、質の高さはスロバキア製、ロシア製、中国製の順となりますが、果たして本当にそうでしょうか? 例えば近年の中国製品全般の質の向上は目覚ましいものがありますし、そもそも歪みやすくコンプレッションが強い真空管より、歪みもコンプレッションも少ない真空管の方が上等だとか。

誰が決めたんじゃ!?

 というわけで実験です。ちなみにパワー管は、交換する度にバイアス調整を行う必要があります。ですのでここでは、価格も安価で面倒がなく交換しやすいプリ管で実験いたします。歪み具合に要注耳です。

【実験環境】

フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター
◎Airline 62-9012A(アンプ)
BOSS RC-3(ルーパー)
Van Den Hul(ケーブル)
D'Addario EXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
12AX7/ソブテックルビーエレクトロハーモニックス7025/グルーヴチューブECC83S/JJECC801S/ムラード(真空管)

※セッティングについて
・ギター(というかルーパー)は、アンプに直結しています。
・ギターの弾き方によって音質が変わってしまうのを避けるため、あらかじめルーパーに録音した音で実験しています。
・アンプは、エアラインというブランドのものです。エアラインは、ギター・マガジン7月号で取り上げられているジャック・ホワイトの愛用ギターで有名ですが、アンプも作っていました。製造自体は、ダン・エレクトロの工場で行われていたようです。非常にマイナーなこのアンプを試奏に選んだ理由は、音の良し悪しではなく、パワー管に6V6を1本、プリ管に12AX7を1本、整流管に6x4を1本というどシンプルな構成のアンプだからです。ファズなんかもそうですが、部品点数が少ないものの方が1つの部品の違いで大きく音が変わることから、シンプルなアンプの方がプリ管の音の違いが出やすいのではと予想して、これを選択しました。


実験1 ロシア代表 ソブテック12AX7

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 まずはロシア製ソブテックの12AX7です。比較的入手しやすい真空管で、アメリカ製コンボ・アンプのプリ部なんかでよく見かけます。今はソブテックの12AX7にも種類があり、スタンダードなもの、ゲインが高いもの、クリーンなものが型番違い(12AX7●●)で出ているようですが、これはちょっと前のタイプのスタンダードなものです。

 では、早速実験を開始します。といっても、私はルーパーのスイッチを押すだけ。前回の「スカート揺らし実験」から一転、絵的には寂しい感じですみません。音源は、「9V電池実験」でも弾いたフレーズをここでも使い回しています。

 さて、肝心のソブテックのサウンドですが、これを聴いて「なるほど、ソブテックらしいね」という方は、ごく一部の真空管マスターだけだと思います。私を含め、大抵の方が、「ん? へ、へぇ......」という反応ではないでしょうか? とりあえず、この音を基準として他の真空管の音を聴いていき、後でもう一度これを見ることでソブテックの特徴も明らかになると思います。


実験2 中国代表 ルビー12AX7

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 次は中国製ルビーです。これも、比較的入手しやすいものだと思います。かつては評判が悪かった中国製ですが、90年代後半あたりから、「いや、歪んだギターにはコンプレッションが強い中国製も合うぞ」ということで評価が高まりました。ヘタに製造技術が向上して性能が良くなっていたら、「ローファイで良い」というせっかくの評判が台無しになるのでは……と余計な心配をしながら、スイッチをオン。

 私の第一印象は、“音がでかい!”。こうして録音されたものを視聴している皆さんはわかりにくいかもしれませんが、収録現場では明らかにソブテックより音が大きく、ちょっと驚きました。それと、下馬評通り、コンプレッションが強く、歪みも強い印象です。ソブテックの映像の0:55〜、開放弦を含むEのコードを弾いているところと、このルビーの0:10〜の同じコードの響きを比較すると、ソブテックが“グチャー”という感じでアタマのアタック音の“グ”だけ歪み、その後は軽やかな感じで“チャー”と和音が響くのですが、ルビーは“グジャー”という感じで全体的に歪んでいます。


実験3 スロバキア代表 JJ ECC83S

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 これも入手しやすい真空管ですね。「ECC83」というのはユーロ圏でのこのタイプの真空管の呼び名で、アメリカの呼び名12AX7と同じものを指しています。スロバキアは地理的には中欧ということになりますが、旧共産圏ということでJJの製品も“旧東欧圏”製品という括りに入るかと思います……ややこしい。何が言いたいのかと申しますと、現在入手が非常に困難な欧米製真空管を除けば、一般的な評価が最も高い地域の製品ということになるので、期待しています──ということです。さて、どうでしょうか?

 はい、これまでで一番ブライトですね。0:24あたりの1弦開放の音と、それに続くフレーズをよく聴いて、ソブテックの1:09〜、ルビーの0:25〜と比べてみて下さい。明らかに、JJは高域が出ています。

 ここまでで、現在も真空管を生産している3ヵ国の製品が全て出そろいました。この程度の簡単な実験で言いきることはできませんが、「高域が出る=ハイファイ的」と無理やり置き換えると、①旧東欧圏/JJ、②ロシア/ソブテック、③中国/ルビーの順でハイファイという従来の噂に当てはまっています(生産されていない欧米モノは除く)。往々にしてムチャクチャな結果を得てきた過去の地下実験室の例から考えて、この素直な結果に驚いています。むしろ、もっと刺激が欲しい、とすら……。

 で、ここが重要なところですが、ここまで視聴してもらって仮に①旧東欧圏/JJ、②ロシア/ソブテック、③中国/ルビーの順でハイファイだとしても、必ずしもそれが良い真空管の順番ではないと思いませんか?  私個人の感想では、ここまでで最も好きなのは、ルビーです。バランスが良く、かつ無難なのはソブテックなので、誰にでもお薦めできる感じです。無難というとあまりイメージは良くないかもしれませんが、巻弦のあたりのニュアンスとか、かなりいいです。「迷ったらソブテック」という感じでしょうか。ハイエンド系の機材が好きで揃えている人なら、高域の劣化は許せないでしょうから、JJを試してみるよう薦めます。で、ルビーは比較的歪みが強いため万人にはお薦めしにくいですが、ギターの美味しいところが良く出ていると思います。

 皆さんも、自分が好きなものこそ自分にとって最高のものですから、世間の評価や怪しい実験に惑わされず、好きなものを選んでください!! ……はぁっ、はぁっ、言ってやったぜ。


実験4 イギリス代表 ムラード ECC801S

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 ここまでくると、世間の噂の頂点に立つ欧米モノが気になるという人も中にはいるはずです。これはそんな方へのおまけとして、イギリス製のムラードECC801Sを用意しました。アメリカ名でいうと12AT7ですね。12AX7のローゲイン・タイプ。なぜ12AX7にあたるECC83で揃えなかったかというと……入手できないからです、すみません。ここでは、その香りだけでも味わってもらおうということで、試してみます。

 むう……これは、ツヤツヤ、プリプリしてますね。確かに音はクリアですが、思っていたほどロー・ゲイン感はありません。12AX7→12AT7は、一説には100%→60%程度のゲイン比率だそうです。そう言われてもわかりにくいと思いますが、例えばペダルのゲインを10から6に落としたらえらい違いですから、それを想像しいましたら、それほどでもありませんでした。しかし、各音域のバランスもいいですし、ニュアンスも良く出ますし、これはこれでいいですね。

 ちなみにもう一方の雄、アメリカを代表するRCAの12AX7も用意してあったのですが、今回撮影は止めました。なぜか? 非常に偽物くさかったからです。現在製造されていない欧米製の真空管は非常に高価ですが、安価な真空管のプリントだけをビンテージ管に替えた偽物が存在していますので、ご注意ください。ただ、実際に買って失敗する“勉強代”も必要のうちかもしれません。まずは現行品をいろいろ買って試してみるのが良いかと思います(なんつって責任は負いかねますが……)。


実験5 ロシア代表 エレクトロ・ハーモニックス 12AX7

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 続いて現行品のエレクトロ・ハーモニックスの12AX7です。これもロシア製ですね。ロシアはグループ・リーグを突破し、トーナメント戦に突入したと思ってください。エレハモにはよりハイゲインなタイプの12AX7もあるのですが、ここではスタンダードなものを使用しています。

 音の感じは……ソブテック、JJ、そしてムラードの“音の輪郭はっきり軍団”に比べると、ルビー寄りで、音の輪郭、焦点が甘い感じがします。電池実験の時も感じたのですが、エレハモ製品のローミッドあたりの音の出方が独特で、私は個人的に管楽器のチューバを連想しました。

 電池や真空管をペダルと同じ工場で作っているとは思えないのですが、一貫したブランドのトーン・ニュアンスが存在しますね。う〜む、電池実験の時のような大爆発感はありませんが、今回もまたエレハモの奥深さについて考えさせられました。では、最後の真空管に行ってみましょう。


実験6 国籍不明 グルーヴチューブ GT-7025

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 “W杯”と謳っていながら、最後はまさかの製造国不明という展開です。あえて言うなら、「世界選抜」、もしくは「宇宙軍団」でしょうか。少々破綻気味ですが、そのあたりはご容赦ください。

 リプレイス用真空管のメジャー・ブランド、グルーヴチューブの製品。このモデルは一世代前のもので、今のものとはプリントが少し違います。7025は12AX7の工業番号で、グルーヴチューブのハイゲイン版ということです。なぜ製造国不明かというと、グルーヴチューブは、各国の真空管の良いものを購入・選別し、自社のブランドを付けて販売しているためです。そういうと良くないイメージを持つ人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。念入りなテストをして品質を保っているので、リプレイス用として非常に安心感があります。

 ちなみに、当時のカタログにはこのGT-7025について、“普通の12AX7より少しだけゲインが高く、エッジが効いた音。フェンダー・アンプをもう少しクランチさせたい時や、マーシャルをブライトにしたい時に良い。メタル系の人にもお薦め”というようなことが書いてあります。さらに余談ですが、グルーヴチューブ社のアスペン・ピットマンさんは、世界で最も真空管について詳しい人の一人でしょう。この方が書いた『The Tube Amp Book』は真空管アンプ好きのバイブルですが、なにせ洋書なので私には厳しいところがあります。

 なるほど、パワフルで歪んでいますが、歪みだけならルビーの方が上かもしれません。ただし、ルビーより確かにエッジが効いていて、重心も低い感じです。これの音を聴いてからルビーを聴くと、“軽い”感じがします。ソブテックと比べると、ソブテックの巻弦の心地よさ(最後のフレーズあたり)はありませんが、ソブテックよりは歪みが強いです。こうして改めて聴くと、ソブテックも良いなぁ……。

実験結果

結論:真空管のサウンドは製造国によって違う(ようだ)

 前半の3ヵ国分(+ムラード)を見ていただくと、製造国別のサウンドの傾向がおぼろげにわかるかと思いますが、実験例が少ないことと、同じロシア製のソブテックとエレハモのサウンドに共通項が見い出せなかったので、断定するのは止めました。

 今回の実験の感想は、“地味”の一言です。特に前回がアレだったので、余計です。しかし、面白いからやる、地味だからやらないということではなく、「ん?」と思ったことは試してみる──これが地下実験室のスタンスなので、今後も地味実験、おバカ実験のどちらも、ゆるく続けていきたいと思っています。

 それともうひとつ、やっぱり真空管アンプは楽しいなと思いました。シンプルな真空管アンプが1台あると、ギターを弾くのが楽しくなります(今回、弾いていませんが……)。実験で使ったエアラインは小型チューブ(5Wくらい?)には珍しく、どクリーンなアンプで、これでボリューム10、トーン10です。箱ギターで弾くと、気持ちいいんですよ。これがチャンプだったらえらいことになりますが、その方がサウンド的にはわかりやすかったかもしれません。さて、次回は地味実験か、バカ実験か──地下5階でお会いしましょう。

【注意】
本コーナーで取り上げている真空管の付け替えを実践する際は、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。真空管の取り外し、取り付けを力任せに行うと真空管の足を折ってしまうことがあります。また、熱くなった真空管を素手で触ることは危険です。また、アンプの裏パネルを外して不用意に内部に手を触れることは大変危険で、感電の恐れがあります。万が一の破損や事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承おきください。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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