楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載
  • 週刊ギブソン Weekly Gibson〜第11回

ギブソン・メンフィスの現在

Gibson Memphis

  • 資料提供:ギブソン・ジャパン

今週の「週刊ギブソン」は、ESシリーズの生産拠点として知られる「ギブソン・メンフィス」にスポットを当て、現在の製品のポイントとなるキーワードを挙げながら、そこから垣間見られる同ディヴィジョンの魅力を伝えていきたい。

このエントリーをはてなブックマークに追加

GIBSON MEMPHIS
ギブソン・メンフィスとは?

 現在のギブソン製品は、ナッシュビル(レギュラー・ライン、カスタム・ショップ)、モンタナ(アコースティック)、メンフィス(ESシリーズ)と、部門ごとに生産拠点を持つ。ナッシュビル・メイン・ファクトリーから切り離されて、2000年にESシリーズの生産拠点として発足したギブソン・メンフィス・ファクトリーは、カスタム・ショップの傘下を経て、現在では独立した部門として、ヒストリック・シリーズ、コンテンポラリー・モデル、シグネチャー・モデルなど、ESシリーズに特化したバリエーション豊かな製品を続々とリリースしている。

 多くのプレイヤーが求める幅広いサウンド、多様なプレイアビリティの好みをフォローするために、メンフィスは独立した部門として年々その存在感を増し、製品のラインナップを拡張してきた。日本のシーンにおいても、斉藤和義、小沼ようすけ、生形真一(Nothing's Carved In Stone)らを筆頭に、ステージからレコーディングまで、現行メンフィス製ESシリーズをメインとするアーティストが目立つことからも、それだけのスペック、クオリティ、ポテンシャルが用意されていると言える。

1963 ES-335 リム&センター・ブロック

 メンフィス・ファクトリーは、ライブハウスがひしめき合い、生演奏による音楽が路上にまで溢れる観光スポットであるビール・ストリートから徒歩圏内にあり、ファクトリー自体も観光客を迎え入れている(有料)。アメリカの古き良き伝統と文化が色濃く残り、音楽が生活に密着した人々が暮らすメンフィスという地で生まれたESシリーズは、あらゆるプレイヤーの創造性を喚起する楽器として、これからも新しい時代に引き継がれていくことだろう。

 そしてそれら製品開発の背景には、非常に幅広い守備範囲を持つ開発者、そしてそれら製品を具現化する作業功労者たちの存在がある。彼らに支えられるメンフィス製品の現在について、キーワードを挙げながら見ていきたい。

メンフィス・ファクトリー周辺

ファクトリー内の様子

ファクトリー内にはショップを併設

2014 MEMPHIS HISTORIC SERIES FEATURES
メンフィス・ヒストリック・シリーズにおける最新公式データ

 2014年、ギブソン・メンフィスは、ビンテージ、コンテンポラリー、アーティスト・モデル、エントリークラスと、ESをベースとした、充実のプロダクツ・ラインとなり、また各部仕様にリファインが行われ更なる進化を遂げた。ここでは、ギブソン・ジャパンから得た最新のヒストリック・シリーズ公式データをまとめておこう。そのひとつひとつに、強いこだわりが見い出せるはず。

セレクテッド・ウッド

 よりビンテージらしいルックスの杢を持つメイプル、軽量なフィーリングの実現のためにウェイト上限によりセレクトされたセンター・ブロックが使用されます。

ハイドグルー・ネック
 ハイドグルー(にかわ接着)とは、木工の伝統的手法として、強度と硬化後の取り外しが可能というアドバンテージにより、古くから高級家具、工芸品、弦楽器などに用いられてきました。ギターのネック・セット部分とは、その構造上きわめて重要な部分であり、ここをより強固にすることで、ボディとネックの一体感が増し、トーン面での向上を図ります。

ギターのネック・セット部分はにかわで接着

ロング・スタッド&インサート
 テイルピースのスタッド、インサートとも、スティール製のロング・タイプを採用します。ブリッジ、テイルピース部は、弦振動をボディにダイレクトに伝えるため、トーンに大きな影響を及ぼすパーツです。スタッド形状は、ビンテージにならい、フラット・カット・スロットとなっています。

スタッド用アンカー/右がロング・タイプ

ヒストリック・トラスロッド
 トラスロッドを包むビニール・チューブを廃し、ハーフ・ムーン・ワッシャーのサイズとアンカー部を含めて、50年代の素材、形状を再現した剥き出しのスティール・ロッドに変更します。目に見える部分ではありませんが、トーンの重要構成要素であるネック中心部のモディファイは、鳴りに影響を及ぼし、結果トーンへの影響も大きいと言えます。

アニリンダイ・フィラー

 マホガニー・ネックにアニリンダイによる着色を採用します。アニリンを原料とする合成染料、アニリン染料は、その鮮やかな色彩と、木材の持ち味を際立たせるという特性において優れており、アニリン・ダイ・パウダーを加えて調合したフィラーをマホガニーの導管にすりこみ着色し、その上にクリア・ラッカーという仕上げは、導管に残るフィラーと、ラッカー内のフィラーによる視覚的効果により、奥深く、立体的かつ鮮やかに仕上がります。マホガニーの素材の美しさを引き出し、継時変化で時間とともに複雑に色味を変える様子は、まさにビンテージの味わいです。

ニュー・メンフィス・ヒストリック(MHS)ピックアップ
MHSハムバッカー
 ビンテージ・ギブソン・トーンのために開発したMHSピックアップを採用します。PAFのトーンの再現にかかせない、AWG42エナメル・コイル・ワイヤーによるアンマッチド・ターン構造、アンポッテッドを基本仕様とし、ネック・サイドにはアルニコ3、ブリッジ・サイドにはアルニコ2マグネットを使用。素材はもちろん、巻き方にまで独自の手法を用い、ギターが持つ本来の鳴りをピュアに出力し、入力の強弱と、レスポンスによる、プレイヤーの表現力をより高めるトーンを実現します。
MHS P-90 
 ビンテージ同様、フラット・ニッケル・ベースプレート、AWG42エナメル・コイル・ワイヤーを用い、独自の巻き方で10,000からやや落とした巻き数としました。ネック・サイドにはアルニコ3、ブリッジ・サイドにはアルニコ2マグネットを採用。ESモデルに最適なモディファイを行ったMHS P-90は、マグネットの張力が弦振動を妨げる作用を抑え、ビンテージP-90特有のスウィートなリズム・トーンと、キレの良い、ブライトなトレブル・トーンを実現しました。

カスタムCTS 550Kポット(マッチド・セット)
 MHSピックアップにより出力されるESギターの鳴りを、よりダイレクトにアンプに送るために、CTSに特別オーダーしたオーディオテーパー(Aカーブ)550Kポットを採用します。これは500Kポットの許容誤差で生じる500K以下のポットを避けるためで、さらに納入された550Kポットはファクトリー内で全数を検品し、実測した抵抗値の個体差ごとに、ネック・ピップアップ用、ブリッジ・ピックアップ用、P-90用と振り分け、さらにボリュームとトーンには数値の近いものを組み合わせるというこだわりで、ネック側ピックアップのトーンのこもりを防ぎ音抜けを確保、ブリッジ側ピックアップでは逆にトレブルが過度にきつくなることを避けることを狙ったものです。
 これらは1959 ES-335、330、345、225、175、1963 ES-335、1964 ES-345などのヒストリック・シリーズとヒストリック・モデルをベースとしたアーティスト・モデルのネック・セットに採用されています。またブロック・インレイ採用機種には、よりレプリカ度を高めたビンテージ・パターンのニュー・セルロース・インレイを採用します。

マッチド・ポットとバンブルビー・コンデンサ

※2014 MEMPHIS CORE (CURRENT) MODELS FEATURES *ビンテージモデルではないもの

Tone Pros ABR-1スタイル・ブリッジ
 ビンテージABR-1の代替品として人気の高いTonePros製ブリッジを採用します。安定性、操作性がアップし、弦振動をボディにダイレクトに伝えます。

メンフィス・トーン・サーキット
 これまでES-339シリーズに採用されていたメンフィス・トーン・サーキットを、コア(カレント)モデルに採用します。300Kリニア・テーパー(Bカーブ)を廃止し、500Kオーディオテーパー(Aカーブ)・ポットと、独自にリファインしたトーン・サーキットにより、ダイナミックレンジ、レスポンスの向上を図っています。

 これらの他にも、特徴的な工程や機材、そしてそれらをコントロールする職人の目や腕など、ギブソン・メンフィス製品は多くのこだわりに支えられている。

カラマズ―からナッシュビルを経て今なお使われる伝統的なプレス・マシン。

Mike Voltz メンフィス製品R&D担当。製品開発、A&R等、幅広く活動.毎年来日しマーケティング面でのサポートも行っている。

Jim Lillard メンフィス製品の開発、クオリティ・コントロール、エンジニアリング、クラフツマンの育成などを行う技術系エキスパート。

※上記は、製品改善のため、仕様は予告なく変更となる場合があります。
Edited and translated by Gibson Japan

なお、ギター・マガジン9月号(8/13)では、ギブソンES-335の特集を予定しています。
ギブソン・メンフィスのキーパーソン、マイク・ヴォルツ氏のインタビューなど新情報盛りだくさん。ぜひお楽しみに!

ギブソン・メンフィス・モデル動画集


 デジマート・マガジンではこれまで多くのギブソン・メンフィス製品を試奏しています。ギブソンESに象徴されるホロー・ボディ・モデルの魅力をぜひお楽しみください。

【デジマートで検索】Warren Haynes Signature ES-335

【デジマートで検索】1952 ES-295

【デジマートで検索】50th Anniversary 1963 ES-335TD


※週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは毎週金曜日に更新します。次回は8月1日を予定。

このエントリーをはてなブックマークに追加

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS