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  • デジマート地下実験室〜地下5階

弦にベホマは効くのか?

〜使い古した弦を茹でると復活するって本当?

  • 文:井戸沼尚也(室長)

誰が言ったか知らないが、都内某所にマニアックなサウンド・チェックを夜な夜な繰り返す地下工房があるという……。それが噂の“デジマート地下実験室”。第5回の実験は、弦にベホマは効くのか?──ってつまり、弦茹で実験です。古くなった弦を茹でることで新品時の輝きを取り戻す、という噂の真偽を確かめてみましょう。

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【実験テーマ】

使い古した弦を茹でると復活するって本当?

■使い古した弦にまつわる噂
◎茹でると新品同様の音と弾き心地になる

 この噂は、ずいぶん古くから流れているものです。特にベーシストの間では古来より伝承され、“弦茹でベホマの術”は確立されつつあるようですが、我らギター弾きは比較的セット弦が安いという状況に甘んじ、この噂をスルーしてきたように思います。しかしセット弦が安いといっても、ギター弾きの中には複数本ギターを持っているという人も少なくないかと思います。私の場合は、今部屋に12本ギターが転がっていますので、仮にダダリオのEXL-110を月に1回ずつ交換し、1セットあたりデジマート調べの最安値/税込540円で計算しても、年間で77,760円……こ、こ、これは……。

急いで弦を、茹でなければっ!

というわけで実験開始です。

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・ジャパン・ストラトキャスター(ギター)
フェンダー・カスタム68デラックス・リバーブ(アンプ)
Van Den Hul(ケーブル)
D'Addario EXL110(弦)
ヴェムラム ジャンレイ(オーバードライブ)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
平野レミ・モデル(鍋)

※セッティングについて
・使い古した弦、茹でた弦、新品の弦でそれぞれサウンドをチェックしていますが、アンプやエフェクターのセッティングは、すべて同じにしてあります。ギターは同じ個体のフロント・ピックアップだけを使い、弦以外の条件を揃えています。
・演奏するフレーズも、極力同じようにして、フレーズによる音色の違いが出ないように心がけました。

実験1 半年間使用済み弦 0:00〜

【実験ノート】

 まずは、ダダリオのEXL-110を半年かけて使い古した弦のサウンドをチェックします。今回、実験にあたって“使い古した弦を張りっぱなしのストラト”をお借りしたわけですが、見事に弦が錆び、汚れておりまして、弾くたびに背筋に糸コンニャクを押しつけられるようなイヤーな感じがします。しかし、実験用としてはナイスなわけで、貸して下さった方、ありがとうございました。

半年かけて使い古した弦。サビ、黒ずみが見てとれる。

 そのサウンドですが、むう、これぞ死んだ弦の音です。6弦開放の音なんか、ボソボソですね。まるで、何を聞いてもはっきり答えない親戚の中学生男子のようです。思春期か! ピッチも、もう一つですね。開放弦を含むシンプルなEのコードが、あんまり気持ちよくありません。もちろん、チューナーを使ってチューニングは済ませてあるのですが……。ザ・古い弦、そんなところでしょうか。とっとと、煮てしまいましょう。

実験1.5 煮沸 2:02〜

【実験ノート】

 ネット上では様々な情報が飛び交っており、1〜2分煮るというものから30分程度煮るというものまで、煮沸時間についていろいろな説があるのですが、多くはベーシストの情報です。か細いギターの弦を30分も煮たら、何かマズイのでは?……と考え、3分にしてみました。まさに3分クッキングです。

 3分にした明確な理由はないのですが、太さから連想して、まぁラーメンだって3分だし……という位のものです。これが実際にラーメンなら絶対に3分は煮ないところですが(私は2分半くらい)、“煮足りないせいで効果がわからない”となるのは嫌なので、キッチンタイマーを使ってきっちり3分煮ようと考えました。実際には鍋から上げるのにモタモタし、3分ちょっと煮てしまいました……。ちなみに鍋は、いわゆる“レミパン”、平野レミ・モデルですね。だからなんだという話ですが、とりあえず色が好きです。

 煮る方法についてもベーシストの皆さんは研究熱心で、例えば“洗剤をひと垂らしして、弦の汚れを取る”という情報も見ました。ただ、私はなんとなく、“煮ることで弦が甦るとしたら、汚れが取れる・取れないことよりも、熱によって弦が伸縮するところに秘密があるのでは”と考え、洗剤は入れていません。汚れの問題なら、わざわざ煮なくても、クリーナー等で対処できるのではと考えたのです。

 伸縮がキーだと思ったので、茹であがったところで締めてみっか──と、茹でた弦を流水にとって冷やしてみました。なんだか、ギターを演奏するというところからずいぶん遠くへ来たような気がします……。気を取り直して、茹でた弦を乾かし、張り、音を出してみましょう。

実験2 茹であがり弦 3:43〜

【実験ノート】

 ……ぬぁあああ、1回外した弦は、巻き癖が付いているので張り直すのが大変ですね……難儀しました。さて、いよいよ茹であがり弦の音を出してみます。見た目上はサビが残っているので不安ですが、試してみましょう。

煮沸後の弦。サビは残っているが、黒ずみが若干落ちたように見える。

 まず生音で弾いてみましたが、おおっ、この段階で違いがわかります。6弦がビンビンいってますし、コードを弾いた音もジャランとブライトに鳴り、和音のまとまり、馴染みもよいです。サビが取れなくても、音については回復することがわかりました。やはり“金属の伸縮”がポイントなんでしょうか。残念ですが、このことを確認する手立てが、今のところありません……。

 アンプを通し、軽く歪ませた状態のリフの音も、おおっ、まったく違いますね! 良かった、回復した、回復したよう! 実は適当に決めた3分という時間が適正だったのか不安だったので、必要以上に喜んでいるというのが正直なところです。ただ、嬉しいんですが、サビが残っているため弾き心地はよくありません。なるほど、洗剤を入れるとかいう情報は、サウンドだけじゃなく弾き心地も回復させるためだったんですね。そこ、強調しておきましょう。

 サビが残っているので当たり前ですが、ピッチに関しても万全とは言えません。ぱっと聞くとそれ程気にならないという人もいるかもしれませんが、精度の高いピーターソンのストロボ・チューナーとかだと、ストロボが全くじっとしていなく、永遠にチューニングが終わらないレベルだと思います。

実験3 新品の弦 5:47〜

【実験ノート】

 では、新品と比べたらどうなのか? というわけで、新品のダダリオEXL-110を張ってみました。

 生の音は煮沸した弦と同様にブライトですが、明らかに音量が大きいですね! アンプを通した音も、良いです。音の張り、艶、文句なしです。ピッチも良く、高いポジションでコードを弾いた時のまとまりの良さ、サステインの長さはまるでコンプでもかけたようで、煮沸前のものはもちろん、煮沸後の弦と比べても全然違います。それに、サビや汚れによる嫌な感触や引っかかりがないので、弾いていて気持ちがいい!

 やっぱり、新品の弦は良いなぁと改めて思いました。……感想が素朴過ぎてなんだか恥ずかしい限りですが、実際にそう思ったわけです。

実験結果

結論:弦の煮沸は、ベホイミ程度は効く

 弦を煮沸した効果は明らかでしたが、完全回復とはいえず、呪文でいえばベホイミくらいか──というのが今回の結論です。ただし、煮沸時間を長くする、(洗剤なども使って)弦の汚れをしっかりと落とす等、もっと改善できそうな点はあります。

 今回の実験で、新品の弦の良さを改めて感じました。本当は出来る限り新しい弦を張り、よいピッチ、よいサウンドで気持ちよく弾くのが1番です。

 ただし、私が年間で計算してみて驚いたように、弦代もバカになりません。
新品弦は極力セットやパックで買うなど工夫しつつ、弦の煮方についてももっと研究して新品と煮沸弦をうまく使い分けると、エフェクター1個分くらいのお金はすぐに浮くかもしれませんね。

 それでは次回、地下6階でお会いしましょう。

【注意】
本コーナーで取り上げている弦の煮沸を実践する際には、個人の責任の範囲において、細心の注意を払って行ってください。熱湯を扱うため、火傷や火事等に十分注意されてください。万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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