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エフェクターの音はケースによって変わるのか?

〜筐体差し替え実験〜

  • 文:井戸沼尚也(室長)

今回の実験は、“エフェクターの音はケースによって変わるのか?”です。回路そのものや電池、そしてもちろんセッティングはそのまま、筐体だけを差し替えることでエフェクターのサウンドが変わるのか?を調べてみました。果たして結果やいかに!?

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【実験テーマ】

エフェクターの音はケースによって変わるのか?

■エフェクターにまつわる噂
◎エフェクターの音は回路やパーツだけでなく、筐体の違いによっても変わる

 初めて「エフェクターの音は回路やパーツだけではなく、筐体によって変わる」と聞いた時は、にわかに信じられませんでした。かつて、あるオーバードライブを試しに行った楽器店でのこと。その機種を試したところ、音の傾向は概ね良かったのですが、ちょっと低域がたるんだ感じが気になりました。感想を求められたので、店員氏にその旨を告げたところ、彼はこともなげに「うーん、この箱だと、まぁそうかもね」と言ったのです。私は意味がわからず、「え? 箱で音が変わるんですか?」と聞き返すと、氏は当たり前のように「そうです」と言い切りました。

 以降、この件はずっと頭に残っており、その後もペダル・ビルダーのインタビューなどで、同様の発言を見た記憶があります(ただし、ソースが思い出せない……すみません!)。

 なんだかモヤモヤするので、実験しちゃいましょう。

 実験に至る経緯は軽いものなのですが、実行するには結構重いです。当初は、実在する機種の中身の入れ替え(例えば、リーズナブルな価格のオーバードライブの中身を、ケンタウロスの箱に入れるとか──あの箱、絶対に何かあると思いませんか?)を考えていたのですが、各メーカーの開発者が必死で考えた製品の中身を勝手に入れ替えてあーだこーだ言うのは許されることではないと考え、エフェクターを自作するところから始めました。

 簡単に自作すると述べましたが、私は電気系は、実は完全にど素人です。これまでに自作したエフェクターはワウワウ・ペダルのみ。いきなりワウに行ったところは我ながらどうかと思いますが、そこはもう、なにしろ好き過ぎて……(照)。ですので、今回、2台目のエフェクター自作ということになります。サウンド実験の前に、工作教室から始めるわけです。つ、つらい。実験前の準備はできるだけ簡単に済ませたいので、部品点数の少ないファズを選び、自作キットを購入、必死に製作、エフェクター・ケースを何種か用意して実験に臨みました。

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター(ギター)
マーシャルJVM210H(アンプ・ヘッド)
マーシャル1960A(キャビネット)
BOSS RC-3(ルーパー)
プロビデンスP203(ケーブル)
ベルデン9778(ケーブル)
ダダリオEXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・エクストラ・ヘヴィ(ピック)
◎某社自作キット(ファズ回路)
◎エフェクター・ケース各種(ファズ筐体)
明治きのこの山(菓子)

※セッティングについて
・筐体の違い以外の条件(アンプやファズのセッティングなど)は同じにしてあります。
・フレーズによる音色の違いが出ないよう、ギターの音は予めBOSSのルーパーに入れ、筐体の違いのみがサウンドに反映されるようにしました。


実験1 標準型 MXRタイプ(アルミ・ダイキャスト製)

【実験ノート】

 まずは、エフェクターの標準型とも言える、MXRタイプの筐体です。実はこの筐体だけ“穴あけ済み”のものを購入したのですが、製作の際に少しでも手間を省きたくて“実験にLEDはいらん”と手を抜いたため、LED用の穴が無様に開いたままです。サウンドについては、えー、すみません、相当ひどい音ですね。これは“ファズ・フェイス”を模したキットの音でして、キット自体が悪いのか作った私が悪いのか、どちらが悪いかわかりませんが、まずはファズ・フェイスに謝りたいと思います。どうもすみません。

標準型 MXRタイプ(アルミ・ダイキャスト製)

 これ自体の音色云々はとりあえず置いておいて、ひとまずこれが基準だと考えて下さい。特に、1:37秒あたりのロング・トーン、それと1:48秒あたりからの巻弦の質感、これを覚えておいてもらえば、他の筐体との音の違いが認識しやすいかと思います。

 ここで、iPhoneアプリのオシロスコープで採取した波形の画像もチェックしておきましょう。400Hz〜600Hzの間あたりが、大きく削れているところに注目しておいてください。また、2kHzのちょっと上あたりに、ピンと尖った山があります。これを確認した上で、次の動画をチェックしてみてください。


実験2 100円均一のタッパー(ステンレス製)

【実験ノート】

 次は、100均ショップで購入したタッパーを使用します。予め筐体にはスイッチやジャックを通す穴を空けておき、実験1が終わった後に筐体から回路を外して、これに入替え、ネジ類を締めました。コントロール・ノブを1個、側面に付けたところがカッコいいんじゃないかと思ったのですが、裏返すとまるっきりただのタッパーです。蓋ごしに透けて見えるエレハモ電池のマイク・マシューズ氏が頼もしいと感じるか、あるいは悲しいと感じるかは人それぞれでしょう。私は後者です。

100円均一のタッパー(ステンレス製)

 サウンドは、まぁファズなのでわかりにくいかもしれませんが、実験1と聴き比べてもらうと、1の方が引き締まってトレブリー、2の方がマイルドでよりオープンな響きであることがわかると思います。実験1の1:37のロング・トーン部分にはオクタビア的な倍音が乗って頭が“クラクラする”のに対し、こちらの同じ箇所(1:05あたり)は、もう少しストレートな音で頭も“クラッとする”程度です。

 オシロスコープの画像で見ても、実験1で深い谷になっていた400Hz〜600Hzのあたりが実験2の筐体では大きく盛り上がっていて、反対に2kHzのちょっと上のあたり、ピンと尖った山が少し低くなっています(その代り、その前後が少し持ち上がっている)。これは、先ほどの印象=引き締まってトレブリーな筐体1、マイルドでオープンな響きの筐体2を裏付けているかと思います。どちらが良い/悪いではなく、“ちょっと違う”のがわかりましたでしょうか? では、次にいきたいと思います。


実験3 大型 ビッグマフ・タイプ(アルミ・ダイキャスト製)

【実験ノート】

 次は、実験1で使った標準型と同じ素材でより大型の筐体です。隣のBOSSと比べると、その大きさがわかるかと思います。感じとしては、ざっとビッグマフ程度の大きさで、より深さ(高さ)があると考えて下さい。大きなボディにコントロールがわずか2つ(とスイッチ)しかないせいか見た目がのっぺりとしており、中身も基盤が非常に小さいためガラガラです。市販品なら購入者から金返せと怒られるレベルですが、自作なので問題ありません。DIY、サイコー!

大型 ビッグマフ・タイプ(アルミ・ダイキャスト製)

 サウンドですが、これまでで最もストレートな音です。問題のロング・トーン(ここでは0:52あたり)でも、実験2以上にストレートで、オクタビア的倍音の乗りはあまりなく、そのまま音が伸びる感じです。また、全体にコンプレッションが少なく、音が潰れる感じが少ないと思います。実験1では音が潰れて埋もれていた巻弦のあたり(1:48〜)も、この筐体では(1:04あたりから)、しっかり再生できています。音量自体も、大きいですね(実際、録音担当の方も“レベルがでかい!”と言っていました)。

 ここで実験1の筐体に戻って聴き比べてもらうと、ずいぶんニュアンスが違うことがわかるはずです。1はガリガリとしていてヒステリック、3は太く伸びやかです。この筐体3は、普通に“悪くないファズ”ではないでしょうか? オシロスコープの波形も、実験1、実験2と比較して、200Hzから2kHzあたりまで万遍なく持ち上がっており、本器の音の太さを裏付けていますね。しかし、筐体が変わっただけで、結構変わるもんですね。なんだか面白くなってきました。次にいってみましょう。


実験4 100円均一のお弁当箱(プラスティック製)

【実験ノート】

 次は実験3と同程度の大きさで素材違いのものです。よく大きな筐体のペダルを“お弁当箱”などと称しますが、これは本当に、完全に、正真正銘の、ただのお弁当箱です。100均で買いました。この箱もまさかお米の代わりにファズ・フェイスの回路を詰められるとは思ってもいなかったでしょうが、これも運命ですので黙って受け入れてもらおうと思います。

100円均一のお弁当箱(プラスティック製)

 自作関連の本やサイトでは“金属以外の筐体は使うな”と記してありますが、なぜダメなのか? なにしろ素人なのでよくわかりません。わかりませんが、何かアース的なことで支障があるのだろうと推測し、内部にアルミ・テープを貼ってみました。見た目については“お弁当箱感”を強調するため、つまみ類は側面に付け、のっぺり感を醸し出しています。いやー、このカッコ悪さがたまらなくカッコいいと思うのは、私だけでしょうか? あなたのエフェクトボードにこれが入っているところを想像してみてください。どうでしょう?

 肝心のサウンドですが、実験3の筐体の延長線上にありつつ、よりマイルド、よりオープン、よりストレートな響きです。音量も実験3の筐体と同様に大きく、コンプレッションも少ないです。金属的な響きが薄れ、マイルドに、太くなっているので、(あくまでファズのサウンドですが)ちょっとオーバードライブやディストーション寄りの音になっています。実験1の筐体の音と比べると、まるで別物です。ぜひ聴き比べてみてください。いや、これ、かなりいいんじゃないでしょうか? 個人的にはこの実験4の筐体か、それにもう少し金属臭を加え、もう少しファズらしさを残した実験3の筐体が好みです。

 オシロスコープの波形で見ても、筐体3より、さらに全体が持ち上がっている感じです。特に200Hz〜600Hzがしっかり持ち上がり、全体にきれいな山を描いています。実験1のいびつな波形とは、ずいぶん違いますね。まったく同じルーパーからの音を、まったく同じ回路に通しているのに、出音はこんなに変わることに驚きました。まさかお弁当箱がここまで優秀だとは思いませんでした。さらに楽しくなってきましたよ! 次、いってみましょう!


実験5 標準型 きのこの山(紙製)

【実験ノート】

 金属以外の筐体でもいけるということがわかりましたので、次は思い切って「きのこの山」にいってみました。またずいぶん思い切ったなと言われれば、“はい”としか答えようがありません。正気のペダル・ビルダーなら絶対にいかないところで、素人ならではの選択という気はします。なぜ「きのこの山」なのかというと、部屋で下準備をしていた時にたまたまこれが目に入ったからです。“ファズの回路が入りそうな箱”で目に付いたのがこれだったというだけのことで、他の箱ではだめだとか、「たけのこの里」に対して含むところがあるとかいうことではありません。

標準型 きのこの山(紙製)

 なにしろ紙でできているので、きっとアース的なものがアレだろうと思い、これにもとりあえずアルミ・テープを貼ってみました。もしかしたら、アルミ・テープさえあればこの世の箱はすべてファズに出来るのでしょうか? 耐久性がゼロ、実用性もゼロの“きのこファズ”、ジャックを入れようとするだけで、側面の紙が破けそうです。慎重に準備して、いざサウンドをチェック! ……あれ? あれれ? なんだか、音になりませんよ? 配線などをチェックし直し、電池の電圧を計測して、再チャレンジ。…………同じことでした。サステイン、ゼロ。なんだか、フレーズまで違って聴こえます。

 お弁当箱からの流れでいっても、ここでドカーン!と鳴って“きのこの山、サイコ〜!”と盛り上がる現場を思い描いていたのですが、漏れてくるのは失笑のみ……。うう、い、いや、これはファズと考えると0点ですが、“ギターでダメなスチール・ドラムの音を再現する新しいエフェクター”だと思えば100点ですよね? そうですよね……? すいません、自分をなぐさめたら、少しだけ落ち着きました。続けます。これは当然、断線などの問題が疑われるのですが、回路はそのままで実験4の筐体に入れ直すと、先ほどの良好なファズ・トーンが鳴り響きます。ということは、やはりこの筐体自体に問題があると考えざるをえません。もしかすると、この紙にコーティングされている塗料が問題なのでしょうか? では、段ボールの箱にアルミ・テープを貼れば、紙ボディでもしっかりした音は出るのでしょうか? いろいろ考えましたが検証する手立てと時間がなく、今回の実験はここで終了とあいなりました。


実験結果

結論:エフェクターの音は、ケースによって変わる!

 今回の実験の感想は、以下の通りです。

・ケースの違いだけで音が変わるのが、不思議
・筐体1はタダでもいらないが、筐体3か4なら500円は出す
・毎回毎回、なぜこの地下実験室シリーズはうまくいかないのか
・下準備だけで疲れた──特に筐体に穴を開けるのが面倒だった
・自作、意外と楽しいかも
・でも買った方が早い
・ギターは全然弾いていないが、持っている意味はあるのか

 いやー、実験って本当に難しいですね……。それでは次回、地下7階でお会いしましょう。

【注意】
 本コーナーで取り上げている回路の入れ替えを実践する際には、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。断線やハンダの剥離など、様々な問題が発生することが考えられます。万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

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