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  • デジマート地下実験室〜地下9階

はんだの種類や付け方で音は変わるのか?

~はんだ付け替え実験~

  • 文:井戸沼尚也(室長)

今回の実験では、“はんだの種類や付け方によって、ギターの音は変わるのか”を調べてみました。企画の最後には、特別収録「半田道〜邪念編」も用意しましたので、お楽しみください。

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【実験テーマ】はんだの種類や付け方で音は変わるのか?

■はんだにまつわる噂
◎はんだの種類や付け方によって音が変わる

 この噂は、多くのギタリストやビルダーによって語られていますので、もはや常識と言っていいかもしれません。皆さんもなんらかのインタビューやネットの情報で一度くらい見たことがあるのではないでしょうか。“ケスターがいい”とか“ビンテージのダッチボーイがいい”とか。しかし、では実際にはんだを変えると音がどの程度変化するのか、どのはんだはどんな音がするのか、試したことがあるという人は非常に少ないはずです。だって、面倒くさいんだもん。

 そこで、デジマート地下実験室の出番です。我々がやらずして、いったい誰がやるというのだ!!……っと、無理やり気合いを入れてみました。なぜなら、ここだけの話ですが私ははんだ付けが苦手だからです。はんだ付けは奥が深く、こだわりを持つ人も多いのにはんだ検定8級(自称)の私がこれをやって良いものでしょうか? 私の脳内右チャンネルからは「火中の栗を拾う」という言葉が、左チャンネルからは「墓穴を掘る」という言葉がこだましていますが、それでも全国に数名いると思われる地下実験室ファンのことを思えば、もうこの列車は止められないぜ!? というわけで、実験です。

【実験環境】

■使用機材
フェンダー・カスタムショップ・ストラトキャスター(ギター)
フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
ヴェムラム・ジャンレイ(オーバードライブ)
ボス RC-3(ルーパー)
プロビデンスP203(ケーブル)
ヴァンデンハル(ケーブル)
ダダリオEXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・エクストラ・ヘヴィ(ピック)
◎激やせくんミニ(自作エフェクター)
◎激やせくんフェイス(自作エフェクター)
◎goot SD-65音響部品用ヤニ入り “家庭用”、Kester“44”、Kester“44”ビンテージ①、Kester“44”ビンテージ②、Dutchboy“Blue”ビンテージ、WBT“WBT-820”(はんだ)
goot CXR-41(はんだごて)

※セッティングについて
・予めルーパーに入れておいたストラトのリアとセンターのハーフトーンの音を、“激やせくん”2個を通してアンプに入力。ルーパーやアンプのセッティングは全て同一の状態を保ち、“激やせくん”のはんだ(計8箇所)のみを変えてサウンドを出力、チェックしていきます。はんだは全部で6種類、用意しました。

※「激やせくん」とは?
 私が好きなディープ・ファンクの世界では、痩せたギターのサウンドが曲の雰囲気を高めているということが、よくあります。しかし、近年の素晴らしい機材では痩せた音が出しにくく、どんな時にも音を激やせさせるべく自作したペダルが、この「激やせくん」です。内部には長〜いビンテージ・ワイヤーだけが入っており、つなぐだけで音がげっそりします。
 今回は音痩せさせることが目的ではなく、ジャックとワイヤーだけの激やせくんは“はんだ付け/はんだ外し”がしやすいという理由で使用するため(オーバードライブやギター内部のはんだを付け替えるのは大変です……)、極力劣化は防ごうと内部のワイヤーを短くしてあります。それで、「激やせくん“ミニ”」なわけです。で、これ1台のジャック周り(ジャック2箇所×接点2=計4箇所)のはんだを変えただけで、音の違いを判別できるかどうか心もとなかったので、もう1台、上から見ると“顔”に見える「激やせくん“フェイス”」もつなぐことではんだの箇所を倍にし、はんだの影響によるサウンドの違いがわりやすくなるよう試みました。

激やせくん“フェイス”(表)

激やせくん“フェイス”(中身)

 なお、ビンテージ・ワイヤーだけを使ってサウンドを調整するというアイディアはHONDA SOUND WORKS様がかつて製造していた『SPICE』で実現したもので、あちらは選び抜いたワイヤーを使ってサウンドを整える斬新かつ素晴らしいディバイスであり、このクソ・エフェクトとは比べるのも失礼だということをお断りしておきます。

実験1 家庭用はんだ

【実験ノート】

 まずは国産ブランドのはんだで実験です。一応、用途別では「音響部品用」と書いてあるのですが、あくまでも「家庭用」と記載されているのがシブイです。金属組成はスズ(Sn)60%、鉛(Pb)40%です。サウンドは、いつものストラトの音ですね。最初にクリーンでコードを鳴らし、その後ヴェムラム・ジャンレイで軽く歪ませた音がルーパーに入っています。今回は、これを基準にしていきたいと思います。

 一応、オシロスコープの画像も付けておきます。これも現段階ではこんなものだと思って眺めていただければOKです。それでは、次に進みます。

実験1「家庭用はんだ」

実験2 ケスター“44”現行品

【実験ノート】

 次にギターやベースと非常に相性が良いと言われている、ケスターの“44”という型番のはんだです。金属組成はSn60/Pb40で、先ほどのものと同じです。サウンドをチェックする前に、まず前のはんだを溶かし、“はんだ吸い取り線”というものを使って家庭用はんだを取り去ります。が、これが溶けない……。どうやっても溶けないよー! 角度を変えながら必死にこてを当ててみたのですが、なかなか溶けず、この段階で早くもワイヤー表面の被膜が焦げました……。ううう、泣きたい。泣こう。ひと泣きした頃にようやく家庭用はんだが溶けましたので、それを吸い取り、ケスターを付けました。それでは、サウンドをチェックしてみましょう。

 む。あれ? なんか、国産ご家庭用の方が、音圧がある気がしますよ? ちょっと国産の1分35秒と、ケスターの1分29秒の部分、同じフレーズで聴き比べてください。まぁ、ケスターはちょっと細めで、よりストラトらしさが出ていると言えば、そうなんですが……楽器関係ではんだと言えばケスター44の評価が高いので、肩すかし感は否めません。

 オシロ画像をみると、100Hzあたりの山の形が違いますね。そのちょっと右側、150Hz前後の山と谷の感じも、異なります。それから600Hzちょっと右のあたりの谷は大きく落ち込み、700Hzの山は、低くなっています。あとは、1.6Kあたりの谷が、大きく落ちていますね。うーん。ケスターの他のはんだはどうなんでしょう? ということで試してみます。

実験2「ケスター“44”現行品」

実験3 ケスター“44”ビンテージ①/0.51mm

【実験ノート】

 次はケスター44のビンテージです。直系0.51mmとかなり細めのもので、金属組成は同じくSn60/Pb40です。サウンドは……なるほど、やはり音圧などは国産ハンダにかないませんが、ストラトのハーフトーンらしい高域の鈴なり感は国産品や現行のケスターより心地いいですね! 歪ませたコードの1発目の音圧も、現行ケスターよりあります。巻弦の“ジャリッとした感じ”もこれまでで1番出ているのでは? これは、いいですねえ。

 オシロ画像では、100〜200Hzの山谷が、前の2つよりはっきりとしています(鋭角に、高く上がり、同様に削れている)。このあたりがメリハリ感に関係しているのでしょうか。一方で600Hzちょっと上の谷は、これまでの2つよりも浅くなっています。では次にいきます。

実験3「ケスター“44”ビンテージ①/0.51mm」

実験4 ケスター“44”ビンテージ②/1.6mm

【実験ノート】

 次もケスター44のビンテージなのですが、金属組成がSn61.5/Pb35.5/Ag3で、銀が入ったものです。そして太さが1.6mm! ふっと! 先ほどのビンテージ・ケスター①が0.51mmでしたから、余計に太く感じます。肝心のサウンドは……ビンテージ・ケスター①との比較では、音が太く、その分高域のキラキラ感、ジャリッと感は減少しているように思います。基本の国産家庭用と比べると……あ、低域の音圧は国産家庭用の方が、高域の音圧は本品の方がある感じですね。ただ、その太さと銀入りということから期待していたほど、特別さはない感じです。

 オシロについては、100〜200Hzの山谷がのっぺり気味で、ほとんど-40dBを上回っている点は、他にない特徴です。200〜300Hzの間も、国産ともビンテージ①とも違う波形になっています。ふうむ。今のところ、元気のいいロックな音なら国産、ストラト感を大事にしたいならケスター・ビンテージ①が良い感じです。

実験4「ケスター“44”ビンテージ②/1.6mm」

実験5 ダッチボーイ ビンテージ/ブルー

【実験ノート】

 これもケスターと並んで人気のブランド、ダッチボーイのビンテージです。巷ではここのブラックが人気ですが、フラックス(融剤)が必要なのでとても私には扱えそうもない──ということでブルーです。これは0.8mmと少し細身で溶けやすく、扱いやすいはんだです。そのサウンドは、太さとブライトさのバランスがとれた人気があるのも頷ける音ですね。……ただ、個人的には音の線は少し細いですが、高域に艶があってストラトらしさが良く出たケスター・ビンテージ①推しは変わらずです。まぁ、はんだを付けた直後のサウンドなので、エイジングがどのように影響するかは不明ですが、この時点のサウンドの個人的な好みだと思って聞き流してください。

 オシロについて、やはり100〜300Hzのあたりに違いが表れています。これまでのどの波形とも違う形なので、違うサウンドになっている──ということは間違いないところだと思います。

実験5「ダッチボーイ ビンテージ/ブルー」

実験6 WBT 820T

【実験ノート】

 今回の実験で最後、6種類目になるWBTの820Tという現行品のはんだです。ドイツ製だそうです。銀が4%入っていてハイファイ系ということで、オーディオ関係者に人気があるようです。そのサウンドは……、これは明らかに他と違いますね。まずアタックがめちゃくちゃハッキリしています。音圧もあるし、解像度も高い感じでハイファイ系というのが頷けます。巻弦のニュアンスもしっかり出るし、巻弦を少しミュート気味に弾いた部分の音がぐっと前に出てきます。これもいいですね。

 個人的にはビンテージ系の音が好きなので、今回のチャンピオンはストラトの美味しい音が最もよく出ていたケスター・ビンテージ①ですが、その次にこれが気に入りました。現代的な機材にはこっちの方が合いそうです。

 オシロで見ると、100〜300Hzはお約束で他のどれとも違いますが、追加で3.5K近辺に、他にはない山(というか、針?)が−40dBを超えて、ピッと出ています。これがWBTの解像度の高さに結びついているのでしょうか。

実験6「WBT 820T」

実験7 WBT 820T/追いはんだ

【実験ノート】

 はんだは、種類だけでなく付け方によっても音が変わると聞いたことがあります。せっかくですので、それも試してみましょう。

 これまでで1番ハイファイ感が強かったため違いがわかりやすそうで、また最後にはんだ付けしたままのWBTをそのまま使えるという流れからいっても好都合なので、WBTに“追いはんだ”をしてみました。早速サウンドをチェック。はぁー、なるほど。音に元気がないですね。WBTの特徴である音圧や解像度の高さが失われています。

イモはんだ

 オシロでは、先ほど“WBTのハイファイ感のポイントか?”と思った3.5kあたりの−40dB越えの山が消えています。やはり、あれがポイントだったと考えて良いのかもしれません。

実験7「WBT 820T/イモはんだ」

実験結果

結論:はんだの種類や付け方によって音は変わる!

 今回の実験で、はんだの種類はもちろん、付け方によっても音が変わることがわかりました。その違いは小さなものではあるので、わかりにくかったという人はできればヘッドフォンを付けてチェックしてみてください。とはいえ、はんだによってサウンドが変わるからといって、皆はんだにこだわるべきだ!とか、ハイエンド系の機材を使っている人はWBTにはんだを変えろ!などと言うつもりは全くありません。変わることは事実ですが、ギター・サウンドは弾き手、ギター、ペダル、アンプ等のトータル・バランスによって決まるものなので、その中のごくごく一部分だけにこだわっても仕方がありません。帽子も、シャツもパンツも靴も時計もちぐはぐなのに、ボタンを留める糸だけ素敵なヤツに変えても、誰も気付かないのと一緒です。ただし、100%ムダだとも、思わないのです。小さな部分から変えていって、最終的に大きな全体が変わるということはよくありますし、そこまでたどり着かなくても“誰も気付かないが、このボタンを留めている糸が気に入っていて、俺は気分がいい”というなら、それでもいいと思います。良い気分が良い音楽を生むことだって、あるのですから。

 それでは、次回地下10階で、お会いしましょう。


 ……といつもの終わり方で一度締めたのですが、今回は“デラックス・エディション”ということでスペシャル映像「半田道〜邪念編/地下9.5階」を用意いたしました。ここまで見てもまだお腹いっぱいにならないという食いしん坊なあなたに贈ります。「半田道〜邪念編」の発端は、今回の実験の収録直前にお会いしたある方の言葉です。

「はんだは深いからねー。種類とか付け方だけでなく、付ける時の精神状態によっても音が変わるんですよ。ピート・コーニッシュに会ったらそう言っていましてね、音を聴いたら確かに違う。もうね、“半田道”の世界ですね」って、マジすかーっ!?

 ピート・コーニッシュといえば、デイヴ・ギルモアやジミー・ペイジ、ルー・リード、ブライアン・メイやエリック・クラプトン等々、レジェンドだらけの顧客リストを持つという、あのピート・コーニッシュですよ。これは、単なる都市伝説と片付けるわけにはいかなくなりました。じじじ、実験せねば!

【実験テーマ】はんだ付け時の精神状態によって音は変わるのか?

■半田道にまつわる噂
◎半田道では、はんだを付ける時の精神状態によって音が変わる

 これを証明するために、先ほど清らかな水のような気持ちではんだ付けした実験6のWBTを一転、邪悪な心で付けてみて、サウンドの違いを確かめることにしました。

 さて、どうせやるならいかにも“半田道”という感じの絵が欲しい──というデジマート編集部の意向で、小芝居をやることになりました。……うー、こういうの苦手なんですよ、緊張するなぁ。ちょっと深呼吸をば、と思ったら。す、吸えない。息が、吸えません。まぁ当たり前なんです、マスクしているんですから。改めて映像を見てみたら、やっぱりバカなのかと少し悲しくなりました。気を取り直して、先に進めます。実験では、「とにかく邪念で頭をいっぱいにし、それを動画を見る人にもわかるように表情で伝えながら、的確にはんだ付けしてください」という、人生史上もっとも難しい仕事のオーダーをいただきました……。邪念、か……。邪念ね。まぁ、つまりはエッチなことでも考えつつはんだ付けするという解釈でいいだろうと勝手に決め、仕事を進めることにしました。そうと決まればエッチなことは容易に考えることができたのですが、難しいのはそれを顔で表現することです。これまでは、むしろ顔に出さないように努力してきたので、簡単にはできません。やはり、練習してないことは本番でもできないのだと、いい勉強になりました。

 で、苦労して録ったそのサウンドは? 実験⑥と比べてみてください。ここは当然、あの堅物だったWBTのハイファイ・サウンドがとろけるようなセクシー・トーンに変化していて、さすがピート・コーニッシュ! という流れにしたいところですが……ううう、違いが、わからない……。私の耳では、何度聞いても違いがわかりません。アタックが明確で、音圧があるWBTの素晴らしくも堅物なハイファイ・サウンドそのままです。邪念も、エッチも、小芝居も、全部関係ねぇじゃん!! ギリッギリッ(歯ぎしりの音です)。

特別実験「半田道」

【実験結果】

結論:はんだを付ける時の精神状態によって音は、変わらない

 むうう。どうしてくれるんだよ、ピート! い、いや、ちょっと待て私。人のせいにするのは簡単ですが、ここは原因を自分に求めるのが大人の態度というものです。というわけで、今回は残念ながら私の能力が足りず(おそらく主にエッチ方面)、半田道の奥深さを明らかにすることはできませんでした。恐るべし、半田道!!

 それでは今度こそ、おしまいです。次回、地下10階でお会いしましょう。

2014楽器フェア「室長に会える! デジマート地下実験室アンケート」のお知らせ

 来る11月21日(金)〜23日(日)、東京ビッグサイトにて開催される2014楽器フェアに、我らがデジマート地下実験室・井戸沼室長も参加いたします! イベント最終日、23日(日)13:00よりリットーミュージック・ブースにて、室長に会える! デジマート地下実験室アンケート」と題して、デジマート・マガジン/デジマート地下実験室にまつわるアンケート用紙を室長自らが配布いたします。アンケートにお答えいただいた先着100名様に、記念すべき実験室第1回で好評を博したエレクトロ・ハーモニックス9V電池をプレゼント! ぜひこの機会に、直接室長へ「やってほしい実験」を直談判(?)されてください。

■開催日時:11月23日(日)13:00〜(1時間程度)
■場所:2014楽器フェア/リットーミュージック・ブース内
■参加特典:アンケートへ回答いただいた先着100名様にエレクトロ・ハーモニックス9V電池をプレゼント

※なお、我らがデジマート地下実験室は、21日(金)も場内を徘徊予定、発見した際は優しくお声がけください。


※次回「デジマート地下実験室・地下10階」は11/28(金)更新予定です。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

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