早過ぎた変型ギター

　1958年、ギブソンは３種の変型ギターを発表しました。フライングＶ、モダーン、そしてエクスプローラーです。数々の美しいアーチトップ・ギターを世に送り出し、既に歴史があったギブソン社がその時代にリリースするにはあまりにラジカルなギターばかりでしたが、それには理由があります。当時、後発のメーカーがソリッド・ギター市場に参入し、台頭していました。また、折しも世界的に宇宙開発が全盛で、近未来的なデザインやネーミングがもてはやされていた時代です。ギブソンが、本気で最先端のギターを市場に送り込んでやろうと考えても、不思議ではありません。

　当時の社長であるセオドア・マッカーティ自らがスケッチを描き、それをデザイナーに託したという３本のギターは「業界にショックを与えた。ショーを見に来たセールスマン（ディーラー）は、ただただ驚いていた」（セオドア・マッカーティ）。結局、ディーラー達は“あれはショーウィンドウに飾って人目を引きつけるディスプレイ用としてしか役に立たない”と判断、３本のギターは100本にも満たない生産数で、一度市場から姿を消しました。

　それから56年後の現在。120年の節目の年に、ギブソンUSAはエクスプローラーをリリースしました。これはもちろん、エクスプローラーが市場に受け入れられているからに他なりません。当時のディーラー達の判断は、今となっては「間違っていた」と言わざるを得ません。

　あまりにも早過ぎたギター、エクスプローラー。いったいどんな音がするのでしょうか。動画でチェックしてみましょう。

使用アンプ：マーシャルJVM205H（ヘッド）＋1960A（キャビネット）
使用シールド：ギブソン18' Purple Gibson Instrument Cable

Explorer 120の仕様とサウンド

　Explorer 120はマホガニー・ボディ、マホガニー・ネック、ローズウッド指板を採用しています。そのデザインは今見ても十分にラジカルですね。特にこの個体は、漆黒のエボニー・カラー（ヘリテイジ・チェリーもあり）ということもあって、実にロックな印象です。フライングVはブルース系やポップス系まで意外と幅広く使われていますが、エクスプローラーの使用者で思い浮かぶのはロッカーばかりですね。やはり生粋のロック・ギターなのでしょう。そうした感覚は試奏にも反映されて、いつもより歪みが多く、（私にしては）ハードなタッチで弾いています。ギブソンUSAはHPで本器のネックについて“〜fast, slim profile that so many rockers love”と紹介していますが、まさにその通りだと思います。テクニカル系のギタリストにも合いそうなネック・グリップです。

　サウンドは、パワーだけでなくバイト感もあり、歪みを深くしてもピッキングのアタックが埋もれることなく、むしろコツコツと気持ちよく響きます。このあたりはBurstbucker Proピックアップの威力でしょう。“オール・マホガニー”からイメージするような中域に寄った感じはなく、ローもハイもよく出ています。また、エクスプローラーを弾き慣れていないため、弾き始めて少しの間は右肘の位置決めに戸惑いましたが、弾いていると実に肘が安定するデザインだとわかりました。慣れてしまうと、逆にこれでないと弾けなくなりそうです。トグル・スイッチの位置が遠い点も、やはり慣れてくるとピックアップの切り替え自体がステージ・アクションとして成立しそうで良さそうです。やはりこれは、ロックなギターです。

　ロックが大好きだけど、エクスプローラーは未経験というギタリストの皆さんに、ぜひ一度触れていただきたいと思います。かなり新鮮な感覚で弾けることは、間違いありません！

※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは12月12日（金）を予定。