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ネック・ベンドでギターの音程はどこまで下げられるのか?

ネック・ベンド測定実験

  • 文:井戸沼 尚也(室長)
  • 出演:ジェイク・E・岡見(ネック・ベンド師)

第14回はネック・ベンド測定実験です。ネック・ベンドによってギターの音程をどこまで下げられるか? すなわち、ネック・ベンドの“K点”はどこか? チューナーを用いて数値を測定、皆様の安全なネック・ベンド・ライフに役立ちますことを願ってお届けします。

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【実験テーマ】ネック・ベンドでギターの音程はどこまで下げられるのか?

■ネック・ベンドにまつわる噂
マイケル・シェンカーはネック・ベンドのし過ぎでネックをへし折った

 1980年代、まだ生まれてもいないという方もいるでしょうが、とにかくその頃、日本中のギター小僧がある日突然みんな内股になり、Vモデルのボディの角を股間に挟んで恍惚とするという現象が起きました。これは思春期とか発情期とかいうことではなく、マイケル・シェンカーという御仁の影響力が、凄まじく強かったということなのです。そんなマイケル・シェンカーが、ネック・ベンドのし過ぎでネックを折ったという噂がありました。

 先日、ふとそんなことを思い出したのですが、その時に「ネック・ベンドって実際どの位音程が下がるものなんだろう?」という疑問が生じたわけです。半音くらい? 全音下がるのかな? というわけで、家にあるギターの中で最も手にする機会が少ないテスコを持って、やってみましたよ、ネック・ベンド。えーとこんな感じかな?っと、ぐいぐい……。

“ピキッ!”

 あれ、ピキっていいましたよピキッって。しかも、“どこがピキッていったのかいまいちわからない”のが怖いです……。うーむ、こんな恐ろしいことを全国のキッズが無自覚にやってしまったら問題だ。ダメ、絶対。これは実験室でネック・ベンドはどの程度まで音程が下がるのかを測り、それ以上はやっちゃダメよという“K点”を示すべきだろうと思った次第です。デジマート・マガジン編集部に話してみると「う〜ん、いいんじゃないですかね!?」という、前向きと解釈しても良いかもしれない雰囲気の返事が!
 こうして役に立たないと評判の実験室史上でも、最も役に立たなさそうな実験を開始することになりました。

【実験環境】

■使用機材
ディーン・マイケル・シェンカー・モデル(ギター)
マーシャル JVM410H(アンプ)
マーシャル 1960A(キャビネット)
プロビデンス S101(ケーブル)
フルトーン・クライド・ワウ・デラックス(ワウ・ペダル)
ダダリオ EXL110(弦)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
ボス TU-12 (チューナー)
◎ジェイク・E・岡見(ネック・ベンド師)

※セッティングについて
 今回の実験では、ギターからチューナーにつないで音程の変化を確認し、チューナーのアウトからアンプにつないでモニターしました。音程は、3弦5フレットのナチュラル・ハーモニックス、G音で計測しています。開放弦なども試した結果、ここが最も音程変化を確認しやすいと判断したためです。ギターはマホガニー・ボディ、マホガニー・ネックで、ジョイントはセット・ネックという仕様です。他材のVモデルも実験候補に上がりましたが、ここはマイケル本人と同じ材構成・構造がサンプルとして相応しいと判断し、本器を採用しました。

実験動画

下実験 目標値:−20セント

 まずは20セント、音程を下げることを目標にネックをベンドしてみます。なぜ20セント目標なのかというと、チューナーの目盛りが10セント単位なので、読み取りやすいという事情があります。“セント”という単位はチューナーなんかによく表記されていますが、“100セント=半音”になります。半音のさらに半分(50セント)、つまりクォーターはピアノでは基本的に出せませんが、ギタリストにはお馴染みの音程ですね。いわゆるクォーター・チョーキングで、ブルーノートを表現したりしているはずです(実際には半音の半音をジャストで出すという場合は少ないと思いますが)。今回の目標の20セントというと、半音の半分の半分(25セント)よりもっと低いくらいですから、楽勝でしょう。では、曲げますよ。よいしょっと。はい、できました。しかし、こんなわずかな音程の変化でもしっかりわかるんですから、人間の耳は大したもんですね。では次にいってみます。

 続いて−40セントを目標に曲げてみました。動画では“だいたい、40セントくらい、いったんじゃないでしょうか”と言っていますが、瞬間的に針がピクッとしただけで、実際の音程は−20セントと変わっていないようです、スミマセン。その後も何度かトライして“だいたい、40セント……”とか言っていますが、いいとこ30セントしかいっていません。これは、家で泣いているテス子の怨念で身体が縛られているとしか思えません。私では、ダメだ……。あの男を呼ばねば。

実験1 −40セント越えなるか?

 というわけで登場してもらったのが、ジェイク・E・岡見さんです。私にはダイムバック・ダレルかマキシマムザ亮君に見えるのですが、ジェイクである、ということです。どちらにしても、マイケル・シェンカーから遠ざかりつつあるのは否定できません。ひと通りジェイクさんの素敵なパフォーマンスを堪能した後は、実験続行です。動画では“先ほど私が記録した40セントを上回ることができるか?”などとぬかしていますが、私は40セントいっていなかったことがわかったので、今、大変に気まずい思いでこれを書いています……。

 では、ジェイクさん1回目のトライです。おおっ! チューナーの針が左に振り切れ(ここで−50セント、つまりクォーターです)、さらにクロマチック・チューナーのGの表記が一瞬F♯になって針が右側に移動し、戻ってきました。これは50セント、実際にはそれよりもう少し音程が変化した証拠です。凄いぞ、ジェイク! では次にいってみたいと思います。

実験2 −50セント越えなるか?

 ジェイクさん2回目のトライは先ほどの約50セントを、さらに越えることを目指します。では、やっていただきましょう。おお、針が左に振り切れて右から戻ってきて、中央に近づきました。クロマチックの表記はF♯を示しています。針の動きが速いのと、目盛り自体がわりと大まかなのでわかりにくいのですが、だいたい70セントほど音程が落ちました!

実験3 −100セント(半音)達成なるか?

 3回目のトライでは、ジャスト半音、−100セントを目指してもらいます。が、このあたりで気になるのはネックの状態。ジェイクさんに聞いてみると、「まだまだ問題ない」とのこと。え? てか、しゃべった? ここまで登場シーンの咆哮しか聞いていなかったので、一瞬ですが要注目のシーンでした。

 では、トライしてもらいます。ピーーーーン。ううん、微妙……。前回同様70セントか、80セント。するとジェイクさんが「もう1回やらせてください」だって。うわー、私こういうやる気のある人大好きなんで、ちょっと興奮しました。では、再トライです。ピーーーーーン。おっほ〜、ほぼ100セント! 約半音です。すごい! 素晴らしい! では次に行ってみましょう。

実験4 −100セント越えなるか?

 実はもっと簡単に半音くらい下がるかと思っていたので、ここまでの道のりが長かったです。次はさらに下を目指してもらいましょう(なんか、下を目指すというと気合が入りませんが)。で、ジェイクさん曰く、ちょっとそろそろ普通にネックを押していても厳しいので、ヘッドを押したいとのこと。なるほど、支点と力点の距離を置いてパワーを稼ぐという、てこの応用ですね(私は何も考えずに端からヘッドを押していましたが……)。では4回目のトライ、いってもらいましょう。おお、これは120セントくらいいってますよね。半音以上です。よし、この勢いで−120セント越えに挑戦です!

実験5 目標−120セント越え

 ここまで、順調に音程は下がってきました。ただ、やはり気になるのはネックの状態です。今回の実験テーマは「ネック・ベンドでギターの音程はどこまで下げられるのか?」ですから、ネックやジョイント部がどうなろうと限界まで曲げて音程の変化を見るというのが正しい実験のあり方なのかもしれません。ただ、我々も日夜ギターを撫でたりさすったりしているギター愛好家なわけで、ギターのネックを折るのはまったく本意ではありません。ジェイクさんの話では「たぶん、そろそろ限界」とのこと。そこでこの実験5をラストにし、ここで示した値を地下実験室が示す“K点”ということにします。

 では、実験5、ジェイクさん5回目のトライです。やっていただきましょう! ……ピーン。お? おおっ! おおお!!! いった、いきましたよ、−140セント以上、いきました! 天晴れジェイク、ありがとうジェイク!

実験結果

結論:ネック・ベンドで下げられる音程は−140セントまで!

 これは、あくまでデジマート地下実験室としての見解です。楽器の構造や状態、弾く人によってはもっと大幅に下げられるというケース(瞬発的に下げるならもっといけそうな気も)もあるかもしれませんし、もっと少ししか下がらないという場合もあるでしょう。でも、我々にはこれが限界でした。これ以上やったら、ネックの前に心が折れそうでした。

 実際問題、20セント程度でも聴感上の“下がった感”は得られることもわかりました。ネック・ベンドをしたいという人は、その程度で試してみてはいかがでしょうか? 実験室史上、最も役に立たなさそうな今回の実験はこれにて終了です。今回、私はほぼ見てるだけだったのでとてもラク……ではなく第三者的な視点で、客観的に実験全体を俯瞰することができましたよ、ええ。こういうのも今後アリかもしれません。またゲスト、呼んじゃおうかな、ふっふっふ。それでは次回、地下15階(5月1日更新予定)でお会いしましょう。

【注意】
ネック・ベンド奏法を行う際は、個人の責任において、細心の注意を払って行ってください。当コーナーで明示した数値はあくまで参考値であり、あらゆる環境に適応するものではございません。ギター側のダメージを含む万が一の事故に対して、井戸沼氏、及びデジマート編集部で責任を負うことは出来かねますので、ご了承ください。

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製品情報

ディーン・マイケル・シェンカー・モデル

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プロフィール

井戸沼 尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジンチャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。
井戸沼尚也HP 『ありがとう ギター』

ジェイク・E・岡見(じぇいく・いー・おかみ)
元ギター・マガジン編集部員。エア・ギターの達人で、『タモリ倶楽部』や『Gの嵐!』への出演経歴もある。近年はリットーミュージック出版部でなぜかブルース系、アコースティック系の教則書籍を編集。生粋のギタリストながら、この春からはベース・マガジン編集部への異動が発表されたばかり、その心中やいかに!?

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