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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第15回

始祖は羽ばたく〜前衛トレモロ・ペダル

トレモロ・ペダル

  • 文:今井靖

基本的には音量が上下するだけのシンプルな効果だが、繋ぐだけでプレイの印象までがらりと変えてしまうエフェクター、トレモロ・ペダル。ギター用ストンプの最古参でありながら、空間系エフェクトとしてはコーラスやフェイザーなどの後塵を拝し続けているマイナーな存在に、Dr.Dはスポットを当ててみた。いつもどおりの徹底リサーチの結果集まった、個性的な19台にぜひ触れてみて欲しい。

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プロローグ

 『トレモロ』。その歴史は古い。

 おそらくは世界最古のギター用エフェクターであり、多くのエレキ・ギタリストがその存在を知らされるFender“Tremolux”誕生の遥か前……GibsonやDanelectroなどのアンプにその効果を持つ機構が搭載されるよりももっと早くから、そのエフェクトは単独で存在していた。

 元はと言えば、オルガン用のレズリー・スピーカーの効果を模したとも言われているが、そのあたりは定かではない。トレモロがエフェクターとしてはっきりとそのジャンルを確立したのは、1940年代の後半に、ギター・メーカーのDeArmond社がリリースした据え置き型の“Tremolo Control(Model 601等)”や、ペダル式の“Trem Trol(Model 800)”の認知によってである。

 効果としては単純そのもの。ボリューム(音量)を意図的に上下させ、その振幅に音階を与えて波打つようなフレーズを生む、ただそれだけのエフェクトである。シンプルで、そして奥深い。構造も、初期には水銀などの流体金属を用いたものから、アンプ時代にはフェーズ管やパワー管の動作を利用したものへ、そしてやがてはアナログ・シンセなどにも用いられるVCA(Voltage Controlled Amplifier)のような電子制御系エフェクトへと進化を遂げたとはいえ、その根本部分は何も変わっていない。それにもかかわらず、今日になってもその性能は新しい世代によって次々に改良され続けている、実に奇妙なエフェクターである。この不器用なエフェクターの、一体何がそれほど人々を魅了し続けているのだろうか?

 世の中には、「伝統」という考え方がある。また一方で、「リノベーション」という現代造語が示すように、古いものを作り替える事により新たな価値を創出していくという流れが常にある。だが、エフェクターとしてのトレモロは、そのどちらのようでもあり、また、どちらの意味も完璧には満たさないという、実に不思議な立ち位置をキープしている存在なのだ。それは、このエフェクターの利用されてきたシチュエーションに大きく関わっていると言っていい。

 つまり、現代のギター・サウンドにおいて、否、このエフェクターが生まれてよりずっと、その存在が“必須”であった事など一度も無い、ということにその性質は集約される。存在は知られているのに、使わない人はきっと一生使わない。しかし、その価値や歴史は、何故かギター・サウンドの進化の過程で決して色あせる事はなかった。それは、トレモロが、マイナーな機材であるが故に“古さ”という事を武器にせずに済んだという幸運をして、その刹那的意義の為だけに存在し続けたからに違いない。ビンテージというプレミアが横行する現代のギター業界において、そのスタンスは、実はとても公正なものだったのである。

 古きもの、それ自体には実際それほど価値など無いものである。しかし、そこから生まれる新しい試みに今も埋没する事ができれば、必ず自分だけの一瞬の価値を信じて慈しむ事ができる。だからこそ、その孤高は尊い。歴史の長さ以上の価値をはねのけ、その都度その都度、ただそれを利用するプレイヤー達の愛着によってのみ生きながらえてきた、生まれたてのようにまっさらな価値のエフェクト……それがトレモロなのだ。

 そして、今日もまた新しい時代の、新しいプレイが、長いステージのほんの数秒のためにそのエフェクトに注ぎ込まれていく。だから、人々は思う。プレイも、トレモロに接する時のように常に初々しく在りたいと。自分自身の音楽は、自分の知る以外の価値など無くとも育てる事ができるのだ、と。

 全てのエフェクターの根、そして、ただ一つの尺度。トレモロは、今も“その時”を静かに待ち続けている……。

商品の選定・紹介にあたって

 ギター用ストンプの最古参でありながら、時代のトレンドの隙間を縫うようにマイナー・チェンジを繰り返し生き抜いてきたエフェクト、『トレモロ』。今回のリサーチでは、巷でも情報の多いBOSS“TR-2”Demeter“TRM-1”Fulltone“Supa Trem”strymon“FLINT”といったド直球の定番機種はあえて避け、機能や音質に独特の個性を掲げる現代的トレモロ機器の数々を追ってみた。国内ではモジュレーションの三番手か四番手としてコーラスやフェイザーに人気で押されているこのエフェクトも、実は、海外……特にアメリカではもの凄く需要のあるエフェクターとして認識されている。国内での認知度がイマイチ低い今だからこそ、個性的なハイエンド機にあえて目を向ける事で、その奥深さ、そして実践でも色あせないパワフルな存在感に興味を抱いていただけたら幸いである。

※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、出品されている可能性もある。興味を持たれた方はこまめにチェックしてみよう!

高機能タイプ


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01 Empress Effects [Tremolo2]

 近年ではVPRアライアンス(API500規格)のモジュールでついにレコーディング業界へも参入を果たしたカナダの天才エンジニア集団Empress Effects。その起業当初から拘ってラインナップしてきた高機能トレモロが、満を持して“2”にバージョン・アップ。完全にギター・レベルを超越した信号クオリティは健在で、あいかわらずの凄まじいS/N比はそのままに、今回はデジタル制御による精密なテンポ連携機能の強化と使い勝手の良いプリセットを搭載したことで、音質でも性能面でも業界トップのトレモロとして一歩抜きん出た近代的バランスを得るに至った。最大の改良点は、コントロール・ポート増設による外部デバイスとの同期機構だろう。外部タップによるトリガー・マネジメントと、エクスプレッション・ペダルによるリアル・タイムな各パラメータの複合コントロールは当然の事、CV(Control Voltage)信号を受信できるモードでは、業務用シーケンサーとシンプルに連動させることが可能なため、オーソドックスなCVペダルだけでなく、旧世代のアナログ・シンセをはじめ、Moogや最近注目を集めるKOMAE ektronikといったCV出力を持つデバイスと組み合わせて使う事で凄まじい効果を発揮できるようになった。別売りの“MIDI BOX”を用いるとMIDIテンポ・シンクにも対応するので、パソコンや、他のMIDI対応のディレイ・エフェクト等と同期して直感的なリズム誘導機器としての一面も発揮しそうである。もちろん、前バージョンでも人気のtwo speedモード(二つの異なるスピードを組み合わせるモード)や、追随性の高いタップ機能は健在で、今後も高機能トレモロの代表格としてユーザーの欲求を満たし続ける事だろう。
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02 Amptweaker [Swirlpool]

 PeaveyやKustom Ampsでアンプ・デザインを手がけた凄腕のエンジニア、ジェームス・ブラウンの職人魂を具現化するブランド、Amptweaker。“Swirlpool”は歪みやブースターを得意とする同社の中にあって唯一のモジュレーション・ペダルでありながら、60年代を思い起こさせるような熱っぽいローファイ感と、ビブラートをミックスする独特のうねりが高い評価を受けるハイエンド・トレモロだ。基本のサウンドは、その見た目と同じく無骨そのもの。トレモロがフェンダー・アンプに搭載され始めた頃の、フェーズ回路を通過するタイプ由来の雑味をともなった不安定感が絶妙に再現される。コントロールは非常にわかりやすく、2つのモードでそれぞれピッチ深度の異なるヴァイブ・モーションを切り替える仕様で、設定域はそれぞれかなり深い。両方を深くかけ、“SYNC”スイッチで位相を切り替える事により、低域の巻き込むような呻きを吐き散らすドップラー・スウィングも思いのままだ。また、ヴァイブをゼロにすればシンプルながら高純度な音質のボリューム・トレモロにもなる。そして、この機種の最大の魅力と言えば、やはり二系統のエフェクト・ループを搭載している点に尽きるだろう。一方のループは繋いだ機器の接続順を選択でき、もう一方は2モードにだけ追加されるプリ・エフェクト用として機能する。これはトレモロというエフェクトの概念を大きく変える可能性を秘めた機構で、近年の高性能なルーパーや特異な周波数を発するノイズ系のエフェクトなどを組み合わせる事で、奇想天外な振幅パターンを生成できる楽しみがある。ローファイ・サウンドに拘った自分だけのオリジナル・トレモロ生成を後押ししてくれる、新しい拡張スタイルを持った自由度の高い操作感が面白い新時代のユニットだ。
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03 Electro-Harmonix [Super Pulsar]

 エレハモの定番トレモロ“Pulsar”シリーズの最終兵器。前モデルまでのざっくりとした直感重視のシンプルなスタイルとは異なり、こちらはアナログ信号を強力にデジタル制御するタイプの正確なTAPディバイド(発音リズム設定)と8つのユーザー・プリセットを駆使する、近未来的なモジュレーション・エフェクトとして生まれ変わっている。しかし、そこはさすがエレハモで、お決まりのダークで重厚な音色はもちろん、独特な波形へのアプローチは他社の追随を許さない見事なコントロール配分を見せる。基本の波形(SINE、TRIANGLE、PULSE)のピーク幅をシームレスに調整できたり、その山をタップ・リズムにシンクロさせたりする事はもちろんだが、やはりこのデバイスの最大の特徴は、ステレオ出力を利用したパンニング機能と、ENV(エンベロープ)コントロールによる詳細なタッチ・トリガー設定だろう。RT.PHASEコントロールを用いる事で左右の位相のズレを利用した音の回りを生じさせ、リズム・エコーやパンニングを用いた豪快なスウィングを得る事ができる。ちなみにRT.PHASEが360°設定で、丁度右が左に一拍遅れる感覚だ。また、ENVはそのまま入力のフィールによってトレモロのかかりはじめをコントロールできるので、ギターのような楽器のピッキング・ニュアンスで発振のタイミングをコントロールするのに強力な武器となる。実に音楽的なインセンティブのために忠実に動作するトレモロで、単体でVCA起因のモジュレーションに拘ってどこまでも音を作り込みたいユーザーにとっては、これ以上に楽しい機材はめったにないことだろう。
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04 LOVETONE [WOBULATOR]

 90年代にサウンド・エンジニアの間に大流行した幻の超高級エフェクター・ブランド、LOVETONE。メーカー自体の活動期間が僅かだったため生産台数が極端に少なく、WOBULATORも例に漏れず今でも入手困難な人気機種であり、その独特の音色はまさに伝説とされている。基本はトレモロだが、接続するLFOによりオシレーターのような効果のピッチ可変でビブラートと似た低周波発振を起こしたり、ゲート的なトリガーを組み合わせてうねるようなパンニング・エフェクトを創出したり、また、オート・ワウのようなダイレクトなフィルター効果を生む事すら可能だ。トレモロの成分自体は、まろやかというか非常に余韻の強いオーガニックでリッチな振幅があり、わずかだがピッチの変調もともなった不思議な厚みのあるサウンドだ。さらに、二つの波形を重ねることができたり、独特の“Vibe”モード(トレモロとピッチの位相が逆転する。トレモロの効果は非常に薄くなり、ほぼピッチの横揺れだけになる)があったりと、今の時代にあってもその斬新さは全く衰えを知らない。まるでスタジオ機器のような迫力のある外観と高級なノブ類のバランスが、さすがの英国製を思わせて雰囲気もバッチリ。タップなどのテンポ・シーケンスが不要なアナログ・トレモロが欲しいならば、この機種を使いこなすことでその欲求は全て満たされるはずだ。
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05 JAM pedals [The Big Chill]

 ギリシャ発の前衛エフェクト・ブランドJAM pedalsがおくる、シンプルながら強力なアイデンティティと遊び心を両立するトレモロ“The Big Chill”。三つの波形とデプス、そして2つのチャンネルに割り当てられたそれぞれのモーション・スピードを調節することで、トラディショナルな二種類のトレモロを切り替えて使うのが基本だ。まったりとして温かい音質で、クリーンなギター・サウンドを太く引き立てる心地よい音質が持ち味。だが、このペダルがそれだけに留まらないのは、センターにある“CHOP”スイッチの存在故だ。このスイッチ、スライサーのように波形を任意の場所でぶった切る効果があり、トレモロの振幅を上手く利用する事で奇怪なミュート・パターンも生み出せる全く独立したエフェクトである。デプスの効かせ方によってもブレイクのフィールが絶妙に変わってきて、実に面白い効果をもたらしてくれる。さらに、“SP2”と“Depth”用にそれぞれ単独のエクスプレッション・ペダルを装着できるので、同時踏みやヒール&トゥなどの足技をステージで見せつけるような使い方が王道となってくるだろう。なんならこの際、Devi Everの“Peep”やM.A.S.F“Sissy Spasick”のような光センサー・タイプのEXデバイスで予想もしない破天荒な反応を飼いならしてみるのも一興だろう。プレイヤーの創造性を常に刺激してくれる有機トレモロの大本命だ。ちなみに、正弦波のみに機能を限定した“The Chill”もあるので、そのレトロな音色を正統派的に活かしたい人にはこちらもお勧めしたい。
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06 Suhr [Jack Rabbit]

 コンパクトながらギタリストに操作しやすい工夫が盛り込まれた秀逸なトレモロ・ペダル。5つの波形と、サブディビジョン・スイッチに割り振られた三つのリズム・パターンを組み合わせ、Rate(Speed)とDepthで追い込んでいくタイプの教科書通りの操作感だが、その音質はさすがのSuhr製……ハイファイになりすぎず、よくギターに絡んで歪みの中でも存在感を失わない輪郭のある抑揚が魅力的だ。機能的には、汎用のタップ・トレモロの他、プレイ速度に追従する「Strumモード」が秀逸。これはギターのプレイ信号を感知してテンポを設定できる機能で、公式のデモ演奏の中では弦を擦るクリック演奏程度のリズム入力だが、実際には、アルペジオやソロの細かいパッセージにもよく反応し、その都度スイッチを踏み込む必要こそあるものの、連続したテンポ・チェンジも慣れると簡単にできるようになる。歪ませたパワー・コードの刻みや跳ね戻りのキツいストロークでもほぼ完璧に拾ってくれるので、連続した別々のフレージングの中でその一つ前のリズムがトレモロの中に主張する追っかけっこの様な謎めいたフリクションに三半規管が悲鳴を上げる事請け合いだ。タップでリズムを作っていくのではなく、トレモロにリズムを追わせるというその発想だけで、このデバイスの個性は群を抜いている。自分のプレイが上達するほどにその効果も益々変化していく、そういう相乗効果を狙った個体と言って良いだろう。これほど奇抜なアイデアを盛り込んでいるにもかかわらずコンパクトな設計なので、トレモロが普段そんなに必要のない人でも、Depthを0にして、ただのクリーン・ブースターとしてとりあえずボードに格納しておけるのも嬉しい。
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07 GIG-FX [CHOPPER]

 骨のような細長いバー状ペダルを搭載した筐体と、その多機能ぶりで名を馳せた米国マサチューセッツ州に拠点を置くGIG-FX。“CHOPPER”は、トレモロをベースとした複合モジュレーションをペダル一つで思うがままにコントロールする事を目的に作られた、なかなかユニークなコンセプトのエフェクターだ。基本的には、トレモロ、ステレオ・パン、ディレイの混在比率を決めた後で、トリガーと深度調節を兼ねたペダル・スウェルによってフレーズに乗せていく使い方となる。中でも製品名になっているチョッパー・エフェクトは秀逸で、スイッチング奏法顔負けのぶつ切りサウンドを簡単に放つ事ができる。しかも、シロタマの間にいくつものリズム変化を織り込むのに右手を使う必要がなく、ペダルの角度を少し変えるだけでミュートの「間引き」を調節できるのは思った以上に快適だ。実際に、ピック・スクラッチやハーモニックスとともにスイッチング・エフェクトが動作するだけで、異次元のサウンドを体感させてくれる。ステレオ出しのアンプ二台出力だと、振り回すような重心移動がもの凄く、足下がふわふわしてくる。ディレイが混みすぎるとややアタックが削れて音痩せして聴こえるものの、全体的には追随性は悪くなく、そのまろやかで分厚い振幅は癖になる。このシリーズには更なる上位機種として、MIDIシンクやデジタル窓によるパラメータ管理ができる“PRO-CHOP”もあるので、気になる人はチェックしてみよう。
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08 Dawner Prince Effects [Starla](*)

 東欧クロアチアの小さなエフェクター・メーカーDawner Prince Effectsの実力を世界に知らしめた、知る人ぞ知るスペシャルなデバイス“Starla”。MXRと同等サイズの筐体に、昨今のハイエンド・トレモロのオイシイ部分を全て詰め込んだ様な隙のない設計が魅力。音も実にクリアで明瞭な余韻を持っており、音楽的だ。波形は基本の7種類と、それらをDutyトリムを利用して可変させるという恐ろしく広い設定域を持っており、さらにランダム・フォームを選択する事もできる。面白いのが、筐体側面に付けられたSync端子と呼ばれるRCA規格のジャックで、これを利用すると、繋いだタップ・スイッチからテンポを入力できる他、LFOを出力して外部デバイスに同期信号を送る事ができるようになる。本体のタップ機能を利用して、繋がれたフィルターの開閉を揃えたり、他にも、低周波発振を入力できるシンセサイザーそのもののクロックを合わせる事も可能で、上手く利用する事でギタリストがリズム先導を行うライブ・スタイルの確立も容易となるだろう。LFOはディレイ素子に入力される事で独特のフランジャー効果やコーラスのような変調を引き起こしたりするので、アナログ・ディレイなどを複合モジュールの一部として利用するような使い方も考えられる。ギター用トレモロの中では数少ない「信号源」という特性を備えたこの個体が、今後アンサンブルの形態を変えてゆく可能性は非常に高い。
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09 Z.VEX EFFECTS [Tremorama/Super Seek Trem]

 奇才ザッカリー・ヴェックス謹製のトレモロと言えば、定番の“SONAR”を思い浮かべる方も多いかと思うが、ここではあえて、彼にしか思いつかない恐るべき発想のトレモロ“Tremorama”について解説してみたい。フロント面にずらりと並んだノブは、全てボリューム。これは元々、同社の“Seek Trem”というエフェクターが原型で、8つのボリューム上を信号が連続で通過する事により、複雑なトレモロ波形を自由自在に組み立てられるという代物。まさにVCAの怪物ともいうべき機能で、ボリュームの足し算的シーケンスだけがトレモロを生むという、理屈上は考えられても誰も実行しなかったこの機構を真っ正直に実行してみせたZ.VEXの度量にまずは敬意を表したい。実際、その音は凄まじく、固定されたウェーブ・ノートとは異なり、全く思いもよらぬ脈動を生み出す。しかも、さらにその並びをランダム・スイッチでシャッフルしてやる事で、あえて不完全な空間美の中に泡立つような窒息のサウンドを呼び起こしたりもする。シンプルな操作で、トレモロというエフェクトの真の奥深さ、そして、シーケンス・エンジンの無慈悲な駆動に対して人間の想像できるリズムの限界を一挙に感じられる逸品だ。その発展形として、更なるボリューム分割能とGliss、スピード可変などで、より尖ったサウンドを生み出せる“Super Seek Trem”もあり、ますます同社のトレモロから目が離せない。
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10 Wampler Pedals [LATITUDE DELUXE]

 “Pinnacle”をはじめとしたハイエンドな歪みでおなじみのWampler Pedalsが提唱する、スマートな使い心地のトレモロ“LATITUDE DELUXE”。密度があるのにピークの抜けが良く、歪み成分を馴染ませるようなよく考えられた使い回しのできる音質で、製作者の耳の良さがわかる逸品。基本は3種類の波形と4つのビートから選択モードを選んでいけるが、特徴的なコントロール“Attack”がこのペダルをただのトレモロに終わらせない。このノブはループの立ち上がりに作用する緩やかなエンベロープ・フィルターで、縦の空間の広がりを持つトレモロの効果に対して、「距離感」を演出する事ができる。カンカンと石を叩くような平面的なレスポンスも、ゆっくりとせり上がるような波も、このノブ一つで自在に演出できるのである。また、“Space”コントロールによって、波形の間に任意にインターバルを設定できるので、明滅するような振幅や、いちいちつまずくような起伏に富んだチョップ・タイミングも生み出せる。しかも、単なるスライサーよりも音の流れができるようにバランスされており、パサパサとした奇妙な息切れサウンドを連続させることで、逆に大きくなだらかなピーク・カーブを感じられるから不思議だ。タップの感度も抜群で、助走の無いフレーズ切替えを挟み込みたい場合には、この性能は有り難い。高機能だが浅い階層で機能が完結するのも魅力で、初心者でもトレモロの楽しみを十分に引き出せる機種といって良いだろう。
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11 CUSACK [Tap-A-Whirl]

 ミシガン州ホランドの実力派エフェクト・メーカーCUSACK MUSIC。業界でもトレモロにいち早くタップ機能を装着した“Tap-A-Whirl”は、そのオリジナル・プロダクトにおいても斬新さで抜きん出ていたため評価も高く、数々のバージョン・アップとともに機能を強化され、今に至る。最新バージョンでは、3つのプリセット・モードの中にそれぞれ異なる8つの波形を組み合わせた計24ものフォームを基本形として格納するに至っている。そこに更なる変化を加える“Option”の独立したシーケンスを組み合わせることで、実に多彩な移動系の発声を堪能できる。ただし、これらはライブ中にパラメータを操作する事はできず、演奏中に選択できる音色は基本一つだけだ。これほど多岐に渡る表現力を有していながら何故、と考える人も多いかもしれないが、これが使っていくうちに意外にも合理的な仕様である事に気付かされる。最近のトレモロは高機能なだけに華麗なムーブ・プレイを夢見がちだが、タップが上手くいかなければ波形もクソもないのである。タップ機能単体のスイッチ以外に演奏中に干渉できない事は、言い換えれば、一度音を決めてしまえば、ライブでは難しく考える事なくタップにだけ専念すれば良いスタイルであるとも言える。さすがタップ・トレモロの利便性を初めて実用化したメーカーだけあり、その機能に関する実用管理も伊達ではない。オプションにより外部タップとの連動も可能になるが、それはあくまでオーダーの追加オプションにすぎない。長押しなどの誤作動の元になるような階層機構を持たないこのシンプルなタップで、思う存分リズム・トレモロをぶん回したい人には、一度使えばきっとこの個体の優位性を感じ取っていただける事だろう。
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12 RED WITCH [Pentavocal Tremolo]

 ニュージーランドのエフェクター・ブランドRED WITCHは、アナログ・サウンドを極めるプロ達からも長年信頼を獲得し続けているハイエンドなペダル・メーカーだ。その哲学の根本は機能性よりも「音質」。その彼らが生み出すトレモロは、近年のやたらに多彩な波形変化やカット・エフェクトによる奇抜なインパクトの追求ではなく、トレモロ自体の起伏に連動する帯域イコライジングと実践に則したボイシングを提供するところから始められる。“Pentavocal Tremolo”は、振幅域の音量にかかるトーン分配を差配する事により、高域を強調するエッジの立ったトレモロや、こもった様なダークなフィール、ゴリっとした低域の太いうねり等、同じ波形でも全く異なる印象を生み出す5つのボイス・モードを備える。さらにその上に、音量が下がった時に低域をプッシュする容量を単独でコントロールできる“BOTTOM”コントローラーを合わせ、トレモロの一見派手な効果に見落とされがちな、本当は最も重要視されなければならない音質的キャラクターを完全に一からメイキングするための機能が備わっている。それは、まるで歪みやコンプを制御するような微細なトーン・コントロールを要求するとともに、トレモロを単なる飛び道具として終わらせないようにという、製作者の執念すら感じる素晴らしいアプローチである。波形変化は、なだらかな三角波と鋭い変化の短形波をフット・スイッチで切り替えて選ぶだけというシンプルさ。タップも何もなくとも、より音楽的なトレモロの品質にさらに踏み込んでいくようなコントロールを有した、真に玄人好みなトレモロと言えよう。
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13 Rockett Pedals [Revolver]

 元Matchlessアンプのデザイナーとして知られるマーク・サンプソンがRockett Pedalsと組んで作り上げた、ビンテージのアンプ・トレモロを再現したエフェクト。鳴らしてみると、期待通りS/Nは良好なのに、しっかりとチューブっぽい中域の張りが感じられる力強いサウンドが得られる。公式には言及されてはいないが、VOLUMEはわずかにダイナミクスに関わるサチュレーションを増幅させる効果を有しているようだ。エフェクト・スイッチをオンにせずとも、この状態でトーンが効くので、かなり優秀なイコライザー/ステレオ・スプリッターとして機能するが、やはり、エフェクトをエンゲージするとチューブ・ライクなゲインがよく出てくるので思わずニヤリとしてしまう。音質自体はクリアなのに、適度にローファイ感があり、ややロー・ミッドが強めに出たとろりとしたトレモロで、倍音の余韻も大きい。その本領はステレオ時に“PITCH”側にトグルを入れてやった際に発揮される音質で、それは上質なサーフ・リバーブと合わさるとクリーミーな輝きを放つ、まさにビンテージ・トレモロのゆらぎ。本当にわずかながら地を這うようにゆらめくフェーズの振幅が加味されるのだが、それはかつてFender以上と言われたMagnatone製のビブラート・ユニットを元にサンプソン自身が自らのアンプ用に開発した音をそのまま再現しているだけのことはあり、温かさとあの一種独特な不穏なダーク・フィールに包まれた素晴らしい質感を演出してくれる。加えて、波形の脈動に応じてパンするODDモードや、ステレオ出しのパルスを揃えるEVENモードにより、呻くようなフランジングやまるでリング・モジュレーターと錯覚するような干渉波を生み出す事もできる。ビンテージ・トレモロ/ビブラートのエッセンスをしゃぶり尽くしたいユーザーにはもってこいのユニットだ。
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14 PiGtRONiX [TREMVELOPE](*)

 前衛的な発想に基づいた機能の融合により、独創的なエフェクトを生み出し続けるPiGtRONiXの新感覚トレモロ“Tremvelope”。その趣旨は、名前のごとくエンベロープ・フィルターを利用した、ピッキングによるダイレクトなトレモロ・コントロールにある。トレモロ部分のコントロールだけを見ると特に目新しいものはなく、選べる波形も二種類のみと物足りないように感じるかもしれないが、このトレモロの真価はそんなところには無い。左にあるフット・スイッチ“ENVELOPE”を踏んだ瞬間から、その本当の機能が解放されるのである。ENVELOPEモードに入ると、ピッキングの強さによってトレモロが反応し始めるポジションを変えられるSENSITIVITYが効くようになり、慣れれば手元のニュアンスだけで一瞬のトレモロ効果を呼び出したり、コード・ストロークの時だけトレモロが自動的にかかったりする事さえできるようになる。さらに、トグル・スイッチ側のSPEEDセレクトにより、同じくDEPTHトグルでVCAが減衰(-)または復帰(+)するタイミングで、波形のスピードを遅くしたり(-)速くしたり(+)できる。また、ACCELLERATIONにより、トリガーに合わせたエフェクトの立ち上がりスピードをコントロールできるので、立体的なスウィング・パターンを強調したドップラー効果のような音も思いのままだ。外部接続ではスピードとパンニング(ステレオ)/ボリュームにそれぞれエクスプレッション・ペダルを割り振れる他、トリガー信号を取り込む入力もあり、タップ機能が無くても十分にリズム・リンクを行う事が可能だ。曲中に、ピッキングとペダル操作だけで、あらゆる多彩なフレージングに合わせたトレモロ・ミッションを完結したいユーザーに最高にお勧めできる、変幻自在な機動ユニットだ。
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15 DREADBOX [TAFF]

 ギリシャはアテネの新星エフェクト・ブランドDREADBOXは、ブランドを創設するやいなやその斬新な音質と特異なルックスにより世界中で注目を集めることとなった今、最もアツいメーカーの一つと言えよう。“TAFF”は、まるでビンテージ・シンセのようなアナログVCAにLFOの波形効果を合わせることのできる、まさに電気式トレモロの原点とも呼べる構造を持ったエフェクトだ。音質はさすがにアナログ構成らしく、音量が上がると倍音とともに雑味も増えるようなおおらかなトーン・レンジを持っているが、ノイズそのものは少なく扱いやすい印象だ。スピード、デプス、波形選択、ピーク容量とお決まりのコントロールだが、出力がアンプ構成のためボリュームでなくGAINとなっている点がマニア心をくすぐる。実際にGAINを上げていくと、ピーク付近が徐々にサチってくる他、音像が天井に張り付くようなコンプ感に被われてくるのが特徴で、現代風な、エフェクトとは切り離されたハイファイなボリューム・コントローラーとは真逆に当たるその効きは、実に音楽的で優雅だ。しかも、同社の“Kappa”のような多段階ボルテージ・ジェネレーター(CVコン)を入力する事により、まるでZ.Vex“Tremorama”を彷彿とさせるような奇抜なびっくりトーンから、ぐつぐつと煮えたぎるような粘ついた振幅まで思いのままだ。元々シンセの一機能として開発されていた事でライン・レベルの信号にも十分対応できるので、センド/リターンで使ったり、リアンプ時にシステムに組み入れるとかなり強力な効果を発揮しそうだ。ギター対応のシンセ系VCAモジュールとしては、Moogほどの高級指向でなく、また、9V駆動で、コントロール系も合わせた本物のアナログ・トレモロを待ちわびた人たちにとっては、今後垂涎の的となるだろう。
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16 Rainger FX [Minor Concussion]

 ナイフ・スイッチの爆音ファズでおなじみのイギリスのメーカーRainger FXによる、あらゆるジャンルから逸脱した新発想の変態トレモロ・ユニット“Minor Concussion”。通常のタップ・スイッチやCVコントロールによるシンクロは一応できるのだが、この機器の最大の特徴は付属のマイクからのダイレクトなトリガー・パルスによるリズムへのアクセスにある。具体的に言えば、マイクでドラムのキックを拾う事により、その発声に応じてリアルタイムに音量を下げるトレモロ効果を生み出したりできるというものだ。もちろんキックと全く同時というわけではないが、上手くアップ・ストロークで裏打ちを拾うように減衰したギター音が立ち上がってくるのは、細かくリズム体に合わせてまるで本当にカッティングをしているかのような臨場感を生む。トレモロ・スピードは全て外部のトリガーかタップ任せなのでスピード・コントロールにあたる制御系は本機に付属しないが、そのかわり、トリガーに応じて減衰する音量を解放するタイミングを操作できるRELEASEコントロールを持っているのも大きな特徴だ。マイクによるリズム感度も非常に高品質で、テストではBPM200前後のツーバス程度なら余裕で反応してくれた。スライドやアーミング、ハーモニック・スクウィールのような伸ばし音のピッチ・テクニックと合わせると、さらに予測不能なビート・フレーズやミニマル・ミュージックのような不可思議なフレーズ・ループも創出可能。トレモロという概念を活かしつつ、誰も思いつかないような破天荒なリズム・プレイをライブで演出したいプレイヤーに、ぜひ使って欲しい製品である。
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個性派音色タイプ


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17 AKIMA&NEOS [Flash]

 現役のギタリスト秋間経夫氏が主宰する、国産ハンドメイド工房“AKIMA&NEOS”。そのシンプルかつダイレクトな着眼点は、ライブ環境でこそ映える本当の意味での「使える音色」を持つデバイスを創出する事でも知られる。“Flash”は製作者も「トレモロ的なもの」と評するほど、過激な音色と無駄を削ぎ落としたコントロールが人気の発振ユニットだ。最小点ではほとんど音が出ないほどの極端なV字の波形を、圧倒的に広いスピード域で操ることで、蚊がひらめくようなチープなうねりから、たたみ掛けるようなマシンガン・ブラストまで自在に操れる。コントロールはSPEEDとLEVELのみで、仕組みを知らずとも直感的にアクセスでき、どんな時でも期待を裏切らない飛び道具としてしっかり成立している。オススメは、ルーパーやディレイなど一定のリズムや周期を持つエフェクトとの組み合わせで、上手くスピード・コントロールがハマれば、音の立ち上がるタイミングを間引いた変拍子のようなループを生み出したり、フット・スイッチとの併用でストロボ効果のように細かいスライスを一ヵ所に集めたりできる。機能がシンプルというのは良いもので、目的さえしっかりしていれば、その無限の組み合わせによって自分のパフォーマンスの可能性を押し広げてくれるきっかけになってくれる。音質自体は高域重視のさばさばしたローファイな余韻を保っており、どんなに極端なセッティングでも無機質なサウンドとは無縁だ。遠慮せずに、手持ちの全エフェクターとの相性を確かめるつもりで、ボードの最後段に入れて気分で踏んでみることをお勧めする。
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18 MASF PEDALS [Kollaps]

 キワモノぞろいのラインナップを掲げ、国産変態系サウンドの旗手の名に恥じぬ生産意欲で、常に人々にエフェクターの可能性を見せつけてくれるMASF PEDALS。その中でも、これまた極めつけなアバンギャルド・トレモロ“Kollaps”が凄い。コントロールは、デプス・コントロールと、二種類の波形切り替え、そして内部のGAINトリムのみ。そう、トレモロで最も肝心な「スピード」の設定が無い。何とこのエフェクター、トレモロなのに、スピードは完全なランダム。フット・スイッチを踏むたびにトレモロの周期が勝手に変化するという、驚くべき機構を採用しているのが最大の特徴だ。ただ、いくらランダムとはいえ、所詮普通に使える程度の音の変化だと考えていたらきっと腰を抜かす。ジー、と、繋がったノイズのようにしか聴こえない超高速から、何秒間も音が出ないという嫌がらせのようなスロー設定までが、完全にその範疇なのである。振動のように聴こえるならまだしも、特に音が途切れるのは厄介で、どんな美しいフレーズを奏でるソロの真っ最中でも、その瞬間は容赦なくやってくる。無音……まさに「事故」だ。その「事故」を意図的に引き起こす事が目的らしいが、これは度を超している。とはいえ、数回に一回だが、その無音状態でさえ不思議にリズムにうまくハマるときがある。けしからん事に、そのカタルシスが明らかに癖になる楽しさだから厄介だ。頭で考えても絶対に起こりえないことを、この無慈悲な機械は平然とやってのけるのである。さすがMASF。こんな事を思いつき、本当に実行してしまうあたり、やはりここのポリシーは「本物」だ。ちなみに、フット・スイッチが一つしか無い“Kollaps”は直列で繋いでいるとバイパスはできない。覚悟を決めてこのエフェクターに向き合おう。
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19 JACQUES [The Spin Acher]

 トラディショナルな歪みでヨーロッパを中心に売り上げを伸ばしているフランスのエフェクト・メーカーJACQUES。“The Spin Acher”はそんな彼らの初期プロダクツの一つで、メーカーの音質へのこだわりを業界にアピールしたトレモロ・エフェクトとして名を知られている名機だ。コントロールはシンプルそのもので、広めのブースト域を持つVOLと、トレモロ・スピード調節用のRotoя、そしてエフェクトへのエンゲージ機能を兼ねたSPINの三つのみ。音作りの胆になるのはこのSPINで、通常のトレモロで言うデプスとシームレスな波形変化を合わせたようなコントローラーのため、ピーク・カーブの傾斜や丸みと同時に音が立ち上がるタイミングまでもシフトさせてしまう。しかもトレモロそのもののスピードに従って削られていく帯域も継ぎ目なく変化し続けるという代物。一見厄介に思えるかもしれないが、実際にギターで音を出しながらノブを回すと、実に絶妙なバランスでSPINとRotoяが噛み合っているのがわかり驚かされる。もちろん極端なセッティングでは山が潰れて音が出なくなったりもするが、ほとんどのセッティングでその漂うような上品な浮遊感を崩してしまうような事は無い。歪みと合わせるとその傾向は更に顕著で、巻き込むようなエッジが音量の下がった部分で丸く削られるので、まるで二つの歪み波が交差しているような複雑なイントネーションを生み出す。しかも、波形が入れ替わる瞬間に心地よいダーティな倍音を残すのがまた憎らしい。確かにそのサウンドは『有機的』『音楽的』と称されるだけの事はあるが、それ以上にアコースティックな感性が求められる奥の深いコントロール系も合わせて、唯一無二のバランスを築き上げている奇跡のトレモロと言っても良いだろう。
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エピローグ

 トレモロと言えば、Fenderアンプ……そう言われるほどに、1955年に発売された“Tremolux”を皮切りに、同社によるトレモロ・エフェクトの一般普及化への貢献は大きい。だが、それにも増して、人々に多くの誤解の種を植え付けてしまったその時代のちょっとした“齟齬”が今でも語りぐさになっているのはご存知だろうか。

 その一つは、ストラトなどに搭載されている“シンクロナイズド・トレモロ”という名称についてだ。アームによって弦のピッチをコントロールするこの機構を一大メーカーであるFender社が「トレモロ」と呼んでしまった事で、多くの人がこの音程変化を「トレモロ」の効果と勘違いしてしまったのである。トレモロとは、基本的に上下するのは音量だけであるため、この機構は正しくはBigsby等と同じく「ビブラート」と呼ばれなければならないはずなのだ。そして更にアンプの方では、今度は機構的には「トレモロ」であるものを、あえて「ビブラート」と呼んでしまっている“Vibroverb”のような機種も存在していた。実際にはフェーズ回路の関係でわずかにピッチのズレが生じるものの、それは意図したものではなく、やはりそこに搭載されているのは間違いなくトレモロだった。時代的にトレモロとビブラートの定義が今よりも曖昧であったことは間違いないが、それでも、これら二点において反対の意味として名称を公開した事はミスと言わざるを得ないだろう。勘違いして憶えていた人は、今のうちにきちんと「トレモロ」と「ビブラート」がそれぞれどういうものか正確に学んでおくと、今後恥をかかなくて済む。

 トレモロは、自分にとっても思い入れのあるエフェクターだ。ペダル・ボードらしきものを自分で組んでいた頃には、グヤのFLIPシリーズの真空管トレモロ“VT-X”を意味もわからずハッタリのために積んでいたものだ。これは12VDCアダプターをなくして苦労した思い出も一緒になっているのでよく憶えている。他にも、ラック時代に入ってからもCAEの“Super Tremolo”を積んでいたし、最近では、Catalinbreadの“SEMAPHORE”なんていうけっこう高機能なものがボードに出たり入ったり……。ジャンル的に何年も触らなくなっても何となくシステムに入れてしまっている、言わば、自分にとっては精神安定剤的な役割のエフェクターということらしい。だがまあ、こういう関係性が自分とトレモロにはピッタリの距離感なのだろうと、ふと思ったりしているのである。

 それでは、次回5/6公開の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

トレモロ/ヴィブラート

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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