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  • 【新連載!】魅惑のジャパン・ビンテージ Vol.1

Greco MR1000 feat.稲葉政裕〜グレコのオリジナル・ラインを決定づけた名器

Greco / MR1000(1977年製)

ビンテージ・ギターとの出会いは一期一会である。歴史の中に埋もれた数々の名器たちについて、文献やネットの情報で名前や存在は知っていても、実際にそれらを手に取る機会は常に限られている。特に、そのサウンド──何十年という歳月を重ねてきた貴重なギターが、熟練の使い手によって正しく奏でられた時の響きをリアルに体感することは、今や、あらゆるプレイヤーにとって尽きない興味となっている事だろう。新連載となる「魅惑のジャパン・ビンテージ」では、かつて「世界のギター工房」とまで呼ばれた我が国の誇るべきギター産業の最盛期、特に70年代〜80年代前半に製造された国産エレキ・ギターにスポットを当て、その貴重な個体を毎号1本ずつ紹介していく。プロ・ギタリスト稲葉政裕氏による試奏動画とともに、実器の詳細写真、各モデルの解説等もあわせてご覧いただく事で、時代を彩った国産ビンテージ・ギターの偽らざる実力を感じ取っていただける事だろう。……かつて憧れたあのサウンド。時を越えて蘇る百花繚乱のビザールの香りも誇らしく、ジャパン・ビンテージを愛する全ての読者に捧ぐ!

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グレコにおけるオリジナル・ラインの定着を決定づけた歴史的名器“MR”

 神田商会のプライベート・ブランドとしてグレコ(GRECO)が発足した1960年代、折しも日本はビートルズ来日をピークにした空前のエレキ・ブームのまっただ中であった。グレコは、その波に乗るように、EGシリーズ(レス・ポールのコピー)等の質の高いコピー・モデルを市場に輩出することで商業的な成功を収めてはいたが、同時に、さらなるブランド力向上のためには通常ラインにおけるオリジナル・モデルの存在が不可欠であると考えていた。72年に開始した「オーダーメイド・システム」によってより高度な製造ノウハウの蓄積に成功した彼らは、来たる74年、遂にレギュラー・モデルとしてはブランド初のオリジナル・エレクトリック・ギターとなる“RW-700”の発売にこぎ着けるのである(ベースでは、同年のオリジナル先発モデルとして“PB750デラックス”がある)。肝煎りだったこのギターが惜しくも製造期間約1年という短命でリリースを終える中、翌年、新たなオリジナル・モデルを模索するグレコにとってブランドの運命を変えるとあるバンドが来日を果たす。それが、当時全米で人気の絶頂に達していたイギリスのロック・バンド、バッド・カンパニー(Bad Company)であった。 

 1975年3月、グレコにデザインや企画プランナーとして参加していた奈良史樹氏は、レコード会社の案内で神田商会を訪れたバッド・カンパニーのギタリスト、ミック・ラルフスと邂逅を果たす。そこで意気投合した二人は、話し合いの中から今までに無い全く新しいギターの構想を得たのだった。GIBSONのようなセットネック構造を持ちながらも、グレコでは初となる24フレット仕様、メイプル・ネック、ノン・ピックガード……奈良氏の全面プロデュースという形で大胆な試みを盛り込みつつスタートを切ったそのギター・プロジェクトは、パーツ、材の選定及びデザインに富士弦楽器(現フジゲン)のバックアップを得て、やがてミック・ラルフスのカスタム・モデルとして世に出ることとなる。そのギターに付けられた銘が“MR”。正対称ダブル・カッタウェイのグレコ製フル・オリジナルとして国内外で高い評価を得たこのシリーズは、その後10年近くに渡り正規ラインナップされ続けるロングセラーとなり、同時代を支えるフラッグシップ・ライン、GOシリーズや、MXシリーズ等に多大な影響を与えたのである。MRこそ、70年代の英気溢れるグレコの象徴として、オリジナル製造へと舵を切った国産ブランドの潮流を喚起する、その起点となった歴史的モデルである。

Greco / MR1000(Back)

MRシリーズのラインナップ

 レギュラー・ラインとしてラインナップされた最初のMRは、75年に発売された“MR800”と、その上位機種“MR1000”の2機種。ちなみにMRシリーズの愛称は、同年11月号の『MUSIC LIFE』誌で公募され「ミスター“Mr.”」に決定されている。77年には新機種のエントリー・モデルとして、22フレット、“P-90”タイプ・シングルコイル・ピックアップ「PU-104」を2発マウントした“MR600”が追加され、3モデル体制になるとともに、“MR800”、“MR1000”にも各所に仕様変更が加えられた。その後、84年頃には全てのモデルがカタログ落ちするが、97年にはリイシュー・モデル“MR-1800”として再生産される。細かな仕様こそ異なるものの、この機種は、グローバーのペグや復刻されたBR-2020ブリッジを採用するという初期の“MR1000”を強く意識したモデルでありながら、限定でゴールド・トップのモデルも少量生産するなど、ツボをついたルックスでオリジナルMR愛好家達から好評を得た。2012年には、グレコは新たなMRとしてMRnシリーズを発表し、今に至る。

MR1000の主な使用アーティスト

 シグネチャー・モデルの当人であるミック・ラルフスは、75年のシアトル公演前にMRのプロトタイプを持って訪れた奈良氏を歓迎し、リハの間中そのギターで演奏したという。また、その後もオーダーメイド用の筆記体ロゴを持つ“MR1000”を使用している(愛称の公募写真には、その実器が掲載されていた)。また、同じバッド・カンパニーのポール・ロジャースも、MRシリーズの広告に出るなど、そのユーザーとしても知られる。国内では、希少なM「Mポジ」インレイの“MR1000”を使用した、ルイズルイス加部(加部正義)や、森園勝敏が有名だ。ちなみに森園が広告で使用した“MR1000”は、テイルピースにトラピーズ(ブランコ)・スタイルを採用したカスタム品。

MR1000のディテールを見る


ヘッドストック

 “MR1000”のヘッド・ロゴは、前期型(75年〜77前半)も後期型(77年後半以降)も一貫してレギュラー・ラインのものはこの仕様で統一されている。例外的に、プロトタイプではメタル・プレート・ロゴが、また、『MUSIC LIFE』の愛称募集広告に掲載されたミック・ラルフスの実器にはオーダー品に用いられる「The Greco」の筆記体ロゴが使用されていた。トラスロッド・カバーには最初期に「先端山形長方形の黒白2プライ」のものもあったようだが、後にすべてこの「先端山形先細の黒1プライ」に統一された。指板のポジション・マークは前期型ドット・タイプ。76年には通称「Mポジ」と言われるM型インレイも選択可能になるが、作られたのはごく少数のようだ。後期型では菱形のダイアモンド・ポジションに変更になった。


ピックアップ

 前期型“MR1000”に搭載された、アレンビック社製フェライト・マグネットを使用したU3000ピックアップ。試奏器はカバーが外されていた。キャビティ部は浅く、「足」の部分だけが深く彫り込まれたスタイル。同時期のグレコでは“EG1000”や最初期の先発“MR800”(“MR1000”が市場に出ると、“MR800”のピックアップはマクソンU2000に変更された)にも搭載されていた高出力なハムバッカーである。後期型では、4芯シールド構造のフル・カバード・ピックアップ、P-1へと変更された。


ブリッジ

 バダス・タイプのコンビネーション・ブリッジ、オリジナル、BR2020。グレコがバダス・ブリッジの欠点である前傾姿勢を抑制するため、ブリッジ前方中央にイモネジを配置した3点支持式の特殊形状を持つ。富士弦楽器で考案され、信越鋲螺が製造を担当したもの。これも、後期型“MR1000”では、チューン“オー”マチック方式のBR2005ブリッジとGOシリーズなどで見られる三角版を持つTP-GOテイルピースに変更されることとなる。……ちなみに、97年のリイシュー・モデル“MR-1800”では、BR2020ブリッジも復刻されたが、ストリング・ガイドの溝を無くしたり、より低い弦高でのセッティングが可能になるなど、現代的な仕様変更が施されていた。


【コントロール】スピード・ノブ採用の2ボリューム/2トーン仕様。セレクターは3Way。この写真の個体は、ピックアップ・セレクターのトグル・スイッチがブリッジから遠い位置にあるが、比較的近くに配置された物もあったようだ。また、ノブの間隔ももう少し広い物があるなど、仕様はまちまちだったらしい。

【ヘッド裏&ペグ】ゴールドのシリアルNo.が入ったヘッド裏。頭の「G」に続く二桁で何年製か判別できる。ペグはグローバー製“101”を3対3でマウントしている。70年代らしいボリュートも独特の存在感を放つ。

【ヘッド・サイド】ヘッド角はレス・ポールとほぼ同程度の14度〜15度。フレット・エッジ・バインディングも丁寧な仕上げになっている。ヘッドのバインディングについては70年代末のマイナー・チェンジ以降に徐々にバインディングの無い仕様に変更されたようだが、正確な時期は定かではない。

【ネック・ジョイント】L.A.Cジョイント以前のディープ・ジョイント方式を採用。ダブル・カッタウェイ&21フレット・ジョイントの強度を補うため、独特のロング・テノンでネック接合部の剛性を図っている。控えめだが、ハイ・ポジションの演奏性を高めるヒールレス加工も施されている。

【ボディ・サイド】ボディ・トップはメイプルの削り出し成形によって、絶妙のアーチを描く。ボディ厚は薄め。前側のストラップ・ピンは6弦側のホーン先端に取り付けられている(前期型、最初期の“MR1000”は、ネック・ヒールあたりにピンが取り付けられている個体も存在する)。

【アッセンブリー】2ボリューム、2トーン、3Wayトグル・スイッチがシンプルに纏められたコントロール系。グラウンドは導電塗装ではなく、キャビティ内にアルミ箔を貼っただけの原始的な仕様。

稲葉政裕’s インプレッション

●ルックス、演奏性

 まるで、セミアコやES-335みたいなボディの大きさが少し残っていて、本当にオシャレですね。当時はあまり無かった形なんじゃないでしょうか? 僕は、基本的にバー・ブリッジというのはフロント・ピックアップからブリッジまでが密集していた方がカッコいいと信じているので、特に、この“MR1000”みたいに、ブリッジを中心にボディの前と後ろが同じぐらいの距離のものが、個人的にもの凄く好きなんです。「濃い顔の女性」みたいに愛おしい、といいますか。あと、スピード・ノブも効いていますね。ジェフ・ベックのレス・ポールがこれで、凄く流行っていた記憶があります。ミディアムで24フレットというのも時代を感じさせてくれますよね。1フレットでも多い方が勝ち、みたいな(笑)。ただ、個人的にはフレットの数よりも、むしろブリッジの傾斜に対して指板のRが微妙と言いますか……。ちょっと技をかけて弾くような時には、3弦が高く感じるんですよね。でも、2弦をチョーキングすると3弦にうまくフィットするので、そちらはそれで凄くやりやすい。きっと、70年代にはこのバランスが弾きやすいと思われていたってことだと思います。フレットにデカイのを打ってあるのも、そのあたりのプレイ・スタイルに合わせてのことだと思うとしっくりきます。細やかなコード・ワークよりも、フレーズを活かして大胆に弾くのに最適なギターですね。

●サウンド

 レス・ポールを想定していると、もう少しハイ上がりで、潰れる感じがありますね。パラパラ弾いてもちゃんと発音しないので、ピッキングからしっかりと演奏しないといけない。ただ、一音一音しっかりと弾くことで、それはもうびっくりするくらいゴキゲンなサウンドになります。思い切ってクリーンは捨てて、高域がギラギラっとする感じを活かしてクランチで音を割った方が気持ち良いんじゃないでしょうか? サステインも凄くあるしレスポンスも良いので、やっぱり、Marshallみたいなでっかいアンプにドンと入れて、わりと伸びやかなロング・トーンのギターを弾くのが断然オススメです。ギュイーンって、ツイン・ギターでやるのもいいですね。あと、ピックアップは、本当はこれ、カバーがあるはずなんですよね。カバーがあった方がもっと音が整うというか、もっと良い音になるような気がします。僕だったら、大きな会場でやるようなロック系の現場に持っていきたいなぁ……GLAYとかに入れれば、ね? なかなか入れてもらえないんだけど(笑)。

●“MR1000”の思い出

 昔、凄く欲しかったギターなんですよ。高校くらいだったんじゃないかな……それこそ、バッド・カンパニーが流行っていた頃。本当は、ミック・ラルフスよりもポール・ロジャースの方が好きだったんですけど、何で欲しくなったんでしょうね(笑)。そういえば、当時、友達が買ったグレコに教則本とカセット・テープが付いてきて、そこで竹田和夫さんがシングルコイルのMRを持っていたのを憶えています。実際の“MR1000”は当時で10万円くらいしましたし、結局買えませんでしたね。でもいいんです、僕は成毛滋門下ですから(笑)。そのかわり、最近発売された“MRn”を流行らせようって運動をしていますよ(笑)。

試奏環境について

●システム:試奏機/GRECO MR1000(ギター)→AT’S FACTOR“稲葉日和”(稲葉氏用カスタム・オーバードライブ+コンプ(ポスト)→SHIN'S MUSIC“Baby Perfect Volume”(ボリューム・ペダル)→MOOER“REECHO”(ディレイ)→TC ELECTRONIC“Mini Flashback”(ディレイ)→FENDER“’68 Custom Deluxe Reverb”(アンプ) *上記システムを基本とし、サブとしてMOOER“SOLO”(ディストーション)とMXR“Dyna Comp”(コンプ[プリ])を適宜追加しながら使用。また、ボリューム・ペダルからの分岐でモリダイラ“Bit Tune”(チューナー)を常設。マイクはSM57をオンマイク、コンデンサー・マイクをアンビ用として使用し、ZOOM H6レコーダーで収録した。

 試奏の手順としては、まず、試奏器“MR1000”の状態チェックを稲葉氏本人に行ってもらうことから全てが始まる。アンプはクリーンな状態にセット(基本的にコントロールはフラット)。歪みは基本的にエフェクターで作ることとし、試奏ギターに合わせて空間系で数パターンのコントラストを調整した後、再度ギターの運指テストとピッキングの確認作業を行った。それらの準備が整った所で、稲葉氏のタイミングで録音開始。クリーン、クランチ、リードをまんべんなく各ピックアップを切り替えながら、試奏を繰り返す。素の音だけでなく、エフェクトを深くかけたパターンや、指弾き、ピッキングの奏法にも変化をつけ、稲葉氏の感覚でギターの個性を引き出すようなプレイを模索していく。“MR1000”の音録りは順調に進み、30分もかからず数本のメイン・テイクが揃い、終了した。

TC楽器 1Fエレキギター売場

 中古からビンテージまでエレキギター700本以上、エフェクター500点以上、さらに数多くのピックアップ、パーツ、小物等、圧倒的な在庫量を誇る、都内でも有数の中古/ビンテージ・ショップ、TC楽器。今回の試奏器GRECO MR1000はTC楽器の在庫からお借りしたものだ。国内外のブランドを問わず、ビンテージから中古楽器まで幅広いラインナップを扱うが、中でもジャパン・ビンテージの在庫を豊富に揃えているのは、ファンにはたまらないところだろう。2Fはアンプも大量に扱っており、気になったギターがあれば2Fの好みのアンプで試奏出来るのも同店ならではの嬉しい環境と言えるだろう。販売される楽器は専門スタッフの手により、完全に調整・クリーニングされ、詳細なスペックを調べた上で、その楽器に正当な評価をして販売されている安心のショップだ。
・TC楽器 1Fエレキギター売場

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製品情報

Greco / MR1000

【スペック】
※試奏モデルのスペックとなります。●年式:1977年製 ●色:タバコ・ブラウン ●マシンヘッド:グローバー“101” ●指板:縞黒檀 ●フレット:24 ●ネック・スケール:ミディアム ●ネック材:メイプル ●ネック・ジョイント:セットネック ●ボディ材:メイプル(トップ)、マホガニー(バック)●ピックアップ:パッシブHH/U3000x2 ●ブリッジ:オリジナルBR2020(トレモロ無し)●コントロール:2ボリューム、2トーン、3Wayトグル・スイッチ
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Greco / MRシリーズ

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プロフィール

稲葉政裕(いなば・まさひろ)
1960年、大分県生まれ。ベテランにして、時勢にとらわれない磊落なサウンドで人々を魅了し続ける、国内屈指の職人ギタリスト。正確無比な技巧に裏打ちされた創造性豊かなフレーズ・ワークを活かし、小田和正をはじめ、吉田拓郎、渡辺美里、平原綾香など多くのアーティストのステージ・サポートやレコーディングで多大な実績を残す。また一方で、熱心なストラト研究家としても知られ、特にビンテージ・フェンダーに関する知識ではマニアも裸足で逃げ出すほどの博識で通っている。自身が所属する『Far East Club Band』をはじめ、都内を中心としたあちこちのクラブ・イベントやライブを精力的にこなし、セッション漬けの多忙な日々を送る。
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