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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第24回

あなたの木フェチ度は? トーンウッド・センター試験2016

  • 文・撮影:森 芳樹(FINEWOOD)

この時期になると各所で繰り広げられる熾烈な受験戦争。そんな世界から解放されて久しい読者のために、今回は頭の体操と知っておいて損はない木材知識をテスト形式で実施します。題して「トーンウッド・センター試験」。試験範囲は主に本コラム・バックナンバーより出題。全問正解を目指して挑戦してみてください!

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 この木材コラム連載を始めてこの春でちょうど2年になります。ブラジリアン・ローズウッドから始まり、キューバン・マホガニーやメイプル、ハワイアン・コア、ムーン・スプルースなどトーンウッドを木ーワードにしつつ、幅広い範囲をご紹介してまいりました。筆者自身の知識や経験だけでは太刀打ちできないテーマも多く、かなりの情報を文献やネット情報などから拝借させていただきました。そんな中、気になるのは記述者の中で見解が異なっていたり、明らかに間違った情報も流布されていることでした。何しろ相手が天然産物ですから、すべてを見通すことはできないとはいえ、木フェチとしてはある程度確実な情報をしっかりと押さえておくべきかなと。デジマートは楽器サイトですので、ここではトーンウッド限定出題ですが、広く木力(もくりょく・きりょく・きぢから・もか)をつけることは、読者の明るい未来を迎えるにあたり重要な要素になること間違いありません。

 それでは、ただ今からトーンウッド・センター試験を開始します。スマホはしまってください。
(所要時間:5分程度)

ブラジリアン・ローズウッド編

(関連記事:第1回第14回

Q1. ブラジリアン・ローズウッドが放つ香りについてふさわしい記述はどれ? 

① ノニルフェノール臭が強い
② 昼休み明けOLに「今日はカレー食べてきましたね」と言われるようなエスニック・スパイス臭
③ 薔薇の花から発せられるような甘く熟成した香りで永続性がある
④ 玄関の下駄箱前に目隠しをして座らされた時に感じる香り(某CMより)

【正解メモ】ブラジリアン・ローズウッドは多少の個体差こそあれ、特有の香りを放ちます。この香りは伐採後、時間を経過しても長期間残存しており、樹種同定の際には重要な要素となります。人によって好き好きはありますが、楽器好きの方でNGな方は皆無なのでは。正解③ 

Q2. ブラジリアン・ローズウッドについてふさわしくない記述はどれ?

① 農地開墾のために多くの立木資源が失われた
② 伐採された材はヨーロッパや北米に運ばれるだけでなく現地で建材にも使われた
③ 観賞木ジャカランダとして世界各地で植樹され、季節には綺麗な花を咲かせている
④ ワシントン条約の付属書Iに記載され、厳しく取引制限されている

【正解メモ】国内楽器業界ではブラジリアン・ローズウッドのことを“ハカランダ(ジャカランダ)”と呼ぶことが多く、同名の観賞木(学名:Jacaranda mimosifolia)と混同されることが多いようです。観賞木のジャカランダは街路樹や地域振興用として各地に植樹されているので目にする機会もありますが、ローズウッドを日本の露地で育てるのは難しいかと思います。正解③

正解がもろバレですみません/観賞木ジャカランダ

Q3. ブラジリアン・ローズウッドを製材した時に見られる特徴的な杢の名前は?

① バール杢
② スパイダーウェブ
③ 新木場もくもく
④ 泡杢

【正解メモ】“バール”も存在すると思うのですが見たことがありません。“新木場もくもく”は木フェチの方なら一度は訪れたことのあるショップですね。“泡杢”はカエデやケヤキなどでよく見かける杢です。正解②

ブラジリアン特有杢

マホガニー編

(関連記事:第2回第9回

Q4. マホガニーの主な産地表記としてふさわしいものは?

① 北米地域
② アルパイン地方
③ 中南米・西インド諸島
④ 中国

【正解メモ】アフリカや東南アジアで産出される“マホガニー”は似ているだけで本物のマホガニーではありません。真正マホガニーが生育する地域は限られていますが、近年は世界各地でプランテーション化されてきました。正解③

産出国を示した地図

Q5. 学名:Swietenia mahagoniと呼ばれているキューバン・マホガニーについて間違った情報はどれ?

① 原産地ではすでに資源がほぼ枯渇している
② キューバのみで産出されるマホガニーのこと
③ 東南アジアやハワイなどで積極的に植林が行なわれている
④ ホンジュラス・マホガニーはこの種の代替材である

【正解メモ】キューバン・マホガニーはキューバを含む西インド諸島やフロリダ沿岸部などで生育していました。中でもジャマイカ産の多くは統治していた英国に大量に運ばれ家具調度品用に使われました。近年、植林材が伐採期を迎え流通するようになりましたが、往年の面影は薄く、別種と考えた方が良さそうです。正解②

キューバン・マホガニー

Q6. マホガニーの木が国旗に描かれているのは次のどの国?

① ベリーズ
② カインズ
③ タリーズ
④ ハリーズ

【正解メモ】②は北関東の大型ホームセンター、③はシアトル系コーヒーショップ、④は恵比寿の有名ギター・メーカーさん。ベリーズ国は旧英領ホンジュラスと呼ばれ、隣国グアテマラと並んで優良なホンジュラス・マホガニーの産地でした。正解①

マホガニーが描かれた国旗

メイプル編

(関連記事:第5回

Q7. バーズアイ杢が発生する原因についてどれが最も妥当?

① 鳥に突かれて傷つき、そのかさぶたが杢となる説
② 表面にキノコが生えた痕説
③ 数年に一度大発生するメイプル特有の病害説
④ 遺伝子・奇形説 

【正解メモ】完全に解明されたわけではありませんが、外的要因により発生する杢ではないという考えが一般的です。他にも虫害によるものという説もありますが、信憑性は乏しいです。バーズアイの眼は樹皮側が大きく、芯に向かうにしたがってギャル曽根になります(註:メガチイサクナルの意)。正解④

バーズアイ・メイプル

バーズアイ・メイプルの断面

Q8. メイプルのキルト杢について間違っている記述はどれ?

① ソフト・メイプルに見られる
② ハード・メイプルの柾目に見られる
③ 板目から追い柾目面に見られる
④ 製材する角度によって杢の見え方が異なる

【正解メモ】キルト杢は他にもマホガニーやサペリ、ブビンガなどの材でも見られます。いずれも板目から追い柾目面に見られ、製材する角度によって、ソーセージやチューブが連なったようにみえたり、階段状に杢がスラントしていたりと、さまざまな表情の変化をみせてくれます。正解②

切るとキルトだった

Q9. 実際に存在するメイプル樹種はどれ?

① ソルト・メイプル
② ヘビーメタル・メイプル
③ シュガー・メイプル
④ メイプル・バター

【正解メモ】原宿で行列してから食べる小麦粉などを水やミルクで溶いて焼くパンなのかケーキなのかわからない食べ物にかけるメイプル・シロップは、この木から採取されます。この木を高温で処理したローステッド・ウッド(ネックや指板用材)からは実際に甘く香ばしい香りがします。正解③

スプルース編

(関連記事:第3回第10回

Q10. ムーン・スプルースについて正しい記述はどれ?

① 満月の夜に伐採し、陽が上るまでに村まで持ち帰る
② 真冬の下弦の月から新月の直前に伐採する
③ 真夏の上弦の月に伐採し、冬まで山に放置する
④ 伐った丸太を月に向かってお供えする儀式のこと

【正解メモ】国内でも同様に月齢を考慮した木材伐採(スギ、ヒノキなど)が行なわれています。適切な時期に伐採された木材は、そうでないものに比べていくつもの優位点があると言われています。信じるか信じないかはあなた次第ですが、月の満ち欠けと地球上生命体との関係において、解明できない不可思議な現象は多く存在しています。正解②

ムーン・スプルース

Q11. ベアクロー・フィギャードの発生要因について正しいものは?

① 樹皮から心材にかけて生じる部分的な木目の捻じれが残存したもの
② 熊により引っ掻かれた爪痕がそのまま木材内部に包含された痕
③ 昭和の強握力必殺技
④ 製材後に特定方向から圧力をかけ杢をつける人工的手法

【正解メモ】スプルースの場合、ベアクローと呼んで熊のせいにしますが、南半球では同じ様な杢が出るとジャガー・フィギャードと呼び、その被疑者が異なります。とはいえ、バーズアイと同じく外的要因で発生したものではなく、あくまで木の先天的個性のひとつです。アイアンクローは今から考えればなぜ逃げきれなかったのか不思議な技です。正解①

ベアクロー杢

Q12. スプルースの使用用途として間違っているものは?

① 建材
② ピアノの響板
③ 駅弁の箱
④ 電気自動車のボディ

【正解メモ】近年少なくなったものの和室建具などは柾目のスプルースが使われます。建設現場の足場も金属になる前はスプルースだったと聞きました。ピアノだけでなくバイオリンやギターの響板はもちろん、最高級スプルースが使われます。駅弁の箱も今では強化された紙やプラスティックに代わってしまいましたが、フタの裏に付着したご飯粒をとって食べた日が懐かしい方も多いかと思います。第二次世界大戦頃まではプロペラなど飛行機のパーツや骨組みにも多く使われていましたが、さすがに現代の車には……。正解④

Others編

Q13. エボニー類の説明として適当でないものは?

① ペイルムーンと呼ばれる白黒2トーン・エボニー
② マカッサルと呼ばれる褐色や茶系の縞が現れるエボニー
③ 緑檀と呼ばれる世界一比重の高い木、リグナムバイタ
④ 真黒(まぐろ)と呼ばれるほぼ墨黒一色のエボニー

【正解メモ】世界各地で産出されるエボニー類。重厚で強靭な木質は楽器製作にも欠かせない樹種です。その見た目から黒、青、白黒等の呼称を付されることが多いのですが、リグナムバイタを“緑檀”と呼ぶのは木材流通業者によるこじつけでエボニーとは関係ありません。正解③

正解の杢

Q14. 次の中でハワイアン・コアに最も似ていない種はどれ?

① オーストラリア産タスマニアン・ブラックウッド
② 北米産マートルウッド
③ 東南アジアや中国南部産アカシア
④ “♪この木何の木”でお馴染みのモンキーポッド

【正解メモ】タスマニアン・ブラックウッドは親戚の中でもかなり血が濃い関係だと思います。アカシアも親戚ですが、こちらはずいぶん木目がラフでカジュアルに育った印象が強いです。モンキーポッドは色がよく似ていますが、アカシア同様に木目が荒く高級感に乏しい印象があります。実はハワイの外来樹種の中で最も繁殖しており、固有種の存在を脅かす木として疎まれています。正解②

正解の杢

Q15. グラフテッド・ウッドと呼ばれる木の説明としてふさわしいものは?

① 遺伝子操作により優良種を掛け合わせたハイブリッド・ウッド
② 実の収量や味覚改良のため異種の挿し木によって改良栽培されるプランテーション木
③ 本来は交配するはずのない種が一線を越えてしまった木
④ 伐採後、バクテリアの影響により独特の模様が表れる木

【正解メモ】グラフテッド・ウッドはウォルナットやピスタチオなどナッツを産する樹種から得られる農業技術の副産物のような木です。人工的な匂いが感じられないほど自然に融合しているのが不思議な木です。樹高が10mあったとしても、この部位が得られるのは長さ、わずか数10cm範囲内、まさに木材界のミスジです。正解②

グラフテッド・ウッド

 は〜い、そろそろ終了です。正解数に応じたあなたの木フェチ度は下記のとおりヨ。

結果発表!

正解1〜4問:木へは無関心。私のコラムをまるで無視して生きてきましたね。バックナンバーをすべて読み返し、木フェチ道のなんたるかを学んでください。
正解5〜9問寿司屋のテーブルには萌えるタイプ。当コラムは読んだり読まなかったりの気分屋さん。興味のないテーマでも必ず読んで精進を。
正解10〜14問:木フェチ道、初段認定。木を眺めて、触って、嗅いで、楽しんでおられる優等生。さらなる高みを目指して木フェチ道を邁進されてください。
全問正解:当コラムのゴーストライターをお願いします。

編集あとがき

 試験結果はいかがでしたか? たとえ知らずとも日常生活にはまったく差し障りがないことばかりでしたね。でも知っておくと、楽器を選ぶ時などに少しは役立つかと思いますし、公園に行くのも楽しくなるはずです。今後もそんな木になる情報をお届けしていきたいと思います。次回は2月29日(月)更新予定。……あ、今年はうるう年なんですね。

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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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