ATELIER Zの25周年記念モデルである本器は、パステル調のボディ・カラーこそポップなイメージがあるものの、かなり深くまでボディに切り込んだディープ・ジョイントや、ボディと同色のフィンガー・ランプを標準装備するなど、外見上はテクニカルなプレイに特化したベースのように見えます。確かにテクニカルなプレイがやりやすい楽器なのですが、細かく仕様を確認し実際に弾いてみると、どうやら「テクニカルなプレイ」だけが取り柄の楽器ではない、ということに気付かされました。

　演奏性をもう少し掘り下げると、24フレットのネックとボディのジョイント部分は左右非対称の4点止めで、かなり大胆にボディに食い込むように接合され、ハイ・ポジションのプレイアビリティは抜群です。薄めのネック・シェイプは、低めにセットされたナットなどのTUNING Z SYSTEMによるセットアップの効果もあってフィンガリングがしやすく、手が小さめの方でも違和感は少ないでしょう。フィンガー・ランプは3フィンガーや4フィンガー・ピッキングなど速弾き御用達のアイテムと思われがちですが、普通に指弾きする場合でも指が深く入り込み過ぎず、ピッキングがとても楽になります。これに慣れてしまうとフィンガー・ランプ無しでは弾けなくなってしまうかも（笑）。それくらい中毒性のあるアイテムです。低音弦側にオフセットしたポジション・マークは、斬新でデザイン性が高いだけでなく演奏時の視認性も良好ですね。

　マテリアルに目を向けると、ボディはアルダー3ピース、指板はパーフェローというATELIER Zとしてはレアな組み合わせ。ネックはメイプルでKTSチタン・サポート・バーによって剛性を高めています。ペグとブリッジなどのハードウェアはGOTOH製、ピックアップと内蔵のアクティブ・サーキットはオリジナルで、コントロールはフロント・ボリューム、リア・ボリューム、ブースト／カットのトレブル、ブーストのみのベース。リア・ボリュームを引くことでアクティブ・サーキットをバイパスしてパッシブ状態にもすることができます。

　フィンガー・ランプがあることで指弾きのやりやすさは格別です。単に指を置くところが増えるというのも利点ですね。ポジション移動にストレスがないので24フレットあっても持て余すことはなく、太めのフレットのおかげもあってタッピングがしやすい！ スラップをする場合はプルをする場所がかなり限られますが、慣れれば問題ないでしょう。音色は、いかにもATELIER Zらしい抜けの良さとメリハリのハッキリしたドンシャリ感を持ちつつも、アルダー・ボディによるところなのか独特の中低音域のふくよかさがあります。アクティブ・イコライザーはとても効きが良く、トレブルを上げればキリッとした抜けや鈴なり感を出せるし、絞ればフッと落ち着いた音色に様変わりします。ブーストのみのベースも使い勝手が良いですね。アクティブ・サーキットは歪み系などのエフェクターとの相性もとても良さそうです。エフェクターやアクティブ・サーキットの音色を組み合わせることで速く弾いたり歪ませたり派手な音色にすることもできますが、楽器本来の音色を生かして落ち着いたメロウなメロディを弾いても絵になる楽器という印象でした。ちなみに、今回試奏したのは5弦仕様ですが4弦仕様も用意されていますのでニーズに合わせて選べます。

　このように基本性能の高さに加えて至れり尽くせりの機能を装備しているので、テクニカルなプレイだけではなく様々なシチュエーションで使える楽器なのですが、25周年記念の限定モデルでありながら価格設定が低く抑えられているのもまた魅力のひとつですね！

ATELIER Z / Z#2015/5 LIMITED

ボディと同色にペイントされたフィンガー・ランプ。標準装備だけあってルックスのフィット感もバッチリ。

コントロール部分はボリューム系とイコライザー系でツマミが異なり、視覚的にもスマート。

低めにセットアップされたナットなど、ATELIER Z SYSTEMでセットアップ。すぐに万全のコンディションで演奏できる。

オイル仕上げのネックはサラサラとしていて触り心地が良く、フィンガリングもしやすい。

ATELIER Z独自形状の非常に大胆なネック・ジョイント部分だが、剛性はとても高く安定している。

低音弦側にオフセットされたポジション・マークが斬新な24フレットの指板。弾きやすさ故にハイ・ポジションの弾きすぎに注意。