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  • デジマート地下実験室〜地下27階

ストラトのキャビティ内をシールディングすると音はどう変わるのか?

〜ノイズ対策実験〜

  • 文:井戸沼尚也(室長)
  • 協力:水島亮二(ESPギタークラフト・アカデミー講師)

今回の実験は、ちょうど桜が満開の時期でしたので、たまには地下から飛び出して外の空気を満喫させていただきました(動画参照)。さて、肝心の実験内容は、ストラトキャスターのキャビティ内をシールディングすると音がどう変わるのか、です。はい、どう変わるんでしょうね?

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【実験テーマ】ストラトキャスターのキャビティ内をシールディングすると音はどう変わるのか?

 外来ノイズ──怖いですね。頭がアレな人は、大抵「宇宙からの電波をキャッチした……」てなことを仰います。それも一種の外来ノイズでしょう。そうしたものを防ぐのだと言って白装束をまとった人たちが話題になったのは、かれこれ15年ほど前でしょうか? ヤングの皆さんはご存知ないかもしれませんね。

 人間だけでなく、ギターにとってももちろん外来ノイズは大敵です。もともとはシンプルな構造のシングルコイル・ピックアップからスタートしたエレキ・ギターの歴史は、ノイズとの戦いの歴史と言っても過言ではありません。今では一般的なハムバッキング・ピックアップも「アンプの側に立ったり、大きなボリュームでプレイしてもハム・ノイズを拾わないピックアップを開発したかった」というわけで、1950年代当時ギブソンにいたセス・ラバーさんが考えたという経緯があります(同種のアイディアは以前からいろいろな人が持っていたようですが、実用的なものを量産したという点で、やはりギブソン社とセス・ラバーさんの功績は大きいと思います)。このようにノイズ対策の面ではハムバッカーが断然有利なわけですが、それでもシングルの音が好きで使いたいという人もたくさんいるわけで、そういう人はどういう対策をしているんでしょうか。デジマート・マガジン編集部の赤鬼こと編集長のW氏に聞いてみました。

私 「シングル好きの人なんかは、ノイズ対策どうしているんでしょうね?」
レッド・デーモン 「キャビティ内に導電塗料を塗って、アースを落としたりしているみたいですよ。ESPギタークラフト・アカデミー東京校の水島先生によると、『導電塗料は効果的ですが音色が少し変わってしまうのと、一度塗るともとに戻せないのが難点。アルミでシールディングするのは簡単だし、嫌ならすぐもとに戻せるから、まずはそれで試すのもアリでしょう』と仰ってました。誰でもできるみたいですし、室長もやってみては?」

 こ、これは軽い提案の皮を被った、命令!

私 「へへえ、ガッテンでございます」

 レッド・デーモンには逆らえません。というわけで、シングルコイル搭載器の代表格、フェンダー・ストラトキャスターでノイズ対策実験、やってみようー!

【実験環境】

使用機材
フェンダー・ストラトキャスター(ギター)
マーシャルJVM410H(アンプ)
マーシャル1960A(キャビネット)
ベルデン9778(ケーブル)
アーニーボール スーパースリンキー(弦)
フェンダー ティアドロップ ミディアム(ピック)
◎アルミテープ
◎通電チェッカー
◎定規、ハサミ、カッター、消しゴム的な何か

※セッティングなどについて
■シールディングの有無以外、ギター、アンプのセッティングはすべて同じです。
■今回はルーパーが使えないので、手弾きです。極力同じように弾いていますが、演奏内容に多少の差異が出てしまうことをご了承ください。
■本企画では、動画再生の際、モニター用ヘッドフォンの着用を推奨しています。

実験

1.【Before】素の状態でサウンド・チェック

 まずは、シールドしていない素の状態でサウンドをチェックします。今回はエフェクターなし、ストラトをマーシャルに直結です。まぁ、やはり当然ですが、手を離すとジーッというノイズが出ますし、アンプに近づくとブーンというハム・ノイズがします。偉大なセス・ラバーさんは、これをなんとかしようと思ったわけですね。うんうん。

2.シールディング作業

 ここからは実験というより、作業、あるいは工作に近い感じです。動画の最後には改めて作業前後の音の聴き比べが出てきますので、しばしお付き合いください。作業の手順としては、次の通りです。

  • 弦を外し、ピックガードをガポッと外す。
  • ピックガード下のボディのザグリ部分に、アルミテープを貼っていく。その際に、テープの継ぎ目の部分は余白をとって折り返しを作り、表面同士を密着させ、補強テープで止める(テープの裏面には接着剤がついているため、通電しません。しないんだって……知らなかったよ……)。
  • テープを木部に貼ったら、消しゴム的な何かでゴシゴシしてやると密着させやすいです。特に、ピックアップの間のような狭いところを擦る際にあるととても便利です。
  • ピックアップのザグリの周囲は、一筆書きのようにできるだけ1本のテープで貼る(テープの継ぎ目が増えるほど、通電トラブルが発生する可能性が高まるため)。
  • 少し貼ったら、その都度通電を確認。チェッカーを「kΩ」に合わせて、値が0になれば、抵抗がなく通電しているということになります。
  • ピックガード裏面全体にアルミテープを貼るとさらに外来ノイズに強くなるそう。今回はお手軽感重視で実行しておりませんので悪しからず。
  • ここが肝心! ボディ側のアルミとピックガード裏のアルミが接地して通電するように、両方から“ベロ”を出し、絡ませる。本来はピックガードを取り付けたときに見えない位置に付けますが、ここではわかりやすいように、あえてピックガードからはみ出させました。
  • ピックガードを取り付け、弦を張り直して終了。

 以上、簡単でしょ? 太字アンダーラインのところが試験に出るとこです。文章だけでは意味がわからないという人は、動画をよく見てからもう一度読んでみてください。

 で、簡単な作業なのに、動画では例によってモタモタしている私。それには理由があるんです。ここで使用しているアルミテープが、非常に硬かった! その分、厚みがあってシールド効果は期待できますが、作業性は非常に悪いです。ちなみに私は、ドン・〇ホーテの工具類コーナーで“屋根回り、水回りに!”というテープを買いました。メーカーや型番などは覚えていません。「アルミテープの種類によってシールド効果は変わるのか」を追求すると別な実験になってしまうので、ここではなんでも良しとさせていただきます。ま、作業性に難ありのテープを買ってしまってキレイに仕上がらなくても、別に見える部分じゃないし、いいのでは? ただし、こういうところに性格が出てしまうので、ビシッとやりたい人は薄めのテープを探して買うと良いかも。ちなみに水島先生はダ〇ソー製をお使いになっているとか。
※粘着付きアルミテープは、種類によって通電するものとしないものがあります。購入したものが通電するかどうか、実験前にチェッカー/テスターでご確認ください。

シールディング前のキャビティ内(内部の黒はフィニッシュ・カラーであり、導電塗料ではありません)

アルミテープでキャビティ内全体をシールディングした後

3.【After】シールディング後のサウンド・チェック

 さて、シールディングできたので、音を聴いてみましょう。動画では中間に長い作業シーンを挟みましたので、前の音をすっかり忘れている皆さんと私のために、BeforeとAfterの演奏を続けて見ることができるようになっています。親切だなぁ。で、肝心のその音は……あぁ、“ジーッ”というノイズが“シー”くらいに軽減されています! アンプに近寄った時の“ブーン”というノイズも“ジーッ”程度に減っていますよ! 素晴らしいノイズ軽減効果ですっ!

 ……ですが、なんじゃこの音は? ハイがまったく出ていないですね。その分、太く聴こえるっちゃ聴こえます。非常に良く言えばP-90的な音ですが、それはあまりにP-90に失礼ですね。この音が良いか悪いかは置いておいて、少なくともストラトキャスターを弾く意味はないのでは……と思います。はぁ、これ、今回のこの実験は成功なんでしょうかねぇ?

結論:外で飲む酒はなんでもうまいっ!

……間違えました。

結論:シールディングするとノイズは減る……んだが、その音はもはやストラトじゃねえ!

 ということです。ノイズはしっかり減りましたね! でも、完全になくなるわけではないので、過剰な期待はしないでください。音については高域が減るとは聞いていましたが、あそこまでブーミーになるとは驚きです。あれでは鈴鳴りもナニもないですね。ただ、このアルミ作戦はやってみて、嫌なら泣きながら剥がせばもと通りという点が最高なので、ノイズに悩むストラト弾きの方はこのゴールデンウィーク中、工作にトライしてみては? 一人実験室で遊んでみてください!

 それでは、次回地下28階でお会いしましょう!

ESPギタークラフト・アカデミー東京校で「ノイズ対策実験」を体験しよう!!

※本イベントは終了いたしました。

 今回、実験ご協力いただいたESPギタークラフト・アカデミー東京校にて、2016年6月11日(土)、本企画と完全連動したセミナー・イベント「東京校 ESP【体験実習】ノイズ対策(デジマート連動体験)」が催されます! 実験室を見て“自分のギターもシールディングしてみたい!”と思った方はぜひこの機会に体験ください。講義への参加費は無料! 参加ご希望の方は以下の専用サイト・フォームからお申し込みください。

■日時:2016年6月11日(土) 10:00〜12:30(※終了時間は予定)
■場所:ESPお茶の水ビル4階
■参加費:無料
■参加資格:無し、手ぶらでOK
■定員:5名(先着)
■問い合わせ:http://www.esp-gca.com/bfunc/event.php?e=160234
※実習の円滑な進行のため、開始時間10分前にはお越し頂きますようお願いいたします。また、楽器をお持ちでない方も講義のみ参加していただくことが可能です。

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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