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  • いっちーのデジタル・デジマート 〜第14回〜

iPadで音楽制作を楽しむ人たち 〜ジャズ・ミュージシャン編〜

これから数回にわたってiOSデバイスで音楽制作を行なっている方をゲストに迎え、具体的にどのようにアプリで音楽制作をしているかについて伺ってみたいと思います。今回ご登場いただくのは、サックス・プレイヤーであり作曲もこなすジャズ・ミュージシャン、矢野智礼(やのともあき)さんです。

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今回のゲスト 矢野 智礼さん(サックス・プレイヤー)

四管ジャズ・フュージョン・バンド「やのさんぶる(Yanosemble)」で活躍すると同時に、“ライブ演奏もできる音楽ファンのための憩いの空間”秋葉原Player's Clubイケベックに勤務。プロ、アマチュアを問わず多くのサックス・プレイヤーと交友を持ち、DTMにも造詣が深い

バンド・メンバーに譜面で渡せるように譜面作成アプリを使って作曲します

── メインで使用しているアプリは何ですか?

 現在は、DAWアプリSTEINBERG Cubasisと譜面作成アプリIWrite Musicをメインで使用しています。私はサックスも演奏するので、誰かと一緒に演奏することを考えて、初めに譜面ベースで作曲ができるIWrite Musicを使って曲のアイディア出しを行ないます。アプリの五線譜に音符を置くとMIDI音源が発音するので、目と耳で確認しながら作曲できます。電車に乗っている時はおおむねコレをいじってますよ。おかげで昔のように紙とえんぴつは持ち歩かなくなりましたね。出来上がった曲の譜面はPDFで書き出してバンド・メンバーに渡します。打ち込んだデータはスタンダードMIDIファイル(※異なるDAW間でデータをやり取りする場合に適しているファイル・フォーマットのこと)に書き出し、それをCubasisへ取り込んで本格的に作り込み、仕上げていきます。譜面を作成しなくても良い場合はCubasisのピアノ・ロールに直接打ち込むこともありますよ。

譜面作成アプリIWrite Music

── アプリ間のファイルのやりとりはどうやっているのでしょうか?

 iPadはアプリとデータが直接結びついているので、ファイルの移動に少し手間がかかります。私の場合は、IWrite Musicで制作したMIDIファイルを一度自分のメール・アドレス宛に送って、それをiPadのメール・アプリで受信して添付ファイルをCubasisで展開することでデータの移動を行なっています。そのほかにはDropboxのようなオンライン・ストレージ・サービスを使用するのも良いですね。

DAWアプリSTEINBERG Cubasis

Inter-App Audio機能はiPadでの音楽制作の可能性を広げてくれた

── どんな楽器アプリを使用していますか?

 ジャズで欲しいのはズバリ生音! ベース、オルガン、ピアノ、エレピ、ドラムだと思うんです。今はInter-App Audioに対応した良い生音の楽器アプリを見つけてかなり満足しています。ベース音源はiFretless Bass、鍵盤音源はKORG Moduleをよく使っていて、特にKORG Moduleはかなり強烈です! ピアノやエレピ、オルガンがiPadから鳴っているとは思えないレベルでメチャクチャ良いですね。バンド・メンバーにも聴かせたら驚いていました。これらの音源はInter-App Audioを使用するとCubasis上のフェーダーに立ち上がるし、エフェクトもかけられる。もちろん楽器アプリを演奏できるし、ピアノロールで打ち込みもできる。iPadの音楽制作環境がすごく豊かになりましたね。

STEINBERG CubasisIFretless BassをInter-App Audioで連携している状態

ピアノ、エレピ、クラビ、オルガンなどを収録している鍵盤楽器アプリKORG Module

 ただ、ドラム音源に関しては、まだ気に入った楽器アプリが見つかってないので、Drum Loops HDというループ素材アプリから、各ドラムの単発の音をAudioCopyしてCubasisのサンプラー“MiniSampler”にAudioPasteしています。こうすることでCubasis側でドラム・キットを作ってユーザー・プリセットとして保存することができますから、いつでも読み出せます。楽器アプリをInter-App Audioで連携する場合は、DAWアプリから楽器アプリのパラメーターの状態をトータル・リコールすることができないので、結果的にドラムはこの方法が今のところ最強だと思います。また音ネタを波形のままオーディオ・トラックに貼り付けて使うこともあります。こんな感じで楽器アプリはたくさん活用していますね。エフェクターやボカロ関連のアプリもたくさん所有しています。気に入ったアプリのセールを狙って購入するのも楽しみの1つです(笑)。

各MIDIトラックのMIDI OUT設定が画面にはInter-App Audioで連携された楽器アプリが選択できる

ドラムのループ集Drum Loops HD。ループだけでなく、スネアやバスドラなど単発の音もDAWアプリのオーディオトラックに貼りつけることが可能

Cubasisに搭載されているサンプラー“MiniSampler”。矢野さんはアプリの中では一番使い勝手が良いサンプラーだという

MiniSamplerでオリジナル・ドラム・キットを読み出しリアルタイムでドラムを演奏する矢野さん。KORG Nanopadなどを使用することでバッド演奏することもできる

ライブ中にアドリブ演奏する際によく使用するという楽器アプリ“ThumbJam”。スケールと音色を選べば指で適当になぞるだけで即興演奏が行なえる

矢野さんも気に入っているマスタリング・アプリPOSITIVE GRID Final TouchCubasisとInter-App Audioで連携させ、マスター・フェーダーにインサートして使用することも可能

周辺機器はUSBハブを使って接続

── 楽器アプリを演奏したり、生楽器を録音する時にはどんな周辺機器を使ってますか?

 オーディオ・インターフェースはFOCUSRITE ITrack Solo、マイクはAUDIO-TECHNICAのATL-180(現在は生産完了で、ATM350が後継モデル)を使用しています。ITrack Soloはファンタム電源供給可能なマイク端子とハイ・インピーダンス入力対応の楽器入力端子を搭載している、2イン/2アウトのシンプルなiOS対応のオーディオ・インターフェースですが、これだけでサックスの録音は完結します。楽器アプリやCubasisの楽器を演奏するときには、MIDIキーボードのIK MULTIMEDIA IRig Keys 37か、M-AUDIO KeyStation 61を使います。さっきのKORG ModuleM-AUDIO KeyStation 61を組み合わせれば最も手軽に本格的なピアノ演奏が楽しめます。

左からオーディオ・インターフェースFOCUSRITE ITrack Solo、コンデンサー・マイクAUDIO-TECHNICA ATL180。楽器アプリを演奏する時はIK MULTIMEDIA IRig Keys 37またはM-AUDIO KeyStation 61が加わる


── MIDIキーボードとFOCUSRITE ITrack Soloを併用されているんですか?

 はい、電源供給ができるUSBハブを間に入れれば、iPadとITrack SoloとMIDIキーボードを併用することができるんです。もちろんiPadとUSBハブをつなぐためにLightning - USBカメラアダプタを使います。ただしハブからはITrack SoloとMIDIキーボードには電源が供給できるのですが、iPadには供給されません。ですから音楽制作を始める前のiPadの充電は必須ですね。これをデメリットと考えるよりは、充電が切れることでダラダラ時間を浪費するのを防ぐとポジティブに考えた方が良いと思います(笑)。

矢野さんが使用している電源供給可能なUSBハブ。これを使用することで複数のUSBデバイスが使用できるという

iOSとUSBデバイスとの接続に必須アイテムAPPLE Lightning-USBアダプタ

iPadを使った音楽制作の魅力はずばり機動力

── 今の音楽制作環境は満足していらっしゃいますか?

 はい、もうこれだけで何でも作れますからね。ただしInter-App Audioのアプリに連携は完璧に安定しているとは言えない時があるので、これらをプロの環境で多用するのはちょっとリスキーかもしれません。しかし個人レベルの作曲を楽しむのであれば十分な環境だと思います。iPadならスタジオでレコーディングした帰りの電車の中ですぐに編集ができる。そしてWiFi環境があればその場でネットにアップロードなんてことも簡単です。これは革命的ですね。

普段使用しているセッティングでSaxパートのレコーディング・デモをしていただいた

 こちらが矢野さんが作成した楽曲です。
Requiem ~ "Happy Song"


 矢野さんのiPadを使った音楽制作術はいかがでしたでしょうか? 演奏者でありながら、さまざまなツールを見事に活用されていますね。次回は、ほかのジャンルのミュージシャンにiPadを活用した音楽制作について伺います。お楽しみに!

取材協力

サックス・プレイヤー 矢野智礼
http://sound.jp/yanosax/

秋葉原 Player's Club イケベック
http://www.ikebeck.tokyo/

ホール内には希少なジャパン・ビンテージ・ギターが展示


伝説的ミュージシャンの直筆サイン入りギターがずらりと並ぶロックバーを併設

<次回2016年7月5日(火)更新予定>

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プロフィール

いっちー(市原 泰介)
サウンド&レコーディング・マガジン編集部WEBディレクター。学生のころから作曲やDJ活動、バンド活動などの経験を積む。某楽器販売店を経てリットーミュージックに入社。前職では楽天市場内の店長Blogを毎日10年以上更新し、2008年ブログ・オブ・ザ・イヤーを受賞。得意ジャンルはクラブ・ミュージック。日々試行錯誤中。

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