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ギターとアンプの距離~立ち位置によってギターの音はどれだけ変わるのか?

~音決め位置実験~

  • 文:井戸沼尚也(室長)

バンドをやっていると必ず起こるのが「あいつの音がうるさい」だの「自分の音が聴こえない」といったトラブル。そもそもバンドのメンバーは皆、同じ音を聴いているんでしょうか? そして、ギタリストはリハーサル・スタジオやライブで、どの立ち位置で音決めをするのが最善なのでしょうか? 今回はちょっと斜めったテーマでお届けいたします。

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【実験テーマ】ギターとアンプの距離~立ち位置によってギターの音はどれだけ変わるのか?

 固定メンバーのバンドでリハスタに入っていて、いつもとほぼ同じセッティングをしているはずなのに「今日はなんだか、自分の音がよく聴こえないな」と思うことって、ありませんか? そんな時は次のような理由が考えられます。

①セッティングを決めているのはあなただけで、他のメンバーは毎回適当だった
②部屋がいつもとは違っていた
③体調が悪い

 ①の場合は、ドラム以外のメンバーの肩を軽く叩いて「……頼むわ」とつぶやくと、大体次から良くなります。で、③の場合は早寝早起きを心がけ、深酒は慎みましょう。問題は②です。部屋が変われば、立ち位置が変わります。立ち位置が変われば、聴こえ方が変わってきます。一体どこを基準に音決めをすれば良いのでしょうか?

私  「音決めって、どこでやるのがいいんですかねー?」
赤鬼 「人や場所、機材にもよるんでしょうけど……室長はどうしていましたか?」
私  「適当です!(キッパリ) スピーカーの真ん前で決めるようなこともなく、ライブ前のリハーサルで客席に降りて音をチェックするようなこともなく、自分の立ち位置で良ければそれで良しとしていました」
赤鬼 「本当に、それでいいんですか?」
私  「はっ?」
赤鬼 「室長が良しとした音が、ちゃんと他の人に狙ったとおり聴こえているんですかね?」
私  「ひぃっ」
赤鬼 「まぁ、実験してみればわかることですけど」
私  「ふぅ」

 というわけで、立ち位置によってギターの音はどれだけ変わるのか、音決め位置実験、始めるよー!

【実験環境】

■使用機材
ギブソン ES-335(ギター)
ローランド JC-120(アンプ)
マーシャル JCM2000(アンプ)
ギブソン・レス・ポール弦(.010~.046)/(弦)
ベルデン9778(ケーブル)
フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
t.c.エレクトロニック Ditto X2(ルーパー)
クロン KTR(オーバードライブ)
ヴェムラム ジャンレイ(オーバードライブ)

※セッティングについて
■まずは自分の立ち位置で心地良いと感じた音を作り、その位置(立った状態の耳の位置)にて録音。次に同じ音をスピーカーの前で聴くとどう聴こえるか、マイクも移動して録音して確かめてみます。さらにスピーカー前で心地良い音を作り、録音。その後は、Vo位置、B位置、Dr位置で当初の音を録音し、それぞれの立ち位置での聴こえ方の違いを検証します。
■タッチの違いによる音色の差が出ないように、事前にルーパーに入れた音を流して録音しています。
■ルーパーに入れたクリーンな音に、オーバードライブをかけています(その方が倍音の感じなどが聴き取りやすそうだったため)。オーバードライブのセッティングはすべて同一です。
■オープンバックとクローズドバックの聴こえ方の違いも確かめたかったので、オープンバック=JC-120、クローズドバック=JCM2000を使用しました。
■今回はルーパーを使った実験ですので、タッチの違いによる弾きムラが生じません。地下実験室ではルーパーを使用したときのみ、波形を取って比較しています。参考にしてください。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しております。

【注意】スピーカーの前で音を聴く場合、音量によって耳を傷める可能性があります。自分で試す場合は十分注意して、自己責任で行なってください。

実験1 JC-120 立ち位置/アンプより1.8m トレブル8

 まずは適当な位置に立って、その場所で心地良いと感じる音を作ってみました。かなり甘めな音がするギターの信号をルーパーに入れていますので(ピックアップが57クラシックのES-335)、アンプのトレブルは結構上がっていて8です。ベース、ミドルは5です。この音を、立ち位置の耳の高さにマイクをセットし、録音してみました。なお、ここでは手持ち無沙汰だったので弾いているような格好をしていますが、弾いていません。ルーパーの音を流しています。

 音の方は、まぁこんなものではないでしょうか。今回は手弾きではないので波形も取っていますが、これだけを見ても何がなんだかです。まずはこの音をスタート地点として、他の音をチェックしていきます。

実験2 JC-120 立ち位置/アンプ前0m トレブル8

 次に、アンプの真ん前で、同じ音源、同じセッティングの音を聴いてみます。録音用のマイクもスピーカーの真ん前に立てました。で、ルーパーのスイッチをオン! ぅおおうっ! 思わず体がビクッとしました。メチャメチャうるさい&メチャメチャ高音痛いです。これは拷問ですよ。皆さんは真似しないほうが良いと思います。

 波形を見ても、全体に音量が上がっていることがわかるかと思いますが(当たり前ですが)、特に100Hz以下と2kHz以上がメチャクチャ上がっています。この位置の音を聴いてから、さっきの実験1の音を聴くと、メチャクチャこもっていますね。わかってはいましたが、立ち位置(聴く位置)によってこんなにも違うのかぁ。

実験3 JC-120 立ち位置/アンプ前0m トレブル4

 これじゃ死んでしまうと思って、トレブルを下げました。あー、ずいぶんマイルドになりましたよ。耳の痛い感じがなくなりました。波形で見ても2kHzから上、特に5kHz以上が大きく落ちています。

 ただ、音圧は相変わらず凄いです。JC-120、音でかいなぁ。今までいろいろなドラマーとやってきましたが、ボリューム3.5以上にしたことはない気がします。耳の保護のためにトレブルを下げたとはいえ、皆さんはスピーカーの直前で聴くのは止めたほうがいいと思います。

実験4 JC-120 立ち位置/アンプより1.5m トレブル4

 では、トレブルを下げた状態のまま、最初の立ち位置に戻ってみましょう。で、音を聴いてみると……うわー、もっこもこ。波形を見ると、距離のせいでローまで落ちています。この音は、使えませんね……。

実験5 JC-120 ボーカリスト位置 アンプより2.5m トレブル8

 トレブル4のセッティングでは離れるとまったく使えないことがわかったので、トレブルを当初の8に戻し、ボーカリストの立ち位置に移動してみました。もちろん、マイクも移動です。アンプからの距離は2.5m、耳の位置にマイクをセットして録音してみました。

 うん、やっぱり音は悪くない気がします。実験1と比べた場合、波形で見ると500Hz、3kHz以上は落ちていますが、聴いていてダメな音という感じはありません。ギタリスト、ボーカリストの位置ではセーフな音という感じです。

実験6 JC-120 ベーシスト位置 アンプより4m トレブル8

 次はベーシストの立ち位置に来てみました。実際にバンドで演奏する際にはベーシスト自身が出す音にかなり消されるはずですが、今回は単に位置の問題としてどう聴こえるかを試しました。

 距離が遠くなっている分、ボーカリストの位置よりもなんというか“薄くなっている”感じがします。波形で見ると800Hzあたりの谷が深くなっていますね。聴感上の傾向としては音自体まったく変わったというよりも、延長線上にある音で納得できる感じです。

実験7 JC-120 ドラマー位置 アンプより1.8m トレブル8

 続いてドラマーの位置に来ました。距離はぐっと近づいて、1.8m。高さも座った時の耳の位置にマイクを立てていますので、これまでで最も近い位置にいます。そこで聴こえる音は……あぁ、全然ダメだ。音にパワーがないし、メチャクチャこもっています。距離は近いんですけど、アンプとの角度が良くないんでしょう。波形で見ても、全体が小さくなっている上、2kHz以上が軒並み落ちています。

 実際はドラマーは自身で爆音を発するわけで、これは、リハスタではアンプの位置をよく考えたほうが良さそうですね。

実験8 JCM2000 立ち位置/斜め アンプより1.5m トレブル5

 さて、ここまでオープンバックのキャビネットで試してきたわけですが、ここでクローズドバックはどうなのか、ちょっと試してみます。クローズドバックはオープンバック以上に横に音が広がらないと言われています。まずは斜めの位置に立って、音作り。

 結局EQはフラット、つまりすべて5にすることにしました。斜め1.5mの耳の位置で録音したものがこちらです。なるほど、耳に痛くはありませんが、ハイとローがよく出たマーシャルの音ですね。波形もJCと比べると10kHz以上がメチャクチャ出ていることがわかります。

実験9 JCM2000 立ち位置/正面 アンプより1.5m トレブル5

 次に、同じギタリスト位置ですが、アンプの正面に立ち録音してみました。こうして録音したものを聴くとハイがしっかりと抜けて良い音ですが、現場では耳が痛かったです……。波形で見ると3kHz以上はむしろ落ちているのですが、1.5〜2kHzが上がっています。ここが耳に痛いポイントなのでしょうか。イテテ……。

実験10 JCM2000 立ち位置/アンプより0m トレブル5

 ようやく最後に来ましたよ。ここで赤鬼からの無茶振りが。マーシャルの音を、アンプの真ん前で聴けと。……さっきの段階で耳がイテテだったのに、これは本当に拷問です。結果は、えー、スピーカーを向いていない方の耳も痛かったです。これは絶対に真似しないほうがいいですよ! ダメ、ゼッタイ、です。

実験結果

結論:ギターの音は立ち位置によって当然変わるけど、自分のいつもの位置で決めればOK!

 今回は本当に耳に良くない実験でした。で、実際にやってみて驚いたことは、“人間の耳が集める情報の多さ”です。裏を返せば、マイキングでいかに多くの情報が失われているかということです。アンプの真ん前で音を聴けば人間の耳は悲鳴を上げますが、それをマイキングするとちょうど良い音になります。

 このことを考えれば、音決めはちょっと離れたところで十分に気持ちが良い音を作ればOKということになります。その時、スピーカー前はハイがきつめの状態になっていますが、それをマイクで拾うと結果的に良い音が作れるということになります。ライブハウスなどで一番厳しいのが、アンプが客席を向いていて音がダイレクトにお客さんを直撃している場合で、ギタリストが狙った音以上に硬い音がお客さんの耳を直撃しています。そうしたことのないようアンプは傾けて、マイキングされた音だけがお客さんに届くよう配慮してあげてください。

 それでは、次回地下33階でお会いしましょう!

【告知】楽器フェア2016で生・デジマート地下実験室“コンデンサー実験”を体験しよう!

2016楽器フェア 11月4日(金)〜6日(日)の日程で東京ビッグサイトにて開催される2016楽器フェアで、生デジマート地下実験室イベントを開催予定です。日時は11月4日(金)16:30〜17:30、場所は会場内“レッドステージ”になります。ギタリストならば多くの方が気になるでしょう、コンデンサーにまつわる実験を行なう予定ですので、ぜひご来場ください(イベント観覧は無料)! 

■日時:2016年11月4日(金)16:30〜17:30
■場所:東京ビッグサイト会場内レッドステージ
■備考:イベント自体は無料ですが、楽器フェアへの入場は有料になります。詳しくはオフィシャルHPでお確かめください。
http://musicfair.jp/2016/

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プロフィール

井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。

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