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FUZZ FACE〜ゲルマニウム・ファズの源流

ARBITER / FUZZ FACE

古今東西の貴重な機材やそのリアルなサウンド、機材の使用法、サウンド・メイクのコツなどを動画とテキストでご紹介していくDEEPER’S VIEW〜経験と考察。第3回はビンテージ・ファズの「FAZZ FACE」を取り上げてみました。BIG MUFF、TONE BENDERと並ぶ3大ファズのひとつであり、ジミ・ヘンドリックスを筆頭として60〜70年代のロック・ギター・サウンドを彩った名機と言えるでしょう。いくつものバージョンが存在するファズフェイスの、最初期仕様であるゲルマニウム・トランジスタ搭載モデルのサウンド、使いこなしのポイントを、動画とテキストでお伝えしたいと思います。

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FUZZ FACE〜ファズフェイス
ゲルマニウム・トランジスタ期のファズフェイスを知る

 FUZZ FACE(ファズフェイス)は、ARBITER(アービター)社から1966年に発売されたファズ・ペダルだ。それ以前にすでに発表されていたSOLA SOUND社のファズ・ペダルであるTONE BENDER(MK1.5)とほぼ同じような回路を持ったこのファズ・ペダルは、IVOR ARBITER氏の発案で、マイク・スタンドの土台(当時のマイク・スタンドの足は丸い円盤形状だった)のようなケースに収められたユニークな外装を持つ。 総数10点ほどのパーツ構成とシンプルな増幅回路でありながら、そのサウンドは素晴らしく、トレブル(高域)やベース(低域)の音像がON/OFF時に大きく変わらない、非常に「オーガニックなサウンド」が持ち味のファズと言えるだろう。

 このペダルの存在を有名にしたのは、もちろんジミ・ヘンドリクスだ。1966年にはドイツのステージでファズフェイスを使用した事がマニア筋により確認されている。最初にレコーディングで使用されたのが「Love or Confusion」のセッションだったという。実際の音源でフィードバック奏法や歌の後ろで鳴っている完璧な「ゲルマのファズ・サウンド」が確認できるだろう。他の誰よりも多彩なギター・サウンドを編み出したヘンドリクスは、当時それほど注目されていなかったフェンダー・ストラトキャスターの3つのピックアップ、そして2つのトーンとボリュームを巧みに操りながら、それまで誰も聴いた事がない表現方法(サウンド・レイヤーとダイナミクス)で音楽に彩りを加えた。こういったプレイに対応するように、ギターのボリューム・コントロールに当時一番リニアに反応したアタッチメント=ファズ・ユニットが、このファズフェイスだったのではないか? と推測できる。

ARBITER / FUZZ FACE(NKT275ゲルマニウム・トランジスタ・モデル)。シリコン・モデルに比べて丸みのあるARBITER期の筐体。

 当時先行発売されていたファズ、トーンベンダー(MK1/MK1.5/MK2)はギター・ボリュームへのゲインの追従がイマイチだった。これは回路的に3石のトランジスタ(MK1.5は2石)を搭載した当時の「ハイゲイン」仕様だったからだ。同じように、マーシャルのSUPA FUZZもほぼトーンベンダーと同じ3石トランジスタで、トランジスタ2石よりもパワフルでミッドを中心とした質の良いドライブ・サウンドであるものの、ファズフェイスのようにクリアなギター・ボリュームへの追従と爆発的なアウトプット・ボリューム(出力)はない。そしてファズフェイスは、やはりシングルコイル・ピックアップとの相性が良い。それゆえに、マーシャル・スパファズやトーンベンダーは他の愛用者(ハムバッカー搭載ギターを演奏するミュージシャン)が多かったのに対し、ファズフェイスを愛用するミュージシャンは少なかった(それほど当時、ストラトをプレイするギタリストが少なかった)とも言えるかもしれない。それこそがFUZZ FACE = ヘンドリクスというイメージを不変的なものにしたのではないだろうか。

 もうひとつ加えれば、ファズフェイスの魅力は爆音であると言える。超シンプルな回路ながら、単純な増幅回路を持つファズフェイスは出力が大きい。これにより、すでに程良くドライブしたマーシャル・アンプと組み合わせる事で、ブースター的にマーシャルをフル・ドライブさせる爆発的な電気的出力を手に入れる事ができた。特にヘンドリクスが愛用したマーシャルJTM100やSUPER LEAD(いわゆるプレキシ・マーシャル)との相性は良かった。ファズフェイスはペダル単体でのサウンドは「ダークな」ファズ・サウンドだが、マーシャル・アンプ、そしてブライトでシャープなシングルコイル・ピックアップ(特にシャープな音色のグレイ・ボビン期)と組みわせる事で、そのサウンドはお互いを補正&強調する、理想的な音の足し算効果を生み出した。逆説的だが、ヘンドリクスの逆アングルと言われるピッキング・スタイルとボリューム・コントロールを含めた楽器の鳴らし方もこの組み合わせに適していたと言えるだろう。

ファズフェイスの内部。大きな筐体に収められているのは非常にシンプルなパーツ群だ。

 ほんの10年くらい前までヘンドリクスの個性的なサウンドを生み出していた要因は憶測と推測で語られる事が多かった。しかし、インターネットがもはや当たり前になってファズ・マニア、アンプ・マニア、そしてギター・マニアがネット上に続々登場し、全ての謎を解き明かしてくれた。今ではちょっと検索エンジンを働かせれば、ヘンドリクスのサウンドの要だったギター、ファズ、アンプの「黄金比」とその組みわせを見つけられるだろう。しかし、文献だけではよく理解できないことも多い。今回の動画がビンテージ・ファズフェイスのサウンドの紹介だけでなく、少しでも皆さんの音作りへのヒントや、機材探求への関心に繋がればうれしい。

 今回ご紹介したNKT275ゲルマニウム・トランジスタ搭載のファズフェイスは上述したようにアンプとのコンビネーションでサウンドをコントロールしたり、もちろん単体でそのサウンドを楽しむ意味でも非常に良い結果をもたらしてくれる。このすぐ後の時期(1968年ごろ)からトランジスタはより安定した動作のシリコン・トランジスタに変更となった。では、果たしてBC183Lの音は? BC108とBC109の音の違いは? ゲルマとシリコン、シリコンのバージョン違いは⋯⋯そのあたりの音色の変化、そしてサウンド・チェックはいずれまた、このDEEPER’S VIEWでご紹介したいと思う。

基板上部に見える「275」と刻印されたパーツがNKT275ゲルマニウム・トランジスタ。

フット・スイッチの裏面。BULGIN ENGLANDの文字が確認できる。

FUZZポットとアウトプット・ジャック。

シリコン・トランジスタ・モデルもいずれご紹介したい。

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ARBITER、DALLAS-ARBITER / FUZZ FACE

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プロフィール

村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。

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