Bacchus 30周年記念スプリングキャンペーン
- 2024/03/22
Positive Grid / BIAS Head
Positive Grid BIASシリーズはソフトウェア環境で培われてきたテクノロジーをベースに、美しくモダンなデザインを持つハードウェア“アンプ”として登場した。
もともとPositive Grid社はJamUp Proというアプリケーションを発表。プロフェッショナル・レベルのレスポンス、アンプ・モデリングと多彩な機能を持ったこのアプリは、ギター&ベース・アンプに加えてマルチ・エフェクトまでもフォローするiOSアプリとして爆発的な人気を誇った。そのリアルなアンプ・サウンドをライブで使用したい……実際にスピーカーから鳴らしたい!という要望が世界中から寄せられたようだ。そこで検討されたのが“リアル・アンプ・ヘッドを作る”ということだった。すでに完成されていたアンプ・モデリング技術を駆使し、リアル・アンプとして登場したのがこの「BIAS Head」そして「BIAS Rack」だ。今回はパワー・アンプを搭載したアンプ・ヘッド「BIAS Head」を使用し、実際にスピーカーからの出音をマイキングしてサウンド・チェックを行なった。
まず、シンプルなインターフェースに注目してほしい。そのコンセプトを聞くと、モダンな機材に疎い皆さんは一見難しそうな印象を持たれるかもしれない。しかし、その内容や操作感は、一般的な真空管/トランジスタ・アンプと何も変わらないということをお伝えしたい。入力信号は正面左側のインプットから右側に向かって流れていく。
特徴的なのは、プリセットとアンプ・チュー二ングに関係するコントロールが並ぶ上段部分。左側からアンプ・タイプ(クリーンからハイゲインまで5種類の基本サウンド・パターン)、続いてアンプ・モデルの切り替えツマミとなる。例えばクランチ・タイプの中に5つのアンプ・モデルが格納されていて、それをマーシャルJTMにするかVOXにするかはアプリと連携することでオーナーが自由にアサインできる。このBIAS Head自体には5タイプ×5モデル、計25種類のアンプ・モデルをプリセットできて、自宅でセットしておけばBIAS Headだけを持ち出しても同じように使用可能。この辺りのアナログ・フィーリングも嬉しい。
続いてのTUBE STAGEとDISTORTIONは大まかなゲインの幅と量を調整する。一度セットしたら動かさなくてもいいし、バンドやセッションによっては同一アンプでありながらグッとキャラクターを変えたセッティングも作り出せる。クラシックなマーシャル・サウンドが超ホットロッド・モディファイされたサウンドに変化する、ということだ。このTUBE STAGEがプリアンプのサウンドを司るセクションだとすると、TOPOLOGYはパワー・アンプ部分でのサウンドを決めるポイントだと言える。SINGLE/SPLIT LOAD/PUSH PULL/SOLID STATEという4種類から選択可能で、使用するスピーカー・キャビネットなどに合わせてサウンドをチューニングできる。チューブ・アンプならではのダンピング感やコンプ感、もしくはソリッドステートならではのスピード感やレンジ感を、このコントロールでダイレクトに操作できるのは、マニアックなサウンド・メイカーにはたまらないポイントだろう。CUSTOMは、デフォルトではノイズ・サプレッサーのスレッショルド・レベルが割り当てられているが、アプリ側から異なる効果、例えばプリアンプ部分のLOW CUT FRQをアサインすることもできる。
動画を確認してもらうとわかると思うが、マーシャルの1960Aキャビネットに接続してクリーン/クランチ系サウンドを弾いた際に、大型密閉(クローズド・バック)キャビの野暮ったさがないと思う。もちろん、プレキシ系のサウンドにした場合は少しボトム感を足してやれば、まるでオールド・アンプのようなダンピング感も得ることができる。iOSアプリと連動したサウンド・メイクの様子もチェックしてみてほしい。
さらに、このBIAS Headを購入すると、別売りのBIAS Amp Professional(アンプ・シミュレーター・ソフト)も無償で手に入る。このソフトはDAW環境、例えばLogicやPro Toolsで単独プラグインとして使用できる。もちろん、その使用したサウンドをBIAS Head側にプリセットして、そのままライブで使えてしまうのだ。また、BIAS Amp desktopからアクセスできる「ToneCloud」というネット上のコミュニティに登録すると、無償で世界中のプロ/アマチュア・ミュージシャンがAmp Matchで作成したアンプ・サウンドをダウンロードできて、さらに自身の好みにカスタマイズすることもできる。さらに、自身で作り上げたお気に入りのサウンドも、世界中の人々と共有することもできてしまう。こういったコミュニティでのやり取りは楽しいだけでなく、なかなかお目にかかれないアンプのサウンドをチェックし、入手できるのが魅力の一つだろう。
またBIAS Headは、既存のリアル・アンプの音色を取り込み、デジタルで再現する“Amp Match”という機能も有している。ギターのドライ・サウンド(DIサウンド)とアンプのサウンド(マイクロフォンで拾ったサウンド)を、付属ソフトウェアのBIAS Amp desktop(Mac & Windows 用)内で照合し、チューブ・アンプのプッシュ/プル感やダイナミクスも取り込み、弾き手のプレイ・スタイル(ピッキング)なども含めて“音色”を作り上げる。必要なのは2つのインプット/アウトプットが装備されたオーディオ・インターフェース、アンプを鳴らす環境。これでAmp Matchの準備は完了だ。
BIAS Amp(パワード・モデル)は高出力の600Wパワー・アンプを搭載している。これにより余裕ある出力とヘッドルームにより、デジタル・アンプならではの“冷たいサウンド”を回避。それだけでなく、ベーシストでも使える低域のパワーを持っている。ストックのアンプ・モデルはギター・アンプが多いのだが、BIAS Amp desktopでサウンドをチューニングすれば、ベースにも対応する。もちろんAmp Matchで自身のベース・アンプのサウンドをBIASに取り込むこともできる。ベーシストに必須のスピード感、ヘヴィなボトムもこのパワー・アンプであれば余裕でフォローしてくれるだろう。
BIAS AMPはパワー・アンプ搭載モデルであれば、今回のレビューのようにスピーカーから音を出して一般的なアンプと同じように使用できる。しかし、それだけではない。良質なスピーカー・シミュレーションを経過したサウンドはそのままRECに使用できるクオリティなのはもちろん、ライブでも威力を発揮する。例えばアンプとスピーカーを接続し、ステージ上のモニターとして使用しながら、マイキングの信号とBIASのLINE OUTからの信号をPAに送り、ライブなサウンドと安定したサウンドを同時に鳴らすことも可能だ。もしくはアンプにはマイクを立てずに、PAにはライン・サウンドだけを送り出すことで、どのような会場、シチュエーションでも自分のサウンドを出力することもできる。対バン形式のライブや環境が整っていない会場でも作り込まれた“こだわりのマイ・サウンド”を安定して得ることができるのはアナログ・アンプにはない特権だろう。イヤモニ環境でライブを行なう現代的なミュージシャンにもお薦めできる。また、ライブ録音したりする場合にも、音被りのないピュアで高品質なサウンドを残すことができる。
このように、まさに現代的な音楽環境にフィットする非常に多機能で“マニアックな”アンプである、ということが言えるだろう。アンプ・マニアであれば世界に一つだけの、自分だけのカスタム・アンプが複数台手に入れる喜びをおわかりいただけるだろう。さらに実際にスピーカーから鳴るこの音をチェックして、この機材も持つポテンシャルを確認してほしい。このアンプは、かなり面白い。
価格:¥164,815 (税別)
価格:¥119,444 (税別)
価格:¥164,815 (税別)
価格:¥119,444
村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。
【使用機材】
使用ギター:Crews Maniac Sound / Aristoteles V2. Trem