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FMシンセシスの原理

FM音源

キーボード・マガジンからFM音源の解説書「FMシンセのあたらしいトリセツ」が販売中です。本書はデジマート・マガジンで連載した「これならわかる!FM⾳源の基礎から⾳作りテクニックまで」(2017年8⽉〜10⽉/全7回)を元に、⼤幅に加筆・増補したのものです。ここでは本書の中から“Chapter 1 FMシンセシスの原理”を紹介します。1人でも多くの人にFM音源の魅力に出会っていただければと願っています。

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FMシンセサイザーを使いこなそう!

 FMシンセサイザーというと「謎の音源」とか「難解なシンセ」というふうに思う人が多いのではないでしょうか。個性豊かなサウンドが出るのは分かるけど、音作りが分かりにくくて……という声もよく聞きます。

 実は筆者もその一人でした。ヤマハDX7が発売されたときに、その革新的な音色、演奏に応えてビビッドに変化する音色にしびれる一方、アナログ・シンセサイザーとは全く異なる音作りに、頭を抱え、そしてひねりまくりました。自分でサイン波のグラフを書いてみたり、カシコイ理系の友人に取説の数式を見せて「これを俺に分かるように説明してくれ!」なんて迫ったり……。とにかく当時はネットの情報もない時代、涙ぐましい努力の末、どこがどうなってどうなるのか、ようやく音作りの方法が分かったのです。

 ところが、いざ理解できてみると、FMシンセシスの楽しいこと!「こうすればこうなるよね」とか「あの音ってこういう設定にすれば出るじゃん」なんて具合に、すっかりはまり込んでしまったというわけです。

 そんな筆者の努力の成果を惜しみなく披露するのがこの連載です。難しい数式はいっさい使わずに、直感的に理解できる波形や倍音などの図を数多く使って、FMシンセシスの仕組みと音作りのテクニックを解説していきます。

 なお、FM音源搭載シンセサイザーは今も現役です。ヤマハからMontagereface DX、コルグからvolca FMが発売中。さらに、ソフトウェア・シンセサイザーとしてもNative Instruments FM8や、フリーウェアのDexedがリリースされていますから、ぜひ実際に操作し、音を出しながら読んでいただければ幸いです。

周波数を変調して音色を作るFMシンセシス

 FMとはFrequency Modulation、つまり周波数変調のことです。FMシンセシスでは、オシレーターの周波数を周期的に変化させることで、さまざまな音色を作成します。こう聞くと、シンセサイザーに詳しい人は「それってビブラートのこと?」と疑問に思うかもしれませんね。確かに、一般的なシンセサイザーでは、オシレーターの周波数=ピッチ(音の高低)ですから、それを周期的に変化させることは、ビブラートの効果になります。このことはFM音源でも同じですが、ビブラートがせいぜい1秒間に数回程度のピッチ変化なのに対し、FMシンセシスはそれよりもはるかに高速の変調をかけることで波形自体を大きく変化させて、ピッチの変化ではなく音色の変化を作り出します。

 では、具体的に見ていきましょう。基本になるのはサイン波を発振するオシレーターです。これを2つ用意し、1つのオシレーターをもう1つのオシレーターで周波数変調(=FM)します。FMシンセシスでは変調をかける方を「モジュレーター」、かけられる方を「キャリア」と呼びます。

▲図1 FM音源の最も基本的な構造。変調をかける側を「モジュレーター」、変調される側を「キャリア」と覚えておこう

 まずはゆっくりと周波数変調を行い、ビブラートをかけることにします。図2は、いちばん上がモジュレーターの波形、中央がキャリアの波形、いちばん下がFMの結果による実際の出力波形です。

▲図2 ゆっくりとした周期の波形で変調をかけ、ビブラートをかけてみた例。上からモジュレーター、キャリア、そして出力される信号

 モジュレーター波形の上下につれて、キャリアでは波形の繰り返し回数(周期)が速くなったり、遅くなったりしているのが分かりますね。速いところではピッチが高く(周期が速く)、遅いところではピッチが低く(周期が遅く)なり、ビブラートになるわけです。

 また、波形の形に注目すると、周期の速いところでは、上がり下がりの角度が急になり、周期の遅いところでは緩やかになっています。ただし、1つずつの波形を見ると、サイン波の形はほぼ保たれています。

 今度は、非常に速い周波数変調をかけてみます。ここでは、モジュレーターの周波数をキャリアと同じにしてみましょう。そうすると、1波形の中で、傾きの形が急になったり緩やかになったりします。モジュレーターが上り坂になって振幅が増加している部分ではキャリアの波形が急になり波の周期が速く、下り坂になって振幅が減少している部分では波形が緩やかになって周期が遅くなっているのが分かりますね。

▲図3 モジュレーターの周波数をキャリアと同じに設定し、速い周波数変調をかけてみたもの。モジュレーター(上)、キャリア(中)、の波形はそれぞれ同じだが、出力される波形(下)は、1波形の中で傾きの形が変化している

 さらに別の例も考えてみましょう。今度は、モジュレーターの周波数をキャリアの倍に設定しました。先ほどの例と違って、キャリアの1波形の中でモジュレーターの上がり下がりが2回になります。結果的に、また異なった波形へと変化しているのが分かりますね。

*MEMO* モジュレーターの値ではなく上がり下がりによって出力波形の傾きが変わるのはFM音源特有の挙動と言えます。アナログ・シンセサイザーで同様の変調を行った場合は、モジュレーターの値のプラス/マイナスで波形の傾きが変わり、非対称な波形となります。

 さらに別の例も考えてみましょう。今度は、モジュレーターの周波数をキャリアの倍に設定しました。先ほどの例と違って、キャリアの1波形の中でモジュレーターの上がり下がりが2回になります。結果的に、また異なった波形へと変化しているのが分かりますね。

▲図4 モジュレーター(上)の周波数をキャリア(中)の倍に設定して変調した場合。生成される波形は1つ前で紹介した「キャリア周波数=モジュレーター周波数」の場合と異なる形になっている

 いずれの場合も、生成される波形の周期は一定ですから、図2で説明したビブラートのようなピッチの変化にはなりません。全体のピッチはキャリアの元のピッチと同じです。また、上下の振れ幅(振幅)も、キャリアと同じですから音量もそのままになります。一方、波の形に関しては、キャリアに対してモジュレーターがどのような周波数になっているかで変化します。もちろん、変調ゼロでは元の波形のままですが、そこから深く変調するほど波形が大きく変化していくことになります。

 このように、周波数変調によってさまざまな波形を作り出す、これがFMシンセシスの基本的な原理です。波形=音色と考えればいいわけですから、このFMシンセシスが、いかに新しい音色を作り出す可能性を秘めているのか、想像できるのではないでしょうか。

続きは……
電子書籍「FMシンセのあたらしいトリセツ」
でお楽しみください!

 使いこなすのが難しいというイメージが根強いFM音源を、高山博氏が平易解説で核心部分に迫ります!シンセサイザー愛好家にとってたいへん興味深い内容になっています。FMシンセで本気で音作りしたい方にオススメです!

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《CONTENTS》
【基礎編】
変調の基本的な原理、アルゴリズム、倍音が発生する仕組みと挙動、さらにはエンベロープやLFOなど、FMシンセを使いこなす上で必要不可欠な知識とテクニックを解説。
Chapter 1 FMシンセシスの原理
Chapter 2 FM音源の構成を解き明かす!
Chapter 3 FM音源特有の挙動(1)発生する倍音の種類について
Chapter 4 FM音源特有の挙動(2)発生する倍音の量について
Chapter 5 3つのオペレーターを使ってみよう(1)直列接続とフィードバック
Chapter 6 3つのオペレーターを使ってみよう(2)Y字接続と逆Y字接続
Chapter 7 FM音源特有の挙動 エンベロープについて
Chapter 8 FM音源のさまざまな機能

【実践編】
FM音源の代表的なサウンドを例に挙げ、音作りの手順を詳細に解説。アルゴリズムの選び方や、サウンド・バリエーションの作り方など、実践的な使いこなしが理解できます。

Sound #01 FMエレクトリック・ピアノ
Sound #02 リアル・エレクトリック・ピアノ
Sound #03 デジタル・ベース
Sound #04 スラップ・ベース
Sound #05 FMパッド
Sound #06 デジタル・リード
Sound #07 シンセ・ベル

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プロフィール

高山博
作編曲家/キーボード・プレイヤー。作曲家としては、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』、自らのバンドCharisma『邂逅』(キングレコード)など、イベント、放送、CD作品など多岐にわたって活躍。執筆活動では、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』『ビートルズの作曲法』などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software徹底操作ガイド』『Logic Pro X for Macintosh徹底操作ガイド』(いずれもリットーミュージック刊)などのDAW/シンセサイザー解説書など多数の著作を持つほか、音楽雑誌でも健筆をふるう。映画美学校作曲科講師、東京藝術大学大学院非常勤講師。

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