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これならわかる!FM音源の基礎から音作りテクニックまで 〜 第1回 FMシンセシスの原理 〜

FM音源

さまざまなシンセサイザーの音作りを研究し、その可能性に迫る「KMシンセサイザー研究室」。最初に取り上げるのは「FMシンセシス」。1983年に発表され、世界的大ヒット・モデルとなったヤマハDX7でその存在を広く知られ、現在でもヤマハRefaceやコルグvolca FMなどでおなじみのシンセシス・システムです。

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はじめに 〜FMシンセサイザーを使いこなそう!

 FMシンセサイザーというと「謎の音源」とか「難解なシンセ」というふうに思う人が多いのではないでしょうか。個性豊かなサウンドが出るのは分かるけど、音作りが分かりにくくて……という声もよく聞きます。

 実は筆者もその一人でした。ヤマハDX7が発売されたときに、その革新的な音色、演奏に応えてビビッドに変化する音色にしびれる一方、アナログ・シンセサイザーとは全く異なる音作りに、頭を抱え、そしてひねりまくりました。自分でサイン波のグラフを書いてみたり、カシコイ理系の友人に取説の数式を見せて「これを俺に分かるように説明してくれ!」なんて迫ったり……。とにかく当時はネットの情報もない時代、涙ぐましい努力の末、どこがどうなってどうなるのか、ようやく音作りの方法が分かったのです。

 ところが、いざ理解できてみると、FMシンセシスの楽しいこと!「こうすればこうなるよね」とか「あの音ってこういう設定にすれば出るじゃん」なんて具合に、すっかりはまり込んでしまったというわけです。

 そんな筆者の努力の成果を惜しみなく披露するのがこの連載です。難しい数式はいっさい使わずに、直感的に理解できる波形や倍音などの図を数多く使って、FMシンセシスの仕組みと音作りのテクニックを解説していきます。

 なお、FM音源搭載シンセサイザーは今も現役です。ヤマハからMontagereface DX、コルグからvolca FMが発売中。さらに、ソフトウェア・シンセサイザーとしてもNative Instruments FM8や、フリーウェアのDexedがリリースされていますから、ぜひ実際に操作し、音を出しながら読んでいただければ幸いです。

【今回のポイント
● FMによる音色合成の仕組み
● 倍音と波形や音色の関係
● FMシンセシスのパラメーターと倍音

周波数を変調して音色を作るFMシンセシス

 FMとはFrequency Modulation、つまり周波数変調のことです。FMシンセシスでは、オシレーターの周波数を周期的に変化させることで、さまざまな音色を作成します。こう聞くと、シンセサイザーに詳しい人は「それってビブラートのこと?」と疑問に思うかもしれませんね。確かに、一般的なシンセサイザーでは、オシレーターの周波数=ピッチ(音の高低)ですから、それを周期的に変化させることは、ビブラートの効果になります。このことはFM音源でも同じですが、ビブラートがせいぜい1秒間に数回程度のピッチ変化なのに対し、FMシンセシスはそれよりもはるかに高速の変調をかけることで波形自体を大きく変化させて、ピッチの変化ではなく音色の変化を作り出します。

 では、具体的に見ていきましょう。基本になるのはサイン波を発振するオシレーターです。これを2つ用意し、1つのオシレーターをもう1つのオシレーターで周波数変調(=FM)します。FMシンセシスでは変調をかける方を「モジュレーター」、かけられる方を「キャリア」と呼びます。

▲図1 FM音源の最も基本的な構造。変調をかける側を「モジュレーター」、変調される側を「キャリア」と覚えておこう

 まずはゆっくりと周波数変調を行い、ビブラートをかけることにします。図2は、いちばん上がモジュレーターの波形、中央がキャリアの波形、いちばん下がFMの結果による実際の出力波形です。

▲図2 ゆっくりとした周期の波形で変調をかけ、ビブラートをかけてみた例。上からモジュレーター、キャリア、そして出力される信号

 モジュレーター波形の上下につれて、キャリアでは波形の繰り返し回数(周期)が速くなったり、遅くなったりしているのが分かりますね。速いところではピッチが高く(周期が速く)、遅いところではピッチが低く(周期が遅く)なり、ビブラートになるわけです。

 また、波形の形に注目すると、周期の速いところでは、上がり下がりの角度が急になり、周期の遅いところでは緩やかになっています。ただし、1つずつの波形を見ると、サイン波の形はほぼ保たれています。

 今度は、非常に速い周波数変調をかけてみます。ここでは、モジュレーターの周波数をキャリアと同じにしてみましょう。そうすると、1波形の中で、傾きの形が急になったり緩やかになったりします。モジュレーターが上り坂になって振幅が増加している部分ではキャリアの波形が急になり波の周期が速く、下り坂になって振幅が減少している部分では波形が緩やかになって周期が遅くなっているのが分かりますね。

▲図3 モジュレーターの周波数をキャリアと同じに設定し、速い周波数変調をかけてみたもの。モジュレーター(上)、キャリア(中)、の波形はそれぞれ同じだが、出力される波形(下)は、1波形の中で傾きの形が変化している

 さらに別の例も考えてみましょう。今度は、モジュレーターの周波数をキャリアの倍に設定しました。先ほどの例と違って、キャリアの1波形の中でモジュレーターの上がり下がりが2回になります。結果的に、また異なった波形へと変化しているのが分かりますね。

*MEMO* モジュレーターの値ではなく上がり下がりによって出力波形の傾きが変わるのはFM音源特有の挙動と言えます。アナログ・シンセサイザーで同様の変調を行った場合は、モジュレーターの値のプラス/マイナスで波形の傾きが変わり、非対称な波形となります。

 さらに別の例も考えてみましょう。今度は、モジュレーターの周波数をキャリアの倍に設定しました。先ほどの例と違って、キャリアの1波形の中でモジュレーターの上がり下がりが2回になります。結果的に、また異なった波形へと変化しているのが分かりますね。

▲図4 モジュレーター(上)の周波数をキャリア(中)の倍に設定して変調した場合。生成される波形は1つ前で紹介した「キャリア周波数=モジュレーター周波数」の場合と異なる形になっている

 いずれの場合も、生成される波形の周期は一定ですから、図2で説明したビブラートのようなピッチの変化にはなりません。全体のピッチはキャリアの元のピッチと同じです。また、上下の振れ幅(振幅)も、キャリアと同じですから音量もそのままになります。一方、波の形に関しては、キャリアに対してモジュレーターがどのような周波数になっているかで変化します。もちろん、変調ゼロでは元の波形のままですが、そこから深く変調するほど波形が大きく変化していくことになります。

 このように、周波数変調によってさまざまな波形を作り出す、これがFMシンセシスの基本的な原理です。波形=音色と考えればいいわけですから、このFMシンセシスが、いかに新しい音色を作り出す可能性を秘めているのか、想像できるのではないでしょうか。

波形ではなく「倍音」で音色をイメージしよう

 さらに詳しく、FMシンセシスでどのような音色ができるかを考えてみましょう。先に解説したように、波形=音色ですから波の形が変われば音色が変化します。しかし、波の形はさまざまで、数値化できない形を基に音作りを考えることは、なかなか難しいものです。たとえば、三角波はおとなしく丸い感じの「ポー」といったサウンドですが、同じ三角形でもノコギリ波ははるかにブライトな「ブー」といったサウンドになります。このように、形だけから、音色を判断するのには限界があります。

▲図5 三角波とノコギリ波。一見、似たような波形だが音のキャラクターは全く異なる

 そこで、音色を考えるのに、波形ではなく倍音を基準に考えることにしましょう。実は、あらゆる波形は、さまざまなサイン波を重ね合わせたものです。例えば、先のノコギリ波なら[基本になる周波数のサイン波]+[基音の2倍の周波数で1/2のレベル(音量)のサイン波]+[基音の3倍の周波数で1/3のレベルのサイン波]……と、次々にサイン波を重ね合わせたもので構成されているのです。

▲図6 あらゆる波形はさまざまな「周波数」と「レベル」のサイン波が組み合わさって構成される。図右の矢印はその足し引きの様子を示しており、最終的に発生する波形は緑の線で表されるように、元のサイン波と異なる形になる

 この、基本になる周波数のサイン波を「基音」、それよりも高い周波数のサイン波を「倍音」と呼び、それぞれの倍音は、基音に対して何倍の周波数かによって「第2倍音」「 第3倍音」といった具合に数字をつけて呼びます。

 基音も倍音も形は同じくサイン波ですから、「周波数」と「レベル」という2つの要素のみのグラフで表すことができ、音色の違いを形でなく数値で表現できることになります。なお、このグラフは、「スペクトルグラフ」とも呼ばれています。

*MEMO* 人の聴覚には、物理的な音量が倍、そのまた倍と変化したとき直線的に増加したように聞こえる性質があります。そこで、この倍ずつの変化=指数的変化を、一定量ずつの変化=足し算の変化に変えて表示すると便利です。これがdB(デシベル)表示で、+6dB変化すると物理的な音量は倍になり、+12dB変化すると音量は倍の倍、すなわち4倍になります。ここでは、倍音のグラフもこのdB表示で記しています。

▲図7 音をサイン波の「周波数」と「レベル」のみで表したものは「スペクトルグラフ」と呼ばれる。図はノコギリ波のスペクトルグラフ。

 このスペクトルグラフは、波形を別の方法で表現したものといえますから、音色の要素がすべてここに入っていることになります。音作りを考えるには、波形でなく倍音とスペクトルグラフを基本に考えると非常に便利です。

 基本的な波形と、それを倍音で表したスペクトルグラフは、以下のようになります。

▲図8 シンセサイザーにおける基本的な波形と、それを倍音の構成で表したスペクトルグラフ

変調する際の周波数比で発生する倍音が変わる

 ここでは、FMシンセシスのパラメーターと倍音の関係を考えましょう。

 まずは、キャリアとモジュレーターの周波数比が1:1の場合です。この場合、モジュレーターのレベルを上げ変調をかけていくとともに、キャリアの2倍、3倍、4倍の倍音が発生しはじめます。つまり、キャリアを基音とし、その整数倍の倍音が発生するわけですね。これは、先のノコギリ波によく似た構成ですし、実際の波形もノコギリ波に似ていますね。

▲図9 キャリアとモジュレーターの周波数比が1:1の場合。発生する倍音はキャリアの2倍、3倍、4倍(それぞれ整数倍)となる

 今度は、キャリアとモジュレーターの周波数比を1:2にしてみましょう。1:2は音程でいえばオクターブになる関係です。今度は、変調をかけるとともに、キャリアの3倍、5倍、7倍といった奇数の倍音が発生しはじめます。これは、先の矩形波と同様の倍音構成になりますね。波形も矩形波に似ています。

▲図10 キャリアとモジュレーターの周波数比が1:2の場合。キャリアに対して奇数倍の倍音(3倍、5倍、7倍など)が発生する

 ここまでは、キャリアとモジュレーターの周波数比を、1:1や1:2といった「整数比」に限定して考えましたが、次に「整数比ではない場合」を考えてみましょう。

 たとえば、キャリアとモジュレーターの周波数比を1:2.7にしてみます。この場合、発生する倍音は、キャリア=1の上に、1.7倍、3.7倍、5.4倍、7.4倍といった具合に、非整数の周波数になります。こういった「非整数倍音」を含む波形では、ピッチが定まらない独特のサウンドになるとともに、波形も複雑な形に変化します。

 このようにFMシンセシスでは、整数倍音だけを持つシンプルな波形だけではなく、非整数倍音を含む複雑な波形を生成できるのが、ユニークかつ大きな魅力になっているのです。

第1回のまとめ

  • FMシンセシスでは、あるオシレーターの周波数を別のオシレーターですばやくモジュレーションすることで波形の変化=倍音を作り出す。
  • モジュレーションされる方を「キャリア」、モジュレーションする方を「モジュレーター」と呼ぶ。
  • 出力される音のピッチと音量は、キャリアの設定で決まる。
  • どれだけ倍音が発生するかは、モジュレーションの量=モジュレーターの出力レベルによって決まる。
  • どのような倍音が発生するかは、キャリアとモジュレーターの周波数比によって決まる。
  • 周波数比の設定によっては、非整数倍音を発生させ、ピッチの定まらないノイジーなサウンドを作り出せる。


 次回は、オペレーターやアルゴリズムなど、FM音源の基礎についてさらに詳しく解説します。

 〜 次回更新は8月22日頃(火)を予定しています 〜

FMシンセ、この1台

ヤマハ reface DX

▲ ヤマハ reface DX

進化したFM音源を搭載した「現代版DX」と言えるシンセサイザー。4オペレーター/12アルゴリズムながら、各オペレーターにフィードバックを設定することができ、多彩な音色を作り出すことができる。弾きごこちにこだわった新開発のコンパクト鍵盤「HQ Mini」や、2系統のエフェクター内蔵など装備も充実。さらに、スピーカー内蔵&乾電池駆動にも対応している。

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プロフィール

高山博
作編曲家/キーボード・プレイヤー。作曲家としては、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』、自らのバンドCharisma『邂逅』(キングレコード)など、イベント、放送、CD作品など多岐にわたって活躍。執筆活動では、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』『ビートルズの作曲法』などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software徹底操作ガイド』『Logic Pro X for Macintosh徹底操作ガイド』(いずれもリットーミュージック刊)などのDAW/シンセサイザー解説書など多数の著作を持つほか、音楽雑誌でも健筆をふるう。映画美学校作曲科講師、東京藝術大学大学院非常勤講師。

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