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VOX CLYDE McCOY〜黎明期のワウならではの音楽的な表現力を検証する

VOX / CLYDE McCOY & Crybaby TOP LOGO

DEEPER’S VIEW第6回。今回はワウ・ペダルにフォーカスしてみましょう。1960年代に登場し、現在に至るまで愛用者が絶えないエフェクターの定番。そして定番ながら実は「ナカナカの沼」というアイテムでもあります。そんなワウですが、DEEPER’S的視点としては、やはりワウ・サウンドを定番化させた基本中の基本であるVOX CLYDE McCOY(クライド・マッコイ)のサウンドを皆さんにご紹介したいと思います。今回もDEEPなマニアにご尽力いただき、複数台の中から最もバランスの良いペダル・ストローク、サウンドを持った個体を厳選しております。10台程度の中から選りすぐられた個体はサウンド・サンプルとしては最高でしょう。さらに同時期に登場した、ブランド違いながらほぼ同じ回路を持ったCrybaby TOP LOGO(トップ・ロゴ)ワウも登場します。どうしてこのワウじゃなければならないのか? そのことをご理解いただくきっかけになれば、これ幸いです。

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VOX CLYDE McCOYから紐解く
ワウワウ本来のサウンド、効果とは?

 ワウのヒストリーはここでは省きます。毎度書いていますが、現在ではインターネットの恩恵でたくさんのマニアがワウの解析やヒストリーを取りまとめているからです。探せば必ず、欲しい情報にたどり着くでしょう。しかし、いずれのサイトもサウンドに関しては言葉で説明しているものが多いので、このDEEPER’S VIEWのサウンドを照らし合わせることで、さらに深くワウ・サウンドを理解できると思います。

 ところで、若いギタリストやベーシストの皆さんは、ワウと言えば「ファンキーなカッティング」、もしくは(ある意味ワウ・マスターの)メタリカのカーク・ハメットの様にギター・ソロで踏みまくるイメージが強いかもしれません。クライベイビーに代表される70年代以降のワウ・ペダルは確かにスウィープもメロウでチャカポコ系カッティングに向いているし、ハイゲインに組みわせてまとわりつく様なワウ・サウンドでギター・ソロを盛り上げてもいいでしょう。また、カラー・サウンド系のワウはかなり極端にVOXグレイ・ワウを進化させた様な異様に深いフィルター効果が得られます。こちらもドープなファンク・カッティングからトーン・ブースターとしても素晴らしいと思います。

VOX CLYDE McCOY

 しかし、とりわけ1967年から69年あたりまでの短期間に生産されたワウはそれらとは異なり、単体では滑らかなワウ効果ながらひとたびゲインを与えてやるとその表情を一変させます。例えば今回の動画では、イントロの強烈なサウンドはストラト+WAH+PARK FUZZで生まれています。動画中盤に出てくる同じセットアップをレス・ポールで弾いた時と比べると別物の様な効果ではありませんか? この様に弾き手や前後のペダルとの兼ね合いでさらに音楽的で個性的なサウンドを生み出すというのも面白いところです。音色を突き詰めていくと、最終的には「弾き手次第」でサウンドは大きく変わってくる、ということですね。

 また、今回紹介したクライド・ワウはとにかく過渡期のテイストが色濃く、そもそもワウ・ペダルが登場したきっかけの様な「トーン・フィルター」として素晴らしいだけでなく、スウィープを効かせたワウワウ・サウンドでも非常に音楽的に聴こえるのが特徴。

 クライベイビー・トップ・ロゴは同じくイタリアン・メイド(のちのJEN)のワウワウ・ペダルで、クライド・マッコイとほとんど同じ回路を持ちますがサウンドの傾向が少し異なります。これはトランジスタの違いによるところが大きいのですが、その微妙な違いがわかる動画になったと思います。では、具体的にワウのどのパーツがサウンドに変化を与えるのか? ざっと見ていきましょう。

Crybaby TOP LOGO。クライド・マッコイとほとんど同じ回路を持つが、サウンドは微妙に異なる。

クライド・マッコイのイラストがプリントされた底面。「ピクチャー・ワウ」とも呼ばれる所以だ。

右がクライド・マッコイ。ゴム足の高さが違うが、踏み代はほぼ同じ。

ワウワウを構成するシンプルなパーツ
インダクタ・コイル、トランジスタ、コンデンサー、ポットを検証する

インダクタ・コイル

 楽器店に勤務しているとペダル愛好家の皆さんから「ワウのパーツで最も重要な部分/部品は?」と聞かれることが多々あります。しかし、どの部品も重要、としか言えません。ワウは非常に少ないパーツ構成で組み上げられており、2つのトランジスタ、10本の抵抗、5つのコンデンサー、ポット、そしてインダクタ・コイルだけ。中でも特にサウンドに影響を与えると言われているのがインダクタ・コイルです。初期のクライド・ワウにはスモール・ホールHALOと呼ばれるインダクタ・コイルが搭載されていますが、実はこのコイルは非常に厄介な代物。と言うのもピックアップと同じく正確なインダクタンスが良い音を生むわけではないからです。昨今では様々なリプレイスメント・パーツが登場していますが、やはり現代のコイル(ワイヤ)で巻いてしまうと音色は少し硬くなる印象です。コイルのスタイル/形状そのものがサウンドに与える影響もかなりあるので、昨今のワウにクラシックHALOタイプのコイルを搭載するだけでサウンドは変化すると思います。

トランジスタ

 次にトランジスタ。初期のクライド・ワウにはいくつかのトランジスタのコンビネーション・パターンがあります。最初期モデルは今回試奏したSGS IW9802と2N2926のコンビだと言われており、その直後にSGS IW9802とSGS IW9801のコンビになります。さらにSGS IW9802とBC109のコンビも見たことがあります。個人的にはそのコンビのサウンドはなかなかガッツがあり、良い印象でした。マニアに言わせると「そのコンビはリプレイスメントで交換されている可能性も否定できない」とのことでした。個人的には音が良ければ(好みであれば)なんでも良いかとも思いますが、SGS IW9802とSGS IW9801のコンビは、甘いトーンの雰囲気を持つ個体が多いと言えるのではないでしょうか。

 その後、クライド・マッコイ・シグネチャー期になるとBC109x2のコンビが定番として搭載され、稀に2N2926x2のコンビも発見できます。ということで、初期のクライド・ワウは異なる2つのトランジスタを搭載する仕様を持っており、これは明らかに何か音色的/効果的な意図を見てとれます。ところがBC109のコンビになったあたりから、そういったこだわりが薄れたのか……? 定かではありませんが、明らかにサウンドが平面化し、ワウ効果のトルク感やガッツが薄まる印象もあります。もちろん、グッド・サウンドの個体もありますが、ワウのマニアに言わせると「2つのトランジスタに同じ型番を使う場合でも、HFE値(ゲイン)を調整してトルク感を出す」という人が多く、個人的にも異なるトランジスタを搭載したクライドは音への食いつきが良く感じます。逆に同じ型のトランジスタを搭載している個体はどちらかと言えば滑らかなワウ・サウンド、という印象ですね(特に1967年以降のモデル)。この辺りはファズフェイスにも同じことが言えると思います。トランジスタの型番だけでは判断できない「沼ポイント」であります。

クライド・マッコイの基板。赤丸部分がトランジスタ。左上の円形のパーツがインダクタ・コイル。

クライベイビーの基板。赤丸のトランジスタは異なるが、基本的にはよく似た仕様であることが分かる。

抵抗

 抵抗に関しても興味深い違いがあります。ほぼ同じパーツ構成のクライド・マッコイとトップ・ロゴですが、インダクタ・コイル左の並列抵抗の値が違います。これがワウのフリケンシーに変化を与えています。初期は33kの抵抗ですが、68年中期頃から100kに変わります。ここで基本的なサウンドの違いが生まれますが、これは微調整の範囲。それほど極端な変化ではないと思います。……とは言え、これらの「大したことがない変化」が後に大きなサウンドの変化を生み出します。

 また、抵抗の種類自体にも注目。初期は肌色のISKRA社の抵抗を主に使用しており、一部パーツに焦げ茶色のPiher社の抵抗を使用しています。中期になると、多くの抵抗がISKRAからPiherに変更となります。Piherはどちらかというと滑らかで歪みの少ない印象があり、このことも67年(初期)の「ガッツ感」が68年頃になるとあまり感じられなくなる要因の一つかもしれません。実際に、リイシュー・ワウの抵抗にはカーボン抵抗を採用するブランドも多いのですが、全てカーボンにしてしまうとツヤ感が薄れてしまいます。このあたりは絶妙なチューニングでサウンド・メイクが行なわれています。……が、当時そこまで音色のことを考えてパーツ・チョイスを行なっていたのでしょうか? 私は単純にサプライヤーからの供給がスムーズな方を選び、在庫パーツとの兼ね合いで徐々にパーツの構成が変わっていった、ととらえるのが自然かな? と考えています。

コンデンサー

 コンデンサーももちろん重要で、基板を見るとトロピカル・フィッシュやアルコの色鮮やかなコンデンサーが目に入り、このパーツを過剰に重要視する声もありますが、むしろサウンド的に重要なコンデンサーはインダクタ近くの2つのDUCATIコンデンサーでは? と思います。低域の補正にも効果を発揮するポイントで、個人的にはこのパーツが交換されているビンテージ・ワウは、正直言ってあまり良い印象がありません。交換用のコンデンサもなかなか見つからないのでワウ製作家も悩むポイントらしいですね。以前、修理対応でこの箇所に使えるコンデンサーを探したことがありますが、手当たり次第にコンデンサーをいくつか試して、やっと納得できるパーツを見つけた記憶があります。やはりNOS品のドイツ製でしたが、コンデンサーの単価でいうと、とても高価だった記憶があります。

インダクタ・コイルの右上と真左に見えるのがDUCATIコンデンサーだ(赤矢印部分)。

クライベイビーのDUCATIコンデンサー(赤矢印部分)。

ポット

 ポットに関しても100kのICARが最高!という話は、少しワウ・ペダルのことを調べていくと目にすることでしょう。もちろん重要なポイントであることに変わりはないのですが、個人的にはポットに関しては「消耗品である」という認識も忘れてはならないと思います。昨今ではこだわりのワウ・ポットが様々なブランドから発売されています。それらはかなり良いポットだと思うのでICARタイプの100kであればほとんどサウンド面での問題はないでしょう。考慮すべき点は、ポットのカーブ、その両端のニュアンスです。動画でもチェックできますが、ビンテージ・ワウのサウンド・メイクでは踵側/つま先側でのサウンドが重要という皆さんも多いことでしょう。再生産のポットはこの両際のカーブ(音色変化)がICARに比べると直線的です。オリジナルのポットから交換した場合は繊細なコントロールが必要になるでしょう。ちなみに、今回の動画で使ったトップ・ロゴ・モデルはワウの研究の第一人者である英キャッスルダインのリプレイスメント・ポットに交換しています。

 個人的にはビンテージ系ワウ・サウンドにおける最大のポイントは基板以外にもあると思っています。これは実際にビンテージ・ワウを手にしないとわからない部分でもありますが……いずれそのあたりも動画で実証実験できたら良いな、と思っております(もしくは室長に頼みましょうか?)。

クライド・マッコイのポット部。

このクライベイビーのポットはキャッスルダインのリプレイスメント・ポット。

 ということで今回は動画もナカナカの長編になってしまいましたが、じっくりとワウ・サウンドをチェックできる動画になったと思います。ぜひお手持ちのワウとの違いをお楽しみください。今回のクライドの様なワウ・サウンドが欲しいなーという皆さんは、デジマートでクライド・マッコイ・ワウを検索してみれば、大手からガレージ・ブランドまで、様々なブランドのクライド・マッコイ・スタイルのワウがヒットすることでしょう。あとはルックスと価格から、あなたに最適な1台を入手してください。もちろん、ビンテージ・ワウをゲットしてみるもの良いかも……ただし、結構深めの沼にハマる可能性もありますので十分にご注意ください。

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製品情報

VOX / CLYDE McCOY(ビンテージ)

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CLYDE McCOYタイプのワウ・ペダル

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プロフィール

村田善行(むらた・よしゆき)
ある時は楽器店に勤務し、またある時は楽器メーカーに勤務している。その傍らデジマートや専門誌にてライター業や製品デモンストレーションを行なう職業不明のファズマニア。国産〜海外製、ビンテージ〜ニュー・モデルを問わず、ギター、エフェクト、アンプに関する圧倒的な知識と経験に基づいた楽器・機材レビューの的確さは当代随一との評価が高い。覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。

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