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滝 善充(9mm Parabellum Bullet)Denonへ行く。

DENON / AH-D7200

スマホやPC、ポータブル・オーディオなど、音楽を聴くことがどんどん手軽になっているこの時代、日頃どのようなオーディオ環境でその音を体験しているだろうか? “とりあえず音が出れば”という人から強いこだわりを持つ人まで多種多様だが、アーティストがさまざまな想いを込めた音楽作品は、やはりできる限り良い音で楽しみたいところ。そこで今回は日本が誇るオーディオ・メーカー=Denon(デノン)へ、深い音響知識を持つギタリスト滝 善充氏(9mm Parabellum Bullet)と訪問し、“アーティストの感性を再生する”オーディオの魅力に迫った。

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about Denon

100年以上の歴史を持つ、日本屈指のオーディオ・ブランド

 Denonはその歴史をさかのぼると1910年に日本蓄音器商会(日本コロムビアの前身)として発足し、2010年には創業100周年を迎えた日本屈指のオーディオ・ブランドだ。また1951年には国産として初のLPレコードを発売するなど、日本における音楽文化に貢献し続けてきた存在でもある。現在はHi-Fiオーディオやホームシアター、システムオーディオなどの本格的な音響機器から、Bluetoothスピーカーやイヤホン/ヘッドホンの身近なオーディオまで幅広い製品をラインナップ。“人々に感動を届けたい“という想いのもと、クリエイターの感性をユーザーに伝達し続けている。

滝が語る“良い音”で聴く重要性

耳を育てることでプレイヤー的に生きることもあると思います。

Denonオーディオ・ルームにて自身の作品をはじめ、各種音源をチェックした滝

 スタジオでフレッシュな音をレコーディングして、それをそのままの状態でミックスダウンした音源って本当にスゴい音がするんですよ。で、それをCDにプレスする段階ではまだ劣化を感じることは全然ないんですが、やっぱりそこからPCに圧縮して入れる時にだいぶやられるなという感じはします。今はPCに入れて、それをポータブル・プレイヤーやスマホに入れて音楽を聴くのが主流にもなっているので、そうすると本来持っていたフレッシュさはかなり削られた状態でリスナーのもとに届くことになってしまうと思うんですね。特に高音がバッサリといなくなるくらいに私は感じてしまって、嘘の音になってしまうという感覚があるんです。

 私は昔からオーディオ好きというか、小学生の頃に粗大ごみの日に捨ててあるスピーカーを持って帰ってキレイにメインテナンスするっていうことばっかりしていたんですよ(笑)。その時も“スピーカーによって音質の違いがいろいろあっておもしろいな〜”とは思っていたんですけど、本当に音にこだわり始めたのはプロ活動を始めてからですね。スタジオで作り込んだ音を聴いていく中で、“全然わかんねぇ”と思っちゃって。自分が作りたい音をはっきりと頭の中でイメージできてないと、楽器でも音は作れないんだと感じたんです。で、修行を始めて耳がだんだん肥えていくんですけど、そうなってくると今度は“この音ではスピーカーを鳴らしきれないな”と思い始めたりもして。

 私は家では自分で作ったスピーカーを爆音で鳴らして音楽を聴いたり制作をしているんですけど、私が思うに一番大事なのは音量ですね。耳が痛くなるくらいの音量で作っているので、それくらいの音量で聴いてもらうのが一番良いんですけど(笑)。それも理由があって、爆音で聴くとライブのような気分、テンションになれるんです。作業する時の音量で曲のテンションが変わってしまうと思っていて、できるだけ大きい音で作っておかないとあとでバンドで合わせた時に“もっとパンチつけれたな〜”とか、“ここで落とすべきじゃなかったな”みたいなことが出てきて、曲作りが小さくなってしまうような気がするんですよ。でも、爆音で聴くうえではスピーカーが少しでも高音が痛かったり、低音がモワッとなっているとスゴく気になるので、やっぱりスピーカーを選ぶのは大事なんですよね。

 一度良い音がわかってしまうと、それが聴こえないと寂しく感じてしまうんです。特にギタリストって、耳が育ってくるとCDの音を聴いただけで“あ、これはマーシャルだ、JCM2000だ”ってわかるし、もうちょっといくと使ってるマイクまでわかるじゃないですか(笑)。そういう意味では耳を育てることでプレイヤー的に生きることもあると思いますし、何よりオーディオの楽しみは単純に“良い音で音楽を聴いたら楽しい”っていうところにありますからね。

TAKI'S SPEAKER

滝 善充のDIY精神と自作スピーカー

滝自作の密閉型モニター・スピーカー。スタジオを作る時に余った壁材にて作った1台だ

 滝 善充と言えばギタリスト界屈指の自作エフェクター愛好家として名高いが、ギター・マガジンの連載コラム“9mm 滝のまたやっちゃいました。〜世界の滝工房から〜”をチェックしている読者ならば、ペダルに限らずドラムや煮玉子、さらには中華麺まで、あらゆるものを作りあげるDIY精神を持っていることをご存知だろう。近頃はついにスタジオの自作を進めている彼だが、音へのこだわりからマイクやスピーカーも自作するなど、音響機器に対する知識はハンパではない。ここからはそんな滝と、Denonが誇る最高級のオーディオ・システムを体感していこう!

TRIAL LISTENING

 ここでは、Denonが誇る最高峰のオーディオ・システムで9mm Parabellum Bulletの作品や、滝のお気に入りのCDを試聴したインプレッションを教えてもらった。

今回の試聴はDenon製品および、親会社にあたるD&Mホールディングスが輸入取扱を担うB&W、AudioQuestの製品を用いて行なった。総額はなんと700万円超……!

Denonオーディオ・ルームにてB&W 802D3スピーカーからのサウンドを浴びる滝

【視聴環境】
SPEAKER:B&W 802D3
SPEAKER CABLE:AudioQuest Oak (bi-wire)
PRE-MAIN AMP:DENON PMA-SX1
CD PLAYER:DENON DCD-SX11
HEADPHONE:DENON AH-D7200
その他特注ケーブル、アイソレーション電源他

9mm Parabellum Bullet『BABEL』

マスタリングした時のことを思い出しました。

 おおー! 1音目がめちゃくちゃ速く飛んできましたね。1曲目の「ロング・グッドバイ」は帯域的にはほぼすべてが埋まっている曲ですけど、低音もやっぱり家庭で聴くレベルでは再現できないところまで再生されています。しかもモワッとせずに輪郭がしっかりとあって、ベースのまわりに隙間があるところまでしっかり見えるのはスゴいですよ。ギターもいろんなボリュームやパンで入れているんですが、それもちゃんと届いてきますね。パッと聴いた感じではマスタリング・スタジオに行った時のことを思い出しました。あと、コーラスがすごくキレイに聴こえる。コーラスってちょっとうしろ目にミックスするので遠く感じちゃうことも多いんですが、ちゃんと近くに聴こえます。これってミックスダウンの時以来なんですよね。スゴいことですよ。

American Football『American Football』

レコーディングで意図されている透明感がよく出てますね。

 これは新作ですね(編注:同名の過去作あり)。4曲目の「Born to Lose」を聴いてみましょう……すごい、音良すぎる(笑)。透明感が出るようにレコーディングされてると思うんですけど、その爽やかな感じが出てますよね。ギターのクリーンのアルペジオがすごく立体的に飛び込んできてくれます。

Radiohead『Ok Computer』

今までで圧倒的に一番いい音でこの曲を聴きましたね。

 このアルバムは2曲目「Paranoid Android」のハットがすごくうるさいんですが……あっ、うるさくない! でもめちゃめちゃ良い音してる。今までで圧倒的に一番良い音でこの曲を聴きましたね。そして、逆に自分の作品だとわからなかった部分が見えまして、これはスゴいことが起こってるなとついにわかりました(笑)。

Mice Parade『Candela』

音を抜いた世界観でも楽しめるし、こういう曲を作りたいと思える。

 これはもともとの音源がスカスカだからこそ楽しめる世界ですね。9mmは全部埋まっちゃってるんですが、これくらいハッキリと聴こえてくると音を抜いた世界観でも楽しく制作できそうだし、こういう曲を作りたいなって思えますね。このオーディオだと何を聴いても感動しちゃうな。

TOTAL IMPRESSION

良い音を知っていると制作のマインドも変わってきて、
自然と作る曲も違ってくる気がしましたね。

DENON AH-D7200ヘッドホンでサウンド・チェックする滝

 9mm Parabellum Bulletの音源だと、レコーディングした時の一番ピュアな状態を知っているから“マスタリングの時のことを思い出した”っていう印象だったんですが、ほかのアーティストのCDを聴いて“これはスゴいぞ”と改めて感じました。特にMice Paradeみたいな音源はおもしろくて、入っている音の数が少ないのにちゃんとキレイに音が埋まってくれる感じがすごく良くて。自分のスタジオでは安い自作のスピーカーで聴きながら制作をしているので、パワーがない分どんどん前に音を貼り付けたくなるんですよ。ギターの音が一番前にくるまで作り込みますから(笑)。でも、今回みたいに余裕のある良い音を知っていると、制作に対するマインドが変わってきて、自然と作る曲も違ってくるんじゃないかなって気がしましたね。

 ヘッドホン(AH-D7200)でも試聴したんですが、さすがフラッグシップ・モデルな音質ですよ。高音もピッチリ伸びてるんですけど、ミドルが太くてロー・ミッド寄りな部分が速く到達するのかな。オーディオで聴いた時と同じ質感はありますね。定番のハイエンド・ヘッドホンも持っているんですけど、全然こっちのほうが好き(笑)。かなり贅沢なヘッドホンですね。

TALK SESSION

滝 善充×山内慎一(Denonサウンドマネージャー)

 Denonにはあらゆる製品の最終的な音決めを担う、サウンドマネージャーという役職が長い伝統とともに代々受け継がれている。ここでは、2015年よりサウンドマネージャーを務める山内慎一氏と滝 善充氏の対談をお届けしよう。音楽を作る側とそれを再生する側、その両サイドから“音”に対するこだわりが見えてくるはずだ。

滝 善充(左)、山内慎一氏(右)

求めているのは、作り手の感性を感じられる音。
SHINICHI YAMAUCHI

──山内さんはサウンドマネージャーという立場ですが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?
山内 Denon製品は市場に出る前に私がすべてチェックをして、直すところがあったら直す、というのがおもな仕事です。最終的にユーザーにお届けする製品を仕上げるという感じですね。開発しながらずっと設計チームと一緒に動いてもいまして、仕上げていくプロセスがおもしろいんですよね。
 音質をあとちょっとこうしたい、もっと詰められるところあるかな、っていうのをパズル感覚で仕上げる感じでしょうか。いいですねぇ。最終的にユーザーに聴いてほしい音として、Denon製品で統一してコンポーネントしたほうがいい、みたいなことはあるんですか?
山内 統一した方が安定しているというか間違いはないんですけど、他メーカーのものと組み合わせておもしろい効果が得られることもあると思います。“Denonのこれと◯◯社の製品を組み合わせるとすごく良い”みたいな話を聴くと、逆にうれしいなと思いますけどね。
 音の最終的なクオリティ・コントロールをするうえで、気をつけていることとは?
山内 作り手の感性を感じられる、っていうのが求めるところですね。よく“原音再生”って言葉も使われるんですけれど、あまりに使い古された言葉なので私はあまり意識しないようにしているんです。“ビビッと来る”とでも言うんですかね。音楽の躍動感を少しでも失わないようにコントロールしています。例えば先ほど試聴していた時にアタックの話が出ていましたが、やはりそこがなまったりするとマズいですからね。
 私も曲のノリであるとかアタック感、リズムでは重要視しているので、それがいい感じで再生されるととてもうれしいですね。
山内 よく欧米の批評家は“タイミング”や“グリップ”っていうワードを使いますね。

──いわゆる音のスピード感ということでしょうか。
山内 そうですね。発音が遅いと不自然な部分がすぐわかってしまうんですよ。実際の出音のタイミングがジャストであって、それ以上前にくることはありませんから、遅くなるにつれてもどかしさが出てきてしまうんです。

──9mm Parabellum Bulletの楽曲ではブレイクが多用されていますが、そういう時にもキレが重要になってそうですね。
 そういう場合にうまく制動をかけられるか、というのは大事ですね。
山内 音が出る時と止まる時の速さですよね。

耳を鍛えて自分に必要な音をみつけないと、ギターの音作りでも迷ってしまう。
YOSHIMITSU TAKI

──良い音で音楽を聴くことで、ギターを弾くうえで生きてくることはあると思いますか?
 自分の耳を鍛えて“この音が必要だ”、っていうのをイメージできないと、“あれがいいのかな、これがいいのかな”って迷いつつエフェクターやギターを買ってしまい、結果何十万円もかかってしまうと思います(笑)。私は自分のギター・システムは完成していると思っているので、それがそのままスピーカーから出てくれたらやはりうれしいですね。あと、日本のポップスってものすごくたくさんの音を使ってますけど、やっぱりボーカルしかまともに聴こえないっていう環境も多いですよね。手前に置いた音しか聴こえてこないという。でもパンクやハードコアは全部の楽器を手前に置いていてよく聴こえるから、若い子たちはみんなその辺を聴くんだろうなと思ってるんですよ(笑)。オーディオ環境によって好きな音楽も変わってくるんじゃないかなと。
山内 ギター・マガジンの読者の方ってもちろんギターを弾く人が多いと思うんですけど、やはり自分が持っている音のイメージというのが強いと思いますので、そういう意味ではオーディオ・ファンにはないプレイヤー的な視点でオーディオを楽しむことができるんじゃないでしょうか。

──最後に本日の対談を振り返っての感想を教えて下さい。
 やっぱり音楽を聴く時、音が良いほうが絶対楽しいっていうのは、良い音でギターを弾きたいと思っている人にはわかると思うんです。そういうオーディオ環境があるとギターの音作りもうまくなるし、“自分の好きな音ってなんだろう”っていうのを考える良い機会にもなるんですよ。どういうアプローチにしたらスピーカーからもっとズバンと音が出てくるようになるかっていうのを意識するようになると思うんですよね。なので、耳の特訓だと思ってぜひやってもらいたいし、単純に音が良いと楽しいので、楽しみつつ耳を鍛えていいギターを弾けるようになると思いますよ。
山内 自分はここでいろんなオーディオを開発しながら、音源を聴いて楽しむという側面もあるんです。その際に、“楽曲はスゴく良いけどもうちょっと音のクオリティが良ければな”って音源も実はあるんですよ。アメリカはオーディオの文化も長いので音を作ることにも長けていて、例えばビヨンセみたいなスターたちの音源はさすがに音が良いですよね。でも、今は音楽を作るのはそういうビッグネームだけじゃなく、好みが分かれて細分化して、嗜好や個人に合わせて音源が存在している時代です。そういった面でもオーディオをある程度体験してもらえると、良い音の作品がもっと出てきて、最終的なユーザーももっと楽しむことができると思います。

FEATURED ITEMS

まずはイヤホン、ヘッドホンから気軽にDenonサウンドを体感しよう

 オーディオの世界は“沼”と形容されることもあるほど、特性も価格帯も異なるさまざまな製品が展開されている。最初はどこに手をつけていいかわからない……という人は、やはり日常的に使うヘッドホン/イヤホンから試してみよう! AH-D7200は滝も試聴したDenonのフラッグシップ・モデルで、クリアで緻密な音を得るためにハウジングにウォルナット材を採用。インイヤー・イヤホンとしてはAH-C620、AH-C720、AH-C820を代表的なシリーズとしてラインナップしており、予算にマッチしたものを選択することができる。まずはイヤホン/ヘッドホンをきっかけに、ワンランク上の音を体感してみてはいかがだろうか。

AH-D7200

AH-D7200

オープン・プライス(市場実勢価格99,000円前後)

AH-C620

AH-D7200

オープン・プライス(市場実勢価7,500円前後)

AH-C720

AH-D7200

オープン・プライス(市場実勢価格12,500円前後)

AH-C820

AH-D7200

オープン・プライス(市場実勢価格18,000円前後)

本記事はギター・マガジン2017年10月号にも掲載されています

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製品情報

DENON / AH-D7200

価格:オープン

【問い合わせ】
デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL:0570-666-112 https://www.denon.jp/jp
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プロフィール

滝 善充
たき・よしみつ。1983年生まれ。茨城県出身。カオティックな轟音、歌謡曲のような親しみやすいメロディ、スピード感溢れる音像を生み出すロック・バンド、9mm Parabellum Bulletのギタリストとして07年にデビュー。機材に対する深い知識を持ち、ケーブルやエフェクターなどを自作している。

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