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第4回 FM音源特有の挙動(2)発生する倍音の量について

FMシンセサイザー

賑やかだったセミの声もすっかりやみ、秋の虫の音が聞こえる今日この頃ですね。「リーンリーン」と鳴く虫の鳴き声をはキャリアとモジュレーターの周波数比をあれくらいにしたら再現できるぞ、なんて思いつつ本稿執筆中です。それでは早速、連載第4回を始めましょう。
FM音源では、発生する倍音の種類および倍音構成は、キャリアとモジュレーターのレシオ比で決まります。一方、発生する倍音の量はモジュレーターのアウトプット・レベル、つまり「モジュレーションをどれだけ深くかけるか」で決まります。ただし、単にモジュレーション量に比例して倍音が増えていくだけではありません。そこには実に複雑な変化があり、FM音源独特の魅力になっています。それだけに、よく理解できないままに使ってしまうと思わぬサウンドの変化になりがちです。FM音源のクセを把握し、うまく使いこなすためにも、今回はモジュレーションの量と倍音の関係を詳しく見ていきましょう。

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第3回 「FM音源特有の挙動(1)発生する倍音の種類について 〜」はこちらから

今回のポイント

  • モジュレーションの量と倍音の量の関係
  • モジュレーション量が変化すると倍音構成がどのように変化するか
  • モジュレーション量が変化すると基音レベルがどのように変化するか
  • FMではどれくらい高い倍音まで発生するか
  • シンプルなFMシンセシスで作りやすい音とは

モジュレーションをかけて倍音が発生する様子を見てみよう

 まずキャリア=1、モジュレーター=5に設定して、倍音の発生の仕方を見ます。5にしたのは、連載第3回で見たように、モジュレーターのレシオが低い場合、マイナス側から折り返した倍音が、プラス側と同じ位置に重なったり連続するので、レベルの変化が分かりにくいからですね。

 キャリア=1、モジュレーター=5の設定で、モジュレーターのアウトプット・レベルを少しずつ上げ、モジュレーションをかけてみましょう。実際に音を出せる方は同じようにセットして、注意深く耳を澄まして変化を聞いてくださいね。

 アウトプット・レベル=0の状態では、もちろん倍音は発生せず、キャリアのサイン波だけが出力されます。アウトプット・レベルを上げてモジュレーションをかけると、わずかに変化が聞こえます。ほとんどサイン波のままですが、やや割れた感じが加わる感じですね。最初の倍音ペア=第4倍音と第6倍音が現れ、それらのレベルが上がっている状態です。

▲図1 モジュレーターのアウトプット・レベルを上げていくと、最初の倍音ペア(第4倍音、第6倍音)が現れ、サウンドがサイン波から徐々に変化していく

*MEMO 倍音ペアのレベルは必ずしも同じになりません。

 このように、モジュレーションを深くかけるほど音色が明るくなり、特徴的な音色になります。モジュレーション量に比例するように倍音の量が増え、さらにより高い倍音が現れる。まずは、これがモジュレーションをかけた時の基本的な挙動になります。ここまでは素直な反応なので理解しやすいでしょう。

 もう少しモジュレーションを深くかけてみます。少し金属質なニュアンスが加わり、だんだんFMっぽくなってきます。これは、次の倍音ペアが現れ、レベルが上がり始めている状態です。この間、最初の倍音ペアのレベルも少しずつ上がるとともに、基音のレベルがわずかながら下がります。

▲図2 最初の倍音ペアに加えて、2番目の倍音ペアが現れる。サウンドには金属的な響きが加わってくる

モジュレーションを深くかけたとき倍音構成がどう変化するか

 さらにアウトプット・レベルを上げて、モジュレーションを深くかけていくと、同様に次の倍音ペアが現れ、さらに次の倍音ペアへと続き、サウンドはどんどん明るくメタリックになってきます。いよいいよFMらしさが出てくるところですね。

 面白いのはこのあたりで、急にサウンドが薄くなるポイントがあることです。4番目の倍音ペアが現れるあたりで最初の倍音ペアのレベル増加が頭打ちになり、基音のレベルが大きく下がっていきます。7番目の倍音ペアが現れるあたりで基音のレベルは最低になります。最もレベルの高い倍音に比べると-40dBぐらいと、非常に低い状態です。

 実際に発生しているサウンドは、メタリックな倍音が非常に強調されています。また、基音のレベルが低いので音程も分かりにくい感じです。

▲図3 4番目の倍音ペアが現れるあたりで基音のレベルが下がり、薄い感じのサウンドに変化する

 さらにアウトプット・レベルを上げてモジュレーションを深くかけてみましょう。高い周波数の倍音がますます増えるので、サウンドはさらに明るくなります。それとともに再び基音が増え、音の芯が戻ってきます。そして、どこか鼻をつまんだような、くせのあるサウンドになります。このとき、最初の倍音ペアのレベルが大きく下がり、その分、3~5番目の倍音ペアが強調されている(次の図のように、山型の盛り上がりがある)倍音構成になっています。

▲図4 最初の倍音のペアのレベルが下がる一方、3〜5番目の倍音ペアが強調された形

 そこからの変化はさらに複雑です。ますます明るいサウンドになるとともに、やはり、どこかにくせのある音色が続くのですが、くせの部分が徐々に高い周波数へ移り変わっていきます。

 このとき、高い倍音が増えるとともに、再び最初の倍音ペアのレベルが上がり始め、今度は2番目の倍音ペアのレベルが下がり始めています。また基音のレベルもわずかに下がります。

 2番目の倍音ペアのレベルが最低となるあたりでは、その次の3番目〜4番目の倍音ペアが強調されますから、より高い位置に「山型の盛り上がり」が移っています。

▲図5 基音のレベルがわずかに下がり、2番目の倍音ペアのレベルが大きく下がる

 続いてすぐに、また音の芯がなくなり、薄いサウンドになります。図3の例と同じように、基音のレベルが大幅に下がっています。同時に、2番目の倍音ペアも下がっていることから、やはり3~5番目の倍音ペアが強調されている感じは残ります。

▲図6 基音のレベルが下がって薄い音になり、2番目の倍音ペアもレベルが下がる

 以後、モジュレーションを深くかけるにつれて、倍音が増えて徐々にサウンドが明るくなるとともに、薄くなったり厚くなったり、鼻をつまんだようなサウンドになったりと、実に複雑な音色変化が起きます。

 高い倍音が増えるとともに、3番目の倍音ペア、4番目の倍音ペア、と順次レベルが上下します。またそれと入れ替わるように、基音や2番目の倍音ペアもレベルが上下し、全体に波打つように倍音や基音のレベルが変化しています。

▲図7 高い倍音が増えていくとともに、波打つような倍音の変化が続く

 モジュレーターのレシオが1~4の場合のようにマイナス側の倍音が重なる場合は、その効果も加わってより複雑な変化になりますが、全体としてのサウンドの変化は同様の傾向となり、波打つような倍音レベルの変化や、基音のレベルが上下することは変わりません。また、モジュレーターのレシオが「3.4」のような整数倍でないときも同様です。

 このような音の芯の増減や高音域のくせ、非直線的で複雑な倍音と基音の増減がFM変調の特徴であり、まさにFM音源でしか得られないサウンドということになります。

倍音構成の時間変化をアナログシンセとの比較で考えてみよう

 シンセサイザーの音作りのキモは、こういったさまざまな倍音状態をただ単に作成するだけではなく、それをエンベロープによって刻々と変化させ、音色の時間変化を作り出すところにあります。

 そこでFM音源での倍音変化をより深く把握するために、アナログ・シンセサイザーのフィルターによる変化と比較してみましょう。

 アナログ・シンセサイザーでは倍音構成をフィルターを使って作り出します。FM音源がモジュレーションをかけながら徐々に倍音を増やしていくのとは逆に、ノコギリ波や矩形波といった豊富に倍音を含む波形を元にして、そこからフィルターで倍音を削っていく形ですね。

 主に用いられるのは、低い周波数を通し高い周波数を削るローパス・フィルター(Low Pass Filter=LPF)です。「どのあたりの周波数から上を削るか」の設定パラメーターをカットオフ・フリーケンシー(Cut off Frequency)と言い、これをエンベロープで変化させられるようになっています。

 また、カットオフ・フリケンシー付近のレベルを持ち上げる、レゾナンス(Resonance)も装備しています。これを使うと、特定の倍音が強調された鼻をつまんだようなサウンドや、“ミョンミョン”いうような、くせのあるサウンドを作成できます。

▲図8 アナログ・シンセのローパス・フィルター。「カットオフ・フリーケンシー」で設定した周波数から上を削ることで倍音の出方を調節する

 逆に、高い周波数を通し低い周波数を削るハイパス・フィルター(High Pass Filter=HPF)が使われることもあります。

▲図9 ハイパス・フィルター。こちらは逆にカットオフ・フリーケンシーから下の周波数を削り、高い周波数を通す

*MEMO ハイパス・フィルターには、レゾナンスが装備されていないことがあります。

 FM音源での倍音構成の変化は、一般的なアナログ・シンセサイザーの音作りように「カットオフ・フリーケンシーをエンベロープ・ジェネレーターで動かしているだけ」の変化とは大きく異なります。FM音源はフィルター・セクションを装備していませんが(製品によってはフィルターを備えているものもあります)、アナログ・シンセの音作りに例えるなら、ゆるやかなローパス・フィルターをかけた状態、レゾナンスを少し上げた状態、ハイパス・フィルターをかけた状態といった、複数の要素が複合しながら変化していると言えるでしょう。しかも、それらが単にモジュレーターのレベル変化だけで起きているところに大きな特徴があるのです。そして、サウンドの時間変化についても、各モジュレーターのエンベロープで個々にコントロールすることが可能です(このあたりについては連載の第7回以降で詳しく解説する予定です)。

▲図10 FM音源の特徴と言える多彩な倍音構成の変化を、アナログ・シンセのフィルターになぞらえると、ハイパスやローパスなどのフィルター、レゾナンスが複合した状態と言うことができる

 この場合、重要なことは全体のレベルと基音の関係です。アナログ・シンセサイザーの場合は、最初の波形からフィルターで削っていきますから、トータルのレベルは徐々に下がっていきます。一方、FM音源の場合は、倍音が加わっても波形全体の振幅は一定ですから、トータルのレベルは常に一定です。逆に言うと、トータルのレベルが変わらないように、基音と倍音の構成が変化しているわけですね。

 「音量が減衰するとともに徐々に倍音が減る」といった、よくある変化の場合、アナログ・シンセではフィルターを閉じると共に音量レベルも下がっていきますから、VCAを補正的に用いるだけです。一方、FM音源の場合はキャリアのレベルも操作して(エンベロープを設定して)、音量レベルについても単独で下げてやる必要があります。別の言い方をすると、倍音の量と音量を完全に独立して操作できるということですね。これもFM音源で音を作る場合の秘訣になります。

▲図11 アナログ・シンセサイザーでは、フィルター部分で音色だけでなく音量も変化する

▲図12 FM音源では倍音の量(音色)と音量を独立してコントロールすることができる

 さらに、アナログ・シンセサイザーの場合、定番のローパス・フィルターを使った音作りでは、基音のレベルは変わりませんが、FM音源の場合は基音のレベルが変化します。一般に、基音は音の芯にあたる部分/太さを感じさせる成分なので、これが変わると音の聞こえ方が大きく変化します。幅広い音色変化を設定すると、基音のレベルが変化するのはFM音源の特徴ですが、基音が少ない範囲ばかりを使ってしまうと、意図と反して音圧が下がったり、芯のない音になるので注意が必要ですね。

どれくらい高い倍音まで発生するか見てみよう

 FM音源ではモジュレーションを深くかけるとともに、順次高い周波数の倍音(倍音ペア)が発生します。それがどこまで発生するかは機種によって違いますが、最大限に上げると、おおよそ21程度の倍音ペアが発生するのが一般的です。

 ということは、どれくらい高い周波数の倍音まで含んだ波形になるかは、モジュレーターのレシオによって変化することになります。

 たとえば、モジュレーターのレシオ=1の場合(キャリア=1の場合)、第22倍音まで発生することになりますし、モジュレーターのレシオが2の場合は、第43倍音まで発生するというわけです。つまり、上限の周波数がモジュレーターの周波数によって異なるわけですね。

*MEMO ちなみに、モジュレーターのレシオ=4の場合は第84倍音までになります。これが、モジュレーターのレシオ=2の場合に比べて、同じ倍音構成でありながら明るいサウンドになる理由(連載第3回参照)です。

▲ 図13/図14 発生する倍音はモジュレーターのレシオによって変化する

 さらにこの上限は、キャリアの周波数、つまりどの鍵盤を弾くかでも変わってきます。モジュレーターのレシオが1の場合、A3=440Hzを弾けば、その22倍である9680Hzまで含まれますが、そのオクターブ下を弾いた場合だと、A2=220Hzになりますから、4340Hzまでの倍音が含まれた波形になります。デフォルトでは、このようにキャリアの周波数に平行移動するように倍音も変化します。

 これらは、一般に耳に聞こえる限界と言われる20000Hz(20kHz)を大きく下回ります。アナログ・シンセサイザーでいえば、フィルターを絞った状態だけで音作りした、柔らかいサウンドというわけですね。

▲図15 演奏する鍵盤の位置(キャリア周波数)と発生する倍音の上限を比較した例

シンプルなFMシンセシスで作りやすい音とは

 さて、ここまで述べたことはいずれもFM音源特有の倍音構成、つまり独特のサウンドにつながるものです。それを時間変化させた場合の挙動もまた、FM音源ならではです。まとめるとこうなります。

 まず、整数倍音のみを含む場合は比較的大人しいサウンドになりやすく、奇数倍音や、さらに基音から離れた倍音のみを含むような場合は明るくキラキラしたサウンドになりやすい特徴があります。

 また、多数の倍音を発生させた場合、直線的に倍音が並ぶのではなく、どこかに山や谷ができますから、倍音にゆるやかなピークがあるようなサウンド、ミャンミャンしたような音色、鼻をつまんだような音色になりやすいのもFM音源の特徴です。

 さらに、倍音構成を大きく時間変化させるようなサウンドでは、途中で基音声分が減少して、音圧の変化が起きやすいという特徴もあげられます。

 もちろん、このような特徴は必ずしも弱点とは言えません。逆に、こういったサウンドが必要な場合も少なくないのです。その場合、アナログ・シンセサイザーで作るのは大変ですが、FM音源なら簡単ですし、特に複数の音要素を重ねて(レイヤーして)音を作る場合にはなおさらです。すべての音要素にしっかりと基音があったら、かえって邪魔になってしまいます。それぞれの音要素にくっきりとした特徴がある方がいいわけです。

*MEMO FMシンセサイザーの多くが、レイヤーによる音作りができるようになっています。

 しかし、一方で「整数倍音を含むさまざまな倍音構成を高い周波数まで一直線に並べたい」「鍵盤を弾く位置に限らず、耳に聞こえる範囲の限界までの倍音を含ませたい」といったこともあるでしょう。また「モジュレーションの深さにかかわらず、安定した基音のレベルを保ちたい」といった場合もあるでしょう。

 こういったときには、オペレーターを3つ以上使った多段変調を使います。次回は、そういった「オペレーター3つ以上で可能になる音作り」について紹介しましょう。

第4回のまとめ

  • FM音源では、モジュレーションに比例して高い周波数の倍音が発生する。
  • 倍音ペアは最高で21程度発生する。
  • 実際の周波数の高さは、キャリアやモジュレーターの周波数に比例する。
  • 整数倍音によるサウンドでは柔らかい音が、奇数倍音や飛び飛びの倍音によるサウンドではブライトな音色になる。
  • 倍音が発生しても、全体のレベルは一定に保たれる。
  • モジュレーション量によって基音のレベルも大きく変化するので、設定によっては芯のないサウンドになる。
  • モジュレーション量に応じてそれぞれの倍音レベルが波打つように変化する。
  • 倍音が一直線に並ばないので、どこかが強調されたサウンドになりやすい。

FMシンセ、この1台

ネイティブ・インストゥルメンツ FM8

 FMシンセシスに特化したソフト・シンセサイザー。8個のオペレーターをFMマトリックス方式により自由に組み合わせることができ、アルゴリズムは実質的に無制限。多彩で複雑な音作りが可能になる。また、アルペジェーターや豊富なプリセットを搭載し即戦力となるサウンドが魅力。NI Storeにて単体で購入もできるが、コストパフォーマンスを考えるとNative Instrumentsのソフト音源をまとめたKomplete 11/Komplere 11 Ultimateを購入する方が良いだろう。

[参考特集]NATIVE INSTRUMENTS Komplete 11を愛用するクリエイター

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プロフィール

高山博(たかやま・ひろし)
作編曲家/キーボード・プレイヤー。作曲家としては、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』、自らのバンドCharisma『邂逅』(キングレコード)など、イベント、放送、CD作品など多岐にわたって活躍。執筆活動では、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』『ビートルズの作曲法』などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software徹底操作ガイド』『Logic Pro X for Macintosh徹底操作ガイド』(いずれもリットーミュージック刊)などのDAW/シンセサイザー解説書など多数の著作を持つほか、音楽雑誌でも健筆をふるう。映画美学校作曲科講師、東京藝術大学大学院非常勤講師。

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