楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 連載
  • これならわかる!FM音源の基礎から音作りテクニックまで

第5回 3つのオペレーターを使ってみよう(1)〜直列接続とフィードバック

FMシンセサイザー

FM音源の基本である「2つのオペレーターを、キャリアとモジュレーターとして使った場合」の挙動が理解できたところで、ここからの2回は「3つのオペレーターを使った場合に何が起きるか」を見ていきましょう。これが理解できれば、FM音源の音作りの大部分は理解できたも同然ですし、音作りの方向性に合ったアルゴリズムを選ぶ際にも必要不可欠な知識です。まず今回は、3つのオペレーターを直列に接続して変調を行なう場合について解説します。今回も、これまでほとんど解説されることがなかった内容なので、注目して読んでみてください。

このエントリーをはてなブックマークに追加

シンセサイザー研究室〜Synthesizer Laboratory
これならわかる!FM音源の基礎から音作りテクニックまで 〜

第1回 FMシンセシスの原理
第2回 FM音源の構成を解き明かす!
第3回 FM音源特有の挙動(1)発生する倍音の種類について
第4回 FM音源特有の挙動(2)発生する倍音の量について

今回のポイント

  • 3つのオシレーターを直列に接続するとどうなる?
  • 2つ以上のモジュレーターのレシオ設定を変えると何が起きる?
  • くせのない明るい音色を作るには?
  • フィードバックの効果的な使い方

3つのオペレーターを直列に接続し「多重変調」をかける

 3つのオペレーターを直列に接続すると、いったいどんな倍音が発生するのでしょう。3番目のオペレーターが2番目をモジュレートして複雑な波形を作り出し、それが一番下のキャリアをモジュレートする? うーん、全く予想がつかない……と、筆者も考えれば考えるほど、迷宮にはまってしまいました。

▲図1 3つのオペレーターを直列に接続したとき、それぞれの変調はどのような結果を生むのだろう?

 しかし、実際の効果は案外簡単です。あれがこれを変調して、それがこれを……なんて複雑に考える必要はありません。どのように接続されていても、すべてのモジュレーターは1対1でキャリアの波形を変調しており、それらが合計されていると考えればいいのです。実際のサウンドもそのようになります。

 ただし、直列変調のレベルは、よりキャリアに近い方のレベルの制限を受けます。つまり、モジュレーター2はモジュレーター1を通してモジュレーションをかけることになる、この点だけ注意が必要です。

▲図2 直列接続の場合、変調のレベルは基本的に、よりキャリアに近い方(ここではモジュレーター1)のアウトプット・レベルに影響される

では、実際に見ていきましょう。これまでのようにモジュレーターのレシオを5に設定します(今回はモジュレーターが2つありますが、いずれも5にします)。この状態で、モジュレーター1のアウトプット・レベルを上げて少しだけモジュレーションをかけます。サイン波の音色から変化しはじめ、最初の倍音がはっきり聞こえるあたり、3番目の倍音ペアが現れる程度の浅いモジュレーションですね。

▲図3 3つのオペレーターを直列に接続。まずモジュレーター1のアウトプット・レベルを上げ、3番目の倍音ペアが現れる程度の浅いモジュレーションをかける

 この状態で、今度はモジュレーター2のアウトプット・レベルを上げます。モジュレーター2のレシオは、モジュレーター1と同じ「5」に設定します。モジュレーションが深くかかるにつれて、より高い周波数の倍音が発生し、音色が明るく変化します。ただし、このとき前回(第4回で説明した2オペレーターの変調)と違って特徴的なのは、基音のレベルがまったく変化しないことです。モジュレーター2のアウトプット・レベルを目いっぱい上げても、基音のレベルはそのままですから、音の芯が失われません。さらに、モジュレーターが1つだけの場合と違って、高い周波数にまで倍音ペアが発生します。

▲図4 モジュレーター2のアウトプット・レベルを上げていくと、基音のレベルを保ったまま高い周波数の倍音が発生する

 モジュレーター2は、あくまでモジュレーター1のレベルを通して、キャリアにモジュレーションをかけます。基音のレベルは、モジュレーター1のアウトプット・レベルで決まっていますから、それ以上に下がることも上がることもありません。2番目以後の倍音ペアのみで、レベルが波打つように変化し、トータルのレベルは一定に保たれます。また、全体としてのモジュレーション量は、モジュレーターが1つのときよりも多くなりますから、より高い周波数の倍音まで発生するようになります。

 これが、多重変調の基本的なかかり方です。ちょうど、モジュレーター1が、“盾”になるような役割を果たして、キャリアのもともとの成分=基音の変化を防いでいるイメージですね。もちろん、この状態でモジュレーター1のアウトプット・レベルを上げると、全体のモジュレーション量が増え、耳に聞こえる範囲を超えて、多数の倍音が発生します。また、基音のレベルも大きく変化することになります。

くせのない明るい音色を作るにはフィードバックを使用する

 FM音源で、シンプルにモジュレーションをかけていくと、どこかの周波数にクセのあるような音色になりがちです。これは、どうしても倍音の構成がデコボコするからで(連載第3回を参照)、「山」にあたる部分の倍音が強調されてしまうからですね。

 そのようなクセがなく、右肩下がりに倍音がきれいに並んだ状態は、モジュレーターを何段にも重ねた多重変調で作り出すことができます。ここでは、整数倍音がきれいに並んだ状態の波形、ノコギリ波の作成に挑戦してみましょう。

 キャリアのレシオ=1に、各モジュレーターのレシオ=1に設定し、まずモジュレーター1のアウトプット・レベルを上げていきます。最初の倍音がオクターブ上としてはっきり聞こえ、その次やその次の倍音が聞こえるあたりですね。あくまで、くせのある音にならない範囲、基音が減ったり、倍音がデコボコしない範囲です。

▲図5 オペレーターを直列に接続し、まずはモジュレーター1のアウトプット・レベルを少しずつ上げていく。モジュレーターのレシオはすべて1に設定

 モジュレーター1のアウトプット・レベルをこれ以上上げると倍音がデコボコしてしまいますから、今度は、モジュレーター2を使います。モジュレーター1と同じくらい、やはりくせのない音色が保たれる範囲でモジュレーター2のアウトプット・レベルを上げ、多段変調をかけます。音色が明るくなってきます。

 モジュレーター2も、これ以上上げるとクセがついてしまいますから、今度はその上にモジュレーター3を接続し、同様にモジュレーター3のレベルを上げます。さらにモジュレーター4のレベルを上げ……といった具合に繰り返すと、右肩下がりの倍音構成を保ったまま高い周波数の倍音を増やしていくことができます。下の図は、4つのオペレーターを直列接続して上記のような変調を行った例です。第10倍音まで発生していますね。

▲図6 4つのオペレーターを直列に接続。モジュレーター2→3→4と、少しずつ変調をかけていくことで、なだらかな右肩下がりを保った倍音構成を作ることができる

 このまま続けていくと、右肩下がりにどこまでも倍音を並べられるのですが、それではいくらオペレーターがあっても足りません。それに設定も大変です。そこで登場するのが、オペレーターのフィードバック機能です。

 フィードバックは、オペレーターの出力をモジュレーション入力に戻す機能。いわば、自分で自分をモジュレーションする機能ですね。同じ設定のモジュレーターを次々に直列接続しているのと同じですから、これを使うと、1つのモジュレーターで多段変調と同じような効果を作り出せます。

▲図7 フィードバックを使うことで、1つのモジュレーターだけでも多段変調と同じような効果を得ることができる

 モジュレーション・レベルとフィードバック・レベルを調節すると、クセのない明るいサウンドになります。コツは、まずフィードバックのない状態で、モジュレーターのアウトプット・レベルをクセのない音が保たれる範囲で上げてから、フィーバックで倍音を増やすことです。右下がりに倍音が並び、ノコギリ波に近い波形になります。

▲図8 フィードバックを使うことにより、2つのオペレーターだけでも、右下がりに倍音なだらかに並んだノコギリ波に近い波形を作り出すことができる

*MEMO フィードバック・レベルを実際にどんな単位(精度)で設定できるか、最大どれくらいかけられるかは機種によって異なりますが、ここで説明したような状態になるのは、かなり深くかけたときです。ただし、深くかけすぎるとノイジーなサウンドになります。また逆に、深くかからない機種では、後に述べるような「複数のオペレーターを一度にフィードバックする方法」を使います。

 なお、フィードバックをかけた場合での、モジュレーターのアウトプット・レベルの変化による倍音の発生の仕方ですが、スウィープするように低い周波数から高い周波数へと順に発生するのではなく、倍音が全体として立ち上がってきます。

▲図9 フィードバックをかけたモジュレーターのアウトプット・レベルを上げると、発生する倍音は全体が立ち上がるように変化し、低い周波数から高い周波数に向けてスウィープするような動きにはならない

 また、フィードバックをかけていても、モジュレーターのアウトプット・レベルを上げると、やはり基音が減ったり、特定の倍音が持ち上がったりして、クセのあるサウンドになります。

モジュレーターのレシオをそれぞれ変えて複雑な倍音構成を作る

 ここまでは、複数のモジュレーターを使っても、それぞれのレシオは同じに設定していました。今度は、レシオを別々に設定してみましょう。なんだか複雑に思えるかもしれませんが原理は同じ。「それぞれのモジュレーターが、キャリアとの周波数比に応じた倍音を発生させる」「キャリアに近い方のモジュレーターが“盾”になって、基音が変化しないようにする」この2つを覚えておけば大丈夫です。

 それでは3つのオペレーターを使って「キャリア=1、モジュレーター1=1、モジュレーター2=5」にレシオ設定してみましょう。

 まず、モジュレーター1のアウトプットを上げてモジュレーションをかけます。ここでは、ある程度低めのモジュレーション・レベルにして基音が残るくらい、音の芯が失われないくらいにしておくとわかりやすいでしょう。この時点では、まだサイン波が少し明るくなったくらいのサウンドです。

▲図10 まず、3つのオペレーターを直列に接続し、音の芯が失われない程度のモジュレーションをかける

 この状態でモジュレーター2のアウトプット・レベルを上げて多段変調をかけます。先のサウンドに、金属質な倍音が加わって派手なサウンドへと変化します。つまり、モジュレーター1と2がそれぞれキャリアに作用を及ぼして、倍音を発生させているんですね。ただし、モジュレーター1が“盾”になっているので、モジュレーター2を上げ下げしても、基音は変化しません。

▲図11 モジュレーター1に続いて、モジュレーター2のアウトプット・レベルを上げて多段変調をかけると、新たな倍音が発生する

 この状態で、よりキャリアに近い方のモジュレーター(=モジュレーター1)のアウトプット・レベルを上げ下げすると、倍音全体の量が変化します。つまり、モジュレーター2で作られた倍音も合わせて上下するわけですね。

▲図12 キャリアに近い、モジュレーター1のアウトプット・レベルは、倍音全体の量に対して作用する

 このことは、実際に音を作る上でとても重要です。たとえば、倍音全体の量に影響するモジュレーター1に対して、減衰するようなエンベロープを設定し、発音の途中でレベルがゼロになると、モジュレーター2による倍音も一緒になくなってしまいます。モジュレーター2のエンベロープの形は、モジュレーター1のエンベロープに大きな影響を受けるということですね。

 ですから、多段変調を行なう場合は、先に立ち上がり、後まで残る音色変化を担当するモジュレーターをキャリアに近い方、その中でゆっくり立ち上がり、速く減衰する音色変化を担当するモジュレーターを遠い方に設定するのが基本になります(エンベロープの使いこなしについては、第7回で取り上げる予定です)。

▲図13 モジュレーター1/2のエンベロープ図。先に立ち上がり、後まで残る音色変化をキャリアに近い側(ここでは青の線で表されているモジュレーター1)で設定するのがポイント

複数のオペレーター全体をフィードバックする

 さらに、こういった「キャリアとモジュレーターの接続全体」をフィードバックすることもできます。たとえば、上の「キャリア=1、モジュレーター1=1、モジュレーター2=5」のレシオ設定を行った状態で、オペレーター全体をフィードバックすると、最終的な倍音全体がより高い周波数まで並んだ状態を作り出せます。

▲ 図14 3つのオペレーター全体に対してフィードバックを設定すれば、より高い周波数まで倍音が並んだ状態を作ることができる

 また「キャリア=1、モジュレーター1=1、モジュレーター2=1」のレシオ設定にした場合でも、全体にフィードバックをかけると、さらに高い周波数へと整数倍音が伸びて行きます。先の、モジュレーター単独でフィードバックをかけたときに比べると、2つのモジュレーターによって、もともと高い周波数まで倍音がある状態ですから、より高い周波数まで倍音が発生するというわけですね。

▲図15 キャリアと各モジュレーターのレシオ比が1:1の場合でも、フィードバックを使うことで高い周波数まで整数倍音が伸びていく

 ややこしそうに思える多段変調ですが、その原理自体は2つのオペレーターの接続と同じです。4つ以上のオペレーターを直列接続する場合も、考え方は同様です。わからなくなったら、キャリアとモジュレーターという、シンプルな関係で考えてみるといいでしょう。さらに、フィードバックをかけると、高い周波数にまで倍音が並んだ状態が作成できます。このとき モジュレーター単独でフィードバックをかけるよりも、複数のオペレーターを一度にフィードバックした方が、より高い周波数まで密度の高い倍音が発生します。

第5回のまとめ

  • 直列変調の場合でも、キャリアとモジュレーターそれぞれの「1対1の関係」を考え、それらの合計だと考えればいい。
  • 直列接続の変調レベルは、よりキャリアに近い方のレベルの制限を受ける。
  • エンベロープを使う場合、キャリアに近い方が先に立ち上がり、ゆっくりと減衰する必要がある。
  • 直列変調の場合、よりキャリアに近い側のモジュレーターが“盾”のように働き、基音の変化を防ぐ。
  • 多重変調により、基音の変化を防ぎながら、より高い周波数の倍音を生成することができる。
  • フィードバックによって、右肩下がりに密度の高い倍音が並んだ状態を作り出すことができる。
  • フィードバックによる倍音の発生は、スウィープではなく、全体のレベルが上下するようにふるまう。
  • 複数のオペレーター全体をフィードバックすると、より高い周波数まで倍音が伸びた状態になる。

 さて、次回は「3つ以上のオペレーターを使ってみよう(2)」として、Y字変調と逆Y字変調、加算合成について見ていきましょう。 

〜 次回更新は10月17日(火)を予定しています 〜

FMシンセ、この1台

ヤマハ DX7シリーズ

▲ YAMAHA DX7

 1983年に突如現れたDX7は、6オペレータ・32アルゴリズムによるFMシンセシスを搭載した16音ポリフォニック、MIDI搭載、そしてリーズナブルな価格を武器に当時のシンセサイザーの歴史をがらりと変えた。DX7II、DX7II-FD、DX7S、DX7 Centennialなどのさまざまな後継機がシリーズされ80年代を象徴するサウンドとなり、90年代に入ると生楽器のリアルなサウンドが得意なPCM音源などの新しい音源方式によって押されていったが、携帯の着メロ用のチップや、ソフト・シンセなど時代に合わせて形を変えていった。2015年発売のYAMAHA reface DX、2016年発売のYAMAHA MontageKORG Volca FMにFXシンセシスが取り入れられ、再びFMが大きく注目されている。

デジマートでこの商品を探す
このエントリーをはてなブックマークに追加

製品情報

FMシンセサイザー

デジマートでこの商品を探す

FM音源モジュール

デジマートでこの商品を探す

YAMAHA / DX7シリーズ

デジマートでこの商品を探す

プロフィール

高山博(たかやま・ひろし)
作編曲家/キーボード・プレイヤー。作曲家としては、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』、自らのバンドCharisma『邂逅』(キングレコード)など、イベント、放送、CD作品など多岐にわたって活躍。執筆活動では、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』『ビートルズの作曲法』などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software徹底操作ガイド』『Logic Pro X for Macintosh徹底操作ガイド』(いずれもリットーミュージック刊)などのDAW/シンセサイザー解説書など多数の著作を持つほか、音楽雑誌でも健筆をふるう。映画美学校作曲科講師、東京藝術大学大学院非常勤講師。

オススメRECOMMEND

    人気記事RANKING

    製品レビューREVIEW

    製品ニュースPROUCTS