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フランク重虎の「このあと滅茶苦茶ミックスした」〜 第6回 2ミックスを仕上げる

ミックスダウン

6回に渡ってお付き合い頂きました本講座もいよいよ最終回です! 今までの伏線を回収しながら2ミックスに仕上げる時のテクニックを解説します!

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ドラム・トラックをバスにまとめる

 “第1回 出音の基礎をドラムで学ぶ”で作ったドラム・トラックを仕上げましょう。ドラム・パートは、ミックス・バスでまとめてからマスターへ送るようにします。こうすることでドラム全体の音量、音質を一括でコントロールできるので、ボーカルやベースとのバランスがとりやすく圧倒的に便利になります。また、ドラムは、音の強弱や周波数の高低差が大きいので、例えばほかの楽器と一緒にコンプをかけると意図しない圧縮が効いてしまったり、ドラム以外の明度を上げようとEQで高域を上げるとドラムの金物系がうるさくなってしまったりといろいろ不便な問題が起きてしまいます。

 ミックス・バスでドラム・パートをまとめたら、コンプとEQを追加します。コンプはFETなど応答の速いタイプがオススメです。始めはバスをソロにして調整します。ちなみに一連のミックスで大事なのは“余計なことをしない”です。したがって、すでに絶妙なミックスになっている場合はコンプは不要です。コンプを使用するかどうかの見極め方は、まずレシオを4:1、アタック、リリースともに100ms程度に設定してスレッショルド・レベルを現在のピークより-3dB程度に設定してコンプのインプット・レベルを上げてみてください。ここで音にまとまりが出るようでしたらコンプをかけた方が良いです。反対に輪郭がぼやけたり濁るような感じでしたら不要です。

Softube FET Compressor。Volume 2に収録(→ デジマートで検索!

Waves CLA-76。CLA Classic CompressorsHorizonMarcuryに収録

ドラム全体のコンプのかけ方

 コンプをかける場合は、レシオは3〜4:1でアタックは3ms前後、リリースは100ms前後から始めましょう。スレッショルド・レベルを現在のピーク・レベル付近にセットしてコンプのインプット・レベルを上げていきます。この時にアタックがプツプツと鳴らない程度がちょうど良いポイントです。製品によってコンプの特性も違うため、すぐにプツプツとした感じになるのであればアタックを10ms以上に伸ばしてみます。もしインプット・レベルの調整が無い場合は、スレッショルドを下げながらオーディオ・インターフェースの音量を上げて調整しましょう。調整できたらアウトプット・レベルを“聴感的に下がった分”だけ上げます。メーターで下がる前に合わせようとしないのがポイントです。ちなみに“DOTEC-AUDIO DeeGain”というフリー・プラグインは単純に音量を上げ下げできるプラグインで、あらゆるプラグインの前後に追加することによって、インプット/アウトプット・レベルの役目を果たしますので是非お使いください。ドラムの音量感が安定したらEQで音質を調整したいところですが、これはほかとのバランスが大事なので後で調整します。

ベースはサイドチェインやEQで中低域の干渉を防ぐ

 これは“第2回 ベースで曲の土台を支える”で、最後に仕上げますとお伝えした部分です。ベースは、ギターとユニゾンしたりバス・ドラムと低域で譲り合ったりと、周りの状況に応じて鳴らすパートです。忖度が大事ですね。

 ベースはまずはドラムとの一体感が大事なパートですから、少しドラムで音量を揺らしてみます。ベースの最終段にコンプを追加したら、サイドチェイン・インプットとしてバス・ドラムのトラックを選択します。バス・ドラムからセンドへ送ったりとDAWによって方法は様々ですが、バス・ドラムのフェーダー前の音をサイドチェインへ送ることができればOKです。

ベースのコンプのかけ方

 設定はレシオを最大、アタックを最小、リリースが80ms程度から始めます。ドラムと一体感が出る程度までスレッショルド・レベルを下げます。ベースの音量が全体的に下がって聴こえるようでしたら下げすぎです。揺れの周期が長い場合はリリースを短くします。この長さはノリに直接効いてきます。短くすると前のめりなプッシング風、長いとゆったりしたレイドバック風に聴こえます。ベースの輪郭が失われやすい場合はアタックを15ms程度までは伸ばして調整しましょう。

 なぜ輪郭をアタックで調整出来るのか? それはアタックで認識できた楽器の輪郭はその後も自然と耳が追ってしまうからです。こんな人間の残像効果現象はメーターの数値だけではわかりませんので、聴感での判断がとても大事です。ギターとユニゾンしたときは300〜500Hzぐらいが干渉しやすいです。どっちに譲るかは自由ですが、いずれにしてもユニゾン時のトラックを別に作ったほうがEQのオートメーションを描くより後々の作業が楽です。大体クリック1つで複製できると思いますので手間も少ないでしょう。

 ここまで出来たら一旦全体のミックス・バランスと整えてみます。僕の場合、一旦ここでスナップ・ショットを取って全部のフェーダーを下げて、長めに休憩を取ってから再度調整します。スナップ・ショットの取り方はDAWの機能を活用するのが便利ですが、機能が無い場合は単純に別名でプロジェクトを保存すればOKです。こっちの方が履歴も残るし、万が一落ちた場合に失う物も少ないので安心ですね。

 同じように全フェーダーを下げてしまう場合は、ドラムのように複数トラックで構成するパートはミックス・バスにまとめておきましょう。その場合はバスのフェーダーだけ下げれば良いので楽ですね。すぐにバスが追加できるのはDAWのミキサーの強みですのでぜいたくに使ってください。憧れのでっかい卓より多くのチャンネルが使えるんですよ。

各パートのバランスの取り方

 バランスの取り方は【ドラム→ベース→ボーカル→それら以外の順が良いと思います。パートを足していく時に前のパートが埋もれない程度に調整しましょう。伴奏全体は1kHzを細くカットするとボーカルが前に出てきます。ただしリード(ソロ・パート)を変化させないようにバスの仕分けに気を付けましょう。

ボリューム・オートメーション

 ボリューム・オートメーションはボーカルに関して特に重要です。ボーカルが聴きとりやすいように、伴奏の音圧に合わせてコンプなどで音圧を上げています。しかし、歌の抑揚が声色のみの表現となってしまうので、音圧が安定してコントロールしやすい状態で改めて抑揚をオートメーションで描きます。ポイントは歌いだしや強いリズムと重なるところを16〜8分音符程度の長さで大きくしてあげます。その他に全体の流れに沿って常に伴奏に対してベストな大きさに整えます。これをちゃんと行なうだけでピッチを直すよりも効果的に上手く聴こえます。

オートメーションを描いてボーカルに抑揚をつける

ボーカルの空間系エフェクトを見直す

 ざっくり決めておいたボーカルの空間系を見直します。ここではエフェクトの深さを調節してください。あまりに響きすぎていると格好悪いですからね。そして難しいのが空間系エフェクト(リバーブやディレイ)の返し場所です。ボーカルをまとめたバス(ミックス・バス)とマスター・バスのどちらが良いでしょうか? ミックス・バスへ返した場合は、ミックス・バスで使うコンプ、EQなどを通り、さらにマスター・バスでマスタリング・エフェクトがかかります。メリットはマスター・バスでほかのパートと一緒に処理された時の影響を受けにくくなることですが、デメリットは重なる処理で透明感を失いやすいことでしょう。一方マスター・バスへ返した場合は逆転します。もしリバーブ音が空間の再現のみならず音色としても機能させている場合は前者が良いでしょう。リズムが派手な曲も同様です。反対に静かな曲や、全パートで共通の空間エフェクトを使用している場合は後者が良いです。とはいえ自由度があるので、どちらが理想に近いか試してみて決めましょう。

ミックス・ダウンをしよう

 全てのバランスが整ったらミックス・ダウン(スタジオ現場ではトラック・ダウンとも呼ばれます)と呼ばれるマスタリング前の状態が完成します。マスター・バスのピークが-6dB前後であればベストです。もし大きすぎる場合は前述のDeeGainなどを使って下げましょう。

サイドを広げる

 これは必須ではないので省略しても構いませんが、ステレオ・イメージャーを使うと左右の音を前に出して、ボリューム感のある賑やかな音に仕上がります。この時、ステレオ・イメージャーのミッドのレベルを下げる方法でも良いですが、サイドを上げた方がイメージがつかみやすいでしょう。ただしM/S処理タイプのステレオ・イメージャーを使うと左右のパンに影響を与えてしまうので注意してください。もし、目いっぱいに振ったパンが、中央へにじんでくるようであれば使用しない方が良いでしょう。これはM/S処理のEQでサイドの成分を動かした時も同様のことが言えます。

Waves S1。M/S処理タイプのステレオ・ イメージャー。CLA Classic CompressorsHorizonMarcuryなどに収録

DOTEC-AUDIO DeeWider。センターを保ってクリアに音を広げるプラグイン。(→メーカーサイト

マスター・バス・コンプ

 ここからマスタリングと呼ばれる作業に入ります。普段使っているコンプで大丈夫ですが、マスター・バスに特化したバス・コンプと呼ばれる製品もあります。ここでも安定感と一体感が求められますので、簡単な方法としてはドラム・バスで使ったコンプをコピーして設定のスタート・ポイントとしましょう。ゲイン・リダクションが-3dB前後を往復していれば既に良い状態だと思います。バイパスした状態より安定感と一体感が感じとれれば、あとは完全に好みの味付けになりますので、スレッショルド・レベルを上げ下げして深さを調節してください。

Waves SSL G-Master buss Compressor。SSL 4000 CollectionStudio Classics Collectionに収録

IK Multimedia Bus Compressor。T-RackS MAXに収録(→ デジマートで検索!

 ここでアタックを短くすると安定感が増しますが詰まった音になります。また、リリースを短くすると音圧は上がりますが抑揚が薄くなり、長くすると音圧は下がりますが、抑揚は上がります。

マスター・バスEQ

 最後に超低音、超高音カットの微調整を行ないましょう。多くのCDマスターはハイパスで30Hz以下の低域をカットします。クラブ・ミュージックのようなジャンルはカットしない場合もありますが、それでもMP3など配信用マスターを作る場合はカットすると良いでしょう。低域のカット・ポイントは20kHzあたりが良いですが、EQのモデルによってはそれでも大きく空間が変わりますので、パッと聴いて変化がない程度に調整します。若干派手めに微調整するとコンペなどでデモ曲として提出した時の人に与える影響が良いです。128Hz、8kHzを中心にそれぞれの山のふもとが重なる程度に広げて1〜3dB程度上げると派手になります。これをカットで行なうと3ポイント以上の調整が必要となるのでブーストの方が早いです。ついでにカットとブーストの使い分けとして、まずは手数が少なくて済む方を優先すると良いでしょう。

マスター・バスEQで超低音、超高音の最終的な微調整を行なう

音圧を上げる

 最後に音圧を上げます。高い音圧は悪だという意見もあるようですが、僕は違うと思います。もちろん作品そのものを壊すような音圧の上げ方は良くないです。音圧は必要に応じて上げましょう。音圧が高いと全域が大きく聴こえやすくなるため、チープな環境で聴いても曲の印象が変わりません。したがって作った曲を聴き手にちゃんと伝えることができるわけです。これは必須ではありませんが、マキシマイザーやリミッターで最終の音圧を稼ぐ前に、マルチバンド・コンプを使うと全域を上げることができます。ただし深くかけすぎると整えたEQも台無しになってしまうので、各バンドをマスター・バスのコンプと同様の設定にしてスレッショルドを均等に下げて、全バンドのゲイン・リダクションが反応する程度で止めてください。一般的には低域の方が先に反応しますので、もし高域が反応する時に-10dB近くゲイン・リダクションされてしまうようでしたら高域が反応する前に止めて良いです。

Waves C6 Multiband Compressor。Dave Aude EMP ToolboxMarcuryに収録

 マキシマイザーやリミッターはアウト・レベルを-0.1〜0.3dBに設定すると良いでしょう。天井に例えてceiling(シーリング)とも言います。こちらも-10dBのリダクションはかかりすぎですので-6dBが限度ですが、実際は聴感上で描いた音質であれば良いと思います。

 これで完成です!バンザーイ!

やった〜これでミックス・テクニックはバッチリ!!

簡単操作で効果絶大!DOTEC-AUDIOプラグイン製品

 さて6回に渡って連載して参りましたが、いかがでしたか? 最後なので自社製品もご紹介させてください。DOTEC-AUDIOでは、これまで連載してきたようなテクニックをワンノブで良い感じにやってくれちゃうプラグインを販売しています。巷ではチート・プラグインと呼ばれてます(汗)。とは言え、皆さんがご存知のプロ・アーティストの方々に「制作が早く進む! 」とご愛用頂けている製品です。

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 ほかにもフリー製品も合わせてたくさんございますので、是非公式ページをご覧ください!

 → DOTEC-AUDIO公式Webサイト

 それでは、お付き合い頂きありがとうございました!

フランク重虎の「このあと滅茶苦茶ミックスした」

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プロフィール

フランク重虎(ふらんく・しげとら)
音楽作家として広告、タレント、海外ドラマ、ゲームに楽曲を提供し、他のアーティストのミキシング、マスタリングエンジニアも専門的に行なう。音楽家とハードウェアエフェクター設計の知識を合わせて(株)ふむふむソフトとプラグインメーカー「DOTEC AUDIO」を立ち上げサウンドプロデュースおよびプログラムを担当。また個人ではサイバーパンクバンド「VALKILLY」「VALKIRIA」にて活動中。

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