楽器探しのアシスト・メディア デジマート・マガジン

  • 特集
  • プロが認めたサウンド&タフネスを誇るドイツ製ヘッドフォン

ULTRASONE Signature Series meets DJ Watarai & 佐々木幸生

ULTRASONE/Signature Series

ドイツのヘッドフォン・メーカー、ULTRASONE(ウルトラゾーン)。同社の製品は、“自然な臨場感を持つ音”をコンセプトとしており、多くのアーティスト/エンジニアから支持されている。ここでは、タフな使用にも耐えるプロ・ユースのラインナップ=Signatureシリーズにフォーカス。ドライバーの音を外耳に反射させナチュラルな広がりを生む“S-Logic plus”、ドライバー由来の低域電磁波を減らす“ULE”(Ultra Low Emission)など、独自技術を投入した密閉型ヘッドフォン4機種だ。これらをヒップホップ・プロデューサーのDJ Watarai、PAエンジニアの佐々木幸生氏という2人のULTRASONEユーザーに渡し、チェックを依頼。DJ Wataraiには自身のトラックなどさまざまな音楽を試聴してもらい、佐々木氏にはPAの現場でそれぞれ試していただいた。両者のクロス・レビューを通して、Signatureシリーズの実力に迫ってみよう。

このエントリーをはてなブックマークに追加

Signature DJ

ひずみの無い低域再生を生むULTRASONE最大の出力音圧モデル

 ULTRASONEの製品で最大の出力音圧レベル(SPL)を誇るモデル。50mm径のマイラー・ドライバーを備え、DJブースのような大音量環境下でもパワフルかつひずみの無い低域再生を確保できるという。イアパッドとヘッドバンドの素材は、遮音性と耐久性に優れた天然皮革エチオピアン・シープスキン・レザー。

【SPECIFICATIONS】
●ドライバー:50mmマイラー ●インピーダンス:32Ω ●周波数特性:5Hz〜32Hz ●質量:300g(ケーブル含まず) ●付属ケーブル:1.2m長ストレート、3m長カール(いずれも着脱式) ●価格:オープンプライス(市場予想価格:119,000円)

Watarai's Impression

重心が低くDJユースにフォーカス

 モデル名に“DJ”と付くだけあって音にギュッとしたまとまりがあり、低域がしっかりと出ています。その出具合に関しては、サブベースの一番下までよく見える、というほどではないんですが、低音楽器の大事な部分を十分にとらえられるクオリティ。僕はDJをする際にキックで音を取りますし、ハウス/テクノなどのDJも同様の方がほとんどでしょうから、その点でも現場ユースに向くと思います。低域だけでなく、中低域から中域までもとらえやすいので、リズムやボーカルなどダンス・ミュージックの特徴的な要素を把握しやすいと感じます。高域については、抜けが悪いというほどではないものの、今回テストした他の3機種に比べると控えめな印象。だからなのか、全体の周波数レンジが最もナローに感じられたのですが、それが先述のまとまりやパワー感の要因なのかもしれません。音の配置の再現力は申し分ないレベルで、Signature DXP(後述)よりも分かりやすいと感じました。

Sasaki's Impression

PAの大音量にも負けない音圧

 圧があるというかドカンと来る感じなので、リスニングなどよりはPAなどの現場で使うのに向いたイメージです。低域/高域共にすごくきっちりと出ていますが、特に低域の音圧が特徴的で、例えばキックのドン!という部分が本当にドン!と聴こえてきます。ここまで出せるヘッドフォンはそうは無いと思いますし、それこそPA用スピーカーに近いサウンドです。実際に、本機で聴く音とPAの出音にはほとんど誤差を感じないので、転換時などにヘッドフォンの中だけで作ったバランスをほぼそのまま出力できます。SPLの高さも出色。ヘッドフォンの音圧がスピーカーに負けてしまうようでは、ライブ本番中に個々の楽器の音を確かめたりできないわけですが、本機なら音圧と遮音性の両方が高いため問題ありません。耐久性は、頑丈なボディをしているものの、イアパッドとヘッドバンドがエチオピアン・シープスキン・レザー(本皮)でできているので手入れを怠らないことが大事。

Signature DXP

大音量環境下でもバランスの良い低域再生が魅力

 上位機種Signature DJと同様の50mm径マイラー・ドライバーを有する1台。クラブやライブ会場などの大音量環境下でも、バランスが良くキレのある低域再生を得られるという。イアパッドとヘッドバンドの素材には人工皮革のプロテイン・レザーを採用し、よりタフに使うことができる。

【SPECIFICATIONS】
●ドライバー:50mmマイラー ●インピーダンス:32Ω ●周波数特性:5Hz〜30kHz ●出力音圧レベル:115dB ●重量:290g(ケーブル含まず) ●付属ケーブル:1.2m長ストレート、3m長カール(いずれも着脱式) ●価格:オープン・プライス(市場予想価格:66,000円)

Watarai's Impression

DJプレイはもちろん制作にも向く音

 音の傾向は先述のSignature DJとよく似ており、まとまりやパワー感があって中域よりも下を得意とする印象ですが、こちらの方がトータルの周波数レンジが広いように感じます。低域/高域共にSignature DJよりもよく出ているように思え、ボーカルやリバーブの響きも奇麗。今回チェックした4機種の中では歌のニュアンスが最も良く再現されていたので、中域から高域にかけての解像度も高いのでしょう。もちろんリズムもしっかりと出ます。ダンス・ミュージックはもちろんジャズなども楽しく聴けました。出音の“近さ”はSignature DJと同じくらいだと感じますが、周波数レンジの広さや解像度の高さにおいて、本機の方がトラック・メイクにも使いやすいと思います。とは言え、Signature Pro やSignature Studio(共に後述)などのスタジオ向けモデルに比べると音場が狭く聴こえますし、低〜中低域にも特徴があるので、総じて考えるとDJユースの方に寄っていると感じました。

Sasaki's Impression

現場に向くタフさと音の良さを両立

 先述のSignature DJと同様の50mm径マイラー・ドライバーを備えていることもあり、基本的には同じ傾向の音。バランスが非常に良く、低域のパワーなども肉薄しています。定位や広がりの再現力、解像度などもほぼ変わらず、大きく違うとすれば装着感でしょう。特に筐体の軽さが魅力的です。筐体に関連して言うと、イアパッドとヘッドバンドがプロテイン・レザー(合皮)でできているので拭いたりしやすく、ラフに扱っても大丈夫。ロゴ・プレートは、Signature DJの硬化ガラスとは違いプラスチックなので、気を遣わずに使えて良いですね。筆者はSignature DJを現場で使用していますが、ハウジングの塗装が汚れやすかったりするため、少々センシティブになることがあります。軽さや扱いやすさをかんがみると、現場向きなのは完全にこのSignature DXP。音はSignature DJとさほど変わらず、価格は半分ほどなので、かなりコスト・パフォーマンスが高いと思います

Signature Pro

“音のプロ”に向けたリファレンス・モデル

 専用設計の40mm径チタン・プレーテッド・マイラー・ドライバーを備えた機種。ミックス・エンジニアなど“音のプロ”に向けており、音源の情報を精細かつ空間的に再現するという。イアパッドとヘッドバンドの材には天然皮革エチオピアン・シープスキン・レザーを採用し、フィット感の高さも特徴。

【SPECIFICATIONS】
●ドライバー:40mmチタン・プレーテッド・マイラー ●インピーダンス:32Ω ●周波数特性:8Hz〜42kHz ●出力音圧レベル:98dB ●重量:300g(ケーブル含まず) ●付属ケーブル:1.5m 長ストレート、3m長ストレート(いずれも着脱式) ●価格:オープン・プライス(市場予想価格:148,000円)

Watarai's Impression

フラットな音で長時間使用にも適する

 僕が普段使用しているULTRASONEのオープン型モデルPro2900と同じくらい音場が広く、先のSignature DJ/DXPよりもフラットな音質です。高域の抜けはSignature DXPとあまり変わらないので、低域を均(な)らした感じでしょうか。それ故ULTRASONEのヘッドフォンにしてはボトムがやや寂しいようにも思えますが、ミックス・バランスを調整するときなどは、あんばいが非常に分かりやすいはずです。定位や広がりの再現力にも優れており、まさにスタジオ・モニターというキャラクターですね。とは言え、ULTRASONEのヘッドフォンは全般的にダンス・ミュージックの制作に向いていると思うので、本機も低域の量感こそSignature DJDXPに譲りますが、ビート・メイクなどにも使えると感じます。そして低域やパワー感が強調されていないのは、長時間の使用に向くということ。Signature DJ/DXPに比べて、聴き疲れにくいのもメリットです。

Sasaki's Impression

出音にスピードがあり装着感良好

 40mm径ドライバーの機種ですね。50mmのSignature DJ/DXPとは、かなりの違いがあります。まずこちらの方が、高域が伸びています。キラキラとしていて、先述の50mmのモデルよりも透明感のある音ですね。高い音が真っ先に耳へ飛び込んでくるため、PAの現場でスピーカーから大音量が鳴っている際も、ヘッドフォンの中でハイハットやシンバルなどの音色/バランスを確認しやすいと思います。低域に関してもスピードが速く、40mmドライバーのレスポンスの良さが現れています。その分、50mmの機種より全体の重心が高く聴こえるので、本機だけでバランスを作る際には低域の出し過ぎに注意した方がいいでしょう。ただ、周波数レンジが広く、解像度や定位/奥行きの再現にも優れているため、慣れてくると上手にバランスを取れるようになると思います。付け心地も良く、イアパッドがエチオピアン・シープスキン・レザー(本皮)でできているので耳への密着感が良好です。

Signature Studio

フラッグシップ直系のドライバーを採用した最新型

 Signatureシリーズの最新モデル。ULTRASONEのフラッグシップ・シリーズEdition直系の40mm径チタン・プレーテッド・マイラー・ドライバーを採用しつつ、イアパッドとヘッドバンドの素材に合成皮革プロテイン・レザーを用いるなど、よりヘビー・デューティに使えるよう設計されている。

【SPECIFICATIONS】
●ドライバー:40mmチタン・プレーテッド・マイラー ●インピーダンス:32Ω ●周波数特性:8Hz〜40kHz ●出力音圧レベル:98dB ●重量:290g(ケーブル含まず) ●付属ケーブル:1.2m 長ストレート、3m長カール(いずれも着脱式) ●価格:オープン・プライス(市場予想価格:66,000円)

Watarai's Impression

モニター・ヘッドフォンとして秀逸

 “ULTRASONEらしさ”のような特徴は控えめだと感じますが、モニター・ヘッドフォンとして優秀なモデルだと思います。まず先述のSignature Proに通じるフラットなサウンドでありながら、高域の抜けがさらに良いと感じました。また音1つ1つのポジションもジャッジしやすく、今回試した4機種の中では最もよく分かる印象です。際立っている部分としては、左右/奥などの空間が奇麗に見える点も挙げられます。そしてSignature Proもよく見えるのですが、個人的には本機に分があるように思えました。Signature DJ/DXPのように音が塊でドン!と迫ってくる感じは無いので、それだけ分離が良く、リバーブの量なども判断しやすいです。用途を制作に絞るなら、僕はこのSignature Studioを選ぶと思いますね。装着感は、今回チェックした4機種のどれもがよく似ていて、側圧が強過ぎず、それでいてしっかりとホールドされる印象です。長時間付けていても疲れにくいですね。

Sasaki's Impression

高域に特徴がありつつ長時間使用に向く

 こちらも先のSignature Proと同じく40mm径ドライバーの機種で、スピードがあり高域が特徴的という音の傾向はよく似ています。大きな違いは感じませんね。PAの現場で使っていると高域が先に聴こえてきますが、自宅などのサイレントな環境で試してみると、低域もよく出ていることが分かります。“Studio”という機種名の通り、ホーム・スタジオでの音楽制作などに向きそうです。先述のSignature DJ/DXPがPAスピーカーのようなサウンドだとすれば、Signature Pro/Studioはスタジオ・モニターのようなイメージですね。音圧感については、Signature DJ/DXPよりも控えめですが必要十分。Signature Proと同程度です。装着感は、イアパッドやヘッドバンドがエチオピアン・シープスキン・レザー(本皮)ではなくプロテイン・レザー(合皮)ですが、良好だと思います。現場などでもラフに扱えますし、Signature DXPと同様に軽いのも美点ですね。長時間の使用にも向くでしょう。

Conclusion〜ULTRASONを愛する理由

ULTRASONEの音が好きなんです DJ Watarai

 僕が本格的にヘッドフォンを使い始めたのは約10年前ですが、当時はリーズナブルで高性能なモデルが今ほど無く、音の良いものを求めるなら10万円以上は普通だったと思います。それでたどり着いたのが、ULTRASONEの密閉型モデルEdition 8でした。低域がよく出ますし、“こんなに音の良いヘッドフォンがあるんだ!”と感動して買ったんです。ただ、使い続けるうちに低域の量感と音の“近さ”が制作用途としてはトゥー・マッチに思えたので、ULTRASONEらしさを保ちながらも、よりモニタリングしやすいモデルを探しました。その結果、出会ったのがオープン型モデルのPro 2900です。現在は新たなバージョンPro 2900I(2900のサウンドはそのまま、ヘッドバンドを変更し、長時間の装着に配慮したモデル)として発売されていますが、僕は初代のPro 2900をかれこれ7〜8年の間トラック・メイクに使っています。Pro 2900のサウンドは、音場が広く、基本的にはフラットですが低域までしっかりと再現します。そこがヒップホップなどの制作に向くところですね。同時期にPro 900という密閉型モデルも出ていて、それもすごく良かったんですが、迷った末にPro 2900を選びました。いずれにしても、僕は基本的にULTRASONEの音が好きなんですよ。

PAスピーカーと似ていて安心感がある 佐々木幸生

 Pro 550という密閉型モデルが発売されたころ、それに関する記事を雑誌で読んで、“ドライバーから発生する電磁波を可能な限りカットする”というULTRASONE 独自のULE(Ultra Low Emission)テクノロジーを知りました。当時は別のヘッドフォンを使っていましたが、ミュージシャンとリハーサルに入ると1日6〜7時間使用することもあるため、なるべく頭に電磁波の影響が及ばないようにPro 550を買ったんです。10年くらい前のことで、最終的に3台購入しましたね。

 Pro 550は50mm径のドライバーを積んでいて、低域に結構な量感があります。ただ、PAの現場では、スピーカーから大音量が鳴っている中でもヘッドフォンで個々の楽器や全体のバランスをチェックしますので、“スピーカーに負けない音圧のヘッドフォン”が必要です。Pro 550は音圧がやや控えめだったため、4〜5年で現在のSignature DJに乗り換えました。フェスなどでは、転換のときにヘッドフォンだけでバランスを取って本番を迎えることがあります。Signature DJはPAスピーカーに近い音がするので、耳の中だけで音作りしてスピーカーから出すときにも安心感が違いますね。

本記事は、サウンド&レコーディング・マガジン2018年10月号にも掲載されます!

GuitarMag1809.jpg 本記事は、リットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン2018年10月号』から転載したものです。今号では、音楽プロデューサーの中田ヤスタカとPerfumeによる雑誌初のスペシャル・トーク・セッションが実現! プロデューサー的な役割も担うコンポーザーに焦点を当てた特集や、Netflixに導入されたサラウンドの新規格=Dolby Atmosを使ったポスト・プロダクションに迫る特別企画など、盛りだくさんの内容。ぜひチェックしてみてください!

このエントリーをはてなブックマークに追加

製品情報

プロフィール

DJ Watarai
1990年代より日本のヒップホップ・シーンの一線で活躍するDJ/プロデューサー。MuroやNitro Microphone Underground、MISIA、AIなどに高品質なトラックを提供。モニター/制作用機材への造詣の深さでも知られる。

佐々木幸生
高円寺のPAカンパニー、アコースティックのサウンド・エンジニア。ライブ・ハウスからスタジアム、野外フェスまで幅広い現場を手掛け、YMOや電気グルーヴ、サカナクション、THA BLUE HERBらのライブPAを担当してきた。

製品レビューREVIEW

製品ニュースPROUCTS