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  • DEEPER’S VIEW 〜経験と考察〜 第13回

TYCOBRAHE OCTAVIA(タイコブラ/オクタビア)〜最も「音楽的」なファズ・ボックス

TYCOBRAHE / OCTAVIA

2020年、新しい年が来てもやることは何も変わらない……いや、残念ながら変われない! それがDEEPER'S VIEW。第13回はTYCOBRAHEのOCTAVIAをピックアップしていきます。

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TYCOBRAHE OCTAVIAのサウンドを“攻略する”

オクタビアとは?

 OCTAVIAは、1960年代にジミ・ヘンドリックスがアイディアを提案し、ロジャー・メイヤーが作り出したオリジナリティ溢れるエフェクト・ユニットです。

 このエフェクトは1967年初めにデザインされたもので、その音を聴いたヘンドリックスが、すぐにアルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト?(Are You Experienced?)』で使用したと言います。リング・モジュレーション(RINGING=「響き渡る/ベルの音」+ MODULATION=「変調」)が加わったような...何とも言えないそのトーンは、まだ「エフェクター」という言葉も生まれていない1960年代、かなり異質に感じさせたはずです。ヘンドリックスはほかにも「雨を望めば(One Rainy Wish)」、「可愛い恋人(Little Miss Lover)」、「リトル・ウィング(Little Wing)」、「マシン・ガン(Machine Gun)」などのトラックでもこのペダルを使用しています。特にライブ・アルバム『バンド・オブ・ジプシーズ(Band of Gypsys)』では随所でそのサウンドを聴くことができるでしょう!

▲1972年製のタイコブラ/オクタビア。以前の所有者はSPITZのベーシストである田村明浩さんという由緒正しい(?)逸品

 OCTAVIAは、実際に演奏している音符より1オクターブ高い音を生成します。ロジャー・メイヤーによれば、それは「電子ミラーイメージング技術によって生み出されるサウンド」で「電子回路はフル・アナログであり、ギター本体の微妙なフィンガリングで変化する倍音に忠実に反応し、アウト・オブ・フェイズのような効果的なサウンドも生み出せ」るらしいです……どういうことかと言うと……理屈に関しては電子回路に無知な私にはさっぱりわかりませんが(笑)、例えば2〜3個ピックアップが搭載されたギターで片側のピックアップをフェイズ・アウトさせ、ズモーっ!とゲインをブチ上げれば良いのだと思います。つまり、こちらの動画のこの部分で似たよう効果が得られることはわかっています!

▲初期型は筐体の曲げ加工に手間がかかっている。後年のモデルはコスト削減のため、折り曲げ位置に隙間が生じている

 OCTAVIAが作り出す効果はとにかく……非常にユニークです。この音を1960年代に作り出したロジャー・メイヤー、そしてそれを使いこなしたジミ・ヘンドリックスはやはり……すごい。さらに、ロジャー・メイヤーは現在でも進化したOCTAVIAを製作していますが、それはジミ・ヘンドリックスが使用したOCTAVIAの最新進化形であり、60年代には生み出せなかった「フィード・フォワード」と「ゲート効果」を含んでいるとのことです。動画の後半では現行モデルのROGER MAYER ROCKET OCTAVIAのサウンドチェックも行なっていますので、そのあたりも含めてチェックしてみてください。

誰がOCTAVIAを作ったか?

 ところで、今回ピックアップするOCTAVIAは、ROGER MAYER製ではありません。このユニットはTYCOBRAHE社が「世界で初めて一般向けに製品化した」OCTAVIAです。このあたりが非常に厄介なのですが、つまりロジャー・メイヤーがOCTAVIAをデザインしたことは間違いないのですが、その回路を拝借して無断で製品化してしまったのがTYCOBRAHE社のOCTAVIAなのであります。その後、ROGER MAYERもOCTAVIAを製品化しますが、それは1980年代に入ってからのお話。かくして「誰がOCTAVIAをデザインしたのか?」という論争が巻き起こったこともあると言います。もちろん、そのあたりの詳しいお話はロジャー・メイヤー本人のコメントでチェックしてみてください。 http://www.electroharmonix.co.jp/rm/octavia.html

▲トランジスタはモトローラ社のMPSA18(×1)とMPS6519(×2)の3段。NPN型の初段と後段のPNP型の組み合わせが特徴となる

 今回ご用意したTYCOBRAHE OCTAVIAは最初期型。製造は1972年製……つまり、当然ながら1970年に亡くなってしまったジミ・ヘンドリックスは“TYCOBRAHEの”OCTAVIAを使用できません! つまり、TYCOBRAHE OCTAVIAは、TYCOBRAHEがロジャー・メイヤーの製作したOCTAVIAを入手…… 実際にTYCOBRAHEにロジャー・メイヤーのOCTAVIAを修理に持ち込んだミュージシャン(ロジャー・メイヤーによれば、それはKeith Relf=ヤードバーズのシンガーらしいです)がいて、その個体の回路をコピーしたものがTYCOBRAHE OCTAVIAだ、ということです。

▲トランスは電源用ではなく「アッパー・オクターブ音」を作り出すために搭載されている

 現在でもそうですが、優れた回路やサウンドを持つエフェクターがそこにあり、入手が難しい場合……その回路をコピーしてでも「真似したい」と思う心情は、音にこだわるミュージシャンであれば誰でも理解できるでしょう。特にむき出しの基板がそこにあり、修理を行ないながら回路を垣間見ることができたのであれば……。

 そして、TYCOBRAHEのOCTAVIAはバンド・オブ・ジプシーズの音源で聴けるOCTAVIAのサウンドとは異なり、過渡期の仕様を持っているということです。実際に、ジミ・ヘンドリックスのOCTAVIAサウンドはTYCOBRAHEのソレよりもクリーンで、RINGINGも控えめに感じます。それでもこのペダルは世界中のペダルフリークを熱狂させる力を持っています。それは単純に入手が困難だということに加え、ジミ・ヘンドリックス云々を抜きにしても「非常に個性的なサウンド」だからだと思います。

▲基板裏。OCTAVIAの文字が確認できる。初期型はやや色味の濃いブラウンの基板だ

“TYCOBRAHE” OCTAVIAのサウンド

 OCTAVIAは電子的にみても個性的で、ファズでもリング・モジュレーターでもなく、オクターバーでもありません。このユニットから生まれる効果は、プレイヤーの演奏に応じて微妙に変化します。例えばアンプ(どんなアンプでも)をクリーン・サウンドにセットし、ギター本体(できればストラト)のネック・ピックアップを選択、トーン・コントロールを絞って、弾いてみてください。ヘンドリックスの「フー・ノウズ(Who Knows)」で聴けるような「リング・モジュレーション」と倍音を体験できます。基本的にOCTAVIAは、単音でその(本当の)効果を発揮します。コードを弾くとかなり「DIS」コードに聴こえます。もちろん、それがカッコいい場面は少なくありません。

 さらにファズ・ユニットがOCTAVIAの前(もしくは後段)にあれば、そのサウンドは明らかに増長されます。より力強いアッパー・オクターブが生成され、和音では"かなり"クレイジーな響きを生み出します。加えて、何度も言いますが「ストラトのネック・ポジションのピックアップ」が選択され、OCTAVIAのGAINをゼロ、VOLUMEをフルにセットすれば、オクターブ・サウンドはより明確に、簡単に制御可能できます。もうひとつ、何度も言いますが、このペダルの効果を最大に得る場合は、正しく正確なピッキングを心がけてください。ワイルドなRINGINGを得る場合は「わざと誤動作を生み出すようにピッキング」して、エフェクトを制御してください。

 OCTAVIAを最初に弾いた時「なんだこれは?」と同時に「どうやって使うんだこれは?」という疑問が浮かぶでしょう。OCTAVIAはエフェクターという言葉がない時代に、誰も聴いたことがない、新しい音をクリエイトしようとしていたジミ・ヘンドリックスと、エンジニアであるロジャー・メイヤーが作り上げた「楽器」です。いくらギターが弾けようとも、このペダルと向き合う時は「初心に帰って」ください。右手のピッキング、左手のタッチ。そこに改めて向かい合い、OCTAVIAのポテンシャルを引き出そうとしてください。それだけで表現力が広がり、トーンが向上し、ギターのスキルがアップすると思います。

 このペダルの「最初のデザイナーが誰か?」とか「どれがオリジナルか?」と言うことは抜きにして……単純に、やはりOCTAVIAは素晴らしいペダルだと思います。デジタルでは、この“楽器感”は得られません。それだけでも意味があると思います。皆さんもぜひ、この厄介なペダルを使いこなしてみてください。本当に、こんなに使っていておもしろいペダルはほかにありません。

“ROGER MAYER” OCTAVIAのサウンド

 記事の最初に書いたように、OCTAVIAのオリジナル・デザイナーはロジャー・メイヤーです。やはり本家のサウンドも無視できない……ということで、ビンテージ・ペダルの中でもズバ抜けて高価なTYCOBRAHE OCTAVIAに続いてROGER MAYER OCTAVIAの現行品(と言っても2005年のモデルですが)のサウンドもチェックしています。こちらのペダルはトランスを搭載せず、代わりにトランジスタが4個になっているのが特徴です。

▲ROGER MAYER OCTAVIA (ハンマー・フィニッシュのオーバーペイントにピンストライプを加えているが、内部は通常製品と同じ)

 そのサウンドは非常にクリアで、RINGINGもほどよく抑えられ、音にスピード感も十分にある。個人的には例えばセッションに持ち込むなら、こちらを選びます(セッション……行ったことありませんが笑)。もちろん、TYCOBRAHEの「オリジナル」サウンドは素晴らしく、自分のバンドで使うならTYCOBRAHEの音の格好良さを追求したい!と思います(バンドをやる予定……ありませんが笑)。

▲ROGER MAYER サイン入りのOCTAVIAは貴重……と言いたいところだが、探せばたくさん見つかるだろう!

 またROGER MAYERは、OCTAVIA CLASSICというさらに進化したOCTAVIAもラインナップしています。ボードに収めやすいサイズでTONEとアウトプット・バッファーも装備。こちらもぜひお試しを。

最後に

 OCTAVIAは、その音のアイディアと最初の設計が良いので、ほとんどのコピー品やレプリカ・ペダルが同じように使える音だと思います。単純にGAINをゼロ、VOLUMEをフルで使えば、問題なくビンテージ・ペダルと似たような(あくまで似たような!)効果が得られます。

 TYCOBRAHEは素晴らしい楽器を多数生み出したブランドです。あまりにもOCTAVIAが有名なのですが、ほかにもPARAPEDAL(そのまんま“PARA”メトリック・イコライザーをPEDALで操作するという……使い方によっては地獄のようなサウンドを生み出すペダル)やPEDAL FLANGER(私の個人調べではA/DA FLANGER、MUTRON FLANGERと並ぶ、世界3大アナログ・フランジャーのひとつ)といった素晴らしいペダルからアナログ・ディレイ、PA卓までラインナップしていました。OCTAVIAの「サウンド」はTYCOBRAHEの「オリジナル」ではないかもしれませんが、それでもOCTAVIAのサウンドを広く世に知らしめたのはTYCOBRAHE OCTAVIAの功績だと思います。

 とにもかくにも、今回は「OCTAVIAとの付き合い方」を踏まえて、動画を撮ってみました。

 OCTAVIAを使いこなすには、
■ギター(またはベース)のボリュームを少し下げながら、前段と後段でブーストしてやると良い
■正確なピッキングを心がけ、ピッキングの強弱でゲインをコントロールする
ということを心がけてみてください。

 そして、最も大切なのは「歌うように、話しかけるように弾く」ことです。実際、最もこのペダルをうまく使いこなせるのはソリスト、そしてジャズ・ギタリストだと私は思っています。つまり、私はこのペダルの魅力を10%くらいしか引き出せていない。そう、ペダル沼(いや、機材地獄か……)の最深部に到達しても、結局「ギターで自分を表現する」ことができなければ何の意味もないのです。OCTAVIAを弾くと、いつもそのことを思い知らされます。みなさんも新しいペダルを入手したら、その楽器の能力、魅力をすべて引き出さなければならないという使命を忘れないでください。

 最後に。もし、TYCOBRAHE OCTAVIAのサウンドに興味を持って、そのポテンシャルをもっと知りたいと思った皆さんはぜひ、マイケル・ランドウ率いるバーニングウォーターというバンドのアルバムや、ランドウのソロ・アルバム『The Star Spangled Banner』を聴いてみてください。絶対、OCTAVIAのサウンドが欲しくなります!

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