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LINE 6 Stompbox Modelerシリーズの最新ラインナップとして発売され、すでに各方面で話題沸騰中のM5。ビンテージの名機を含む100種類以上ものストンプボックス(足踏み式コンパクト・エフェクター)を内蔵したエフェクターでありながら、いわゆるマルチ・エフェクターとは異なり、同時に使えるエフェクトは1種類のみ。そうすることで、従来のコンパクト・エフェクターと同じようにシンプルに扱えるようになっているのが最大の特徴だ。
ここでは、ソロ/バンドの両方で幅広い活動を行っているシンガー・ソングライター&ギタリストの高野寛に、M5を使ったギター・サウンドの数々を紹介していただきながら、同機の魅力に迫っていくことにする。

高野寛

__高野さんがこれまで使ってきたLINE 6製品は?

高野 最初は初代PODを雑誌か何かで見て、すぐに買いました。あれは革命的にアンプの音がする機材だったので、すごく使いましたね。その後はお決まりのDL4、あとは小さいストンプボックス(TONE COREシリーズ)のディレイ(Echo Park)とオート・ワウ(Otto Filter)も買いました。

__それらを使ってきた中で、LINE 6製品にどんなイメージを持っていますか?

高野 音がアメリカンなんですよね。すごくざっくりした音の太さみたいなものを感じます。あと、ハードウェアとしても分かりやすくて、丈夫にできている。機能の割り切り方も特徴的で、デジタルの良さを昔ながらのスタイルに融合させているという印象がありました。

__今回は最新機種のM5を試していただきますが、上位モデルのM9を持っているそうですね。

高野 友人のギタリスト、近田くん(近田潔人さん)が使っていたのを見て、これは使えるなと思って自分でも買いました。僕はソロ活動と並行していろんなバンドをやっているので、機材のセッティングもそれに合わせて変わるんですね。今までだとその度にエフェクト・ボードの中身を入れ替えたりとか、1つのバンドの中でも「この曲のこの部分だけ、このエフェクトが必要」ってことがあって、そのためにエフェクターを1個追加したり、今日はこの曲はやらないから代わりにこっちを入れようとか... みんなやってることだと思うんですけど、M9が1台入ることでそういう煩わしさがかなり解消されるんですね。さっきの近田くんも「これがないと仕事ができない」とまで言いましたから(笑)。

__いろいろなセッティングをまかなうためにボードを大きくする方法もありますが。

高野 ほんとにいっぱい入れてた時期もあったんですけど、僕は歌いながら弾くことが多いので、あまり複雑になってしまうのは避けたいんです。セレクターみたいなものを使うと、踏み間違いもあったりして。今までワウとオーバードライブとDL4を入れてるボードがあったんですけど、DL4の代わりにM9を入れて、バンドごとにM9のシーンを切り替えて使っています。

__そんな高野さんに、M5というエフェクターの登場はどのように映りましたか?

高野 今までありそうでなかったエフェクターだと思いましたね。ここまで機能を限定しているのに、音作りの可能性はすごく高い。パラメーターの数を整理して、全部ツマミとして表に出してあるのも良いと思います。これがボタンを押して機能を呼び出して... となると、コンパクト・エフェクターの感覚からは遠ざかってしまいますからね。

__では、実際にM5で音を出してみた印象は?

高野 まず、音の解像度が高いという印象がありました。ディレイ系は音のヌケが良くなって、歪み系ではデジタル臭さが無くなっている、そんな気がしました。

__先ほど話していた「アメリカンな感じ」はM5からも感じますか?

高野 確かにありますね。あと、セーブするっていう概念がないというところもアメリカ的だなと思います(※各エフェクトのパラメーターは最後に設定した値が保持されるようになっており、いわゆる「セーブ操作」は不要)。さっき話した操作性のことも含めて、日本のメーカーからはなかなか出てこない発想かもしれません。PODが発売されてから十数年以上経ちますけど、そこからの積み重ねがあった上での製品だということも強く感じます。

高野寛プロフィール

【高野 寛 プロフィール】

1964年静岡生まれ。1986年に高橋幸宏とムーンライダーズが主催するオーディションに合格し、1988年にシングル「See You Again」でデビュー。90年代後半からはギタリスト/プロデューサーとしての活動もスタートする一方で、Nathalie Wise、4B、GANGA ZUMBA、pupaといったバンド/ユニット活動も精力的に行う。ソロ名義での最新アルバムは2011年4月発表の『Kameleon pop』。 ◎オフィシャル・サイト:http://haas.jp


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高野寛 試奏M5に搭載されたエフェクトは、ディレイ=19種、モジュレーション=23種、ディストーション=17種、コンプレッサー&EQ=12種、フィルター=26種、リバーブ=12種の計109種。使用時は、ディスプレイの色がエフェクトのカテゴリー別に変化するため、今何を使っているのかを直感的に把握しやすくなっているのもポイントだ。

ここからは、搭載エフェクトの中から高野が選んだお気に入りのサウンドを、自身によるデモ演奏で紹介していただく。それぞれの効果はもちろんのこと、エフェクトの種類に合わせてさまざまなスタイルを聴かせる高野のプレイにも注目してほしい。


ディレイ

TAKANO's Setting
1. Analog Echo

これはM9にも入っていて、よく使っているエフェクトです。エクスプレッション・ペダルを使って、タイムは変えずにフィードバックとディレイ成分の量を変えています。
2. Reverse

いわゆるリバース・エコーですね。これもよく使うエフェクトです。DL4に入っていたリバースよりも音が確実に良くなっていると思います。

モジュレーション

TAKANO's Setting
1. Tri Chorus

僕は普段コーラスよりフェイザーを使うことが多いんですけど、このコーラスは良いですね。フェイザーと切り替えて使えるのもありがたいです。
2. Pitch Vibrato

ビブラートなんて単体では買わないけど、あると使いたくなるノノそういうタイプのエフェクターですね。
3. Frequency Shifter

弾きながら音をメタモルフォーズさせられる。アート・リンゼイとかフレッド・フリスみたいな感じのことができますね。こういうの好きなんですよ(笑)。
4. Rotary Drum/Horn

レズリーですね。ペダルを使って本物と同じようにファストとスローを切り替えられるのが良いですね。

ディストーション

TAKANO's Setting
1. Tube Drive

オーバードライブです。エクスプレッション・ペダルを使ってドライブの量を変えると、アンプのボリュームで歪みの量を調節するのと同じようなことができるのが良いですね。
2. Classic Distortion

これはもう、名前のとおりのディストーション。全然問題なく使える音だと思います。
3. Octave Fuzz

これはOctaviaのエミュレーションですね。エイドリアン・ブリューっぽいフレーズを弾きたくなります。
4. Bass Octaver

デジタルにはありがちな発音の遅れがほとんど無いのに驚かされます。ちゃんとピックアップの音を出しながらオクターブ下の音を足していて、これならベースの代わりにもなりますね。
5. Fuzz Pi

ファズは個体差がすごくて、僕も1台持ってはいるんですけど、なかなかいい感じの音作りができなくて。こっちの方が使いやすいかもしれない(笑)。ペダルで音の太さを変えられるところも良いですね。
6. Heavy Distortion

これもすごく良い音。僕は歪み系のエフェクターはひなびた音というか、そこそこの歪みのものしか持ってなくて、あえてこういうものを買おうとは思ってなかったんですけど、入ってると使いたくなりますね。フロント・ピックアップでトーンを0にすると、ちょっとロバート・フリップみたいな感じになります。

コンプ/EQ

TAKANO's Setting
1. Red Comp

とてもパキパキしてて、良い感じのコンプです。
2. Graphic EQ

かなり極端なセッティングで弾いてみましたが、さらに使い込むといろいろなことができそうですね。
3. Mid Focus EQ

さらにEQをもう1つ。これは音が太くなる印象がありますね。
 

フィルター

TAKANO's Setting
1. Tron Up

オート・ワウって意外と音がやせちゃう機種が多いんですけど、LINE 6のは音が太いので(Otto Filterを)買ったんです。これもちゃんと太い音がしていますね。
2. Synth-O-Matic

ギターシンセです。シンセっぽく聴こえるように、なるべく強弱を付けずに弾いてみました。ギターだけのバンドで使うと面白いかも。今までのギター・シンセのエミュレーションのやつよりも音が太いところが好きですね。これも反応が速くて、ストレスなく弾けます。
3. Weeper

これは割とスタンダードな感じのワウ。ワウはこれ以外にもいろいろ入っていますけど、どれも幅広く使えそうなものばかりです。
4. Pitch Glide

これはワーミーですね。オリジナルよりもスピード感があると思いました。そういうところがアナログ・エフェクターっぽい感覚で使えるポイントでしょう。

リバーブ




TAKANO's Setting
1. '63 Spring

スタンダードなスプリング・リバーブです。気持ちよくかかってくれます。
2. Particle Verb

先日、友人のブラジル人ミュージシャンにレコーディングを頼まれたんですけど、そこでこのエフェクトを使って、ギターでパッドみたいなパートを弾きました。3つのモードがあって、セッティング次第でもっとエグい感じにすることもできます。

高野寛

 これだけのエフェクトがそろっていれば、「もう1つこれが欲しい」というほとんどの人のリクエストに応えられる... そこが強みだと思います。普段たくさんエフェクターを使っている人も、これがあるとセッティングがだいぶシンプルになる。特に、飛び道具系とかモジュレーション系のエフェクターってそんなにたくさんそろえられないから、「この曲のここしか使わない」っていうエフェクターを一手に引き受けてもらう、という使い方が一番分かりやすいんじゃないでしょうか。

 それぞれのエフェクトの質も良いと思います。以前はデジタルって便利だけど音が犠牲になっているとか、逆にアナログは音が良いけどメンテナンスが大変だとか、プラスマイナスが両方あったと思うんですけど、ここ1〜2年くらいで、デジタルのメリットの方が大きくなってきた気がするんです。このM5を見ててもまさにそれを感じるし、操作性とかアナログ的な良さを最大限に取り入れているところが良いなと思いましたね。


【使用機材】

取材時に高野が持ち込んだギターは2本。左は1995年にニューヨークで購入したという64年製フェンダー・ストラトキャスター。右はサイケデリズム製TEタイプのカスタムモデル。アンプはスタジオ常設のフェンダーTwin Ampを使用した。

使用機材