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デジマート流・ビンテージ・ギター購入ガイド

人生をかけて付き合っていけるギターと出会うということ……

デジマート流・ビンテージ・ギター購入ガイド

 『ビンテージ』。その言葉を聞いただけでも、つい怖じ気づいて敬遠してしまう。高い、価値がわからない、閉鎖的、敷居が高い…そんな印象をお持ちの方も多いのではないだろうか?だが、断言しよう。それはビンテージ楽器に対する単なる理解不足にすぎないのだという事を。千々に乱れ飛ぶ噂や不確かな情報ばかりを鵜呑みにして、自分のビンテージ・アレルギーを育ててしまうのはあまりにももったいない。

 そこで、ビンテージ楽器への正しい理解を高め、実際に購入する時の参考にしていただくためのガイドを用意することにした。ビンテージ・ギターに興味がある人、ビンテージ・ギターの購入を実際に検討している人などに是非読んでいただく事をお勧めする。

  • ES-335、モズライト、レス・ポール……同じモデル、同年式のギターでも基本は「中古」の楽器。一本一本異なる個性を持っている。

そもそも「ビンテージ・ギター」とは?

 まず、ビンテージ・ギターに対する正しい認識は持っておいた方が良いだろう。つまり、ビンテージ・ギターというものがどういうモノであるのか、という話だ。意外にこの事についてわかっているつもりでも、いざ購入を検討し始めると、つい忘れがちになってしまうものだ。それがビンテージ楽器への理解をせばめ、二の足を踏ませる原因となっている事は間違いない。まずは正しくビンテージ・ギターを知り、その価値を理解するための土壌を養おう。

『中古』の楽器

 基本はここ。意外に忘れがちなことだが、実に大切な事だ。ビンテージの楽器類のほとんどは誰かの手を経由した古いモノなので、同じ年代の同じモデルでも、コンディションによって大きく差が現れる。だが、それこそがビンテージ楽器の最大の醍醐味でもある。自分の必要とするものが何なのか……音? ルックス? 状態? 経歴? レア度?……など、必要に応じて全てにピッタリのものを探す事ができるのが強みだ。だが、逆に、いざ欲しいと思っても、要望を満たす楽器が実際に存在しているのかどうかはわからない。「出会いの楽器」と言われる由縁だ。

『ビンテージ』の概念

 ビンテージという言葉の持つ意味が実に曖昧だという事も覚えておこう。人によって、また、店によってその認識はバラバラなのが実状だ。つまり言い換えれば、何を自分でビンテージと判断しようが基本的には自由だという事にもなる。とはいえ、共通する一定の括りは存在するようだ。実際にビンテージショップを取材して、多かった意見を下に挙げてみる。自分の認識と照らし合わせてみよう。

1. エレキギターの場合、’60年代まではほぼ間違いなくビンテージ。その中でも大体は、’50年代、’60年代前半、’60年代後半以降……といったように細分化されている。

2. ‘70年代などでも、復刻版が出ていないもの、人気であるにもかかわらず再生産も数が少なく手に入りづらいもの…などがビンテージに含まれる場合がある。

3. 時代が経過するにつれて、ビンテージの設定年代は異なってくる。誰にでも、自分の生まれた年以前のものなどを強くリスペクトする傾向があるので、今の現行品なども何十年後かにはビンテージと呼ばれる可能性もある。

4. アコースティックなどでは、戦前の楽器(プリウォー)は特に珍重される。中には製造から一世紀近く経ている名品たちもあり、骨董的価値の高いものも多く存在する。

5. 国産のビンテージも存在する。’70年代、日本のギター業界は、世界のトップブランドのOEM(Original Equipment Manufavturer…海外商標の受注生産の事)などでその技術が高かったこともあり、その頃に作られたオリジナルなどは、ジャパン・ビンテージとも呼ばれて独自の人気がある。

6. 「ビザール(珍奇な)ギター」と呼ばれるジャンルも存在する。主に’50年代~’70年代にかけての、フェンダー、ギブソン、リッケンバッカー、グレッチなど大手以外のマイナーメーカー製オリジナルを指す。独自のデザインや音が近年になって見直され、ものによっては高い人気を誇る。国産では、ヤマハ、グヤトーン、テスコ、海外ではVOX、ハグストロム、ダンエレ、モズライトなど無数のメーカーのモデルが存在する。

 このようなくくりを簡単に頭に入れておけば、ビンテージ・ギターの予備知識としては充分である。こまかなパーツや値段の事などは買う前からいちいち気にしても仕方がないので、「知らない事は後で店で聞けばいい」というくらいのおおらかな考えでいよう。

個性が全て

 ビンテージ楽器は、中古である以上ほとんどの場合複数のオーナーの手を渡り歩いており、その使用環境、使用頻度もまちまち。デッドストック的なミントなコンディションでも、保存された環境によっては、一本一本状態が違うのもまた当たり前だ。当時は職人の手作業による誤差も多く、工場ラインで一律の仕上がりを保証されているものでもない。それぞれ存在するビンテージ・ギターの全てが、オンリーワンの性質を持った世界唯一の個体である事を認識しておこう。スペックで保証されるギターが欲しいのならば、現行品が良いに決まっている。ギターそのものの個性の違いや、その一本の自分との相性を楽しんだりできるのがビンテージ楽器の最も素晴らしい部分でもある。

古いものが必ずしも良い物ではない

 これも誤解されがちなのだが、ビンテージだからといって必ず今の楽器よりも優れているのかと言えば、決してそんな事はない、という事を知っておいて欲しい。古いものは、アッセンブリ系などはローテクだし、組み上がりの精度もムラがある。ただし、材についてはその音を出すのに「ちょうど良い」ものが選択され、使われているものも多い。大切なのは、その時代、その時代に作られたもの特有の『音』があるということだ。古いから「良い音」だとするのは大きな間違いだ。当時の「古い音」が出るのが『ビンテージ』…そういうことだ。

  • ショップを覗くとずらりと並ぶビンテージ・ギターたち。この中に「一目惚れ」してしまう将来の愛器があるかもしれない。

ビンテージへの入り口はさまざま

 ビンテージ楽器のおおまかなくくりがわかったところで、ビンテージの世界を知って行くためのオーソドックスな入り口をいくつか紹介しておこう。

アーティストの使用

 やはり、誰に聞いても一番多いパターンがこれだ。好きなミュージシャンが何の楽器を使っているのかということから入るのが、一番自然だろう。具体的な例があれば、実際に楽器を探す時にも店員さんなどに訪ねやすい。

店での出会い

 楽器にだって、一目惚れというものはある。一本一本が違う特徴を持つビンテージ・ギターは、実際に目で見た方がその楽器との「縁」を見極めやすい。店で運命のギターにいきなり出会ってしまう事は良くある事なのだ。

出したい音を求めて

 音楽をやっていて、ギターの音が気になるのは当然の事だ。必要とする音を求めているうちに、ビンテージの楽器でしか出し得ないサウンドに辿り着いてしまうこともある。具体的な音のイメージがあるのは、ビンテージに限らず楽器選びでは重要なアドバンテージだ。

本や資料で出会う

 文献を見て、美しい写真に惹かれる事も良くある事だ。本を見ただけでは音はわからないが、人を引きつける絶対的な貫禄は伝わってくるものだ。店で楽器を探す時にも、それを持っていって、実物と見比べる事ができるのも良い。

知人の所有物

 身近な人が持っていれば、それに興味がわく事もあるだろう。知り合いであれば試奏させてもらうチャンスも増えるだろうし、その楽器についての具体的な特徴も教えてもらいやすい。

 ……人それぞれに楽器との出会いは千差万別だが、自分が興味を持つに至ったルーツは、はっきりと自覚しておくべきだ。ビンテージというものは、見た目も音も、遠くから眺めるイメージと実際の実物が持つ迫力とには天と地ほどのひらきがある。そのギャップを楽しむためにも、ファースト・コンタクト時の印象は大切なのだ。

  • 近くに寄って楽器の「顔」をよく見てみよう。傷や錆も含めて、その「顔」が良いと感じられるかは大事なことだ。また、しっかりとリペアを行っているショップなのかも確認したい。

いざ購入! その流れを知ろう

a.準備

・探している音をイメージしておく
 何年の何モデルとかまではっきりとわかっている必要は特にない。もちろん知っていても不都合はないが、個体差のあるビンテージ楽器の世界で、変な先入観のある頭でっかちの知識は逆に視野を狭めてしまう。大まかに「こんな音がほしいな~」みたいな感じの方が良い事が多いのだ。

b.ショップを訪ねる

・何度も足を運ぶつもりでいこう
・店員さんとのコミュニケーションを密に
・熱意が何より重要

 その店にある楽器の情報は、そこの店員さんしか知らないことだ。新品と違って、聞かなければわからない事だらけなのがビンテージ楽器の恐ろしい所でもある。そこを教えてもらうためにも、店員さんとのコミュニケーションは必須。

 ほとんどの店員さんは、お客さんがギターの素人なのかベテランなのか、うまく弾けるのか下手なのか、などという事は全く気にしていない。見ているのは、その人の本気度。ビンテージ楽器を知りたいという情熱だけが、店員さんからより多くの情報を引き出す鍵なのだ。「これください」「はい」ということではまず成立しない世界だという事を覚えておこう。時間が許す限り、何度でもその楽器を見に通い、店員さんと話をしよう。音楽の世間話だって大丈夫だ。好きなバンドや音について積極的に話して、自分の事を店員さんに知ってもらおう。自分の情報を出す事によって、店員さんは様々な有益なアドバイスをしてくれるはずだ。

c.選別

・まずは、楽器の「顔」をよく見よう
・用途とコンディションのバランスを把握
・こだわっている部分を店員さんに話そう
・店舗ごとのリペア特性を把握する

 知ったかぶりや見栄は必要ない。どの程度のコンディションのものを探しているのかをまず先に店員さんに告げておけば、目的のギターを選びやすくなる。コレクターならばパーツなどのオリジナル度にこだわるだろうし、プレイヤーは音にこだわるはずだ。

 次に重要なのは、最初に見た印象……楽器の「顔」だ。傷や錆も含めて、その「顔」が良いと感じる事さえできれば、それは本人にとって見た目の部分では「良いビンテージ・ギター」と言う事ができるだろう。

 また、店舗によって違う『リペア』の状態についてもよく観察しよう。それによって、オリジナルのコンディションをなるべく残す事に神経を使っている店なのか、それとも、実践的に使える事を重んじている店なのかがよくわかる。店頭商品のリペアがちゃんとできていない店は、ビンテージショップとしては品質管理やアフターケアに問題があると思ったほうがよいかもしれない。そして、予算は、決まっていなかったら「決めていない」とはっきり言って良い。音を出す前に値段で線引きされるのは、個性の楽器であるビンテージ楽器を選ぶ際にはあまり良い事ではないからだ。

  • 試奏の際にはアンプは必需品。このようなビンテージ・アンプで音出しできるショップはありがたい。

d.試奏

・試奏は必ずする
・時代別の音を感じ取ろう
・楽器が傷つく行為は厳禁
・アンプの持ち込みには注意が必要

 何よりも音に個性が表れやすいビンテージ・ギターにおいて、試奏は必須だ。交換されたパーツや、ピックアップのコンディションによって音がどのように変わるのかをよく確かめよう。同じ楽器の状態違いを弾くのも良いが、時代別の音を弾き比べるのも有効だ。前述の’50年代、’60年代前半、’60年代後半以降でも音が全く違うからだ。ビンテージ特有の「手馴染みの良さ」も重要だ。ネックの感触や重量バランスもしっかり比べてみよう。

 試奏楽器は売り物なので、もちろん自分のギターのように自由に弾いて良いわけではない。ピックがボディにあたったりしないように注意をしながら弾くのは、最低限のマナーだ。ひっぱたいたり、スライドでばんばんフレットに打ち付けたりするのも、当然、御法度だ。どうしても加減がわからないというのであれば、店員さんに試奏してもらうのもアリだ。あと、これはビンテージに限らず新品の試奏でも言える事だが、指輪や時計、ベルトのバックルなど、ギターに傷がつきそうなものは外してから試奏するのが良いだろう。できたら、そういうものは最初から身につけていかない方が無難。

 アンプの試奏にもセオリーがある。もちろん、自分が使いたいマイ・アンプで試奏する事は重要だが、古いピックアップやホロウのエレキは、ハイパワーのアンプの大音量では、ハウリングを起こしたりやノイズがひどかったりする事が多く、本来の性能が発揮しにくい事を覚えておこう。

e.購入

・「顔」「音」「値段」のバランスを見よう
・決断は、焦らず、無理をせず
・オリジナル・パーツの温存を判断する
・買えたならその「縁」を大切にしよう

 買う気になってから、初めて値段を気にすれば良い。細かい傷や部品の欠損などもあわせて、自分の中でその「音」が値段に見合うと思えば、買えばよい。ビンテージ楽器の中には、家が一件建つほどの値段のモノもざらだ。いくら欲しくても、決して無理をしない事が肝心だ。買えなかった時は「縁」がなかったということで潔くあきらめよう。逆に、買えたならそれは素晴らしく「縁」のある楽器なので、ずっと大切に弾いてあげればよい。

 あと、消耗品もパーツ類に含まれるので、ブリッジ(特にサドル部分)やナットなどのオリジナルを温存しておくために、あらかじめ外して別のパーツに付け替える事もよくある事だ。ただ、そういう人も、やはりオリジナルが良くて結局元に戻してしまう人も多いらしいので、自分の求める音や用途に応じて判断しよう。バージン・ハンダかどうかなどはコレクターが良く気にする点だが、熱によるダメージの恐れがあるパーツ以外はあまり音に影響しないので、プレイヤーの人はそれほど神経質にならなくても良い。

f.管理/メンテナンス

・乾拭きが基本
・常に弾ける状態を保とう
・定期的に購入店で調整を
・温度変化や乾燥トラブルに注意

 購入後、最も重要なのは、購入店と長く付き合っていく事だ。買った楽器について一番詳しく知っているのはそれを売っていた楽器店に違いないので、購入時にメンテナンス方法についても詳しくアドバイスを受けておこう。

 塗装には特に注意が必要だ。基本は乾拭きで行うのが安心。塗膜がちゃんとしていれば何で拭いてもOKだが、トップのラッカーが柔らかくなったものはどんなポリッシュを使ってもダメ。ぴかっとさせたいのか、マットな感じにしたいのか、買う時に、“こういうふうに育てたい”という塗装の好みをしっかり店員に伝え、どうすれば良いかを教えてもらおう。

 ビンテージ楽器を売っている店は、基本的にビンテージ対応のメンテナンス技術や知識を持っている。その個体への習熟度から言っても、やはり、売っていた店にその後も定期メンテナンスをお願いするのが最も良いだろう。弾けるようにしておくというのも重要な事で、フレットなどはいかにオリジナルであっても減ってきたものは交換すべき。本来の性能を発揮できてこそのビンテージ・ギターの価値なのだ。

 あと、ギターという楽器は木でできているので、急激な温度変化には弱い。寒い外から温かい部屋に持ち込んだ時などは要注意だ。ケースを開けた瞬間に塗装や木がバリバリに割れてしまう事もある。ケースが水滴を付けていたりするような時は、絶対にすぐにケースの外へは出さないようにしよう。気温差が激しい場合は、一度玄間において温度に馴染ませてからケースを開ける事も必要だ。そして、最もギターを傷めるのは乾燥のトラブルだ。冬などは楽器専用の加湿材なども活用していくべきだ。総じて、人が不快に感じるような環境では楽器にも良くない、という事を覚えておこう。長期間保管する時には、ネックの逆反り防止のために弦を緩めすぎないようにすることも基本中の基本だ。

ビンテージ・ギター……その価値を決めるのは自分自身

 ビンテージ・ギターは高い。しかし、その値段に惑わされてはいけない。「目的」と「音」……それさえしっかりと持っていれば、自分がどんなギターを手に入れなければならないのかが、はっきりとわかることだろう。どんなに状態が良くても高いと感じる事もあれば、ボロボロのそれが出す素晴らしい音色を聞いて安いと思う事もある。そう、値段などあって無きがごとしなのだ。

 その価値を決めるのは買い手であるあなた方自身である。自分を信じて、後悔しないように買えさえすれば、それは他の誰が何といおうと最上のものなのだ。それと全く同じ状態のギターは、この世に二つと存在しない……それがビンテージ楽器を購入する時の一番の面白さだからだ。

 もし思う通りのビンテージ・ギターを買う事ができたならば、人生をかけてそれと付き合っていってあげて欲しい。その「出会い」を楽しめるかどうか……それこそが、手にしたビンテージ・ギターの本当の価値を決めるエッセンスではないだろうか。