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メサ・ブギー ブランド・ストーリー

ギタリストならば、その名を知らない者はいない、ブティック・アンプの先駆け的存在とも言える高品質ブランドのルーツをたどる!

メサ・ブギー ブランド・ストーリー
Part 1:メサ・ブギーの新定番を末原康志がサウンド・チェック!
Part 2:メサ・ブギー ブランド・ストーリー

歴史の始まり 〜ゲイン・コントロールという発明〜

▲代表であり設計者、ランドール・スミス。


▲改造アンプのサウンドを絶賛したカルロス・サンタナとセッションするランドール。

 メサ・ブギー社の創始者であり代表、そして設計者でもあるランドール・スミスは、1940年代にカリフォルニア州サンフランシスコに生まれ、父親がクラリネット奏者という恵まれた音楽的環境で育った。幼い頃から真空管のオーディオ回路などに興味を持っていたというランドールは電子機器の修理を得意とするようになり、バンド仲間の機材はもちろんのこと、自動車までもその範疇としていたという。

 そんなランドールが楽器の修理やメンテナンスを請け負うショップを始めたのは1960年代後半のこと。アンプで歪みを得るためにはボリュームを上げることしか方法がなかった時代である。ある日、ランドールは、練習用の小型アンプからものすごい大音量が出たらどうなるだろう、という冗談のつもりでフェンダーの12W小型アンプ・プリンストンに改造を施す。トランスを大型化してフェンダー・ベースマンの回路を組み込み、2本の6L6真空管をパワー部に使用、スピーカーも大型に交換するという大掛かりな改造であったが、画期的だったのは設計デザインで、従来のボリュームでゲインをコントロールし、増設されたマスター・ボリュームで音量を調節するというものであった。現代では常識的に採用されているシステムだが、ランドールの発想こそがすべての礎なのである。

 その改造アンプを試奏した若き日のカルロス・サンタナは、初めて体験するサウンドを「なんてブギーしてる音なんだ!」と、音楽のジャンルになぞらえて絶賛した。ランドールはその表現を気に入り、自動車関連事業でも使用していたメサ・エンジニアリングの屋号と連ねて、メサ・ブギーというブランドを誕生させた。そして、現在へと続く歴史が始まったのである。

独自性の開花 〜チャンネル・スイッチングという革新〜

▲メサ・ブギー初のオリジナル・アンプMK-Iの組み込み作業を行うランドール。

 改造プリンストンを150〜200台ほど製造した後、ランドールはオリジナル・アンプの開発と製造に踏み出す。そして1972年、MK-Iと呼ばれる初代モデルがリリースされる(厳密にはモデル名は無かったが、後にMK-IIが発表されたことでMK-Iと呼ばれるようになった)。改造プリンストンを踏襲しながらもさらに真空管を増設し、2つのボリュームにマスターボリュームという3ボリューム設計により、透明感のあるクリーンからハードなドライブまで多彩なサウンドを備えたこの画期的なアンプの登場以降、各アンプ・メーカーからマスター・ボリュームを装備したモデルが続々と発表されるようになったのは言うまでもあるまい。

 瞬く間にアンプ・シーンの寵児となったメサ・ブギーだが、ランドールの発想はそれだけではなかった。続いて1979年には、リード/リズムの2つのチャンネルを装備したMK-IIを発表。現代でこそ複数のチャンネルを持つアンプは珍しくないが、このモデルが世界初となる画期的なシステムであった。ランドールの、時代を先読みするかのような設計センスは、ブランド初期からすでに発揮されていたのである。

時代が求めた音 〜さらなるハイゲインの領域へ〜

▲更なる歪みを求め生み出されたDual Rectifier。

 1986年にリリースされたMK-IIIは、MK-IIの2チャンネル仕様をさらに押し広げ、リード/リズム/リズム2という3チャンネルを実現。これはツマミのプッシュ/プルでリズムとリズム2とを切り替えるシステムであったが、1989年に発表されたMK-IVでは3チャンネルを独立した形へと進化させ、クリーン/クランチ/リードをフットスイッチでコントロール可能となった。当時としては極めて先鋭的なシステムでありながら、そのサウンドと多様性で世界中のギタリストから歓迎された。そして'80年代後半に巻き起こったハードロック/ヘヴィ・メタルのブームにおいて、メサ・ブギーのハイゲイン・サウンドは絶大な存在感を放つようになっていく。金属製の格子状キャビネットがこの時期に発表されたことからも、時代とのリンクがうかがえると言えよう。

 そうした音楽シーンの中、さらなる歪みを求めるギタリストに向けて発表されたのがDual Rectifierだ。その異次元の重低音とディストーション、そしてサスティンは、1991年の発売からたちまち世界を席巻し、現在もなおハイゲイン・サウンドの代名詞となっている。

温故知新 〜伝統を踏まえ、まだ見ぬ地平へ〜

▲タスマニアン・ブラックウッドを外装に用いたカスタム・メイドのMK-V。


▲TA-30の組み込み作業を行うランドール。

 ギター・サウンドの常識を塗り替えたDual Rectifierだが、ランドールにとっては通過点でしかない。メサ・ブギーのフラッグシップであるMKシリーズにおいては、現時点で歴代モデルの結晶とも言うべきMK-Vが2011年に登場。新たにブリティッシュ・アンプのテイストを盛り込むなどの意欲的なデザインと、さらに磨き抜かれた高品質なサウンドで、あらゆるジャンルのギタリストから信頼を集めている。

 ランドールは「あらゆるタイプのプレイヤーや音楽スタイルに適応するアンプを目指しています」と発言しており、MKシリーズの他にもLONE STARシリーズやTAシリーズ、入門用とも呼べる廉価モデルや小型ヘッドなど様々なモデルを意欲的に展開しているが、ギタリストが信頼をよせる理由はそのサウンドだけではなく、製品クオリティの高さにもある。ランドールは「アンプはひとつずつ手作りであるべきだと信じています」とも語っており、実際にカリフォルニアの自社工場で職人の手作業によって丁寧に作られたアンプやペダルは、製品のグレードに関わらず厳しい品質管理の下でチェックされ、最上の状態で出荷されていく。言うまでもなく、真空管を始めとしたあらゆるパーツは、徹底したチェックを通過したものに限って使用されているのだ。また、耐久性の高さを裏付ける逸話として“ハンマーテスト”と呼ばれる行程が知られている。すべてを組み込んだシャーシをハンマーで何度も激しく叩き、そのうえで正常に作動する個体のみ通過させるという極めて実地的なチェック方法には、ツアーなどで機材を酷使するプロからの厚い信頼を集めている。

 手作りの改造アンプからスタートしてギター・サウンドに幾度もの革命をもたらしたメサ・ブギー。カリフォルニアから離れること無く、なおも「常に新しいアンプを夢見て開発に取り組んでいます」とランドールは語る。世界中のギタリストも、さらなる革新を待っている。

▲【写真左】“ハンマーテスト”の現場。波形の乱れでチェック。【写真中】熟練の職人による手作業でワイアリングされる。【写真右】ハンド・サンディングで仕上げられるキャビネット。

メサ・ブギーにジャンルの壁は無い!
メサ・ブギー使用ミュージシャン/作品を紹介

 使用ミュージシャンを数えていくとキリが無いメサ・ブギー。しかしブランドを“ハイゲイン・アンプ”の先入観だけで捉えてしまっている人も少なくない。ここでは、あえてヘヴィ系ではない方向でアルバムを紹介しよう。気になったらぜひ耳にしてほしい。

THE ROLLING STONES [STILL LIFE] (1982)

 時代ごとの機材変遷でも知られるザ・ローリング・ストーンズだが、このライブ盤のステージではキース・リチャーズもロン・ウッドもMK-IIを投入している。'70年代のワイルドな歪みの塊から、分離感がよく整ったサウンドとなり、これ以降さらにクリーンに向かうストーンズの転換期とも言えよう。当時のキースは常にフランジャーを薄くかけていたため、残念ながらMK-IIのドライなサウンドではないが、芯が太いクランチにはメサ・ブギーらしさを感じるはず。
 なお、このライブとリンクする当時の最新アルバム「TATTOO YOU」(1981)でも、メサ・ブギーらしい艶やかなクリーン〜クランチを堪能できる楽曲がある。

RADIOHEAD [THE BENDS] (1995)

 レディオヘッドのギタリスト、エド・オブライエンはDual Rectifier(以下レクチ) を'90年代前半からライブ/レコーディングに使用。セカンドにあたるこのアルバムはUKギター・ロックの名盤でもある。現在よりもバンド的なフォームが強く、楽曲もわかりやすいので、このアルバムをレディオヘッドのベスト1にあげるギター・ファンも多い。
 音楽的に多彩な面を持つバンドゆえ、決して全編にわたってギターが鳴り響いているわけではないが、エドが放つレクチの轟音によって決定的に印象づけられる楽曲もある。UKバンドらしい湿った世界の一部と化したレクチ・サウンドには、このアンプが持つ懐の広さをも感じてしまう。

LEE RITENOUR [RHYTHM SESSIONS] (2012)

 日本では布袋寅泰との共演も記憶に新しいジャズ/フュージョン界のベテラン・ギタリスト、リー・リトナーの近年作。メサ・ブギー愛好者のリーは、このアルバムでもTAシリーズなどを使用し、ナチュラルで伸びやかなトーンを聴かせてくれる。今作ではギブソン・レス・ポールをメインとしているようだが、同じくギブソンのアーチトップ・ジャズギターであるL-5をメサ・ブギーにプラグインしたトラックもあり、稀なサウンド・サンプルとしても楽しめそうだ。
 日本盤のみのボーナス・トラックでは、ずばり「Transatlantic」というタイトルの曲もあり、メサ・ブギーに寄せる愛情と信頼のほどがうかがえる。

 

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