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  • 週刊ギブソン Weekly Gibson〜第85回

密着! ギブソン・ディーラー・ツアー〜メンフィス編

Gibson Memphis & Nashville Dealer Tour 2016 Pt.1

  • 取材・撮影・編集:デジマート編集部 取材協力:ギブソン・ジャパン 翻訳:坂本信 一部音源提供:Hotel Congress

日本のギブソン・ディーラーが一堂に会し、年4回、メンフィス/ナッシュビルのファクトリーに出向いて、完成品の選定買い付けや、主にレス・ポール用ボディ・トップ材の選定〜フィニッシュを含めたオーダーをしているのはご存知の方も多いでしょう。かれこれ15年以上続く、こだわり深い日本市場に向けた“ハンドセレクト・ツアー”です。週刊ギブソン取材班は、2015年12月に挙行されたツアーに同行! ギブソン・メンフィス、カスタム、USAの各ファクトリーに潜入し、ディーラーの皆さんがどのように“ハンドセレクト”しているのか、そして製作工程の様子などを6回に分けてレポートしていきます。まずは一路、ESシリーズでは初となる木材選定も行なわれるというテネシー州メンフィスへ!

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密着! ギブソン・ディーラー・ツアー〜メンフィス編

ギター・ミュージックを育む街で

 2015年12月、日本の気候と同じく寒風吹きすさぶメンフィス。1950年代より数々のロックンロール/ブルース/R&B名盤を生み出してきたサン・スタジオ、エルヴィス・プレスリーが眠るグレイスランド、若き“ブルース・ボーイ”ことB.B.キングがならしたビール・ストリート、そして時代を超え文化を運んできた広大なミシシッピ“マディ・ウォーター”リバーに面した音楽の街に、ギブソン・メンフィス・ファクトリーはあります。それもダウンタウンの中心部、ビール・ストリートから徒歩圏内という好立地! 実際に行ってみると「こんなところに!?」と驚きます。

Gibson Memphis Factory外観

 ESシリーズの生産拠点としてナッシュビルのメイン・ファクトリーから切り分けられたのが2000年。日本のディーラー・ツアーが始まったのも同じく2000年代初頭と、時間をかけて信頼関係を築いてきただけに、本ツアー用に特別限定モデルが用意されることもしばしば。そして今回は、メンフィスでは初となる木材選定も行なわれるとか。むむっ、レス・ポールとは違ってバリトラのサンバーストなんかはあまり見ないESシリーズだけに、果たしてどんなものをハンドセレクトするのでしょうか?

 今回のツアーに参加するのは、石橋楽器店渋谷店心斎橋店名古屋栄店)、黒澤楽器店G’CLUB TOKYOG’CLUB IKEBUKURO)、ギタープラネット(エレキ館)池部楽器店リボレ秋葉原店)、平野楽器 ロッキンJUNSEI GUITARS松木屋 Kagetsu Rockの各ギブソンご担当の面々。

 ディーラー一行を乗せたギブソン・バス(後日特集予定!)は午前9時にファクトリーへ到着。ギブソン・メンフィス総責任者であるデヴィッド・ウィンターズ氏のウェルカム・メッセージを受けたあと、まずは製作工程を見学することになりました。飛散物による事故防止のための特製グラスをかけていざ工場内へ! いやぁ、工場見学って楽しいですよね。編集記者もたくさんの工場へ伺いましたが、製作の裏側を垣間見ることで製品の見方も変わってくるので、ワクワクします。ギブソン・メンフィスは中空ボディ・ギター専門の工場なので同規模他工場と比べてソリッド材が少なく、型枠が多いのが新鮮でした。いずれの工程も1mm単位の仕事をされていて、担当者それぞれに“プロフェッショナルの流儀”を感じました。

 製作工程/ファクトリー・ツアーについては別途特集しますが、ディーラーの皆さんは2016年モデルのポイントになる部分やピックアップを含む電装まわりについて熱心に質問していました。こうやって現場で得た知識を接客に活かすわけですね。

ファクトリーの受け付けにはルシールがそびえ立つ

デヴィッド・ウィンターズ総責任者より歓待を受ける

ES-Les Paul/ライニングを組み込み

ES-335/着色

ES-335/スクレイピングを体験


Message From David Winters(Gibson Memphis General Manager)

 こんにちは、ギブソン・メンフィス総支配人のデヴィッド・ウィンターズです。メンフィスへお越しの日本の方々、ようこそいらっしゃいました。2016年はギブソン社にとって最良の年になります。ネックのサイズや握り心地など、コア・モデルのデザインを一新しました。チタン製のサドルや新設計のネックなど、コア・モデルの仕様をアップグレードしています。また、ヒストリック・モデルではいくつかの部分でニカワを使用しています。ニュー・モデルも追加しました。まずは1958年型のES-335で、(1958年は)335が製造された最初の年になります。また、日本のディーラーの方々の提案で実現したES-275も登場しました。


完成品のハンドセレクト

 ファクトリー内で振る舞われたランチの後、再び工場内を周回。「ギブソンUSA工場に比べたら小さいですよ」(ギブソン・スタッフ談)とのことでしたが、多くの工程をしっかりチェックしていると3時間は優に越える規模感。ひととおりの視察(一部体験)を終えると、いよいよ完成品のハンドセレクトです。リアルタイムに情報が届くこの時代に時間とお金をかけて現地までやってきたのは、お客さんの顔を思い浮かべながら、自らの目利きでより理想的なモデルを選定、スペシャル・モデルのピック&オーダーをするため。

 今回も日本ディーラー向けに、1963 ES-335フィギャード・ナチュラルや数量超限定の1964 ES-330、まさしくできたてほやほやのラリー・カールトン・シグネチャー335などがズラリと並べられました。それぞれに試奏、杢目や重量の確認と真剣そのもの。事前に当日仕上がる予定の製品情報が各ディーラーに渡されていますが、もちろん“予定外”もあり、それもお目当てのひとつだとか。気に入ったモデルがあればネックに名刺を差し込み入札。競合した場合は、金銭的な勝負!……とはならず、話し合いやくじ引きなどによって振り分けられていました。おとな。ここではそれらの一部をディーラーの皆さんに紹介してもらいました。

完成品をそれぞれの目利きでチェックする

ナチュラル・トップのES-335がズラリ

「入札」は名刺をネックに挟んで行なっていた


Larry Carlton Signature ES-335(2015)
クロサワ楽器 G’CLUB TOKYO/村木克弥さん

 今回、完成品の選定ではこのLarry Carlton Signature ES-335と1963 ES-335TD Figured 2015 Vintage Naturalを1本ずつ、計2本選定致しました。Larry Carltonモデルは、以前のSignatureモデルよりさらに再現度の増した新スペックを採用していることもあり、非常に多くの反響がありました。なお、選定致しました個体はご好評につき販売済みとなっております(1/15現在)。1963 ES-335は全体に杢がびっしりと詰まり、中でも良く鳴るものを選定してまいりました。


1959 ES-330 Figured Vintage Natural
平野楽器 ロッキン/西尾唯史さん

 ファクトリー訪問で完成品をセレクトする場合、海外ディーラーの限定モデルをセレクトできたり、Limited Runモデルを先行してセレクトできることが多く、いち早くLimitedモデルや日本では販売していないモデルの入手が可能です。今回もラリー・カールトンES-335をいち早く選定できましたし、1959 ES-330のFiguredも入手できました(1/15現在、販売済み)。


1964 ES-330TD Figured 2015 VOS
JUNSEI GUITARS/鈴木潤生さん

 日本のディーラーがメンフィスを訪問する際は、必ず特別なモデルを日本国内のお客様に用意してくれています。我々は素晴らしい商品を贅沢に時間をかけて選定しております。今回は2本限定というスペシャルな本器を入手できました。


1963 ES-335 Figured 2015 Vintage Natural
イシバシ楽器 渋谷店/在原央顕さん

 現地ではまず第一に、なかなかお目にかかれないフィギャードが特徴の個体をセレクトしています。さらにその中から見た目だけでなく生鳴り、重量などのバランスを総合的に判断してより良い個体をセレクトしました。通常入荷する個体よりひと味もふた味も違った見た目、サウンドを楽しめるかと思います(1/15現在、写真個体は販売済み)。


1964 ES-330TD Figured 2015 VOS
ギタープラネット エレキ本館/井上陽介さん

 フレームが浮かぶこの個体を獲得しました。プレーン材を使ったモデルはLimited Runではありましたが、フィギャードは初めて見ました。現地選定ならではですね。しかも、フィンガーボードも真っ黒と好印象でしたので、迷わずゲット! ギランギランのフィギャードなのにVOSで上品に仕上がっていますし、ニッケル・カバーのP-90も新鮮ですね。


Larry Carlton Signature ES-335(2015)
イシバシ楽器 心斎橋店/吉村章生さん

 写真のカールトン・モデルに加え、海外ディーラー別注の限定モデルである1963 ES-335TD Figured Vintage Naturalをセレクトできました。深さ、揺れ具合ともに文句無しのフレイムを纏っております。日本への入荷も僅少のモデルですのでぜひチェックしてみて下さい!


Larry Carlton Signature ES-335(2015)
池部楽器店 リボレ秋葉原店/吉村敦さん

 このように現地にて完成品を選定するということは、お客様にご満足頂ける個体を選定することと同義です。販売店の特色や担当者の好みに応じた商品を揃えるという点で非常に大きなメリットだと思います。


材のハンドセレクト

 完成品の選定を終えると、いよいよ今回のメイン・イベント、メンフィス・ファクトリーでは初めての材選定が始まります。どのような手順/基準でセレクトし、選定した材料でどんなモデルを作るのでしょうか? 用意されていたのは、まるでレコード陳列棚のような特製ラック。そこにボディ用のフレイム・メイプル材数百枚が縦挿しされていて、まさしくレコジャケを選ぶようにチェックしていくという、エンターテインメント性に満ちたもの。アナログ好きはちょっと萌えますね、これは。ただ全体像が見えづらかったようで、最終的には全部抜いて平置きチェックしていました。また、下段にはセンター・ブロックも用意されています。

まるでレコードラックのようなメイプル材の入った棚


 今回の出張を前に、一部ディーラーの方に「メンフィスでの材選定はどのような段取りで、どういったモデルをオーダーされるのですか?」と聞いてみましたが、皆さんは一様に「正直、行ってみないとわからない」とごもっともな回答。そして実際に現地でハンドセレクトしてみてわかったことは大きく以下の2点。

① トップ材のみならず、マッチングするバック材の選定も必要
② レス・ポールのようなアーチ切削処理を行なわないので、杢目の変化がほぼない

 初めての作業ということもあり、「トップ&バックの対を作るマッチング作業に苦労した」と皆さん口をそろえていましたが、杢目の変化がないことを含め、仕上がりの想定がしっかりできるのがいいと好反応。ハンドセレクト・レス・ポールでの経験を還流してかチェック体制の確立も早く、まぁ本当に手際良く選んでいきます。そして、年齢や現地訪問歴に関係なく意見を言い合い、わずかでも反対意見の出る材ははずすという徹底ぶりに驚きました。正直なところ、素人には差がわかりません。もはや好みの世界? ちなみにセンター・ブロックは軽さ重視で選定していました。

いずれの材も美しいフレイムが浮かぶ

1枚1枚丹念にセレクトしていく

まるでジャケ買いの様相?

全員で和気藹々と選んでいく

まずはお薦めをピックしてその後さらに絞る

最終絞り込みの様子

 材のハンドセレクトについても少しだけ振り返ってもらいましょう。

「参加ディーラーそれぞれが思い描いている理想の杢目(各モデルに沿った)のイメージが纏め切れていなかった点、さらにやはりトップ&バックを似た杢目でマッチングさせる点に苦労しました」
(池部楽器店 永澤兵衛さん)

「カスタムでのレス・ポール用トップ材とは違い、薄いメイプル材の選定でしたので体力的にはかなり楽でした(笑)。しかし、初めての試みゆえに選定基準を設けるのが難しかったです。この選定が今後の訪問時に恒常的に行なえれば、かなり良い杢のESモデルを日本のお客様に定期的にお届けできるはずです」
(イシバシ楽器 心斎橋店/吉村章生さん)

「自店で多くリクエストをもらっていたブリスター系の材が選べたことは大収穫でした」
(ギタープラネット エレキ本館/井上陽介さん)

「今回はES-335と限られたカラーリングのみでしたが、次回は他機種と豊富なカラー・バリエーションからオーダーしたいですね」
(クロサワ楽器 G’CLUB TOKYO/村木克弥さん)

マッチングされた材

 今回、最終的にオーダーしたのは、フレイムやブリスター・メイプルなどの高級材を使用した1959 & 1963 ES-335を約30本ほど。それが2〜3月にかけ、参加ディーラーの各店舗に並ぶことになりますので、要チェックを!   

 さて果たして、このあとのナッシュビル(ギブソン・カスタム、USA)ではどんな出会いがあるのでしょうか? 翌週は今回多くのディーラーが注文したLarry Carlton Signature ES-335(2015)のレビュー動画を挟み、翌々週には“メンフィス・ファクトリー・ツアー”、その後に“ナッシュビル編”を展開していきます。ぜひお楽しみに!


※次回の週刊ギブソン〜Weekly Gibsonは1月22日(金)を予定。

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製品情報

Gibson Memphis / Larry Carlton Signature ES-335(2015)

【問い合わせ】
ギブソン・ジャパン http://www.gibson.com/
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Gibson Memphis / 1963 ES-335 Figured 2015 Vintage Natural

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Gibson Memphis / 1964 ES-330TD Figured 2015 VOS

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