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  • デジマート群像 第1回

渡辺 香津美 〜心に残る買いもの〜

  • 文:取材:デジマート・マガジン編集部 撮影:星野俊

新製品からビンテージまで、多くの楽器に触れる機会が多いであろうプロ・ミュージシャンたちは、どうやって楽器を売り買いしているのだろうか? アマチュア・プレイヤーと同じように楽器店で試奏しているの? 楽器の情報源は? 入手した楽器で最も印象深いものは? 失敗した買いものって? そもそも本当に買ってるの? など、楽器の“買いもの”をテーマに、プロ・ミュージシャンの横顔に迫っていくインタビュー連載、“デジマート群像”。第1回目は、自ら“新しもの好き”を公言し、日々デジマートも活用いただいているという渡辺香津美さんに登場いただきます。世界のKAZUMIを魅了した楽器とは? そして、デジマートの有効活用法までご教示いただいた。

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デジマートは“便利な入口”

──日頃よりデジマートをご活用いただいているとお聞きしました、いつもありがとうございます(笑)。利用状況について簡単に教えていただけますか。

「ええ、ほぼ毎日(笑)。ギターに限らずアンプやエフェクター、レコーディングの機材……イコライザーとかそういうもので、レアなものが欲しかったりするんですよ」

──レアなもの、ですか。

「レアなものや新しいもの、評判のものをね。買うということよりも、まずその商品のデータが欲しい。デジマートにアクセスすることでその商品の概念みたいなもの……場合によってはそのメーカーのホームページに飛んだりすることもできて、“便利な入口”として使わせてもらってます。それと欲しい機材を登録しておくと、出品された場合にお知らせのメールが届くのも便利ですよね」

──アーティストブック『GUITAR MAGAZINE SPECIAL ARTIST SERIES 渡辺 香津美』(リットーミュージック刊)の中でも、自ら“新しもの好き”を公言されています。そんな香津美さんにとって、楽器の売り買いは日常茶飯事なのでしょうか?

「一度手に入れた楽器は手放さない、そういう主義でしばらくはいたの、10代のデビュー当時はね。でも20代過ぎたぐらいに早、それは挫折して(笑)。その後は、気に入った楽器があればトレードしていくっていう感じかな」

──楽器店に下取りに出すということですか?

「出す場合もあれば、欲しいって言う人がいたらその人に売ったりね。嫁がせたり、友達のところに行ったり、完全にさよならだったり、場合によるね。楽器は、手放したその後どうなったか知らないほうがいいみたいなこともありますし(笑)」

──最近は1本買うごとに1本減らすという格好でしょうか?

「まぁ、そうなってますね(笑)。懇意にしてる楽器屋さんがあって、担当の人と話しながらね。楽器って弾かないとかわいそうだし、それはギターにしてもエフェクターにしても同じ。ただ、どうにも手放せないやつがあってね。例えば、初期のコルグのマルチ・エフェクター。90年代かな、メインで使っていて。その後どんどんいろんなものが進化するから忘れ去られる。何かのリハーサルの時に、“お、コレあったじゃないか”って。とりあえずコーラスとディレイとディストーションが使えればいいから持って行こうとか。または海外のツアーなどで、どうしても機材をあまり持って行けない時に使ったりする。そういう機材がけっこうある(笑)」

──ギターは現在、80〜90本程度あるそうですね。

「なんか、あるみたいですよ(笑)」

──管理はどうされているんですか?

「メインで使う20本ぐらいは手元に置いておいて、残りはテクニカル・ルームっていう部屋に置いてます」

──80〜90本というと、これはもう、プロ・ギタリストというよりコレクターという向きもあるんじゃないかと思うのですが。

「いや、でもコレクターではないんでね、それぞれのサウンドが気に入って。ただまぁ、いつ使うの?って感じのモノもあるんだけど。例えば、シタール・ギターとかバリトン・ギター、それにフレットレスとかね。1年に1〜2回使うかどうかというものなんだけど、かと言って、ないと淋しい(笑)」

──なるほど、キャラクターの異なるものですね、同じものをいくつも集めるのではなく。

「そうね。ベーシックは、自分はレス・ポール派だとは思うんですよ。だからまぁ、わりとそういう系統のギターが中心にはなるかな、2ハムのモノね。と言いながら、レコーディング・ルームで使う時は、やっぱり3ピックアップのストラト・タイプもけっこう……ハイブリッドなやつはよく使いますから。ただ、同じモデルのこれは67年製で、こっちは65年製、なんていうのはないよね」

機材への探求心は…………薄れてほしい(笑)

──楽器の情報源はもちろんデジマートだけでないと思いますが、他にどういうところをチェックされていますか?

「あとはeBayとか」

──やはり海外のサイトは活用されるんですね。

「結構しますね。メーカーのページに飛ぶっていうのは逆に少なかったりするんですが、例えば、テキサスの田舎の楽器屋さんに掘り出しもののギターがあったりすると、直接メールしてね、“ホームページ見たんだけど”って。直接メールができるのでいくつも質問して。例えば、今はジェイソンローラーのピックアップは代理店さんが入ってるけど、昔は日本じゃ買えなかった。どこにも売ってなかったんで、ジェイソンローラーに直接メールを出してスペックのことを聞いたりする。“それじゃ、ちょっと1個送ってよ”って。そういうやりとりですよね」

──香津美さんが多作なのは、新しい機材の導入によるフレッシュな環境作りに起因するものもあるのかと?

「そうとは断言できませんけど、まぁ、なんだろう、昔から新しい楽器を使うとそのサウンドに自分なりの発見があったね。スタインバーガーにしてもアレンビックにしても。まだ誰も使ってない楽器を使ってやりたいっていう気持ちは、昔からありました」

──ところで、トップ・プロはメーカーから機材をもらえるもの、という認識を多くの方が持っているかもしれません。実情はいかがなのでしょうか?

「なるほど、確かにね。プロトタイプの段階で“こういうの作ってみました”ってお話があって試させていただくこともありますし、それをそのまま引き続き使うこともないわけではないんですが、でも僕はね、縛られるのが嫌なんで」

──なるほど。

「基本的に気に入ったやつは自分で買って使う、そういう主義なんです。特にギターはいろんなものを使いたいから。かつて特定のメーカーさんと契約をしたこともあるんですけど、その時も“他社のギターも使いますよ”という契約内容でしたね。僕の場合、エレクトリックだけでもいろんなタイプのアプローチをするので」

──ギター本体よりフットワークの軽いエフェクターだと、入れ替え頻度がもっと早いのかなと思いますが?

「ひどく早いですね。まぁ、ひどい(笑)」

──新しいものは片っ端からチェックされたい(笑)?

「これはやっぱりデジマートさんがいけないんですね(笑)。例えば、コンプレッサー。レコーディング現場では必須なので、なんかないかな?って探すと“ブワーッ!”と出てくる。そのどれもこれもが“最高!”って書いてあるんで、全部取り寄せて試したくなる(笑)。言っても間に合わないので、昔持ってた自分のMXRのダイナコンプを出すのが実情なんですけど、評判のコンプについてはいろいろデータを調べて。そうやってると、自分のスタイルに一番何が合うのか?っていうのがわかってくる。結局のところ、そういう方向性がないと選べないなって」

──そういった機材への探求心、情熱というのは薄れないのですか?

「薄れてほしい(笑)。まったく薄れないから(笑)。エレクトリック・ギターの場合、本当に入口から出口まで、アンプだったらチューブも含め、ケーブルやインターフェイスも、ひとつの要素が変わると味が変わってくる。これはもう悪魔のような面白さっていうかね。古くなってどうかな?っていうような楽器でも、今のシステムでやると生まれ変わったりする。“こんな音が出てたんだ”とかね。そうなるともうダメ(笑)。チューブ……真空管なんかもちょっとハマッて、“コレがいいんじゃないかな”とかね。こんなことずっとやってたら人生終わってしまうと思うので、ほどほどにしようと思うんですけど、そうはいかない(笑)」

──音の最終出口となるアンプについては余計大変だろうと推測しますが、最近よくよくお使いのケンパー(Kemper)は、“新しもの好き”魂を揺さぶるツールだったのでは?

「ケンパーはね、やっぱりその、自分の持ってるアンプをプロファイリングできるっていうのが凄く魅力で」

──どういった使い方をしているのでしょうか?

「まずヒュークス(Fuchs)をプロファイルしまして、わりといい感じになりましたね。シミュレーターものはね、クリーン・トーンがどうしてもいまいち納得できなかったりしてたんですが、このプロファイリング・アンプ、ケンパーはクリーン・トーンがわりと使えるなと」

──ご自身のアンプをプロファイリングするということは、アンプを持ち出しづらい時に、ケンパーで代用するという感覚でしょうか?

「いや、レコーディングの時に同じアンプが数セット欲しいことがあるんですよ。つまり、クリーン・トーンでセンターにしておいて、それはもうアンプ直みたいな。で、ディバイダーで信号をケンパーに送って、そちらはコーラスやリバーブをかけたシミュレーション。昔、(ラリー)カールトンさんがやってたじゃないですか。ブギーを置いて、それとマイクで拾った音をPAで広げて出して、みたいな。それがアンプ3台なくてもできるっていう。そんな感じで、新作『スピニング・グローブ』のレコーディングでやってみましたね」

──ケンパーはリリース直後に購入されたのですか?

「即でした、即。迷わない(笑)」

──その熱意には頭が下がります(笑)。最近ご購入されたもので一番印象的なものは何になるんですか?

「やっぱりケンパーかな。それとストライモン(strymon)のリバーブ、ブルースカイはかなり気に入ってますね。これもデジマートで見つけたものだったと思いますよ」

デヴィッド・スピノザが弾いていたレス・ポール・スペシャル

──ウェブ検索の一方で、ツアーの際に地方の楽器店で出会いがある、なんてこともありそうです。

「楽器店にはね、必要の時しか行かないようにしているの。最も危険ゾーンですから(笑)。前にね、修理のため渋谷の某楽器店に修理品を届けに行って、伝票書いてる間に、ちょっと見回しちゃったら気になるエフェクターがあって、“試させて”なんて言って、気づいたら“包んで”ってなっちゃった(笑)」

──エフェクターはキリがありません。今はハンドメイドものが非常に多いじゃないですか。

「いやぁ、多いですね。本当にキリがないでしょうから、なるべく行かないようにしてるんです」

──それは海外でも?

「海外では、先日ワシントンのギターセンターに行ってきました。ま、新しいものはなかったですけど、噂のLINE6のアンプが置いてあった」

──アンプリファイ(AMPLIFi)ですね。

「しかし、ここで試し弾きしたら時間がなくなるとわかっていたので、我慢しました。まだ試してないです」

──そういった横目で見てしまう機材を、今度はぜひデジマート・マガジンの試奏企画でお試しください。さて、今日は“心に残る買いもの”というテーマに対して、ギターを4本お持ちいただきました。

コリングスPRSは今ライブでメインで使ってるものだから、印象に残るというより、よく付き合ってるものって感じで、一番はこのレス・ポールかな」

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Gibson Les Paul Special 1956

 『TO CHI KA』のジャケットにも写る1956年製レス・ポール・スペシャル。“TVイエロー”と呼ばれる鮮やかなイエロー・フィニッシュに、2基のP-90をマウント。ペグはロトマティック・チューナーに、ブリッジはウィルキンソン社製へと交換されている。

──はい、鮮やかなTVイエローのスペシャルですね。

「これは1980年、ニューヨークに行った時に購入したんです。マンハッタンの48丁目の楽器街、小っちゃい店がいっぱいあるところ。当時は毎日行ってたんですけど、そこの一角の楽器屋でたまたま、パッと見たら見たことあるギタリストがぐりぐりギターを弾いてるんですよ。それがデヴィッド・スピノザで」

──ニューヨークの辣腕セッション・ギタリスト、まさに全盛期ですね。

「スピノザが試し弾きしてたのがコイツで。いい感じで弾いててね。あれ、この人テレキャスの人なのに、レス・ポールも弾くんだって。彼は弾き終えると帰っていったんですよ。すぐに僕がそれ弾かせてくれって頼んだら、ダメだって。要するにデッドストックもので、ケースの中の布が転写しているぐらいの感じ。店の人が言うには、デヴィッドだから特別に弾かせたんだけど、君は誰かね?みたいな(笑)。いや、そりゃそうだろと思って。じゃ、これ弾くにはどうすればいいのか?って聞いたら、“キャッシュ”(笑)。ならばと慌ててホテルへ帰りましたよ」

──キャッシュがあるのもすごい話ですが(笑)。

「なかったんですけど、レコード会社の人から手付金を借りてきた(笑)。“これでどうだ! 残りは明日持って来るぞ”ってね」

──豪快ですね。スピノザの試奏の様子、一発で決めたわけですね。

「そう。コレだって思った。それまでレス・ポールは必ずハムバッカーで、その時ニューヨークに持って行ったのもアニバーサリーってタイプのやつ。それは、貸してもらってたんですけどね。その前に自分で持って使ってたのはレス・ポール・カスタムだったり。だからP-90の付いたタイプはまったく自分のイメージになかったんですけど、デヴィッド・スピノザが弾いてるの見て、フルアコみたいな音がしてたわけ。ジャズの曲とか弾いて。コレはいいなと」

──その時点で、もう出会いですね。

「まさに出会いです。コレはもう私のものにしないと、デヴィッドに持っていかれてしまうと思って。数年前にデヴィッド・スピノザが来日した時に、その話をしましたよ。本人は全然覚えてなかったけど。覚えてるわけないよね(笑)」

──その後、このレス・ポール・スペシャルはどういった使い方をされてきたのですか?

「わりと、ジャズのセッションとかで使ってましたね。もう、すぐ現場でバンバン使って」

──80年代当時、まだ市場は成熟していないながら、すでに“ビンテージ・ギター”という括りはあったはずです。

「うん、まだニューヨーク市場も激高になる前だった。だってバースト(レス・ポール)も数本吊るしてあって、(ギブソンES)335なんかも結構あった。あの時期、買っておけば良かったよね。それから数年して行ったら、もうどこにもなくて。“1本もないの?”って聞いたら、“おまえらが全部、日本に持ち帰ったんだ”ってすごい怒られた。なんで僕が怒られなきゃいけないんだって(笑)」

──50年代レス・ポールは、香津美さんにとってはこれが唯一でしょうか?

「そうですね。もう充分」

──バーストは気になりませんか?

「気にしません(笑)。いつだかとある楽器屋さんに行ったら、このスペシャルと同じやつが置いてあって、スペシャルとはいえ結構な値段がついていてね。“あまり旅先とかに持ち出さないほうがいいですよ”なんて言われたので、わかりましたと。最近は手元に置いてますね」

『TO CHI KA』を象徴するアレンビック

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Alembic SSG

 やはり『TO CHI KA』のレコーディングで活躍し、70年代後半〜80年代の渡辺香津美を象徴する1本、アレンビック。ショート・スケールの本器は、ラミネート構造のネック&ボディからなり、多彩なアクティブ・サーキットを持つ。ハムキャンセル・ピックアップやキャノン・コネクターの採用など、まさに個性溢れるモデルだ。

──もう1本のアレンビックは『TO CHI KA』(1980年)のイメージが強いですね。

「アレンビックはね、1970年代後半にスタンリー・クラークのアルバムを聴いて、あのベースの音がユニークじゃない。好きでね。そんな時、1977年だったかな、渋谷のヤマハの楽器店に3本アレンビックが入ってきた。そのうちの1本が今僕が持ってるやつなんだけど、もう1本がロング・スケールのモデルだったかな? よく覚えてないんですけど、ボディが少し大きくて。もう1本は“サンタナが使っているモデル”とか書いてあって。それが250万円。触らせてもらったけど、高いし、ステージで弾くって感じでもない。何せアレンビックは手が届く代物ではないんだけど、やっぱり欲しいと毎日見ていたわけ。それを知った友達がこう教えてくれたんです。“よく見ると、指板の24フレットのあたりに縦に亀裂がある。たぶん乾燥して割れてるんだ。そこを攻めると、ちょっと値引きしてくれるかもしれない」って(笑)。それで早速そのフロア支配人を呼んで“ココ割れてるから、もうちょっと何とかならないのかな?”って」

──香津美さんも値引き交渉をされるんですね!

「いや、そりゃ交渉はしますよ。そしたら、“黒檀なんでまったく音色に影響はございません”って話で、こりゃしまったと(笑)。それで結局、弾かせてもらってる間にどうしても欲しくなっちゃって。それで当時使っていたギターを2本ほど“里子”に出し、入手したというわけ。『LONESOME CAT』(1977年)の時には使ってるから、入手はやはり1977年じゃないかな。買って即ね、レコーディング・セッションしたらエンジニアが集まってきちゃって、“なんだこの音は! どうして録ればいいんだろう?”って。“とにかく直接卓につないでください”とか言って。どうやって音作っていいかわからない。大変な騒ぎですよ。でもそういうのが楽しいわけ」

──今なお現役ですか?

「しばらく使ってなかったんですけど、2010年の東京ジャズで『TO CHI KA』のリユニオンをやって。その時に、やっぱり周りのスタッフから、『TO CHI KA』やるんならアレンビック弾かなきゃみたいなね。それでオーバーホールして。やっぱり独特ですよね」

──ところで、デジマート・マガジンではハイレゾにかかる連載も展開しています。ミュージシャンにとって、“良い音で弾く・録る・聴く”は1セットになっていくと思いますが、かねてより『USB40』(2010年)などハイレゾ作品をリリースされる香津美さんは、この分野の今後・可能性をどのようにとらえていますか?

「最初は“96kHz/24bit”みたいなところから始まって、今だとさらに上のレートでレコーディングができる。もうゾッとしてたわけですよ、こんなものが世の中に出るようになったらプレイヤーは大変だよなと。ノイズ一つまでが明確に出てしまうからね。それが活かせる音楽ジャンルはあると思うんですよ。例えば、アコースティックものは空気感や余韻がまったく違うから、音楽が生まれる瞬間を切り取るっていう部分では、凄いテクノロジーだと思います。この間、U2が全部アンプラクドでやっているのをTVで観て、すごくいいなって思ったの。こういうのをハイレゾで聴くと、より彼らの良さがわかるなって。ブラシのケバの一つ一つまで聴けちゃう感じっていうのは、楽しいでしょうね」

──今後の香津美さんの作品に導入予定は?

「エレキも96kHzがスタンダードになっていくでしょうけど、特にアコースティックものは出していきたいですね」

ネットでも担当の人の顔は見えるんですよ

──話は戻りますが、今は楽器の情報源も豊富ですし、その選り分けもしっかりされていますが、例えば子どもの頃は楽器の情報自体乏しかったはずです。すると楽器店で店員さんとコミュニケーションすることが欠かせなかったのでは?

「いや、ホントそうだね。昔、エレキでベンチャーズなんかをやっていた時に、ヤマハのブルージーンズ・カスタムっていうギターがあって。それを渋谷のマルイってクレジット・デパートさんで10ヵ月月賦で買ったの。それ以前に、いわゆるレコード屋さんみたいなところで、ノーブランドの楽器を買ったりはしてたんですけど、やっぱり憧れはそのヤマハだった。ブルージーンズを買ったんだけど、どうも1フレットがビレたりとかコンディションが思わしくない。ところが当時のマルイは商品として売るだけだから、持っていっても楽器の調整まではわからないじゃないですか。で、ふと見るとそこにヤマハがあるわけですよ。ヤマハで買ったわけじゃないのにどうかな?って思ったけど、一応持っていった。そしたら、フロア長みたいな方がパッと見て“いや、ヤマハの製品だったら責任を持ってやりましょう”って言って。その場でナット交換や、ここは取り替えなきゃいけないんだけど、今はないからって紙を挟んだりして応急手当てをしてくれた。“次回までにパーツを取り寄せておきますから来てください”って。あぁ、やっぱり一流のメーカーは違うなって」

──そういう印象は、大きいですよね。

「自分のメーカーが作った楽器への責任感ね。とりわけその担当の方が親切だったと思うんですけど、大事ですね。ただまぁ、その前から、しょっちゅうその店には遊びに行っていまして。モズライトとか高級ギターがケースに入ってるわけですよ。そして、なぜかコップに水が入って置いてある。あれが当時の湿度調整だったんですね。で、ずっと見てると、“ギターやってるんですか?”“いやぁ、ギター好きで”って。“あれが、憧れなんですよ”なんて話になると“毎日来てるから、弾かせてあげますよ”ってね。弾かせてもらうと、“あぁ……ベンチャーズの音だ”みたいな。で、1時間ぐらいいろいろベンチャーズの曲を弾いたりして“君、ホントにギター好きなんだね”って言われて」

──今は少なくなったシーンですね。

「楽器店員さんとの、なんていうかな、気持ちっていうかね。交流の中からいろいろな発展がありましたよね」

──ネット上での取引ではそういったコミュニケーションが希薄に見えますが、一方でネットでの買いものの魅力とはどういったものでしょうか?

「相手が見えないという点で、お金のやりとりを含め不安もあると思うんですけど、でも最後は人と人なんだよね。だからやっぱり、直接メールを送って楽器のコンディションを尋ねたり、楽器店の人からメールが来てやりとりをする。海外のサイトであっても、スペックを聞いたり、“リペア大丈夫?”“俺はこの道何十年でリペアやってるから任せとけ”とかね。“完璧なコンディションで日本まで送るよ”って。まぁ、3〜4通のメールですけど、そういうやりとりで相手のことがわかる。そして納得したら“ディール!”。その代わり“空輸費まけて”とかやるわけですよ(笑)。それが楽しいわけ。“まけられないけど、Tシャツいるか?”“いや、Tシャツもストラップもいらないから、まけてよ”って感じでね(笑)」

──検索サイトとの距離感・有効活用法などについて、改めて教えて下さい。

「やっぱりね、聞くこと。質問して、それに丁寧に答えてくれる人、人っていうかサイトっていうかね。僕が気に入って買いものするところは、やっぱり担当の顔が見えるんですよ。だからと言って、特別なことはいらない。大事なのは正しい情報とお互い誠意をもって取引するという姿勢。こっちも、“注文”したからにはお金はちゃんと払わなきゃいけないし、向こうもしっかりした商品を届けなければいけない。で、それが届いた後に、“どうですか?”みたいなやりとりが少しでもあったりすると、ちょっと安心できるというかね。ネットの世界って、人間味が希薄になりがちだからこそ、そういう交流が大事なんじゃないかな、これからね」

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プロフィール

ムック『GUITAR MAGAZINE SPECIAL ARTIST SERIES 渡辺 香津美』

渡辺 香津美
1953年、東京都渋谷区生まれ。名実ともに日本が世界に誇るトップ・ジャズ・ギタリスト。17歳でアルバム・デビュー。“驚異の天才ギタリスト出現”と騒がれて以来、常に最先端インストゥルメンタル・ミ ュージックを創造し第一線で活躍。1979年、坂本龍一と結成した伝説のオールスターバンド「KYLIN(キリン)」を皮切りに、YMOのワールド・ツアーへの参加が、KAZUMIの名を世界的なものにする。1980年の記録的な大ヒット作『トチカ』に代表されるジャズ・フュージョン界のアイコンとしてフィールドを牽引。現在はジャズ・フュージョンにおける多様なプロジェクトと並行し、アコースティックを中心としたソロワーク“ギター・ルネッサンス”シリーズでのアルバム・リリース、ライブ・ツアーを行う。最新作は『スピニング・グローブ 』。

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