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  • Dr.Dの機材ラビリンス 第9回

回廊のレスポンス〜新旧パワー・アンプ事情

ギター・アンプ/パワー・アンプ

  • 文:今井靖

ギターからの微弱な信号をパワー・アンプが駆動できるレベルまで増幅するプリ・アンプ。同時に歪み具合、ベース/ミドル/トレブル等のトーン設定、EQなど“音作り”を行うセクションでもある。それを色づけせずスピーカー駆動レベルまで増幅するのがパワー・アンプだ。基本的な認識としては間違っていないのだが、その純粋無垢な増幅装置であるはずのパワー・アンプこそ、ギターのトーンを本質的に決定する重要なセクションであるという認識はお持ちだろうか? アンプに対する愛着・こだわりについては右に出る者はいないと自負するDr.Dは今回、そんなパワー・アンプに徹底的にフォーカスした。“すべて弾く”のポリシーのもと、数十キロもあるパワー・アンプ20数台と格闘し、新旧さまざまな“ギター用パワー・アンプ”の名器を徹底レポートする。

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プロローグ

 エレキ・ギターを弾く「手応え」について考えたことがあるだろうか?

 それは、しばしば他の言葉で言い換えられる。「ニュアンス」だったり、「サチュレーション」だったり、「レスポンス」だったり。使用法こそ違えど、それらは全て、大局的なアンプの“反応性”について語る言葉である。

 一方、そのような言葉とよく混同されて使われがちなのが「キャラクター」という単語である。もちろんそれもアンプの性質を語る上で重要なファクターには違いないのだが、上記の言葉たちとは全く意味するものが異なっている。「キャラクター」とは“音”そのもののことだ。歪んでいるとか、ブライトだとか、サステインがあるだとか……簡単に括ってしまえば、プレイする音楽のジャンルにかかる言葉なのである。ジャズならクリーン、ブルースならクランチ、ロックならオーバードライブ、メタルならディストーション……これらは全て“音”における「キャラクター」の話だ。そして、当然のことながら、「キャラクター」を生むアンプの“反応性”は、ジャンルはおろか機種・個体単位で全く違う。同じジャンルを演奏するにしても演奏可能なアンプの種類は無限にあり、違うジャンルで王道のアンプをあえて他のジャンルで使ったりもするからである。それは、そのアンプの“反応性”における優位をプレイヤーが敏感に感じ取ることによって、“音”よりも優先させることで起こる錯綜である。言わずもがな、その逆も往々にして起こりうる。

 こうして見ると、“音”と“反応性”は全く違うベクトルからアンプを構成していることが良くわかる。断っておくが、これは、何が必要で何が不必要なのかという話ではない。その二つのファクターは互いにバランスしながら、アンプという一つの個性を形成しているという事実こそ肝要なのである。では、その違いを分けているものとは、一体何なのであろうか?  それは、ひとえにそれらが生み出される場所の違いによる。

 大まかな括りとして、ギター・アンプの中では「キャラクター」を生み出す場所のことを『プリ・アンプ』、そして、「手応え」を生む場所のことは『パワー・アンプ』と呼ばれていることを、全てのプレイヤーは知っておくべきであろう。

 『プリ・アンプ』については、エレキ・ギターを演っている人には馴染み深いもののはずだ。ゲイン、EQ(トーン)、ボリューム……自分が出したい音、出したい歪みを目指してコントロールを回したことが一度ならずあるはずである。それが『プリ・アンプ』。

 では、『パワー・アンプ』はどんな機関なのか? そう聞かれて、即答できるプレイヤーはそれほど多くない。オーディオで言う所の“インテグレーテッド”されたヘッド・アンプの機構において、プレイヤーが『パワー・アンプ』部に直接干渉できるコントロールは、チューブ・アンプのスタンバイ・スイッチを除けばフロント部にはまず用意されていないのが普通だ。見えない箇所にあり、外部からコントロールすることもできないのに、なぜ、プレイヤーはその存在を感知できるのか。……それこそが、「手応え」の秘密に迫る鍵である。

 かつて、『パワー・アンプ』はただの信号増幅回路であった。『プリ・アンプ』から送られたライン信号をただ忠実に大きな電力に変え、スピーカーに注ぎ込むだけの機関……それこそが、オーディオ世界の精神から受け継がれた考えをそのまま踏襲した思想であった。優れた『パワー・アンプ』とは、なんの色づけも反応もしない、前段そのままの音を正確無比に伝えることこそが至高とされ、そこを通過することでどこかの帯域が強調されてしまったり、ましてや歪んでしまうなどあってはならないことだったのだ。

 だが、やがてギター・アンプという特殊な環境下において歪みの生み出す世界に理解が広まると、人々はこぞってよりギターらしい良質なドライブを生み出す場所を探し始めたのである。そこに『パワー・アンプ』の存在があった。ギタリストにとって、そこには余計なコントロールなど必要なかった。右手一本……指先から放たれるピッキングのタッチでパワー管の反応を感じることで、微細な人間的表現力を感知する「ニュアンス」や、意図的に強い信号を送りこむことでオーバーロードの獰猛なクリッピングを呼び起こす「サチュレーション」、さらにはダイレクトな音像のロケートをいち早く応用しながら次の音へと引き継ぐ「レスポンス」を感じるには十分だったからだ。そして、それがあったからこそ、それまでただの音を出す機械であったギター・アンプは、いつのまにかプレイヤーに最も寄り添った、とても有機的かつ音楽的にして最も忠実な表現力を持つ相棒へとその役割を変えていったのである。

 『パワー・アンプ』。それが、最もプレイヤーとアンプを、まるで血を通わせるように固く結びつけるセクションであるという認識が広がった今でも、その事実は後世の人々の心を熱くして止まない。それがチューブであるか、トランジスタであるか……そんな差別すらもはや不要である。人がそれぞれの個性を尊重されるように、もっともプレイヤーの反応をダイレクトに受け止めてくれるその機関こそアンプそのものの魂ではないのか。それに対しての議論は、その“反応性”を余す所無く引き出せるようになってから語るのでも決して遅くはないはずだ。

 「キャラクター」はプリ。「手応え」はパワー。

 アンプのリターン端子からでも、かつてラック時代に隆盛を極めた高級なパワー・アンプ単体機からでもよい。その“音”、その“反応性”に今こそ寄り添い、純然たる技量と、表現者としての“手応え”への理解を真摯に問う時が来たのではなかろうか。

 長い年月をかけ、ギター・アンプという唯一無二の発声器官に宿ったこの希有な関係性に、あなたはどう“反応”する?

商品の選定・紹介にあたって

 アンプの物理的性格を決定づける機構、『パワー・アンプ』。オープニングでは便宜上“音”と“反応”という括り“音”作りで大まかに分けてはみたものの、実際に触ってみると、真空管そのものの特性もそうだが、想像以上にパワー・アンプの個性の中には“音”造りに関する要素が含まれていることがわかる。その音質的性質も含めてあらゆる角度からパワー・アンプというものを検証するために今回はより丁寧な検証が必要であった。結局、下記に新旧織り交ぜて羅列してはみたものの、情報自体が少ないラック・ユニットが多い上に、大音量でなければその能力を発揮しづらい機種も多く、かなりの時間をスタジオで検証することとなった(一部は自宅のTorpedoも併用)。こちらで用意したラック・プリはCAE時代のパープル“3+”、Mesa/Boogieの“TRIAXIS 2”をメインとして他数機種、店舗テスト用としてHughes & Kettnerの旧“Tubeman”(黒筐体)とAMTの“SS-11B”という構成。多い時には10種類以上ものプリを同じ『パワー・アンプ』に繋ぎ替える作業を繰り返しながらリサーチを行った。搬入出等を含め、予想以上に大掛かりな作業となり筋肉痛は不可避であったが、かつて無いほどに純粋に『パワー・アンプ』という存在と向き合えたと思うので、その検証結果を参考にしてもらえたら嬉しい。

 ペダル系に関しては、厳密に言えばアンプ・ヘッド(ギター直入力可能)も含むが、中でも、コントロール・セクション(プリ・イコライザー)が最小限でありながらスピーカーを駆動できる筐体で、個性的なものをあえてチョイスしてある。スペースや重量といった新たな縛りの中で輝きを放つ、ペダル型パワー・アンプの可能性にもまた大いに注目して欲しい。最新のペダル型のフル機能ヘッド・アンプの方が気になる方も多いかと思うが、それはまた近いうちに紹介する機会があるだろう。そういったミニ・ヘッドの発展を促す根本となっているマイクロ・パワー・アンプの多様性における進化の過程をまず、このリストから感じ取っていただければ幸いである。

※注:(*)マークがモデル名の後につくものは、レビューをしながらもこのコンテンツの公開時にデジマートに在庫が無くなってしまった商品だ。データ・ベースとして利用する方のためにそのままリスト上に残しておくので、後日、気になった時にリンクをクリックしてもらえば、もしかしたら出品されている可能性もある。気になる人はこまめにチェックしてみよう!

ラック・タイプ(チューブ)


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01 FRYETTE/VHT [2502/2562(Black Beauty)/2902]

 西海岸屈指の高級ハンドメイド・アンプ・メーカーとして今やその地位を不動のものとしたFRYETTE。創始者のスティーブン・フライエットは、元Valley Artsのリペア職人だったという異色の経歴を持つ。そこで出会ったEVHやスティーヴ・ルカサーといった最前線の大物ミュージシャンの声を直接聞く機会に恵まれたことでそのサウンド・センスに磨きをかけ続けた彼が、1989年、後のパワー・アンプ業界を席巻するハイエンド・アンプ・ブランドVHTを創設したのは、ラック・システム全盛という時代的にも、カリフォルニアというシステム・ワークスの一大拠点であった土地柄からも必然であったと言えよう。“2502(Two/Fifty/Two)”及び“2902(Two/Ninety/Two)”は、まだ社名がVHT(FRYETTEという社名は2009年以降)であった1990年代前半に発表されたミドル・クラスのステレオ・パワー・アンプ群。超ハイエンド機としてすでにプロの間で注目を集めていた“2100”や“2150”の巨大すぎるパワーを、あえて汎用性のあるハーフ・パワー(“2502”は片チャンネル50W、“2902”は90W)に制限し、筐体も2Uラック・サイズに納めたコンシューマー筐体としてリリースしたことにより、世界的に爆発的な大ヒットを記録した。EL34をメイン管として採用する“2502”は、ミドルに重心のあるロック・テイストながら、クリアな発色と反応性が圧巻の滑らかな飽和サウンドが魅力の個体。逆に、KT88管を採用する“2902”は、鋭角な透明感と底に溜まった静謐な音圧を持ちつつ、どんな歪みを乗せてもきっちり分離したサウンドを聴かせる万能性を発揮し、ハイファイなサウンドを求めた当時のあらゆるユーザーがそのサウンドを欲した名機である。単体パワー・アンプの選択肢として、誰もが一度はこれらの機体を自らのシステムに採用する事を夢見るほど、その存在は時とともにあらゆるギター・プレイヤーの音作りに欠かせない存在になっていった。(ちなみに、“2502”“2902”において、コントロールがセンターにあるのはニューベリー・パーク工場時代を中心とした初期型で、現行品はオフセット・スタイルになっているので見分けやすい)。また、2000年代になってからは、アカデミックなアメリカン・サウンドをVHTのクリアなトーンで再現したいユーザーからの熱い要望により、6L6ベースの漆黒の個体“2562”も限定生産されている。ただ、残念ながら、すでにラック全盛の時代も去り、VHT時代から社を牽引してきたこれら“2xx2”シリーズも、現在では生産は打ち切り傾向にある。現行品を手に入れられるのはあとわずかな期間だと思われるので、この歴史的サウンドを手に入れたい人には今が最後のチャンスになるかもしれない。
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02 FRYETTE/VHT [2100(Classic)/2150]

 これぞ、まさにキング・オブ・パワー・アンプ。あらゆる歴代単体パワー・アンプの頂点に君臨し、未だその存在を越えるものは無いとさえ言われる、VHT(現FRYETTE)の革命的名機である。これらはまだ、VHTがノース・ハリウッドであのCAE(ブラッドショウ)などと軒を並べて営業していた時代に開発されたもので、本格的なプロ仕様としてオーダー生産されたのが始まり。いわばVHTの初期のエッセンスと理想が全て詰め込まれた最高級機であり、単価も、単体パワー・アンプにして、一線級のブティック・アンプの価格を凌駕するほどの値段であった。しかし、その音はまさに至極。“2100”はEL34を計8本使用する100Wステレオ仕様。広大なレンジを確保し、きめ細かく、しかも究極にラウドなトーンを放つ「壁のごとき」と称される面鳴りサウンドは、本物のアンプだけが持つ音圧による物理的衝撃を完璧に体感させてくれることだろう。一発弾けば、雷のようなブラウン・トーンの中に、無数のきらびやかな輝きが高速で飛び交うのが、ピッキングを通して伝わってくる。その波のように押し寄せる豪華な倍音の渦の中に一瞬にして飲み込まれ、構える間もなく全身の毛が逆立つこと請け合いの強烈なトーンだ。“2150”はKT88の150Wステレオ仕様。VHT製パワー・アンプの中で最初に作られた単体機で、VHTとフライエットの名を世界に知らしめた個体だ。ぎらりとした光沢のあるトーンを絶妙に厚みのあるフィールが包み込み、熱を持たない透明なマグマが常に吹きこぼれているような、実に近代的な音色を持つ。これまた凄まじい音圧で、立ち上がりの早い低音と太い氷柱でいきなり脳天を殴られるようなエッジは、これだけのハイ・パワーであるにも関わらず全く濁りが無い。すでに両機種とも生産終了となっているが、ハイエンドなレコーディング用機材として今でも中古市場で人気が高く、特に“2100”がまだ“Classic”と表記(発売時、すでにその名の商標が登録されていたため、名称変更を余儀なくされた)されていた時代のもの……中でも特別限定で作られたミラー・パネル仕様の筐体は希少で、高値で取引されている。
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03 Mesa/Boogie [20:20/50:50/2:50/Simul 2:90/Recto 2:100]

 ラック型パワー・アンプの世界では、東の横綱VHT(FRYETTE)に対して、従来のアメリカン・トーンである6L6パワー管のサウンドを追求するMesa/Boogieのサウンドこそが、その対比として語られる事も多い。あらゆるシチュエーションでその透明感を維持し突き抜けるような音圧を放つVHTとは違い、Mesaのサウンドとは、まさにダークで腰の据わった重厚な響きが魅力のクラシック・トーンだ。時代がパワー・アンプ単体機に求めた「いかに音を変えないままパワーを増すか」という議論に真っ向から反発するように、その個体を通せば、あらゆるプリ・アンプの音に“Mesaのサウンド”というものが確実に付加されるという特色がある。ぎゅっと濃縮された暗黒の芯を、粘りと弾力を与えた深淵の響きで覆ったように、豪放且つ密度の高い音質を放つ“Mesaのサウンド”……創始者ランドール・スミスの『歪みはパワー部で作るもの』という持論を体現するかのように、それは、伝統の6L6パワー管の音質的特徴を最大限に引き出しながら、ギターの持つピーキーな高域をバランスし、前面への野太い圧力へ変換する作用を確かに持つ。ラインナップも豊富で、センター・クラスの50Wモデルである“50:50”(モデル・チェンジ後“2:50”へ)や、クラスAとクラスAB動作をミックスしたハイ・レスポンスな独自の駆動様式「サイマルクラス」を搭載した“295”、“395”の直系で同社の“Mark”シリーズの音色に最適な“2:90”、さらには、90年代以降のモダン・ドライブの雄となった“Rectifier”のパワー部を再現した“Recto 2:100”などがある。1Uサイズということで6L6ではなくEL84を4本装備した“20/20”(Dyna-Watt)は、V-Twin Rackプリ・アンプとセットの銀パネで登場し、ブラック・パネル変更後もその20Wとは思えぬ恐ろしいパワーで同クラスのMarshall“EL84 20/20”とよく比較されたことでも有名。
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04 Mesa/Boogie [Strategy 400/500]

 ギター用の“Mark”系、“Recto”系とは全く別の道を歩んだMesaのもう一つのパワー・アンプ・ライン、“Strategy”シリーズ。元はベース用のセパレート・パワー部としてリリースされた機体であったが、メタリカなど高名なバンドがツアーのラックに組み込んでいた実績などで一気に有名になり、その圧倒的なヘッド・ルームによるどこまでも透き通った音質を活かし、既存のギター・プリと組み合わせて使用する事が一大ブームになった。“400”は“M-180”、“M-190”の直系機種。ソケット組み替えでEL34管も併用可能で、音色に変化をつけやすく、パワー・アンプ自体の音色をカスタマイズしたいユーザーには好評を得ていた。しかし、後期型として登場した個体ではフロントのコントロール・ノブの一切が排除されていたことで、当時のユーザーから批判を浴び、結果、そのことがこの名機の製造期間を短命にした要因の一つともなったという曰く付きの歴史を持つ筐体でもある。一方、スイッチ・トラック機能(ステレオ2chを、切り替え可能な2トラック・アンプとして使う機構)を搭載する“500”はKT88(6550)と6L6を同時使用し、Mesaの音でありながら押し出しの強いハイ・ミッドを持つモダンなサウンドで、テクニカルなギター・プレイヤーのラックの中で長く採用された。“Strategy”シリーズは全て片チャンネルが200Wという飛び抜けたハイ・パワーのモンスター・アンプ類だが、この同系統には、日本にはほとんど入っていない、バイアス・スイッチでEL34も搭載可能な“Coliseum 300”(本国では「“Triple Rectifier Solo Head”が二発分」というふれこみで発売されていた。Mark IIBなどのパワー部が原型)という個体も存在していたことも併記しておこう。
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05 Marshall [9200、9100、EL34 100/100、EL34 50/50、EL84 20/20]

 英国のアンプ王が、80年代から90年代にかけてのラック闘争に傾倒していた証拠とも言うべき歴史的遺産として語られるMarshallの代表的パワー・アンプ群。その過渡期において、黄金に輝く真空管MIDIプリ・アンプの名機“JMP-1”とのつがいとして市場に投入された機体が“9200”と“9100”だ。Marshallのパワー管と言えばKT66やEL34といった印象が強いが、90年代当時のMarshallがアメリカへの輸出個体に力を入れていた証拠に、これらも他の米国輸出仕様のヘッドと同じく6L6管で構成されていた。一見Marshallらしくない重心の低いトーンに思われがちだが、上手くロー・エンドの立体感と同社独特のほとばしるようなエッジが共存した気持ちよいチューニングになっているのはさすがの一言。完全モノ・ブロック構造(ステレオでありながら、電源スイッチも全て左右単体の独立駆動。モノ・パワー x 2という使い方が可能)で3Uスペースという機構もあわせ、MesaでもVHTでもないこの第三のサウンドは、意外なほどすんなりと当時のL.Aミュージシャンに受け入れられた。しかし、創業以来、常にMarshallを悩ませ続けた管の供給問題がここでも発生し、ラインナップは、同じシャシーを持つ“EL34”シリーズ(増幅部にEL34管を使用)ヘと引き継がれ、Marshallは計らずも伝統的ブリティッシュ・トーンへの回帰を果たすこととなる。同社のトーンと言えば、あの飽和したハイ・ミッドのきらびやかなドライブ・サウンドを思い浮かべる方も多いかと思うが、この(初代Series 9000……すなわちブラック・パネル“9005”直系のサウンドを備えた)“EL34”パワー・アンプでは、単体機として成立するために大きなヘッド・ルームを備えるが故にヘッドほどのダイレクト感はない。ただし、逆にアンプでは再現できなかった、クリアで余裕のあるアタックから生まれる細やかな表現力を擁しており、独特のハイファイな音質と、やはりマーシャル譲りの歪みと合わせたときのエッジの立ち上がりの良さを併せ持った個体として、今でも人気が高い。意外にもロングセラーとなっていた“EL34”シリーズであるが、近年では生産は打ち切られる方向にあり、新品はもうほぼ作られないと言っても差し支えないだろう。気になる方は、最後の在庫があるうちにキープしておく事をお勧めしたい。一方、“EL84 20/20”は、初代9000系のブラック・パネル時代からある(後に他のラック・ラインナップに合わせて金色に塗られた)ロー・パワーながら1Uのチューブ・アンプということで地道に市場を拡大していた個体で、低音がすっきりとしており、音圧こそ無いものの、エッジのきいた軽快なトーンは特にシングルコイルのリアとの相性が良い事で知られる。余談ではあるが、Marshallの1U個体には他にも完全ソリッド・ステートの“Valvestate 8008/8004”などもあり、これらは当時のMarshallを取り巻く技術迷走の痕跡が垣間みられる歴史的にも意義深い個体たちである、ということだけは合わせて申し述べておこう。
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06 ENGL [E850/100、E840/50]

 ヨーロピアン・ハイ・ゲインの雄ENGL謹製の、高級パワー・アンプ“E850/100”。心臓部に6L6をフルに搭載した100Wクラスの単体パワー・アンプは現代ではもはや希少だが、サウンドに定評のある大手ではMesa/Boogie以外ではこのENGLが最右翼と言って良い。そのサウンドは「質実剛健」という言葉がしっくりくる。発色もスピードもVHTのような派手さこそ感じないが、一音一音が、鈍く光る塊として内臓を突き上げてくる……実に堂々たる存在感と質量を維持している。しかも、単純な“音圧”ではない、通常は拡散してしまう音の輪郭をそのまますくい上げ、それを圧縮して投げつけてくるようなコントロール不能な粗暴さを兼ね備えているのがまた良い。結局は、そのバランスが絶妙であるがゆえに、実に豪奢でワイルドな音質を持つに至っているという、ハイ・センスな逸品だ。一言でモダンと呼ぶにはもったいない逸品である。闊達で懐の深いサウンドを求めたいなら、手にする価値は十分にある。当然、同社のプリである“E530”や“E570”“E580”などとは相性が良いが、ハイファイなアメリカン・プリであるBogner“Fish”やCAA“3+SE”などと組み合わせても上手くラウドなトーンに仕上げてくれる数少ないパワー・アンプだ。機構的にも、レベル、サウンド・セット(プレゼンス、デプス)をA/Bパターンで外部から切り替え可能なのは実に使いやすい仕様だ。なお50WのE840/50は、現在では受注生産となっているので、注意しよう。
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07 Rocktron [Velocity Valve]

 ラック・ユニット全般に幅広いラインナップを持つRocktron社のパワー・アンプ・ライン“Velocity”シリーズの中で、唯一リアル・チューブにより構成されたパワー・セクションを持つ個体がこの“Velocity Valve”である。稀代のアンプ・デザイナーであるブルース・イグネーター(現Egnater代表)がまだRocktron在籍時にデザインした80W+80Wのステレオ・パワー・アンプで、6L6GC管をメインに2U筐体という仕様を持つ。さすがは後に“アンプ・グル”と称されるほどの凄腕ビルダーの作だけあって、6L6ベースながら実にすっきりしたミドルと、パワフルだがしっかりと引き締まったロー・エンドが上手く融合した、素直に「良い音」と評す事のできる音質を持つ。あくまでプリの受け皿として前段の歪みを決して邪魔する事の無いシルキーなサチュレーションを持ち、ブライトになりすぎず、心地よい音圧のみをシンプルに引き出す……アンプというものの特性を知り尽くしたイグネーターならではの高品質なサウンドに、今でもそのファンは多い。後に自身のブランドを立ち上げた彼が、結局“M4”等のEgnater製プリに合うような自社製パワー・アンプの開発をしなかったのも、この“Velocity Valve”の完成度があまりにも高かったが故ではないか、という噂がたったほどである。今のEgnaterサウンドに繋がるハイ・クオリティな「本物」のヴァルブ・トーン……VHTの完璧な音質から一歩抜け出したいラック・マニアの方には是非一度は試して欲しい。
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08 Randall [RT 2/50]*

 獰猛なモダン・ハイ・ゲインで定評のあるRandall製の、単体ラック型パワー・アンプ。1chにEL34、2chに6L6という、左右全く違うレイアウトを持つ異色の個体で、左右音色の異なるバイ・パワー音源として使う事はもちろん、搭載されたMIDIにより、チャンネルを切り替えながらパワー管の異なる2段アンプとして使っていく事ができるという優れもの。音質適性や細かなニュアンス区分がなされる昨今において、プリ・アンプの音作りだけではライブに対応しきれないというユーザーにとっては、最も進んだ仕様と言える。ブランド・イメージからモダンな音質かと思いきや、左右とも意外にもまろやかというか暖かみのあるサウンドが印象的だった。中域に押し出しのある重心が備わっている上に適度にローファイ感もあり、これはこれでモダンなドライブだけでなく、クラシックなクランチが良く栄える音色だ。“RM4”(EgnaterデザインのRandall製ラック・プリ)など、多彩な音色を操るチューブ・プリに積極的に使ってジャンルを問わず音を作ってみたい、そんな気にさせる逸品である。
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09 RIVERA [TBR-3/TBR-5]*

 元Fenderのアンプ・デザイナーで、名機“Super Champ”などを設計したポール・リベラが立ち上げたブランド。RIVERA社設立以降は80年代、90年代を中心に米国を代表するラック・システム・ビルダーとして名を馳せた彼が、スタンドアローンなパワー・ユニットとして世に送り出したのが、この“TBR-3”と“TBR-5”である。EL34管を4本搭載し60W x 2で駆動する“TBR-3”(HAMMER 120)と、6550(KT88)管を8本装備した120W x 2の“TBR-5”(HAMMER 320)……それぞれ、RIVERA製ラック・アンプ“TBR-1”、“TBR-2”のパワー・アンプ部を単体で製品化したもので、同社製アンプお得意の、あの煮詰めたようなグログロと沸き上がるダークな音色は健在。全体的には、一見、立ち上がりの鈍いもっさりとしたトーンのようにも思えるが、実は、このパワー・アンプには出力を6以上に上げなければ気付かない、硝子のように繊細な切れ味のドライブが埋もれている。大音量の中で、銀星のように音の表面を滑り落ちる倍音のまばゆいばかりの輝きは、このアンプだけが持つ至極のサウンドである。住宅事情の厳しい日本ではなかなかそのトーンに気付く人も少ないが、ぜひ大きな音の出せる環境において、クリーンの上質なプリ・アンプと組み合わせて音を出して欲しい。
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10 Soldano [SLS-105]

 理想のリード・トーンと呼ばれたSoldanoのドライブを手軽に得られるとして80年代後半からL.Aのスタジオ・ミュージシャンの間で大流行した“X88R”プリ・アンプ……その廉価版としてコンシュマー向けに発売された“SP-77”シリーズの二代目、“SP-77 SERIES II”のプリ(銀パネ)とセットで販売されたのが、この“SLS-105”(Super Lead Slave 105の略)パワー・アンプだ。通常ラインとしてマイク・ソルダーノがデザインした唯一のステレオ・パワー・アンプで、5881管(6L6GC)ベースの50W+50W。暖かみのある飽和感が全面に出てくるローファイでクラシカルな音色だが、基本的な反応は良く、高音にざらついたエッジがあるため歪みでももたつく感じが一切ないのは好感が持てる。ただ、中途半端な音量ではハイ・ミッドが潰れがちで、せっかくの伸びのある高域が活かしきれないので、これもやはり大音量で使う事をお勧めしたい。一定音量を超えたときのバリバリと空間を引き裂くような攻撃的な鳴りを味わうためには、できる事ならばこのパワー・アンプのレベルは最大に固定し、プリ側のマスターで出音の量を調整したい。……ちなみに、日本に入ってきた正規の個体は少ないとされる希少な“SLS-105”だが、Soldanoには、更に珍しい“SM-100R”という4Uモノラル・パワーの単独パワー・アンプも存在する。これはパープルの“SLO-100R”ヘッド・アンプのパワー・セクションを抜き出した個体で、ピート・コーニッシュが手がけた故ルー・リードのシステムなど限られた記録にこそ見られるが、現存数の少なさから世界でも幻の個体とも言われる知る人ぞ知る名機だ。
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11 Groove Tubes [Dual 75]*

 南カリフォルニアで創業し国内外で実績を上げ続けている前衛的真空管ブランドが作った、ギター用高品質パワー・アンプ。内部配線以外のトランスや真空管部分の多くがカバーされていない自然放熱のそのレイアウトは、まるでハイエンドなオーディオ・アンプを思わせる。世界屈指のギター・プリの名機と言われた“Trio”の後段に控えるデバイスとして生み出されたこの個体は、他のどのメーカーにも成し得ないほど「素直」な音色を持っているのが特徴。ただ愚直に、真空管の性能のみを100%発揮するように設計されたその響きには、メーカーやビルダーの余計な解釈は一切入り込む余地などないことが一聴してわかるほどに、クリーンからドライブまであらゆるトーンに対してデリケートかつ自然に飽和感が追従してくる。しかも、それでいて、オーディオのように無機質に音量を上げるようなことはなく、ギターで欲しい音域と歪みをきちんと押し上げる事のできるビビッドな反応性も堅持している。決して目立つ派手さは無いが、ギター用パワー・アンプの新しい解釈をもたらした個体として、現在でも所有オーナーが気に入って手放さないことでも有名で、滅多に市場には出てこない。使用管はチャンネルごとに6L6、EL34、KT88(6550)のマッチド・ペアを好みで差し替え可能で、Groove Tubes印の管であれば当然バイアス調整も不要だ。最大75W+75W(管によって最大値は異なる)のステレオ仕様。
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12 Peavey [Classic 50/50]*

 サウンド・イクイップメントの総合メーカーとして全米にシェアを持つPeaveyが開発したパワー・アンプで、元はPA用として供給されていたものをギター用に応用したのがこのシリーズの始まりと言われている。“Classic 50/50”は、6L6系アメリカン・サウンドとして一世風靡したClassic Series“120/120”や“60/60”のEL84版で、パワー・チューブを8本も載せて駆動する事で、モノ100W出力にも達するという少し珍しい仕様だ。元々ロー・パワーなEL84でヘッド・ルームに余裕を持たせて作られる音色は、歪みやコンプが少なく、ギターだけでなく、ボーカルやキーボードも再生可能な汎用性の高さを誇る。ギター・アンプとして使うには一見、抑揚の無いのっぺりとした音色にも感じられる“Classic 50/50”の音だが、実はエフェクターの歪みと良くマッチする事でも知られ、パワー・アンプに余計な音質変化を好まないユーザー層に熱狂的な人気を博した。VHTのようにきらびやかな音色とは対照的だが、静かな湖の底に分厚い布を敷き詰めたような不思議な統一感のある音色がクセになる逸品だ。
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13 TUBE WORKS [RT-4250]

 石タイプのパワー・アンプの中ではRocktronと並んで二大巨頭と呼ばれ、MOSFET(電界効果トランジスタの一種で、外部電圧により電流の流れをスイッチする半導体素子)によるソリッド・ステート・ユニット“Mos Valve”シリーズ(“MV-962”等)でその名を知られるTUBE WORKS社が逆説的に世に放った、正真正銘のチューブ・パワー・アンプ“RT-4250”。かなり出音にクセがあり、プリ・アンプで極端にドンシャリに追い込んでも、ミドルのかしゃかしゃとした耳障りな擦過音ばかりを強調してしまう上、今ひとつロー・エンドの抜けも悪い。ただ、6L6GC x 4という真空管の特徴を良く理解した上で、最初からあえてピークをロー・ミッドに合わせ、テレキャスやストラトのような硬質でピーキーなサウンドで強めに鳴らすと、ピリっとした発色の良い倍音がキラキラしたドライブに溶けて真っ直ぐに返ってくるようになる。なるほど、“Tweed-Twin”とまでは言い過ぎかもしれないが、Fenderライクと言われるサウンドの要素はこの辺りに象徴されているようだ。ただ、その性質を理解していてもスイート・スポットは非常に狭く、そのままではあまり抜けの良い音質は得られないので、使用の際にはこのアンプの“GAIN”は押さえたまま、ブースターやイコライザーで3kHzあたりをピークにしたハイあがりの傾斜を描いてやると、よりスカッと抜けてくるだろう。
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14 Carvin [TS100]*

 創立65周年を迎え、MADE IN USAを掲げるサンディエゴ工場も順調な総合楽器メーカーCarvinの、ハイ・コスト・パフォーマンスなラック式パワー・アンプ。EL34管を4本使用し、ステレオ50W+50W、ブリッジ接続ではモノラル100Wで駆動可能。さらに、チャンネルごとにインピーダンスを変更できるなど使い勝手に優れるにもかかわらず、ハイエンドなトップ・メーカーの同列機種と比べて1/4以下の値段という圧倒的な低価格を実現する。音質も驚くほど本格的で、クリアで分厚い鳴りと真空管特有の粘りのあるドライブをしっかり兼ね備え、高級機種に比べてややダイナミック・レンジが狭く感じることと真空管の消耗が早い気がすること以外は、特に音質的に遜色は感じない。むしろ、あまりキンキンした音色や底を打つような重低音を再生しない限りは、かなり上質なレスポンスが期待できる。音色的にメーカーを差別できるほどの際立った個性が無いと言えばそれまでだが、むしろその平坦な音質が近年の高品位なモデリング・プリなどにはマッチしているらしく、POD使いをはじめとした多くのユーザーに支持されている。
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15 Koch [ATR-4502]

 1U筐体のボディに、ステレオ45W+45W、モノ・ブリッジ90Wのハイ・パワー出力を搭載した、Kochの現行機種“ATR-4502”。同社のATR(Authentic Tube Response)テクノロジーにより、たった二本の12AX7管から生み出される増幅系のサチュレーションは、まさに、パワー管を実装した過去の高級機種に勝るとも劣らぬ凄まじいレスポンスを持つ。地底から突き上げるようなベタな音圧こそ無いものの、音量を上げていった時にハイに沸き上がるチリチリとした倍音のゆらめきや、中域全体に立体的に盛り上がる熱と飽和のエネルギーはまさに本物のパワー管を彷彿とさせる。昔あったADAの“Microtube”シリーズのようなプリ・チューブによる音質補佐的なパワー増幅とはほど遠い、本物のアンプの手応えがはっきりと感じられた。また、ハイファイなデジタル音源に対しての解像度も実に高い。唯一、ピッキングの入れ方によってややロー側の立ち上がりにクセが感じられはしたが、これもちょっと慣れればすぐに気持ちよく音を出せるようになったので問題無し。さすがはFRACTAL AUDIO SYSTEMSの“AXE-FXII”の様なハイエンドなモデリング・デバイスにも推奨されるだけのことはある。最新鋭のデジタル・プリだけでなく、古い高級チューブ・ラック・プリを眠らせているプレイヤーにも是非試してもらいたい逸品だ。7kgという軽さ、そしてパワー管が不要ながらトランジスタ音質ではないというメンテナンス・フリーな本格的チューブ・サウンドに、確実に時代の進化を感じることだろう。
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ラック・タイプ(ソリッド・ステート)


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16 MATRIX AMPLIFICATION [GT800FX/GT1000FX/GT1600FX/GT1500FX-BD]

 MATRIXとは、英国はモンマスに拠点を置く、ソリッド・タイプのギター・アンプや汎用性の高い物理アンプ・モジュールを制作する新鋭ブランドだ。その軽さとパワーから来る使い勝手の良さは、30年も前に起こったトランジスタ・アンプ・ブームを再燃させるかのように瞬く間に世界に浸透し、今や、その銘とともにギター業界における現代ソリッド・ステート・アンプの代表機とも称される。ステレオで各チャンネル500Wものパワーを絞り出す1Uタイプがたったの4kgという重量であれば、高度なデジタル・マルチ・プリと合わせても10kg以下のパーフェクト・システムを組むことが可能になるだけでなく、運搬によるリスクやメンテナンスの面からも、既存のパワー管を内包するタイプのアンプとは運用面においてかけ離れたアドバンテージを享受できることだろう。音は、真空管パワー・アンプに慣れた人ならばそのあまりにも粘りの無い音色に最初は戸惑うかもしれない。しかし、“AXE-FX II”や“POD”と合わせてみると、どうしてもわざとらしく聴こえてしまう最終段階の“キレイすぎる”増幅をうまく背景に溶けさせて目立たなくさせる効果を持っていることがわかる。余計なコンプレッションや抑揚をただ機械的に排しただけでなく、弾力のある皮膜のように幾重にも重なりながら“呼び戻すような”その音質が、プリ・アンプのサウンドを立体的に再現する胆になっているようだ。メイン・ラインの“GT1000FX”には2Uと1Uタイプがラインナップされているが, 機能的にはほとんど違いは無く、2Uタイプはファンが大型化しており静粛性が高いのが特徴なので、物理的スペースと騒音の折り合いで選択すると良い。他にも、ロー・パワー・モデルの“GT800FX”やP.Aアンプ並みの最大1600W出力を誇る“GT1600FX”、さらには、3ch出力を1Uに納めた“GT1500FX-BD”など豊富な選択肢があるのでシステムの拡張性を考えて導入することはもちろんだが、故障の無いサブ・システムの音源としてキープしておくのにも最適ということを付け加えておこう。
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17 Rocktron [Velocity100 LTD/100/300]

 軽量且つヘビーデューティーな仕様のRocktronのソリッド・ステート・パワー・アンプ“Velocity”シリーズ(Velocity Valveを除く)は、90年代のコンシュマー向けシステムで人気の高かったラック・デバイスの一つだ。現在は1Uタイプのラインナップを残すのみとなったが、全盛期には、ベース用としても用いられた“Velocity 500”、独特の突き抜けるような重低音と歯切れの良い音質により名機と称される2U版“Velocity 300”、クリア且つ高出力の“Velocity 150”など、豊富なラインナップで市場を賑わせていた。今は、それら歴史的Roctronサウンドを引き継ぎつつ現代的にチューニングされた“Velocity 100”や1Uスタイルの“Velocity 300”に加え、Egnater一派から招請を受けた凄腕アンプ・ビルダー、フランク・ラマラによってデザインされた“Velocity 100 LTD”の攻撃的なエッジ・ワークと噛み付くようなミドルの迫力が、新世代のロック・スタイルのシンボルとなるべく業界に新風を巻き起こしている。どんなにハイファイな現代的トランジスタ・アンプが出てこようとも、『ザ・ギター・アンプ』たる地位においてRocktronというブランドがソリッド・ステートの金字塔であることに疑う余地はない。
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18 Lee Jackson [SP-1000]

 Marshallのモディファイや“Metaltronix”といったハイゲイン・ソリューションで一時代を築いたLee Jacksonブランド製、ハイ・パワー1Uスタイルのソリッド・ステート・パワー・アンプ。出力は100W+100Wで、突出した歪みも上手く受け止めるようにレンジの広いチューニングになっている。全体のコンプ感は強く、アタックは簡単に頭が揃う分、きっちり弾かなければピッキング・ニュアンスが出しにくいといった印象だ。単体としての音像はむしろクリーンで身が詰まっており、ハイファイな音質を好む本来のラック・ユーザーには好ましい音かもしれない。だがそれ故に、意外にもロック系の音色と折り合いが悪く、少しスイート・スポットを外しただけでモヤがかかったようにブレた音像になることから、扱いの難しいパワー・アンプとして知られている。しかし、ツボにはまった時の面のパワーは強烈で、マッチョな押し出しと滑らかな光沢が上手くバランスした素晴らしいドライブを放つ。音作りに自信があり、100Wをフルで鳴らせる環境があるプレイヤーには、現代でも十分お勧めできるクオリティであると言っても良いだろう。
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ペダル・サイズ


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19 iSP Technologies [STEALTH]

 本格的な高出力ギター用パワー・アンプ単体機として、ペダル・ボードに搭載可能なサイズを実現した、今、業界が最も注目する新世代のパワー・アンプ・デバイス“STEALTH”。駆動方式はクラスD(いわゆるパルス信号を使うデジタル・アンプ)だが、iSP独自の「D-CAT(Dynamic Current Amplifier Technology)」により電源効率を最大限に高めることにより、わずか19VDCという入力電源でも、まるでクラスH並みのパワー効率を実現する。その恩恵は想像以上で、既存のコンパクト・パワー・アンプとは比べものにならないダイレクトな手応えと、空間を震わす分厚い音圧をはっきりと感じることができる。ピッキングの音が予想以上に生々しく、アタックの密度が濃く感じるのは、ロスの少ない駆動方式の恩恵による所が大きく、レンジも奥行きがある。チューブ・ライクなサチュレーションこそ希薄だが、それを補って有り余る整合されたクリッピング・キャラクターとロー・ノイズが生み出す透明感のある音質が素晴らしい。歪ませれば、ドライブはより細かくはっきりと分離し、各帯域の発声がまるで襞のように整頓されるのは圧巻。しかも、行儀が良いだけでなく、適度に音楽的なグルーブを生む有機的な反応が付加されているのもありがたい。このアイテムをして、本格的な新世代パワー・アンプの革命が始まったと言っても過言ではない。出力はモノ8Ωで最大の175W(ステレオで各チャンネル4Ω90W)を誇る。重量も544gという超軽量。サイズ的にもエフェクター2つ分ほどの容量しかとらないので、ボード完結型のシステムを目論むユーザーには今後最強のパートナーの一つとなることだろう。
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20 AMT Electronics [TC-1/TC-3]*

 真空管駆動の初代“SS”シリーズやJFETによる“SS-30”など、数々の高機能プリ・アンプや歪みデバイスで知られるロシアの前衛的エフェクター・メーカーAMT Electronics。常に画期的な着想を発揮し世間のニーズを的確に製品化する彼らのラインナップに加わったのは、“Tube Cake”シリーズと銘打たれたリアルにエフェクター・サイズのミニ・パワー・アンプ群だった。“TC-1”は1.5W、“TC-3”は3Wという簡易出力には違いないが、その音質はかなり本格的。まず、しっかりとローが出る。4 x 12インチ・スピーカー・キャビネットもきっちり鳴らしきる馬力があり、これだけ小さいにも関わらず反応性もまずまずだ。確かに、真空管パワー・アンプで見られるような、音量を上げていった時の高域の熱を帯びた倍音の飽和こそ皆無だが、こと「音を出す」ということに関しては、クリッピングの色調も多彩で十分にその能力を備えていると評価できる。高域をまとめる「PRESENCE」と、ロー・エンドの反応を制御する「DEPTH(RESONANCE)」もしっかり追従するので、使い勝手も上々だ。
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21 Electro-Harmonix [44 MAGNUM/22 CALIBER]

 老舗エレハモが贈る、銃の名前を持つエフェクター・サイズの最後段増幅ユニット2機種。“44 MAGNUM”は8〜16Ω対応の44W、“22 CALIBER”は4〜16Ω対応の22Wという出力構成。表には「POWER AMP」と表記されているが、入力がハイ・インピーダンス(2MΩ)なのでギター直入力も可能……ということで、どうやらこれらはアンプ・ヘッドという認識が正しいようだ。音はエレハモらしいと言えばそれまでだが、どこかレトロな雰囲気の漂うモコモコとした基本の出音が魅力。ただし、音量を上げればきちっとエッジが出てくるし、スイッチを「Bright」側へ入れれば、かなりジャキっとした金属質な音に変化する。同クラスの出力を持つ真空管アンプと比べるとさすがに音量や音圧では見劣りするものの、小ステージでも十分使えるだけのポテンシャルを秘めた、本格的ペダル・ボード・アンプの先駆者と言える存在だ。ただし、駆動電力が“22 CALIBER”では18VDC/1.5A、“44 MAGNUM”に至っては24VDC/2.0Aという途方も無い浪費家なので、まず通常の簡易パワー・サプライ等では電源を補えず、専用アダプターが必須である点だけは申し述べておこう。
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22 Lovepedal [Cannibal 1/2 watt amp]*

 世界でも珍しい、たった二つの9V電池で駆動する正真正銘のギター用パワー・アンプ。小さめのコンパクト・エフェクター並みの筐体で、外部電源が不要……こんなでたらめな構造を考えたのは、あの奇才ショーン・デニガン意外では納得がいかない。スピーカーに繋げば0.5Wという非力ながら、100W入力以下の1発キャビであればしっかり鳴らしきるだけのパワーがあり、恐ろしいことにそこにはきちんと飽和した反応さえある。さらに、チクチクしたハイ側の倍音もそれなりに感じられるから脅威だ。低域の厚みに関してはそれなりだが、それでもこの音が9V電池のみで増幅されたサウンドとは誰も思わないであろう。電池の減りはさすがに早く感じたものの、減衰していく途中の音質が絶妙に枯れた雰囲気を残していて、これがまた上質。ちょっとしたお遊び気分を完全に越えるそのサウンドに、こちらが試されている気分になる……そんな本格派パワー・アンプだ。
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エピローグ

 今回は『パワー・アンプ』という、あまり前例ない括りで進めてみたが……改めて、その現存する機種数の多さに驚いた。掲載数の関係で載せられなかったが、リサーチ中には、他にもADAの“Microtube”他ソリッド・ステート系、Brunettiの“Rockit”、Hafler“G”シリーズ、さらには、あまり日本では見かけないDemeter、Stevens、Exefなどの珍しいパワー・アンプにも出会う事ができたことは収穫だった。また、今回は趣旨に外れるので掲載は見送ったが、ペダル・サイズのヘッドでもかなりハイ・パワーなスピーカー・アウトを持つ製品がちらほら出てきており、昔ながらの単体パワー・アンプの地位を脅かすような製品が目を引いたのも事実だ(これらは、またいずれまとまった企画として紹介したい)。それだけ、あらゆる方面での『パワー・アンプ』の重要性が人々に認識されているが故に、その種類も豊富なのだろう。

 また、検証しながら何度か思ったのだが、メーカーによってパワー・アンプに対する奇妙なこだわり方のようなものがぼんやりと浮き彫りになった点が、個人的には面白かった。具体的に言うと、MarshallやMesaのようにアンプも優れたものを出していながら、あえてラック単体のパワー・アンプも作っているメーカーがあるかと思えば、FenderやVOXのような老舗でもパワー・アンプどころかラックそのものにもほとんど手を出していない大手メーカーが存在することなどが上げられる。また、そうかと思えばハイ・エンドなプリ・アンプを作り、自社アンプではしっかりとしたパワー部を作る技術を持っているはずのCAEやBOGNERといったブランドが単体パワー・アンプを一切リリースしていなかったり、さらには、最もラック的機能分割に興味のありそうなドイツ勢のDiezelやHughes & Kettner、イギリスのBlackstarなどがそのリリースをあえてしないのも不自然と言えば不自然だ。もちろん時勢的なものもあるだろうし、メーカーの生産規模や主力アイテムとの関連もあるのだろうが、「作らないメーカー」が、単純に「作れないメーカー」でないことだけはわかる。こういった視点で、いつか各メーカーにその理由を深く取材してみたくなった。その時には、当然のように各メーカーの現行アンプや過去の名機のパワー・アンプ部だけの音色を比べながらやりたいものである。

 個人的には、ギター用でピュア・クラスA真空管駆動のシングル・エンド単体パワー・アンプなんかが発売されてくれれば、すぐにでも買っていろんな名機プリと組み合わせてみたい……などと思ったりもした。過去のラインナップを見てもクラスABばかりが多すぎる気がするのだが。もはやラック全盛時代ではないのはわかるが、もっとパワー・アンプによる個性創出の選択肢を増やせるよう、メーカーには頑張って欲しいものだ。……などといいつつ、結局は自分で作ってしまいそうなのが本当に恐ろしい今日この頃であった。

 それでは、次回(11月5日/水曜日)の『Dr.Dの機材ラビリンス』もお楽しみに。

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製品情報

ギター・アンプ/パワー・アンプ

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プロフィール

今井 靖(いまい・やすし)
フリーライター。数々のスタジオや楽器店での勤務を経て、フロリダへ単身レコーディング・エンジニア修行を敢行。帰国後、ギター・システムの製作請負やスタジオ・プランナーとして従事する一方、自ら立ち上げた海外向けインディーズ・レーベルの代表に就任。上京後は、現場で培った楽器、機材全般の知識を生かして、プロ音楽ライターとして独立。徹底した現場主義、実践主義に基づいて書かれる文章の説得力は高い評価を受けている。

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