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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第10回

月齢伐採材“ムーンウッド”の神秘なメカニズム

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)

ここ最近、お月さんにまつわるニュース多くありませんか? 大きくなったり、消えたり、はたまた百何年に一度の瞬間だとか……。人類にとって最も身近(とはいえ384,400km彼方)な存在である月はどうしても気になる星です。今回、2回目となるムーンウッド特集では国内の研究者やルシアーとも連携し、その神秘に満ち溢れた魅力をさらに掘り下げてみました。秋の夜長、まさに“ムーンにフィット”な内容でお届けします。

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おさらいムーン

ムーン印。

 前回の特集では主にヨーロッパのスプルースについてご紹介しました。トーンウッドとして最も重要なパーツに使用される材だけあって、それが月齢を見極めながら伐採され、天然状態で丹念に養生、乾燥し、極限られた数量のみ市場に供給されるていることに萌えた方は筆者だけではないと思います。しかしながら、特定伐採時期がもたらす優位性についてのメカニズム解明にはほど遠く、未だ否定的な意見を持つ方が少なからずいらっしゃることもお伝えしました。

 さらに調査を進めますと、チロル地方のフレンチホルンには必ずムーンウッドが使われていたり、17世紀のフランスでは木を伐採する日を定めた法律が存在したとか、日本最古の建築書と伝承される江戸時代前期の幕府棟梁、平政隆の手による「愚子(ぐし)見記」にも竹の伐採時期を「竹八月の闇に伐りて吉」などという記述が存在するなど、各地で昔から木の伐採時期に関する風習、伝承が残っていることが次々に分かってきました。何百年の間、神秘に包まれた月齢伐採の魅力を少しでも解明できないものでしょうか……。今回はそのあたりのモヤモヤを少しでも払拭したく、国内で月齢と木材の伐採時期について学術的に研究され、データ収集され、さらに実際にその木を伐採、使用している方を訪ねてみました。

家庭教師クオリティ。

ハンド・スプリットに限ります。

どや顔立木。

木暮人(こぐれびと)と会う

 山梨県北杜市でログハウスを中心とした設計・施工・管理を行なっておられる有限会社アシスト・畠中社長がその人です。氏は約25年前に当地に移住されたそうで、それまでは空港ターミナルなどの大物設計に従事していたそうです。しかし、体調を崩されたため第二の人生を自然に恵まれた環境で農業をしながら暮らしたいと移住を決意されました。ところがひょんなことから、建築の仕事を続けることに。その仕事の中で出会ったのが、季節や月の満ち欠けを見極めながら木材を伐採するという方法、つまり月齢伐採材でした。同時にこの伐採方法推奨の第一人者、エルヴィン・トーマ氏の講演を聞く機会に接し、月と地球、そして立木との深い関連性を確信されたと熱く語られました。氏は材料として木をやみくもに消費するのではなく、自然が育んだ命を頂戴する気持ちで日々建築に携わっているそうです。すでに、この月齢伐採材を使って立てたログハウスが何軒もあるということで、早速その中のいくつかをお宅訪問しました。

オール・ムーン天竜杉!

 現地に向かう途中からすでに渡辺某のあの探訪番組か、S上忍の別荘購入企画モードに突入してしまった筆者でしたが、その過分に高揚したテンションは、外観を拝見し、中に一歩足を踏み入れた瞬間に平常時脈拍よりさらに25%以上安定してしまいました。柱や梁(はり)だけでなく、壁、床、階段、調度品までそのほとんどに、この月齢伐採材が使われており、その空間が持つ気(木)配がそうさせたからに違いありません。使われている材は静岡県の天竜杉。国産杉の中でも色白で、艶やかな質感は銘木の誉れ高い逸材です。しかしながら、天竜杉=月齢伐採というわけではなく、地区の中でも信頼できる業者からだけの供給にこだわっているとのことでした。その木は一本一本伐採直後から電子データでその履歴を管理されており、記録されています。バーコードを読み取るだけで生産者、生産地、GPS測定された伐採現場の経度・緯度・高度、乾燥情報、もちろん伐採日やそれを伐った人もすぐに誰でも分かる仕組みです。いわゆる木のトレーサビリティというわけですね。ここまでやっていただければ思わず、「買いま…………す」と言わざるを得ません。

月齢伐採の木材特性への影響ついて

 なんだか卒論テーマのような小見出しをつけてしまいましたが、実際に10年以上前からこのようなテーマで研究されている方達がおられます。2010年には全国10県11地域で大規模な調査が行われ、京都大学大学院の先生達も協力されています。現在まで分かったいくつかの結果は以下のとおりです。

良質な木を得るには月齢だけでなく、伐採後の乾燥方法、(伐採後、葉を付けたまま梢を谷側にむけて倒し乾燥させる方法、いわゆる“葉枯らし”乾燥)、及びその期間が重要。

月齢伐採材の乾燥に伴うデンプン含有量(※註)の減少について
◎下弦期伐採材は減少がスムーズで6ヶ月の葉枯らし後ではほとんどが消失した。
◎新月期伐採材は減少するものの、6ヶ月の葉枯らし後でも残存するものもある。
◎上弦、満月期伐採材は、減少するものの、6ヶ月の葉枯らし後でもかなり残存するものがある。
※註:デンプンは虫やバクテリアの栄養分ですので、少ないと虫コナーズ効果になるのです。

個体数は少ないが、ヒノキ、ウリハダカエデでも同様の傾向が観察された。

研究成果が続々と。

デジマート森林実験室。

検証継続中!

 前回も申し上げましたが、特定の日に伐採したからオールOKなのではなく、そこからの乾燥、養生にも気を配らないといけないということがはっきりとしています。ある意味当然のことなのですが、効率を重視するあまり、遠い昔に忘れ去られた木の本当の扱い方を、改めて証明した結果でもあるかと思います。今後もさらに神秘の解明にむけて研究され、伐採時期の最適化を図っていただきたいです。

協力:有限会社アシスト

ムーンウッドに魅せられた人々

 ここからは楽器製作家の中でも特にムーンウッドに惚れてしまった方々をご紹介します。

Keystone Stringed Instruments  西 恵介デジマートでこの商品を探す

 東京都はブルーベリーでお馴染みの小平市でアコースティック・ギターを中心に製作されています。氏の製作されるギターはその選択素材のレア超絶さ、木工精度の高さ、そしてその独創的な細部デザインに集約されるかと思います。当然出てくるサウンドは……、私の言葉ではチープ過ぎて語れません。楽器店頭に並ぶ前、もしくは出ても即売れになることが多く、なかなか現物を目にする機会がないほどです。また、精力的に海外展示会へも出展され、その実力の高さから現地有力楽器店での扱いも始まっています。現地に定住して活躍されるルシアーは少なくないものの、国内から積極的に発信されている稀有な存在です。海外ルシアーとの交流も深く、情報量の豊かさは国内ルシアー界随一と言えるでしょう。

 そんな氏もムーンウッドに魅せられた一人。その魅力は?と尋ねると「人の耳に心地よく感じるレスポンスの良さ、繊細な音色、触っただけで感じるレゾナンス、神秘あふれたストーリー性の豊かさ……」といった答えが次々に返ってきました。これだと感じたらとことん傾倒する性格ゆえ、オーダー受注時に、スプルースの種類を指定されない限りこのムーンウッドをお薦めしたいとのこと。流通が少ない素材ゆえ、さらに安定した供給を求めて新たなサプライヤーとも積極的に取引を進めておられます。私生活ではお嬢ちゃんが生まれたばかり、ますますあらゆる意味で濃いギターを作ってください。

ルシアー西氏。

ムーンスプルース・コレクションの一部。

絶賛製作中。

Craft Musica 高山 康夫デジマートでこの商品を探す 

 北斗晶を生んだ埼玉県吉川市を拠点にギター&ウクレレを製作する、今や中堅をこえて右中間な存在、高山“ヤッサン”康夫氏。ブロック材を複数ピース組み合わせ、上にトップ、バックを貼り合わせた形状の薄胴ウクレレは氏のオリジナリティの原点とも言える傑作です。店頭にあったそのウクレレを見た世界的有名メーカーのマスタービルダーが、その出音のユニークさに驚愕し、サウンドホールに指を突っ込みこねくり回して帰ったという逸話もあるほど。それまでにも“薄め”のウクレレは存在したものの、ここまで潔く身を削った楽器はなく、発表後は雨後の何とかのごとくオマージュ作品が溢れ出てきたのは記憶に新しいところです。他にも手がけるのはハープ・ウクレレやラップ・スチール・ギターなど個性的な領域が多いようですが、もちろんオーセンティックな作品も多数手がけておられます。

 ムーンウッドについては、まだウクレレでしか使っていないものの、その洗練された質感、神秘性、何よりも弦にわずかに触れただけで呼応する反応の良さ、倍音の豊かさに引き込まれたそうです。次作ギターにもぜひ採用してくださいね。近況としては工房初のお弟子さん(♀!)が入ったとのこと。ただし最も身近な方、奥様でした。もともと木工専門学校で知り合ったお二人ですから、今後は師弟関係を超越した作品を共同作業で生み出してくれるに違いありません。

ルシアー高山氏。

ホームメイド・サインボード。

AAAムーン・スプルース採用ウクレレ。

BLUE MOON CRAFT 高達 正

 小江戸川越の住宅地に突如現れたログハウスが高達氏のショップ兼工房です。主に百貨店のハワイアン催事会場やギャラリーのイベント会場などで受注販売されています。ユーザーと相対しながらその方だけのカスタム楽器をワンオフで作り上げるスタイルを理想とされています。特に楽器を華やかに彩る装飾は、色々な素材を組み合わせることにより可能な限りリクエストに答えてくれるそうです。とはいえ装飾に頼った“工芸品”ではなく、楽器としての本質はしっかりと押さえられています。国内のプロ・ミュージシャンだけでなく、ハワイアンのグラミー賞“ナ・ホク・ハノハノアワード”を獲った本場ミュージシャンを顧客に持たれることでもその実力はうかがいしれます。いわば逆輸入製作家さんですね。

 ムーンウッドとの出会いは、工房名に“ムーン”が入るところから紹介されたのがきっかけ。一見するとキレイなスプルースとしか思えなかったものの、カンナをかけると瞬時にこの材のポテンシャルに気づいたそうです。もとはギター製作を志したことからスプルースは様々な種を試したそうですが、この反応の良さ、刃物のノリ、そして白い木肌、光沢感、まるで生きているように応えてくれる材との超高評価です。この材のせいでクレモナのバイオリン製作にも興味が湧き、バイオリンまで購入したそうです(ただしチェコ製、楽天で)。氏の謹製楽器、楽器店やネット上ではまずお目にかかれないので、まずは川越まで押しかけましょう。

ルシアー高達氏。

ログハウス工房。

ムーン特化ウクレレ。

hocco

 こちらは前述のアシストさんで見せてもらったオカリナ。長野県原村でクルミ、ナラ、クワなど国産木材を使ってひとつひとつ手作業、オリジナル・デザインで作られています。名づけて「森のオカリナ樹・音(じゅね)」オンライン・ショップやイベントなどで販売されています。写真は月齢伐採天竜杉を使った限定品。そのうちムーン・スプルースでも作ってもらいたいですね。

ムーン・オカリナ。

レギュラー材オカリナ(左)と。

癒やし系カタログより。

ムーンウッド今後……

 ムーンウッドの神秘について、今回も解明することはできませんでしたが、まだまだ研究は始まったばかりです。もっとも、解明できたからといって何かが変わるわけでもなく、このまま神秘のベールに包まれていたままでも、ねェ〜いいじゃないの〜と思う晩秋なのでした。とはいえ、長期間にわたり、調査観察され、伐採時期の最適化に向けて研究されている各地域の有志の方の熱い思いに感銘を受けるとともに深く敬意を表しております。引き続き、研究をよろしくお願いいたします。


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ムーン・スプルースな楽器

 今回もムーンなサウンドは自らの感性でお試しいただくことを推奨いたします。デジマート検索からどうぞ。前回は家具バラシ、今回はログハウス、すっかりハメもタガも外れてしまった感がある当コラムですが、次回(12月15日)は年末企画、さらに木フェチの樹海奥深くに潜入してみたいと思います。お楽しみに。

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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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