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  • 木材〜トーンウッドの知られざる世界 第11回

木に蘇るフランケンシュタイン──グラフテッド・ウッドとは?

  • 文:森 芳樹(FINEWOOD)
  • 取材協力:山野楽器

玉、泡、縮み、鱗、鳥眼、瘤、葡萄、如輪……古今東西、さまざまな変態で現れる杢の数々。自然が育む技の凄さに驚嘆しつつ、もっとなんかちょうだい欲求は止まない木フェチ道。今回はそんな同志に向けて、人類が作り出した最強のモンスター杢、グラフテッド・ウォルナットをご紹介します。

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フランケン伝説

 1931年にアメリカで製作された映画『フランケンシュタイン』、19世紀の英国小説が原作だそうです。日本では大幅にカジュアル化された、漫画『怪物くん』のフランケンのほうが馴染み深いかもしれません。実写版ではチェ・ホンマンがピッタリはまっていましたね。この“フランケンシュタイン”、実際は怪物を作った博士の名前だそうで、いつからか転じて怪物そのものを指すようになりました。映画の中の怪物は手術の縫い目や釘など露骨にクラフト感満載の人工モンスターなのでした。今回は何ゆえフランケンシュタインなのか? フランケンが木に蘇るとは何ごとか? まずは下の立ち木写真を見てください。

グラフテッド・ウッド立ち木1

グラフテッド・ウッド立ち木2

 なんだかこの木、根元部分と幹途中からの様相が一変しています。これこそが“接ぎ木=グラフテッド”、グラフテッド・ウォルナットです。現在はクラロ・ウォルナットにイングリッシュ・ウォルナットを接ぐ手法が主流となっています。異種の木を接ぐこの作業、園芸技術では果実の食味改善、収量拡大、そして耐病害虫対策など品種改良を目的として施される技法です。遺伝子操作などに比べるとはるかに原始的な手法ですが、その効果は実だけにとどまらず、最終的には副産物として木にも現れます。その接合部分(境目)に自然界では存在し得ない摩訶不思議な杢が出るのです。拒絶と融合のせめぎ合いから始まり、お互いの妥協と諦めにより、最終的には何もなかったかのように金婚式を果たす、天然杢では味わえない珍妙かつ数奇な姿を見せてくれます。

ノーマル・ウォルナット

 グラフテッド・ウォルナットを云々する前に、ノーマル部位のウォルナットも紹介させてください。これはウォルナット種の中でも、楽器材として最も知られたクラロ・ウォルナットです。元を正せば、実はこれも接ぎ木によって生まれたハイブリッド種でした。クラロは米西海岸に自生していたブラック・ウォルナットにヨーロッパから持ち込んだイングリッシュ・ウォルナットを接いで生まれたのが最初で、今からおおよそ180年前のことだそうです。その後、時を重ね現代のクラロ種にたどりつくわけですが、殻が薄く甘いナッツがたくさん取れることを願って、長年様々な工夫がなされています。

ノーマル・ウォルナット

フランケン・ウッド

 いよいよ木フェチ界の逸ノ城こと、グラフテッド“フランケン”ウォルナットの登場です。これらはやはり、クラロ種にイングリッシュを接いだもので、その合体部分がこの有様です。見事に南北の一線を超えています。何しろ、1本の木の長さ10数cm範囲にしか存在しない部位です。その杢の出方は千差万別ですが、明らかに何かが起こった断層として現れます。また、色も縞のピッチも異なるのでひと目見て、ジーパン刑事のあのセリフを呟くことになります。


フランケン・ピスタチオ

 グラフテッド・ウッドは他にも存在します。こちらは同じナッツの中でも、ややバーカウンターが似合うピスタチオの木です。酔っ払ってくると、いつまでもむき殻の中に実を探す、アレです。そんなピー嬢もグラフトによりこんな姿となります。グラフテッド・ピスタチオでは、古株に若芽を接木するのが一般的だそうです。

お馴染みのピスタチオ氏


グラフテッドなテイラー・ギター

 実際にグラフテッド・ウッドを使った楽器も発表されています。下は今年創立40周年を迎えたテイラー社の2014年モデル。カスタム・シリーズの中でも滅多にお目にかかれないグラフテッド・ウォルナット・バージョンです。このグラフテッド・ウォルナット、常時オプションとして用意された素材ではなく、国内正規輸入としても初の入荷だそうです。

Taylor Custom GAce Grafted Walnut × Adirondack Spruce

Taylor Custom GAce Grafted Walnut × Adirondack Spruce

 これらの魅力について国内エージェントの山野楽器海外事業部・小野塚課長に語ってもらいました。

“ウォルナットという素材が持つ音の中庸さ、ローズでもなくマホガニーでもない、その独特のロング・サステイン、オールマイティなトーン・バランスは幅広いプレイ・スタイルにお薦めします。そしてなんといってもこのインパクトある杢を見てください!”

 自ら素材選択、オーダーされただけあって、ご自身でも大変な自信作とのこと。ウォルナットにはメイプル・ネックがお約束とのことで、その辺りでも他モデルとの違いが大いにありそうです。テイラー社では2011年よりアンディ・パワーズ氏をマスタービルダーとして迎え、800シリーズを手始めにさまざまな部分で刷新を図っています。社主ボブ・テイラー自身がその才能に惚れ込んでタッグを組んだパワーズ氏、楽器フェアでのトークライブも大変な盛況でした。まるで朝ドラの楽器版を見ているようなお二人ですね。40周年を迎えてさらなる改革を怠らない“巨大手工メーカー”テイラー社の明日に目が離せません。最後にしっかり課長PRも。使用素材を聞くだけで木フェチ同志にとって琴線にビンビン響く仕様ばかりで弱っちゃいますね。

“ジャパン・カスタムの40周年記念モデル、計40本(!)も店頭にほぼ揃いました! すべて異なった仕様で展開する渾身オーダー作の数々です”。


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テイラー・スペシャル

 接ぎ木……園芸好きの方にとっては馴染みの言葉も、トーンウッド界の中では最異質な存在であることがおわかりいただけたかと思います。人為的な作業の結果生まれたものだとしても、その杢は自然の驚異を存分に味わわせてくれました。近年、健康志向でクルミ需要が増大し店頭では品薄、価格高騰していると聞きます。今年の年末年始はウォルナットのギターでも弾きながら、クルミを掌でゴリゴリまわして、健やかに過ごしましょう。今回は取材でもお世話になったテイラー・ブランドの一挙検索です。たっぷり見てみなはれ!

 次回は1月19日(月)更新予定、それでは木フェチの皆様、良い年をお迎えください。


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プロフィール

森 芳樹(FINEWOOD)
1965年、京都府生まれ。趣味で木材を購入したのが運の尽き、すっかりその魅力に取り憑かれ、2009年にレア材のウェブ・ショップ、FINEWOODを始める。ウクレレ/アコースティック・ギター材を中心に、王道から逸れたレア・ウッドをセレクトすることから、“珍樹ハンター”との異名をとる。2012年からアマチュア・ウクレレ・ビルダーに向けた製作コンテスト“ウクレレ総選挙”を主催するなど、木材にまつわる仕掛け人としても知られる。

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