Bose S1 Pro+ wireless PA system × 松井祐貴&井草聖二
- 2024/04/25
L.R.Baggs / Session Acoustic D.I.
アコースティック・ギター用ピックアップや周辺機材の代名詞とも呼べるL.R.バッグス社。定番プリアンプ/D.I.と言えるPara Acoustic D.I.、多彩なEQとライブ時に便利なクリーン・ブースト、チューナーを搭載したVenue D.I.に続き、「レコーディング・スタジオでの音作りの過程」をひとつのプリアンプ/D.I.に凝縮するという、新しいコンセプトで設計された「Session Acoustic D.I.」を紹介しよう。
コンパクト・サイズ、シンプルなコントロールは、普段エレクトリック関連の機材をあまり扱うことがないであろう、生粋のアコースティック・ギタリストも扱いやすいだろう。シンプルでありながらコントロールの要点は非常に上手くまとめられており、簡単な操作でスタジオ・クオリティの音作りができる。オール・ディスクリート回路はICやチップを使わずに、アナログ回路でサウンドを作り上げると言うことだ。生音にこだわるアコースティック・プレイヤーとしては重要なポイントになるだろう。
「コンプEQ」は一見シンプルだが、高域・中域・低域にそれぞれ最適なコンプレッション効果を得るようにマルチバンド・デザインされている。例えばシングル・コンプレッサーの場合、高域帯を意識してセットすると、低域はさらにコンプ効果が働いてしまい、音がヌケにくくなる。マルチバンドの場合は高域・中域・低域にそれぞれ異なったコンプ設定を行なえるので、サウンドのバランス・整い方に格段の違いがある。Session Acoustic D.I.では、各帯域のセッティングを細かく調整する必要はない。あらかじめ組み込まれたセッティングの「かかり具合」だけを、ひとつのツマミで調整すればOKだ。
さらにマニアックな「サチュレート」というコントロールにも注目してほしい。サチュレートとはチューブ・アンプの説明によく使われる言葉だが、簡単に言うと「音を濁らせる」機能だ。アコースティックなのに濁らすのか? と思うかもしれないが、実際に質の良いマイクロフォンやスタジオ・クオリティのプリアンプ等を通過させると、信号は微妙に歪む。しかし、ディストーションのような歪みではなく、倍音感が増幅したり、特定のサウンド・キャラクターを持つことを「サチュレート」と呼んでいる。その「サチュレート」こそが、トーンに彩りを加え、艶っぽさを増したり、力強さを与えてくれるのだ。このSession Acoustic D.I.ではその微妙なサチュレート感を上手く表現している。ぜひその変化の具合、表現力を動画で確認してほしい。
ギターに搭載されたプリアンプはナチュラルにサウンドを増幅させるものが多い。それらに加えてこのような「アウトボード・プリアンプ」を使うことで、サウンドはもっと活き活きと変化する。シンプルなコントロールでありながらノッチ・フィルターやグラウンド・リフト、フェイズ反転等、現場で重宝する重要な機能も併せ持った実力派の1台。また、動画でも触れているが、Para Acoustic D.I.やVenue D.I.と併用することで、さらに幅広いサウンド・メイクを行なうこともできる。ジャンルを問わずアコースティック・ギターやウクレレ・プレイヤー、さらにはウッド・ベース・プレイヤーまで、ぜひ一度チェックして欲しいアイテムだ。
使用ギター:Maton / EBG808TE
価格:オープン
村田善行(むらた・よしゆき)
株式会社クルーズにてエフェクト・ペダル全般のデザイン担当、同経営の楽器店フーチーズ(東京都渋谷区)のマネージャーを兼任。ファズ関連・エフェクター全般へのこだわりから専門誌にてコラムを担当する他、覆面ネームにて機材の試奏レポ/製品レビュー多数。