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  • 伝統が息づくマーティン・カスタムショップを歩く

Martin Factory Tour Report

Martin CTM

  • 取材・文:アコースティック・ギター・マガジン 翻訳:石川千晶 撮影:岩佐篤樹 動画製作:熊谷和樹

スティール弦アコースティック・ギター・メーカーの最古山であるマーティン・ギター。長い歴史が育んだ伝統的製法は現在の生産ラインにも脈々と受け継がれており、特にカスタムショップ(CTM)ではその傾向がことさら強い。本記事ではアコースティック・ギター・マガジン2016年9月号と連動し、マーティン・カスタムショップをフィーチャー。アメリカ・ペンシルベニア州ナザレスにある工場を訪問し、担当者や職人への取材を敢行した。

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Martin Factory Tour Movie
マーティン工場ツアー・レポート


About Martin CTM
マーティン・カスタムショップについて

 マーティンのカスタムショップ部門で扱うモデルはゴールデン・エラの実個体を忠実に再現するオーセンティック・ラインを始め、アーティスト・モデル、各国のディーラーから注文されるショップ・オリジナル・モデル、カスタムラインのウクレレなど多岐にわたる。製法もニカワ接着&Tバー・トラスロッドなどのいわゆる完全復刻モノやアーティスト・シグネチャーに見られる特別な仕様など、それぞれ1本モノに近いモデルが多い。現場では熟練工が若いビルダーに熱心に指導しながら、作業している姿がそこかしこで見られた。マーティンの伝統を受け継ぐ姿勢は年代を超えて脈々と流れているのだった。現在のマーティン工場のカスタムショップで製作に携わるのは約20名。ナザレス工場全体で600名強なので、選りすぐりの精鋭部隊なのがわかるだろう。

INTERVIEW/J.SCOTT SASSER(Director of Custom Shop)
J.スコット・セッサー・インタビュー

 カスタムショップ・ディレクターに現在のカスタムショップの体制について話を聞いた。

通常より余計に時間をかけて、世界一の楽器として仕上げる。

──あなたのプロフィールを教えて下さい。

 
僕の名はJ.スコット・セッサー。1968年にアーカンソー州で生まれた。両親は南部のルイジアナやミシシッピの出身だ。ここマーティンのカスタムショップではディレクター職として、管理サポート・チームを指揮し、世界中のディーラーやディストリビューターと連携して楽器のデザインやスペックを決め、規格の整合性や正確性を確認後、製造チームに委ねて製品化してもらう職務をしているよ。

──カスタムショップのスタッフは増えていますよね。若い人たちも増えているようですが、あなたはカスタムショップの成長をどのようにとらえていますか?

 カスタムショップが拡充しているのは、ディーラーやアーティストとのコラボを積極的に行なっているからなんだ。世界中から集まってくる顧客に現場を見学してもらうことで、クラフツマンたちは、これまでマーティン・ギターが培ってきた実績を身に沁みて感じ、作りたいギターのイメージを膨ませることができる。それから丁寧に打ち合わせをして、唯一無二の楽器を作り上げる。そういった良い関係をどんどん広げていきたい。より多くのマーティン愛好家をお迎えしたいね。僕らも彼らから学ぶことが多いんだ。顧客の皆さんはとてもクリエイティブだよ。

──古株のルシアーがその下の人を指導し、その人がまたその下の人に教える、という現場を目の当たりにしたのですが、職人の育成に対するあなたの考え方を教えて下さい。

 一人前のルシアーを育て上げるのは簡単なことではないね。常に向上心を持って製作に向かわないと成長はない。これは万人にできることではないし、ギター作りにかける情熱にも個人差がある。だから私たちは次世代のルシアー候補に門戸を開き、トレーニング・ブログラムを実践している。いわゆる研修生だよ。

──マーティンは伝統的な製法を貫いていますが、若い世代はそういった製法も人づてに学び取っていくんですか?

 まさしく手に職をつけるというプロセスだから、時には長い時間を要する。研修生の中には手作業からではなくオートメーション化された現場から入る者もいるんだが、学んでほしいのは昔ながらのマーティンの意匠だからね。長い道のりだよ。伝統の工法は世代から世代へと受け継がれていく。私たちは伝統の工法を守っていきたいんだ。昔と変わらないマーティンのギター製法は顧客からも歓迎される。カスタムショップにおいては、ことさら古き良きマーティンのクラフツマンシップが好まれる。だから昔ながらのアプローチで注文に応えているんだよ。オーセンティック・シリーズが良い例だよね。

──現場からもマーティンの意匠が伝わってきました。

 それは良かった。一丸となって引き続き頑張るよ。カスタムショップのルシアーたちは、男性も女性も確固たるプライドを持って仕事に向かっている。若い人も増えているが、皆スキルもとても高く、向上心のある者ばかりだ。納期に追われる忙しい毎日を送る彼らだが、時には通常より余計に時間をかけて、世界一の楽器として仕上げることの重要さもよく理解している。低価格帯のメキシコ工場やレギュラー・ラインは、仕事の効率化や時間短縮を念頭に置きながら、均一な製品をコンスタントに作れるようにすることが重要になるけど、カスタムショップはじっくり時間をかけて更なる高みを目指し、より質の高い楽器作りを心がけている。それは多くのマーティン愛好家から求められていることだから、一貫して徹底しているよ。今後も楽しみにしてほしい。

ナザレス工場の首脳陣。左からエミリー・メイクセル、ジェフリー・アレン、ダン・ブラウン、J.スコット・セッサー、ティム・ティール。

Craftsman of Martin Custom Shop
カスタムショップの職人達

 以下からはカスタムショップで製作に勤しむ職人たちを紹介していこう。

Sean Brandle
 インレイ・アーティスト、ショーン・ブランドル。アーティスト・モデルのインレイ・デザインなどを任されているインレイ職人。この日もデザイン・ディレクターのティム・ティールとアーティスト・リレーションのクリス・トーマスと入念な打ち合わせをしていた。

Chris Eckhart
 最終点検人、クリス・エッカート。大ベテラン、デイル・エッカートの息子で、次世代のマーティンを担う職人だ。どの工程もこなすが、この日はアーティストのギターのセットアップやメンテを行なっていた。

Brian Pritchard
 最終点検人、ブライアン・プリチャード。カスタムラインの0-45Sカスタムのナットの溝切りに精を出していた。ジョニー・キャッシュ好きで、デスクにもアートワークが飾ってあった。

Dale Eckhart
 マーティンに43年間勤め上げる大ベテラン、デイル・エッカート。ニカワ接着のスペシャリストで、この日もOM-18オーセンティックのボディを組み上げていた。何かあればデイルに聞けと言われる存在で、すべてのカスタムショップ・モデルに関わる。

Chris Adamcik
 ボディ組みやブレイスの削りなどの主軸クリス・アダミック。デイルの弟子的存在だ。マーティンにはクリスという名が多いので、通称“スペースマン”と呼ばれている。

Shawn Storm
 トップ・ブレイスをニカワで接着するショーン・ストーム。手早い作業で貼り付けていく。

Bryce Harrison
 ボディのアッセンブリーをおもに担当するブライス・ハリソン。スキャロップ・ブレイシングを丁寧に整えていた。

Bart Buschi
 ネック担当のチーフ、バート・バスキ。シェイプの削り出しからフレットまわりなどすべてこなす。さまざまな刃物と治具を使ってあっという間にシェイプを整えていた。

Mike Rapeer
 ネック担当のマイク・レイパー。フレットのバリの細かい研磨を慎重に行なっている。

Adam Feldon
 ネック加工担当のアダム・フェルドン。師匠はバート・ブスキ。この日はキートン・ヨーにジョイント部分の加工を教えていた。

Keaton Yoo
 ネック・フィッティングを研修中のキートン・ヨー。ボディとネックのダブテイルを合わせる技術をアダム・フェルドンから教わっている。

Michael Nemeth
 ボディ胴組担当のマイケル・ネメス。サイド材を合わせ、ボディ・エンド部の装飾を入れている。

Kerry Dieter
 最終的なネック・ジョイントを行なうケリー・ディーター。塗装をはがし、ダブテイル・ジョイントを精密に行なう。

Brent Williams
 ボディとネックの仮ジョイントを行なうブレント・ウィリアムス。エル・キング・モデルを製作中。カスタムショップに配属されて日は浅いが、マーティンには5年勤続しているという。

Lisa Johnson
 塗装を終えたあとの仕上げをしていくリサ・ジョンソン。ベテランの女性ビルダーだ。この日はブリッジの接着をしていた。

Jesse Kohl
 バインディング&トリム担当のジェシー・コール。ボディ外周にセルを巻いている。

Deb Davidson
 バインディング&トリム担当のデブ・デヴィッドソン。ウッド・バインディングをボディ外周に這わせ接着していた。

Steve Kresge
 ロゼッタ担当のスティーヴ・クレスゲ。白黒のセルを手際よく入れていく。

Eric Wisinewski
 塗装〜バッフィング担当のエリック・ウィシネウスキ。D-18オーセンティックのトップをバッフィングでビンテージ・グロス仕上げに。

Jody Rinker
 塗装の最終チェックを任されているジョディ・リンカー。鋭い眼差しでマーティンの伝統を守っている。

INTERVIEW/CHRIS THOMAS(Director Artist Relations)
クリス・トーマス・インタビュー

 カスタムショップではアーティスト・モデルも多く手がけている。マーティンのアーティスト・リレーションと言えば長らく顔役のディック・ボークだったが、現在はクリス・トーマスがその任を受け継いでいる。

世代間の溝を埋めるという目標を掲げている。

──あなたのプロフィールを教えて下さい。

 僕は1972年にここの近くのペンシルバニア州アレンタウンで生まれたんだ。マーティンに勤めてもう20年になる。長年アーティスト・リレーションの仕事に携わっているんだが、入社したての頃は懸命にギターに弦を張っていたよ。以降、品質保証の部門や海外工場の生産管理を担うプロダクション・マネージャーを経て、大先輩であるディック・ボークのマーケティングをアシストするポストに就き、そこからアーティスト・リレーションひと筋になった。今はアーティスト・リレーションの責任者として海外のフェスや楽器ショーをまわったり、新製品のプロモ・ビデオを制作したりの日々だ。

──近年はエド・シーランやクリス・コーネルなど、ロックのフィールドで活躍するミュージシャンが愛用している印象が強くなっています。あなたの働きかけもあって?

 もちろんだよ。僕は世代間の溝を埋めるという目標を掲げているからね。クロスビー、スティルス&ナッシュやウィリー・ネルソン、エリック・クラプトンといった大御所と並んで、エド・シーランのような気鋭のアーティストにマーティンのギターを弾いてもらうのはとてもいいことだと思っている。エド・シーランは現代のエリック・クラプトンだと言っても過言ではないくらいシーンの話題を集めているアーティストだからね。そして僕は、ウィルコのジェフ・トゥイーディと友好関係を持てたことも誇りに思っているよ。彼のシグネチャー00-DBジェフ・トゥイーディは、FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)を世に知らしめてくれた。このおかげでマーティン社が森林保全に貢献しながら、持続可能なギター製造へ移行していることがアピールできたんだ。

──あなたの仕事は、確実にマーティンの新たな展開につながっていきそうですね。

 そのとおりだと思うよ。大御所と気鋭のアーティストとの違いはツアーの公演回数だ。当然、頻繁にツアーをまわる若手からの方が、ギターや弦に対する要望も数多く寄せられることになる。より良いステージでのサウンドを求める彼らは、絶えずギターのボディのサイズやピックアップ、プリアンプにこだわり続ける。一方、ビッグネームが求めるのはスタジオで使用するギターが多い。マーティンは今でもエリック・クラプトンにギターを供給している。彼らが望むのは信頼できるクオリティだからね。若手はギターに尽きせぬ興味を示してくる。一般的にカントリー・アーティストはドレッドノートをプレイするものだが、クリス・コーネルは小さめのボディのギターが好きで、12フレットの00を愛用している。若いアーティストの個々の嗜好はボーダレスだ。固定観念にとらわれていないからね。そういったミュージシャンから新たなマーティン像が生まれるはずだ。

──今年のエリック・クラプトンのジャパン・ツアー初日にエド・シーランが飛び入りしたんですが、エドはレース・センサー・ピックアップが仕込まれた自分のマーティンをクラプトンに手渡したんです。クラプトンはそのギターでスライドを弾いたのですが、あれはまたとないシーンでした。

 それはマーティンというブランドにとっても歴史的な瞬間だね。ともに同じマーティン・ギターをプレイするレジェンドと新進気鋭のアーティストのコラボだからね。日本の人たちがうらやましいよ。素敵なエピソードをありがとう。とにかくいろんなミュージシャンとつながるのは嬉しいね。インターナショナル・アンバサダーとして斎藤誠さんもマーティンのWebサイトに載っているからチェックしてみてほしいな。

Authorized Dealers from Japan
マーティン日本正規ディーラー

 取材時には日本からのディーラー陣がファクトリー・ツアーに多数参加していた。ファクトリー・ツアーではルシアーと交流できるのも楽しみのひとつだ。こうした訪問、交流を経てさまざまなスペシャルなCTMモデルが生み出される。その結晶はこちらからぜひ確認して欲しい。
「Martin Club Japan Rebirth Tour 2016 スペシャル・レポート!」

取材時にマーティン・ファクトリーを訪れていたディーラー等。

ファクトリー・ツアーでは職人たちに直接話をすることができる。

ネック削り出しの体験もさせてくれる。

詳細は『アコースティック・ギター・マガジン2016年9月号』をチェック!

 本記事はリットーミュージック刊『アコースティック・ギター・マガジン2016年9月号』の特集「MARTIN & FISHMAN」の中でより詳しく紹介されています。ここでは掲載されていないインタビューや写真、またエレクトリック・アコースティックの分野でマーティンと親密な関係を結んでいるフィッシュマン社への取材も掲載されるなど盛りだくさんの内容となっています。興味のある人はぜひ読んでみてください。

▪️『アコースティック・ギター・マガジン2016年9月号』の詳細はこちらから!

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