FACTION MUSIC
五反田と蒲田を結ぶ東急池上線と言えば、品川区と大田区にありながら3両編成の列車が走る、ノスタルジックで不思議な雰囲気の沿線だ。日蓮宗の大本山である池上本門寺（池上駅）や、活気のある商店街が続くChar＆JESSE親子の地元・戸越銀座が知られるところだが、まさに池上線のド真ん中、五反田からも蒲田からも8番目の石川台駅から徒歩3分というファクションミュージックを訪ねた。個人的に、デジマートで中古エフェクターなどを探すことが多いのだが、こちらのお店がヒットすることが多く、何度か通販で購入している。足を運んでいなかったのは、電車代よりも送料のほうが安いためだ（笑）。店長の山口弘一氏は、グラフィック・デザイナーとして20数年の勤務を経て脱サラしたという、異色の経歴の持ち主だ。そして、まったく経験ゼロの状態から、2011年にこのお店をオープンしたというから驚きである。
「石川台にお店を出したのは、僕の地元だから。学生時代からバンドをやっていて、地域に楽器屋さんがないと常々思っていて。大田区って楽器店がほとんどないスポットで、特に大森あたりから羽田にかけては空白地帯なんです。ミュージシャンはけっこういるんですが、何かあっても、お茶の水や渋谷、川崎、横浜まで行かないといけない。実際に楽器店のニーズがあったというのは、やってみてわかったことですけどね。でも、僕の夢がひとつ叶いました」
もともとデジタル機材が好きで、開店当初は山ほど所有していたレコーディング機材などを主力に販売していたとのこと。ギターやベースに関しては、中古買い取りをしたものにオーバーホールを施して販売する中で、そちらが主力になってきたそうだ。また、小物類とビギナー向けの楽器に関しては、新品も扱っている。そして3年目を迎える頃に、修理のオーダーが増えてきたことを実感したそう。
「今は中古売買が6～7割、修理が3割ってところですね。ここ1年は修理が立て込んで、買い取り品のオーバーホールができないくらい。あと好評なのは“スーパークリーニング”という、全部バラしてネジ1本から全部磨いて組み立て直すというメニューですね。個人店舗の僕らだからこそできること……要するに面倒くさいことなんですけど（笑）。ブログで見て、ご連絡いただくお客さんも多いです。楽器って高い安いじゃなくて思い入れだから、喜んでもらっていますよ」
スーパークリーニングは、リペア・メンテナンスの専門スタッフとして週に2日ほど勤務している松戸浩氏の得意とするところだ。
「僕の一番の売りですね。せっかく来てもらったんだから、擦り合わせや調整だけじゃなくてクリーニングしてあげたい。手間も時間もかかるので、大手はほとんどやらないと思いますが、僕の気持ち的にどうしてもきれいにしたくなっちゃう（笑）。スピード感もあると思いますよ。大手だったら早くて2週間、普通は1ヵ月かかるような修理が、僕のタイミングさえ合えば1週間でできるので。メンテナンスを含めたクリーニングを比較的スピーディーに細かくやるというのが、この店の修理の特徴です。店頭の中古もがっつりクリーニングされているので、品数は少なくても安心して買ってもらえるものが多いと思います」
大がかりな木工や塗装は外注となるが、メンテナンス全般やパーツ交換、改造の相談など、小規模店ならではの細やかで温かみのある対応が評判となり、地元に限らずリピーターが増えている。沿線以外の練馬や、神奈川方面からのお客さんも多いとのこと。それでも山口さんは、お店を大きくすることは考えていないと言う。
「ウチは本当に“街の小さな楽器屋さん”なんです。お客さんと直接、一対一でやり取りするから対応できるし、親身になってがんばれる。小規模だからこそできることに僕は楽しみを見出すし、それが続けていければと思っています。70歳まではやりたいですね。重いものは持てなくなるけど（笑）、イケると思ってます」
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