Bose S1 Pro+ wireless PA system × 松井祐貴&井草聖二
- 2024/04/25
IK MULTIMEDIA / UNO Synth
独自のモデリング技術を使ったソフトウェアやモバイル性の高いハードウェアを生み出してきた音響機器メーカー、IK MULTIMEDIAの新製品“Uno Synth”が話題を呼んでいる。これは、軽量コンパクトでシンプルなデザインのモノフォニック・アナログ・シンセで、伝統的なシンセ・サウンドを継承しながらも、しっかりと現在の音楽制作シーンを考えて作られている。さっそく機能紹介と3名のミュージシャンたちによるインプレッションを通して、Uno Synthの実力を探っていこう。
【SPECIFICATION】
●シンセシス:アナログ・モノフォニック ●プリセット:100種類(80種類は上書き可能)●コントロール:静電容量式27鍵、ノブ×7 ●エフェクト:DIVE/SCOOP/VIBR./WAH/TREM/DELAY ●その他:アルペジエイター、16ステップ・シーケンサー、スケール機能 ●入出力端子:オーディオ・イン/アウト(ステレオ・ミニ)、MIDIイン/アウト ●電源:USBバス・パワー、単三電池×4本 ●外形寸法:256(W)×49(H)×150(D)mm ●重量:400g(本体)
オープン・プライス:市場予想価格25,000 円前後
問い合わせ:IK Multimedia https://www.ikmultimedia.com/
まずUno Synthを箱から出して、最初にそのサイズ感に驚きました。10インチのタブレット端末くらいの大きさで、とても軽く、さっとカバンに入れて持ち運べる手軽さがあります。横から見ると浅いL型になっていて、テーブルに置くとパネルが緩やかに傾斜する良いデザインです。トップ・パネルはフラットなデザインになっていて、7つのノブ以外のボタンはレスポンスの良い静電容量式となっています。
電源はUSBバス・パワーまたは単三電池×4本を選択可能です。バス・パワーはコンピューターから取ってもいいですし、スマホの充電アダプターやモバイル・バッテリーでも動作します。
電源を入れると、最初にオシレーターのピッチを数秒かけて自動でキャリブレーションしてくれます(A=440Hz)。こんなに小さくても音源は本物のアナログ・シンセですから、本来であればチューニングというめんどくさい作業が必要ですが、自動で行なってくれるのでチューナーさえ必要ありません。
シンセの内部構成を見てみましょう。2つのオシレーターはそれぞれ三角波/ノコギリ波/矩形波を備えます。三角波~ノコギリ波まで連続的な変化を得られ、矩形波はパルス幅を50~98%まで調整可能です。また、オシレーターごとにピッチ調整、波形選択ができるので表現の幅は広いと思います。音色はやはりアナログらしいキャラクターで、ソフト・シンセと違う力強さは誰もが感じることでしょう。太さもしっかりあるのでシンセ・ベースとしても実力を発揮します。シェイパーのような機能はありませんが、フィルター・セクションにあるDRIVEによって全体の押し出し感を強調することができるため、アナログのブリブリ感を簡単に出すことができました。
フィルターはマルチモードになっていてローパス/ハイパス/バンドパスを選択できますが、キレの良いフィルターはかなり好印象。レゾナンスを上げても低域が引っ込むようなことはありません。レゾナンスはどのフィルター・モードにも有効なので、過激なフィルタリングもお手のものです。
コンパクトなサイズながら、フィルターとアンプに独立したエンベロープが付いています。いずれもADSRタイプではなく、いわゆる立ち上がりと余韻だけを操作できるAD/ARタイプ。シンセ初心者が真っ先につまづくのがADSRの概念ですが、もし理解していなくても難なく使える優しい仕様と言えるでしょう。後述のエディター・ソフトまたはMIDI CCを使えば、サステインも調整できるようになります。
トップ・パネル左上のシンセ・コントロール部は、上部の4つのつまみと左端の4つのボタン(OSC/FILTER/ENV/LFO)の組み合わせでパラメーターを呼び出すマトリクス方式。OSCだけ長押しで別パラメーターを呼び出せますが、基本的に階層構造にはなっていないので理解は簡単です。
マトリクス部分の下にあるボタン(DIVE/SCOOP/VIBR./WAH/TREM)はリアルタイムに音色を変化させるための機能が割り当てられており、飛び道具的な使い方ができます。特にDIVE/SCOOPの2つはピッチ・ベンド・ホイールのような効果を生み出すのでフレーズの演出に使えると思います。さらにデジタル・ディレイも内蔵されています。シンセと相性の良いアナログ・ディレイのような音色です。ディレイ・タイムと原音とのバランスのみを調整できるようになっています。
トップ・パネル下に並んだ27鍵キーボードはOCTで7オクターブまで対応。外部からMIDIでノート情報を送ってDAWなどから鳴らすこともできるほか、MIDIクロックで外部機器との同期もできます。さらにアルペジエイターと16ステップ・シーケンサーも装備。シーケンサーはステップごとにフィルターの開閉具合などを設定することも可能です。
プリセットには最初からとても参考になるユニークな音色が100種類入っており、シーケンス・パターンも一緒に保存されています。アシッドなフレーズからノイズ・ジェネレーターを駆使したパーカッシブな音色もあり、シンセの音作りを勉強したい人にとって良いお手本になると思います。100種類のうち、80種類はユーザー用で、上書きが可能です。
専用エディター・ソフトを使えば、iOSデバイスやMac/WindowsからUSBケーブルで接続したUno Synthをコントロールできるようになります。エディター・ソフトでは、本体だけでは調整できなかったパラメーターを操作可能。無償で手に入るので、Uno Synthユーザーはぜひとも活用したいですね。
小さな本体からは想像できない機能の充実ぶりに驚くばかり。Uno Synthはこれからシンセを始めるという方から本格的にアナログ・シンセの音色を楽しみたいユーザーまでオススメできる存在です。
林田涼太プロフィール
いろはサウンドプロダクションズ代表/エンジニア。ロックからレゲエ、ヒップホップまでさまざまなジャンルの作品を手掛ける。シンセにも造詣が深く、9dwのサポート(syn)としても活動してきた。
Photo:Chika Suzuki
まずは音の良さにびっくりしました。それに、ほかの音源やエフェクトなどを使うときもなじみやすいサウンドです。アナログ・シンセやモジュラー・シンセだと音が太過ぎたり、キャラが濃過ぎる場合もありますが、Uno Synthのオシレーターはアナログの音でありながらも主張が強過ぎない素直な音。ミックスも楽にできるんじゃないかと思います。
操作面も分かりやすいです。階層をたどって機能にアクセスするのではなく、トップ・パネルに必要なパラメーターが整理して配置されています。フラットなデザインなので、“鍵盤部分の操作性はどうなのかな?”と気になっていましたが、実際に演奏してみるとフラットならではのフレーズも生まれてきて面白いです。HOLDは音を作るときにとても便利。右手で弾きながら音を作るのは結構疲れますからね。また、ドローン・サウンドをプレイするときも、このHOLDで音を持続させながら音色をコントロールするとよいでしょう。
2つのオシレーターでは個別にTUNEを変えられます。この価格帯のシンセでは珍しいのではないでしょうか? デチューン効果を作り出し、繊細な揺らぎのあるドローンをプレイすることも可能です。
フィルターがローパスだけでなくハイパスやバンドパスが入っているのもうれしいポイント。パッド系の音を作るとき、“ちょっと低域がきついかな”ということがよくあります。そういったとき、弾きたい音域だけが出てくれるようにハイパスやバンドパスを使うことが多いです。また、LFOの波形ごとのキャラクターがはっきりしているので、フィルター・カットオフにアサインしたりすると面白い音が生み出せますね。
ポンと押すだけで操作できるエフェクトも使いやすいです。細かく調整ができるわけではありませんが、最初から気持ちの良いエフェクトが得られる設定になっています。
音作りのおいしいポイントが分かりやすくまとめられたUno Synth。ジャンルやユーザーのレベルを問わず、制作にもパフォーマンスにも使えるシンセだと思います。
Photo:Hiroki Obara
D.A.N.は3人組なので、音数が少なくても成り立つようにできるだけサウンド一つずつをリッチに鳴らしたいんです。そういう理由もあって、僕はどちらかというとシンセはアナログ派。アナログ・シンセはレンジが広く、音に説得力があります。Uno Synthの音もちゃんと存在感や立体感があって、抜けも良い。ピュアでシンプルな音なので、ほかの楽器とも混ぜやすいと思います。ペダル・エフェクトとの相性も良く、さまざまな機材との組み合わせでオリジナリティを作っていけるでしょう。フィルターも癖が無く、ざっくりとしたシンプルな使い心地が僕は好きですね。
コントロール部のノブの数も絞られていて、エフェクトもワンタッチで操作する簡素なタイプ。モジュラー・シンセなどの複雑性を楽しむ人もいますが、僕はUno Synthのようなシンプルな方が好きなんです。余計なこと考えず、直感的なアイディアを制作に落とし込めます。
プリセットも実用的なものが多いと感じました。モノシンセはリードやベースといった音として使うことが多いと思いますが、そういう音作りの際はプリセットへアクセスし、選んだ音色を少しEQで調整するくらいの方がよい。制作においてはその速さが重要だと思います。あまり迷わないで作れると楽しいですから。専用のエディター・ソフトを使ってプリセットの管理ができるのも現代的な仕様ですね。自分の作った音色を保存しておけば、ライブのときなどに本体へ読み込めるので便利です。
手前に傾斜したプロダクト・デザインも、“よく考えられているな”と思いました。本体は軽量で利便性にも優れています。電池による駆動ができるということも、余計なノイズが入らなさそうですし、安心感があります。
音楽機材は自分との相性が大事。それぞれの機材に合う人、合わない人がいますが、このUno Synthはそのシンプルな音と操作性によって、多くの人に合うシンセになっていると思います。
Photo:Yusuke Kitamura
アナログ・シンセなのに電池で動いて、しかもここまで軽くてポータブルなものは初めて見ました。ヘビーな見た目の方がアナログ・シンセの雰囲気があって良いというイメージもありますが、Uno Synthはアプローチの仕方が違います。音楽って一人で作るのも楽しいけど、やっぱりみんなで一緒に演奏したりするときが一番楽しいですよね。このポータブルさでどこでも持って行って演奏できるというアイディアが気に入りました。
モジュラー・シンセのフィルターには洗濯物をギュッと絞るようなイメージを持っていますが、Uno Synthのフィルターはもっとシャープにかかる印象です。ハイハット的な音を作るときなど、シャープさが生きてくる使い方もいろいろとあるでしょう。
モノシンセなのでほかの音源と一緒に使うことも多いと思いますが、アルペジエイターとHOLDが付いているので、ずっとUno Synthを操作していなくても次々とサウンドやフレーズを変えて鳴らせます。ライブ・パフォーマンスで便利ですね。フラットなデザインなので、キーボード部分を指でスライドしてグワーンと鳴らすような演奏ができるのはUno Synthの強みだと思います。
アナログ・シンセを使うアーティストにとって、自動チューニングはすごくありがたいです。Uno Synthはアナログ回路でできていますが、うまくデジタルのコントロールが取り入れられていますね。3~4時間くらい演奏していても安定して鳴ってくれたので、ライブでも安心して使えそうです。
全体として、とてもポテンシャルが高いアナログ・シンセだと感じました。必要な機能は本体にほとんど備わっていますが、もっと細かくコントロールしたい人に向けた専用エディター・ソフトがあることもうれしい部分です。ステップ・シーケンサー、アルペジエイター部分がすごく良いので、欲を言うならCVアウトが欲しいですね。ユーザーとしてはまたこれからの進化が楽しみです!
本記事は、リットーミュージック刊『サウンド&レコーディング・マガジン2018年10月号』から転載したものです。今号では、音楽プロデューサーの中田ヤスタカとPerfumeによる雑誌初のスペシャル・トーク・セッションが実現! プロデューサー的な役割も担うコンポーザーに焦点を当てた特集や、Netflixに導入されたサラウンドの新規格=Dolby Atmosを使ったポスト・プロダクションに迫る特別企画など、盛りだくさんの内容。ぜひチェックしてみてください!
なおIK MULTIMEDIA UNO Synth特集の続きはサンレコWebでもご覧いただけます。
→ [サンレコWeb誌面連動]IK MULTIMEDIA Uno Synthの衝撃