ヘッドウェイの桜10周年記念モデル、第一弾としてSAKURA'24&YOZAKURA'24の全8機種が登場
- 2024/03/19
プラグイン・コンプレッサー/リミッター/EQ/
ハードウェアのコンプには、真空管、光学式、FET、VCAなどとさまざまな動作タイプがあります。そして、多くのプラグインはこれらをモデリングしたものです。これらのタイプの違いを知り、用途に応じて使い分けるのはなかなか難しいことでしょう。この特集では、タイプごとの特徴に加えて、使い分けの実例を紹介していきます。それぞれのタイプの違いを理解すれば、コンプ使いが格段にうまくなります!
ハードウェアの代表例
※そのほかのハードウェア:EMI RS124、RCA BA6A、GATES Sta-Level など
Variable MU管と呼ばれる真空管をリダクション回路に使用したタイプ。1950年代から使われている古株です。スムーズかつオーガニックな効き方で、かければかけるほど音が良くなると言われたりしています。リダクション回路以外(メイクアップ・ゲインのアンプなど)も真空管で構成されているものがほとんどで、アンプ回路の差が出音に大きな違いをもたらします。
このタイプでは、ビートルズの使用で有名なFAIRCHILD 670のほか、1990年代に登場したMANLEY Variable MU Limiter/Compressorなどがプラグイン化されています。前者は中域が張り出してパンチのある音に、後者はハイファイながら中低域がモチモチと太くなるといったように、かけるだけでキャラクターが変わってくるので、通すだけで“味”を加える用途にも向いています。
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Variable MUタイプをボーカルにかけるのは、ビートルズがFAIRCHILD 660(670のモノラル版)を通したこともあり、現在でも定番的な使い方の一つです。660/670はアタック/リリースがスイッチ切り替えになっています。今回はプリセットの3番(アタック0.4ms、リリース2s)を使って2〜3dBリダクションしました。角が取れて音色がクリーミーになってきますね。素材は歌詞の言葉が詰まっているので、より速いリリースのプリセット2番(アタック0.2ms、リリース0.8s)を使ってもよいと思います。
Variable MUはほかのタイプに比べて、キャラクター付加のために使うことが多いので、分かりやすくコンプ感が出ている方が雰囲気が出ます。
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もともとマスタリングや放送局の送信前にかける用途で使われていたモデルが多いので、2ミックスや楽器をまとめたバスにかけるのはお手のもの。しっかりまとめるという意味では最近の方式の方が優秀かもしれませんが、自分が聴き慣れた名盤のような雰囲気にまとめられます。今回はドラム・バスにかけてみました。
おすすめなのはプリセットの1番(アタック0.2ms、リリース0.3s)で1〜3dB程度、ごく薄くかけると最初からこうだったかのような自然さで、リズムが立ってきます。深くかけてもカッコいいですが、シンバルが揺れてくるので気をつけましょう。ゆるやかな楽曲にはもう少し遅い(=番号が大きい)プリセットの方が自然です。
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1960年代のロックの激しいコンプ感を求めて、このタイプのプラグインを購入する人は多いと思います。でも実際に試してみると、思っていたよりハイファイだな……と拍子抜けすることも多いのでは? 深くかけても音量変化があるだけで、音質にはそこまで影響はありません。
それもそのはず、当時はMTRのトラック数が少なかったため、録音済みの数トラックをまとめて空きのトラックにダビングする“ピンポン録音”を多用していました。そのピンポンのたびにコンプを通っていたのです。今回はドラム・バスにかけたのと同じような設定で、3回ベースを通してみました。かなりコンプのキャラが強調された、“あの時代の音”になったと思います。
ハードウェアの代表例
※そのほかのハードウェア:UREI LA-3A、LA-4A、SUMMIT AUDIO TLA-100A など
Opto=光学式とは、音声を電流に変換して電球やLEDなどを発光させ、それをフォトセルという受光体で検知すると抵抗が働くという仕組み。音が大きいほどパネルの光量が大きくなり、リダクションが深くなります。このような構造のため、一般的にアタックの反応速度が遅く、ぬるい感じのかかり方になりますが、それがナチュラルなコンプ感となるのです。
また、コントロールが少ないモデルが多いため、かけ録りの際にもよく使われます。1960年代に登場したTELETRONIX LA-2Aが代表的なモデルで、アンプ回路が真空管。それに続くUREI LA-3Aがトランジスター、UREI LA-4AがICと、時代ごとにアンプ回路が違うためトーンがかなり違います。コンプレッションの雰囲気は似ていても、古い方が太くスムーズにひずみ、新しい方がソリッドでクリアです。
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TELETRONIX/UREI(現UNIVERSAL AUDIO)のLAシリーズでは、PEAK REDUCTIONのつまみを時計回りに上げていくと、コンプレッションがかかってきます。VUメーターを見ながら、最も音量の大きな部分で3〜6dBくらいリダクションしてみましょう。色付けがあまりなく、ふわっとかかってくるのが特徴です。ただし、アタックが10ms、リリースが0.5〜5sと遅めなので、かけ過ぎには注意しましょう。
深くかけると滑らかな質感にはなってきますが、アタック・タイムより前の取りこぼした部分が出っ張ってしまい、特に子音が目立ってきます。子音と母音のバランスがおかしくないか、音揺れを起こしていないかだけ気をつけてください。
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ベースにこのOptoタイプを組み合わせるのも、相性のいい使い方です。低音が入っているソースでも変なひずみが起こらず、音量を整理できます。テンポの遅い曲のキックにもいいですね。使い方のキモは、VUメーターを見ながら、次の音の頭が来るまでにメーターが9割以上戻るところまでしかリダクションしないこと。これに尽きます。
またこのタイプはメイクアップ・ゲインを上げると軽くひずむので、その後段でほかのプラグインなどを使いレベルを下げると、適正レベルでもわずかに倍音が付加されてフレーズが聴き取りやすくなります。ひずみのキャラはモデルによってさまざまですので、手持ちのプラグインで試してみて相性を判断してください。
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このタイプはボーカルやベースを同じような設定で、サックスなどアコースティックなソロ楽器にはおおむね相性が良く使えます。それに加えてアコースティック・ギターのアルペジオにもよく合います。用例②で“次の音の頭が来るまでに9割以上戻るように”と書きました。実はこのタイプのリリースは50%の音量まではすぐに戻りますが、そこからの50%はすごくゆるやかで、戻りきるには時間がかかります。
しかし、その戻り方が機械的ではなく音楽的に聴こえるので、生楽器には合うのです。アコースティック・ギターには、少しずつかけていき、“ほとんど変化を感じないけど、なぜだかうまく聴こえるポイント”で止めるのがコツです。
ハードウェアの代表例
※そのほかのハードウェア:PURPLE AUDIO MC77、UREI 1178など
電圧で電流をコントロールする、FETというトランジスターが使われているため、それまでのモデルに比べてアタック/リリース共にかなり速く設定できるのが特徴。アタック/リリース、レシオなどが、かなりフレキシブルにコントロールでき、比較的ソースを選ばずにかけられるのも利点です。
特にテンポが速く音数が多い曲では、 リリースを速くしてかかりっぱなしにならずに済むのは大きいでしょう。コントロールが柔軟で応用範囲が広い反面、理解して使わないと音を悪くする可能性もあります。1960年代後期からのロック・サウンドは、ほとんどこのFETタイプのコンプに支えられていると言っても過言ではないでしょう。代表例はなんと言ってもUREI 1176。現行のハードウェアやプラグインも、これを模範としたタイプが多いです。
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UREI 1176はインプットを上げていき、メーターでリダクション量を確認しながら使う方式です。レシオを4:1、アタックを時計の10時方向、リリースを4〜5時にセッティングし、3〜6dB程度つぶしてあげると、かなりソリッドなボーカル・サウンドが得られます。
実際の数値ではアタック0.5ms、リリース50msくらいでしょうか。実は1176のアタックはかなり速く、最短0.02msから最長0.8msしかありません(リリースは50ms〜1.1s)。ツマミを回し切っても、Optoのアタックよりも速いので、かなりカチッとかけることができます。ちなみに、1176のアタック/リリースは時計回りにツマミを回し切りが最短の設定なので注意しましょう。
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スネアのエッジを立たせる用途でもFETコンプはよく使われます。1176ではレシオを4:1、アタックを最長に、リリースを最短に回し切ってください。実際の数値はアタック0.8ms、リリースは50msです。3〜4dBリダクションしてあげると、スネアの打点だけを残して、後ろの胴鳴りの部分が削られるような感じで音が立ってきます。
ややダークな感じにしたければ、アタックを少しずつ速くしていって、頭の部分を削って調整してみましょう。胴鳴りの量はリダクション具合で調整します。この手法はスネアだけではなく、ギターのカッティングを鋭くするときなどにも応用可能。ゲートでは不自然になり過ぎるけどタイトにしたいときに重宝するテクニックです。
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FETコンプは、アタック・タイムを速く設定した際、低 音が弱くひずみやすいという弱点があります。これを逆手に取って、むしろディストーションとして使ってしまおうというのがこのテクニック。特殊なように見えますが、エンジニアの間では定番的な使い方です。
1176やそのモデリングの場合、アタック/リリース共に最速にして、インプットでいい具合にひずみがかかる位置を探りましょう。レシオの値を上げるとひずみの量が増え、ALL(1176での4つボタン同時押し)でさらにもう一段ひずみが増えます。
これはキックを目立たせるときにも使える技。1176ほどアタックが速くない機種でも、リミッター・モードで動 作させるとひずむモデルが多いです。
ハードウェアの代表例
※そのほかのハードウェア:API 2500、FOCUSRITE Red3、GML 8900 など
アンプの音量を電圧で制御するICチップを使ったタイプのコンプレッサー。アナログ・コンソールのオートメーションやシンセのVCAセクションと同様の仕組みを用いていて、音声信号から取り出した電圧で、フェーダー操作のように音量をコントロールしています。反応速度が速いのに加え、それまでの方式よりも出音がクリーンで変化が少ないです。
VCAコンプは1970年代にDBX 160の登場から始まり、そのVCAチップを開発していた部門がTHATとして独立。現在のVCAコンプもこのTHATのパーツを使っているものがあります。API 2500やSSLコンソールのバス・コンプなど、このタイプの代表例からも分かるように、破たんの無さとクオリティの高さからマスター・バスに使われることが多いです。1980年代以降の商業サウンドの要と言えるでしょう。
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ミックスするときに楽器の土台となるベースやキックの音量が一定値に張り付いていると、ほかの楽器のレベル取りが一段と楽になりミックスがはかどります。VCAコンプはこのような用途に向いていると言えるでしょう。
ベースにはOptoコンプも良く合いましたが、太さは出せてもまだ音量のふらつきがあり、純粋にレベル管理だけを考えると満足できませんでした。ローリング・ストーンズやジョン・スペンサーのエンジニア、ドン・スミス氏は、DBX160をレシオを∞にして3〜4dBのリダクションをするそうです。こうするとソリッドかつ音量変化の少ないベースが出来上がります。デジタル・コンプよりも固さが少なく、1970年代後期のニュアンスがありますね。
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Optoの用例①で、コンプを深くかけ過ぎるとアタックが出っ張って使えないと書きました。けれども、深くかけた方がカッコいい場合もありますよね(笑)。そのようなときには、アタック・タイムの速いVCAコンプを使って、Optoで取りこぼした部分を抑えれば解決です!
U2やグリーン・デイを手掛けたエンジニア、クリス・ロード=アルジ氏も、ボーカルをOptoタイプLA-3Aでリダクション量が20dBになるまでつぶした後、それをSSLのコンプ(VCAタイプ)でアタックを抑えスムーズにしているとのこと。これにならって、Optoで処理した後段にVCAコンプをインサートし、アタックを1ms以下くらいの速めの設定すると、抑え損ねた部分を狙って処理できます。ちなみにこの手法は、今回の素材のようなまったりした曲調より、ハードな曲の方が合うでしょう。
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トランスペアレントな特性が売りのVCAタイプは、マスター・バスにかけるコンプの定番です。時に楽器と楽器を結びつける“魔法の接着剤”と言われたりします。
今回はSSLタイプのマスター・バス・コンプを使ってみました。定番のかけ方はアタック 10ms、リリースAUTO、レシオ2:1で、1〜2dBほど軽くリダクションさせる感じです。コンプでつぶすというよりも、“ほとんど変化は無いけど、なんだか少し完成形っぽいまとまりが出てきた”程度で止めておくと奇麗に使えます。
また少しはっきりとグルーブの縦線を見せたいときにも効果的です。その場合は、アタック3ms、リリース0.1s、レシオ4:1くらいでかけると、アタック直後のボワついた低音部分がコンプでシェイプ・アップされ、かなりスッキリとした印象に変化させることができます。
ハードウェアの代表例
※そのほかのハードウェア:DBX Quantum、デジタル・コンソール内蔵コンプなど
デジタルのコンプレッサーが画期的だったのはオーディオ・データを先読みすることで、アタック・タイムをほぼ0にできること。特に圧倒的に支持されたのが、マキシマイザーでした。アタックが速いので音声信号の頭からかっちりと抑え込め、上げようと思えばどんどんレベルを上げられます。これによって1990年代末から音圧競争が起こったのは記憶に新しいところです。
もう一つが、周波数帯域ごとの処理を可能としたマルチバンド・コンプレッサー。つぶしたいところだけを狙い打ちできます。アナログでもマルチバンドは実現されていましたが、デジタル化でより正確に帯域を分けて処理できるようになったことが、普及につながりました。またベーシックなところでは、ステレオ・リンクが完全に取れるのもアナログとの大きな違いです。
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マキシマイザーは音圧を稼ぐ道具というイメージがありますが、ピークを削るのにも有効に使えます。アナログ・テープの時代には、アタックのピークを削る手法がありました。過大入力が鈍ってコンプのようになることからテープ・コンプと呼ばれているのですが、この手法はアタックにピーク成分が多いドラムなどの突発的なピークを整理するのに非常に効果がありました。
しかしデジタルでは、それをやるとただのひずみになってしまいます。それを解消できるのがマキシマイザーです。スレッショルドとシーリングを同時に下げ、音色の変化が無くピークだけを削れるポイントを探ります。テープよりクリーンで、同じような効果が得られるのです。
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VCAコンプの登場で、マスター・バスをかなりクリーンに処理できるようになりました。けれども使い慣れくると、“今のコンプのかかり具合はすごく良い感じなんだけど、低音がずっしりしたところは残っててほしい”とか、“ハイファイな感じを出したいから超高域だけは残したいのに”とか言ったワガママな欲求が出てきます。これを満たすのがマルチバンド・コンプです。
今回はVCAバス・コンプと同様にスッキリさせる設定のまま、中域だけにかけて低域と高域を残してみました。マルチバンドは難しいという話をよく聞きますが、帯域が分かれているだけのコンプなので、目的が明確なら使うのは意外に簡単。まずは1バンドだけ使ってみましょう。
各処理例に試聴サンプルのリンクを掲載しましたが、こちらでもまとめて試聴が可能です。解説を確認しながら、この処理例を聴いてコンプ使い分けのコツをつかんでください。
あらゆるタイプのコンプレッサーを使ってみると、現在の万能タイプのコンプレッサーに同じアタックやリリースなどの数値を設定してみても、まるで同じにならないことに気付きます。機材の持っている周波数特性やひずみのキャラクターはもちろんのこと、音量によってレシオが変化したりと複雑な振る舞いをするコンプが多いのです。それらの違いはプラグインであっても存在し、その機材が作られた時代の空気感として立ち現れてきました。
そのような空気感を付加するという意味で、万能型のコンプですべての処理をするよりも、それぞれの処理に向いたコンプに役割を振り分けた方が、結果として思い通りの音作りができるように思います。また個々のコンプの持つ音色キャラクターの違いもあるので、分離も奥行きもつけやすいという意味で、こうした使い分けができる環境こそ現在多用されるべきテクノロジーなのではないかと思いました。ソースに適したコンプの使い分けを身につけて、均一なコンプをペタペタにかけた音像から卒業しましょう!
本記事はリットーミュージック刊『エンジニア直伝! クリエイターのためのミックス&マスタリング最新テクニック』本特集で紹介したコンプ各種の使い分けのほか、ミックスの考え方、自宅制作の注意点、今っぽいエフェクトの使い方など、現在に必要とされる音楽制作のテクニックを多角的に学べます!
【CONTENTS】
■自宅ミックスに潜む10の落とし穴
■"トランジェント"を知ればMIXが変わる
■理論と実践で学ぶ32ビット浮動小数点
■ノイズ撲滅計画
■コンプは"動作タイプ"で使い分ける!
■"達人"はコンプをこうかけている!
■サチュレーションでミックスが変わる!
■今っぽいリバーブの使い方
■マルチバンド・プラグイン攻略ガイド!
■ネット時代のマスタリングを考える
中村公輔
neinaの一員としてMille Plateauxより、繭ではExtremeRecordsより作品をリリース。現在はソロ名義のカンガルー・ポーとしてアーティスト/エンジニア活動を展開中。京都精華大学、国際A&D 専門学校、美学校で講師を務めている。
ツチヤニボンド(音源提供)
2007 年に1stアルバム『ツチヤニボンド』を発表後、リーダー土屋が高野山に移住。2011 年発売の2ndアルバム『2』から4年、パーカッションに森は生きているの増村和彦、エンジニアに中村公輔を迎えた新体制で3rdアルバムを制作